Aの中で、Bを見る

 

制限があっても、与えられた中で花を見つける。

 

まだ大洋ホエールズが生きていた頃、私はコントローラーが絶対に回ってこない「ファミコン応援係」という役を与えられていた。

 

仲間に入れてもらえるアイテム、ファンタオレンジを献上して、所定の位置に座る毎日。
表向きはプレイヤーに声援を送っていたが、頭の中ではブラウン管から流れるゲーム音楽を使って遊んでいた。

 

当時のお気に入りは、ネズミ警官がトランポリンを使ってはしゃぐ「マッピー」。

AメロとBメロの頭に「ミスするなら 金返せよ」と、夢のない歌詞をつけ、それをループさせて声を出さずに歌った。
曲が転調してから「トゥントゥントゥン」と続くメロディラインが気持ちよかった。

 

そんな脳内歌謡ショーは、曲のテンポがあがると一旦終わり、ツインビーへと移行するのが常であった。

 

その行為が、あの時、私が見つけた花。
薄暗い中で咲く、一輪の赤い花だった。

 

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***

 

 

喜怒哀楽。
四つ柱のバランスの大切さを強く感じる、今日この頃です。

 

こちらではお久しぶりですが、青いハトの世界では、詩、散文などを毎日書いております。
よろしければ覗いてみてください。

 

 

出し続ければ開くって、本気でそう信じてるよ

仕事着を通して見渡す街に

暮れも明けも存在しない

 

夜になったら

ただ忙しく

朝になれば

ただ煙たい

 

鏡を見つめて息を吐く

固まった頬を揉みほぐす

 

ウィードが溢れる帰り道

赤い目玉が笑っている

 

こちらを睨んで吠える狼 

立てた中指をしまってくれ

 

憂いを晴らすクリアホワイト

何粒飲めば楽になる?

 

違う

それじゃない

 

欲しい景色はそこにない

 

メシアもいない

糸も垂れない

 

だから私は書いていく

 

どうやったって消えない思いを

 

言葉に変えて書いていく

 

 

 

***

 

 

皆様、こんにちは。

こちらメープル荘は、二時間前に年が明けました。

2018年は私の書いた文章を読んでくださり、本当にありがとうございました。

深く感謝いたします。

 

今年も、どうぞよろしくお願いします。

 

21世紀型 交換ノートをやっています。

よろしければ、是非。

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こんにちは

So this is Xmas

And what have you done

 

何をしたのかと問われれば、「生きてきた」と答えよう。

 

五匹の猫がヒーターの通気孔を塞いでいる午前三時半。

丑三つ時の四角い部屋には、離婚記念で空を飛んできた義理の母が寝息を立てている。

約一ヶ月の滞在。

長い長い拘束生活から解放されたのだ、是非ともピザやポテト、ハンバーガーなどを頬張ってゆっくりしていって欲しいと思う。

 

 

ドアが開き、内へ潜って区切りをつけて、しばらくその場を回った後に、障子を破って部屋を出る。

今年は、そんな一年だった。

 

新宿から乗って、物思いにふけていたら、もう相模大野。

今年は、そんな速さで過ぎていった。

例年通り、二、三ヶ月ちょろまかされている感覚だ。

 

歳を重ねて、「変化」という言葉が好きになった。

変わることは失うことではない、今は無理せずにそう思える。

 

ここ最近、私はたくさんの「こんにちは」をした。

見える範囲を広げたいと望み、今まで通りの線を跨いで、多くの人たちの言葉に触れた。

それはとても興味深く、とても刺激的だった。

 

何と言うか、それはまるで、21世紀型交換ノート。

レンズが変われば、ビジョンも変わる。

上下左右、どこでも広がっていくんだ。

 

有り難い景色に、感謝。

 

***

 

ケーキもチキンもないけれど、お知らせがあります。

 

本日、25日(火)から29日(土)の午後4時まで、Amazon Kindleストアで販売している電子書籍「歩けばいい」の無料ダウンロードキャンペーンを行います。

(2018年度 Amazon × よしもと「原作開発プロジェクト」優秀賞受賞作品)

 

たくさんの気持ちを込めました。

この機会に是非、読んでみてください。
よろしくお願い致します。

 

以下がダウンロードリンクです。


https://www.amazon.co.jp/dp/B079ZWVHTF

 

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残った欠片との別れ 

雪が降った木曜の朝8時、ブラックももひきをはいた私は、リクライニングチェアーに腰掛けて、口を大きく開いていた。

 

目の前にはマスクをしたインド系歯科医。

彼のタレ目に見守られ、これでもかとリピートされるクリスマスソングに包まれながら、残り1本になっていた私の前歯は勢いよく引き抜かれた。

 

たくさん打たれた麻酔のせいで痛みはなかったが、歯がなくなった後、何とも言い表せない寂しさを感じた。

 

診察が終わってトイレに寄った私は、口をニカッとあけて鏡を見た。

何だかなぁ、という気持ちが心を覆う。

こんな羽目になった原因は分かっている。しかし、その時の私は、30代で全ての前歯とさよならすることになるとは思ってもいなかった。

 

私の前歯は、入れ歯だ。

抜き差しするタイプや、両脇の歯で支えるブリッジタイプではなく(支える歯が欠けているため、不可能)、口内の形状に合わせて、上の歯茎にカパッとはめる形をとっている。

 

カナダ(オンタリオ州)の医療費は基本無料だが、歯に関してはその制度が適応されない。

そのため多くの会社では、国がカバーしないビジョンケアやデンタルケアなどが含まれているベネフィットを従業員に提供しているのだが、取得するのに色々な制約があり、勤めていれば誰でも支給されるというものになっていない。

ベネフィットを利用せずに個人で歯の治療を進めようとすると、この国ではとんでもなくお金がかかるのだ。

 

こちらに移住して初めて入れ歯を作った時、私は何のベネフィットも持っていなかった。

もちろん働いていたのだが、当時勤めていた会社に人権などという言葉は存在せず、生きていくのに必死で声を上げる術も知らなかった私は、外国人労働者のど真ん中をいく扱いを甘んじて受けていた。

 

なので、診察後に告げられた金額を聞いた時は、悪寒がした。

 (全額負担治療、マジでおっかない)

 私は、そんなおっかない思いをして作った入れ歯を、いちど失くしたことがある。

 

食事を取る際、私は入れ歯を外す。

カパッとはめた入れ歯の隙間に、食べかすが入り込む感覚が嫌だからだ。

 

「外したら、失くさないように専用のケースに入れてくださいね」

 

真っ白な歯をした受付スタッフに渡された、アマガエル色をしたケースが何だか好きになれず、雪のように白い歯をしたお姉さんの言い付けを守らずに、その辺にある紙ナプキンに外した入れ歯を包む癖がついていた。

 

頭ではダメだと分かっていても、なあなあでことを済ます。

外した歯をケースに入れるという、ほんのひと手間を嫌がった無精な私に、天罰が下った。

 

それは、ショッピングモールのフードコートで軽食をした際の出来事だった。

いつものように紙ナプキンに入れ歯をくるんだ私は、それを、食べていたサブウェイの袋の横に置いた。

通常ならポケットにしまうのに、何故に何故だか、その日は無造作に「ポイっとな」してしまったのだ。

何も考えず、トレーの上にあるものを全てゴミ箱に投げ捨て、車に戻ってから青ざめた顔でポケットをまさぐった私を、凍った目で見つめ続けた妻の顔が今でも忘れられない。

今思い出しただけでも、寒気がする。

 

私はサブウェイの袋と一緒に入れ歯を捨ててから、カレッジを挟んで、2回転職をした。

色々と思うところもある現職だが、今回の新しい入れ歯も含め、オファーしてくれているベネフィットで治療費をカバー出来ることは、素直にありがたいと思う。

今でも支払っている学生ローンの価値を感じる瞬間だ。

 

 

雪が降った木曜日、残った前歯がグラグラした状態でレントゲンを撮った。

出来上がった写真を眺めたインド系歯科医は、優しい目をして「抜きましょう」と言った。

それを聞いた私は、1本残った前歯に対して、申し訳ない気持ちになった。

 

痛い思いばっかりさせてきた。

喧嘩で殴り合い、などといった武勇伝ならば、この歯も少しは報われたのだろうか。

そんな派手な話もなく、立ち向かうことも出来ずに、ただただ、痛く辛い思いばかりをさせてきた。

 

キャッチャーミットでもないのに、投げられた硬球を受け止めた顔面と歯。

「顔面ストラックアウト!」と騒ぐ声が耳に残っている。

 

タレ目の歯科医が手に持つツールに力を込めた時、あんなにボロボロだった前歯は、ミキィィと音を立てて踏ん張った。

 

 

もう、いいよ。

 

ご苦労様。

 

長い間、痛い思いをさせてごめんなさい。

 

もう、踏ん張らなくていいよ。

 

ありがとうございました。

 

 

上唇の裏全体に麻酔の感覚が残ったまま、家の駐車場に車をとめた私は、運転席のドアを開けずにその場に留まった。

 

クソッタレ。

 

言葉に言い表せない寂しさを、クソッタレが飲み込んでいく。

 

クソッタレ。

クソッタレが。

クソッタレどもが。

 

予想していなかった怒りが、とめどなく湧き上がる。

 

心が乱れて収まりがつかなくなった私は、シートを倒して浮かぶひとつひとつの場面に悪態をつき、クソッタレを浴びせた。

 

見える景色が雪白で覆われたその日は、静まった車内でクソッタレに溺れた。

 

 

私は、こちら側で声を上げる。

溢れ出た声を、書く。

書き残す。

 

クソッタレの渦中にいる人

クソッタレを引きずって生きている人

クソッタレを終わらせようとしている人

クソッタレのせいで自らを絶とうとした人

そのままいってしまった人

 

そういった感情の横で、私は声をあげる。

その人自身になって書けはしないけど、私は、私が受けてきたクソッタレを背負って、思いを書く。

 

 

区切りはつけた。

20年続いた感情のクソッタレは、10月の終わりに応募した作品に全てぶつけた。

 

でも、 区切りをつけたって横にいる。

怒りと憎しみだけじゃ終わらせない。

 

クソッタレだけに取り込まれるのは悔しいから、その先を書く。

その先にあったものを、しっかりと書く。

 

プラスもマイナスも、頂いた感謝と共に全部出す。

そして、強く願う。

 

どんなにこんがらがった中で生きていても、先を見続けている人たちに幸を。

真っ暗に囲まれて、先を見れない人にも幸を。

理不尽なゲームに搾取されている人たちに幸を。

暴力、非暴力に限らず、やられてる人たちに幸を。

戦う人たちにも、戦わない人たちにも幸を。

 

 

最後に。

私は、入れ歯を舌先で外して口の中で動かす癖がある。

カパッとはめたフリッパーを、コロコロと横にスライドさせる動きだ。

カナダの永住権を取った後に、私は政府が援助している移民学校に入学した。

そこは、私のような新規永住権取得者たちよりも、たくさんの国から亡命してきた難民の方たちの割合の方が多い場所だった。

バックグラウンド、文化、言語、置かれている状況など、何もかもが違う人たちが一堂に会するその場所は、何というか独特な空気が漂っており、ある程度期間が経っても、なかなその雰囲気に溶け込むことが出来なかったが、はめていた入れ歯が、その輪に入る突破口を開いてくれた。

 

ある日、いつも通り授業中にコロコロと入れ歯を動かしていたところ、隣に座るソマリアからの移民のお兄さんが私の肩を叩いてきた。

 

「キャンディー、くれよ」

 

キャンディー? 

彼の言っている意味が分からず、しばらくその場で固まっていると、その人は右手で私の口を指差してもう一度、声を出した。

 

「キャンディー、持ってるだろ。キャンディー、くれよ」

 

彼の意図を理解した私は、コロコロムーヴを一旦とめて、舌で入れ歯を外し、チロっと唇の間から義歯を覗かせて言った。

 

「これは、入れ歯です。キャンディーではありません」

 

目を開いて、一瞬キョトンとした彼は、すぐさま手を叩いて大きく笑った。

正確に言葉で表すと、爆笑だった。

笑い転げた彼の様子に引き寄せられて人が集まり、その結果、私は先生を含む、クラスメートの前でコロコロ動かしてチロっと覗かせる入れ歯曲芸を何度もやらされることになった。

とても単純な動きなはずなのに、やる度にウケる。

熟練の鉄板芸の如く、国の枠を飛び越えてドッカンドッカンわきまくる。

笑わせているというよりも、笑われているので、どうもスッキリとしない気分だったが、皆が心底楽しそうにしている様子は、見ていて悪い気分はしなかった。

 

関係性の距離が縮まった、入れ歯芸。

それは、憂鬱の種だった入れ歯の存在意義が少し変わった出来事だった。

 

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告知

Amazon Kindleストアで電子書籍「アーティフィシャル・フラワーズ」を出版しました。

この作品のテーマは、「偽物」「本物」「血の繋がり」そして、「人を好きになること」です。

こちらには、表題作の他にもう一編、自分にとって思い入れの深い作品である「六千百七十二本の物語」を収録しています。

 

たくさんのものから逃げて、たくさん諦めて、たくさん捨てて、もがいて拾って、怖くて壊して、それでもどうにか作り上げて生きてきました。

 

込めた思いが多くの人の目に触れてもらえることを祈ります。

読んで頂けたら、幸いです。

よろしくお願い致します。

 

以下が本のあらすじと、商品ページのリンクになります。

 

***

”もしかしたら、この言葉を聞くために、俺は彼女と出会ったのかもしれない”

造花店で働く「タナベ」というネームプレートをした店員に、生まれて初めて一目惚れをしたサトムラシンジ。
彼女の店へ通う頻度が増え、インスタント焼きそばの箱で溢れていた彼の部屋は、様々な色の造花で飾られるようになる。
左手の薬指にある指輪に気付きながらも、周囲の人に背中を押されてタナベと連絡を取るようになったサトムラは、彼女の存在に、受け入れ難い出生の秘密を告げて他界した母親の姿を重ねていく。

表題作「アーティフィシャル・フラワーズ」の他、生きていく心を決めた「六千百七十二本の物語」を収録。

 

 

アーティフィシャル・フラワーズ

アーティフィシャル・フラワーズ

 

 

エピソード・ゼロ

「こんなとこで、ちゃんと見えんのかよ」

「見えるよ」

「もうちょっと近づけばいいじゃん」

「見えるからいいって」

「それにしても、お前が熟女好きとは知らなかったよ。キッちゃんちで見てるエロ本、全部ミニスカもんじゃなかったっけ?」

「ちょっと、動くなよ。ちゃんと横向いてて」

「騒がなくても大丈夫だって。あっちからは見えねーよ」

「いいから、姿勢戻して」

「分かったよ。お! サヤマ、あのおばさん、一瞬こっち見たぞ。あれだな、正面から見ると案外若く見えんな」

「うるさいよ」

「あの赤い頭巾みてーの被ってなきゃ、もっと若く見えるかもな。しかし、なんでレジ打ちに頭巾を被せるかね? 頭巾被っていいのは、コージーコーナーまでだろ」

「ねぇ、頭巾、頭巾うるさい。ちょっと黙ってくれないかな」

「だって必要ねーだろ? じゃあ、何だ、お前は頭巾派か? サラッサラの髪の毛より、頭巾の肩を持つのか?」

「ユキム、返して」

「は? 何を?」

「マイセン三箱と、三千円。邪魔しないって約束だよね? 今の時点で十分邪魔されてるんだけど」

「邪魔してねーって」

「してる。全然集中できない。今すぐ返して」

「分かった、分かった。もう騒がねーから。いや、今月キツいんだよ。まじで黙るから、勘弁して」

「毎月同じこと言ってるじゃん」

「ほんと今月ヤバいんだよ。納金二倍取られたからな」

「二倍? 何で?」

「おととい、キッちゃんちの掃除したあと、ゲシタクと打ちに行ったの。そしたらそこでキヨカワに会っちゃってさ」

「え、何でこっちにいるの? 今月は全員ちゃんと払ったじゃん」

「何でかは知らねー。しかも、イノブーマンと一緒だった」

「うわぁ。最悪」

「最悪だろ? 字のごとく、最も悪いシチュエーションだった。しかもそんな時に限って、ゲシタクが出まくっててな」

「……悪夢だね」

「そのあとは、言わなくても分かるだろ。オーマイゴッドだよ」

「お金だけで済んだ?」

「あぁ。俺とゲシタクの稼ぎ全部取られたけどな」

「よかったね、お金だけで」

「いーんだかわりーんだか、よく分かんねーよ。いや、確実にいいんだけど、気分は大盛りに牛皿つける気満々だったからなー」

「命あっての牛丼でしょ?」

「昨日タマにも同じこと言われたよ」

「ゲシタク、結局、打つのやめてないんだね。じゃあ、この前の宣言は何だったんだろ」

「やめねーよ。あいつから打つの取ったら何にも残んねーから。でも、いいんだよ。薬みたいなもんだから。あいつ、アパート追い出されてから全然元気なかったじゃん」

「そうだね」

「だからいーんだよ。パチンコでも何でも、何にもねー俺よりマシだよ」

「まぁ、俺だってゲシタクのこと言えた義理じゃないけどね」

「ということで、今月キツいんだよー。タマにはこの前の分をやっと返したばっかだから借りれねーしさー」

「分かったよ。返さなくていいから、黙ってて。あともう少しだから」

「了解しましたー。じゃあ、本気出して何にもしないを徹底するわ」

 

***

 

「ユキム、悪いんだけど、背中叩いてくれない?」

「ん? 覗き見過ぎておかしくなったか?」

「いいから、早く」

「あいよ。叩けと言うなら、叩きますよ」

 

バンッ

 

「ダメ。もっと強く」

「あぁ? 大丈夫かお前?」

「いいから、ちゃんと叩いて」

「オーケー」

 

ドンッ!

 

「弱い。もっと」

「今のは弱くねーだろ。てか、何で急に叩かなきゃいけねーんだよ。気味悪りーよ」

「……行くから。もう仕事が終わる時間だから、会いに行ってくる」

「え? 何? そういう展開? ヒューヒューだよ的な?」

「何それ? ひどくない?」

「ひどくねーよ。昔のドラマじゃ、このセリフを真剣に叫んでたんだぜ。歩道橋の上で」

「ヒューヒューって?」

「違う。『ヒューヒューだよ』だ。映像見たけど、本気だった。本気だったから、茶化しちゃいけねーやつだ」

「うーん。よく分かんないけど、分かった。じゃあ、俺も本気だからさ、『ヒューヒューだよ』の代わりに、背中をぶっ叩いてくれないかな?」

「そういうことなら、分かった。手加減しねーぞ」

「よろしく」

 

ダンッッ!!!

 

「うぅぅ……うん。オッケー。ありがとう。じゃあ、行ってくる」

「よし。行ってこい。ちゃんと『ヒューヒューだよ』してこい」

 

***

 

「待たせて悪い。思ったよりも時間かかった」

「問題ねーよ。やることなんか何にもねーから」

「ありがとう。じゃあ、帰ろうか」

「おぉ」

「……聞かないの? どうだった、とか」

「聞かねーよ。聞く必要ねーからな」

「そう。あのさ、何か飯おごるよ。ちょうどお金入ったから。ユキムが今日のことをみんなに言わないでくれるなら、三千円も返さなくていいし、夢の吉牛、松屋のはしご飯いっちゃってもいいよ」

「マジでか? 何、夢のギューギューダブルヘッダーしてくれんの? え、あんた神か?」

「何、その名前?」

「ギューギューダブルヘッダーだよ。ダブルの牛で……え? この説明、いる?」

「いや、いらない。ま、とにかく行こう。駅前に戻れば、吉牛も松屋もあるでしょ」

「サヤマ、その提案、めちゃくちゃ嬉しいんだけど、ギューギューは遠慮しとくよ」

「え、何で?」

「あのおばさん、お前のかーちゃんだろ?」

「え?」

「よかったな、居場所分かって。とりあえず元気そうじゃん。働けてんなら、大丈夫だよ」

「……何で」

「見りゃ分かるよー! 顔そっくりじゃねーか。茶化しちゃいけねーって俺が言ったくせに、茶化して悪いな。かーちゃんだったら、ヒューヒューな展開になんねーもんな」

「……」

「俺が言うことじゃねーけど、その金、バカみたいなことに使うなよ。せっかく貰った金だ。大事にしろよ。こんなこと、なかなかねーからな」

「……」

「『ギューギューだよ』は、今度の給料が入ったら奢ってくれ。今更キャンセルは出来ねーよ。お前は確かに奢るって言ったからな」

「……分かった」

「ダブルヘッダー、牛皿にけんちんも付けるから、そこんとこよろしく」

「少しは遠慮してね」

「何だよケチくせーなー。しょーがねーから遠慮してやってもいいけど、その代わりに、キッちゃんから回ったエロビデオ貸してくんねーか? ほら、あの半透明なバスシリーズみたいなやつ。お前で止まってるってのは、タマからの垂れ込みで分かってんだからよ」

 

 

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好きな人はいますか?

週間予報に見つけた雪マーク。

楓の国は、もう寒い。 

 

コタツが主役の家で育ったせいか、私は寒さに弱い。

なので、出勤時には防寒ジャケットのジップを上まであげ、手袋をしてハンドルを握っている。

こんな調子では、近日中にブラックももひきの姿を拝むことになるだろう。

 

真冬よろしく着込んで歩く私の目の前を、薄着のカナディアンが横切る。

そんな光景を見かけるたびに、己の生物としての弱さを感じる。

気分はまるで、「ウララァー」と叫んだ未熟超人のようだ。

 

何で、寒くないのだろう。

何で、ショーツでスケボー乗ってるんだろう。

 

移住以来ずっとこの疑問と向き合ってきたが、答えが出ないのでその思いをサヨナラボックスに詰め込んだ。

ちなみに、一つ前に入れた疑問は、何でこちらのリスは玄関の前に固いパンを置いていくのだろう、だ。

 

風に揺られて舞い散るメープルリーフ。

赤や黄色がねじれるその様は風流だが、サラサラではなくガヤガヤ落ちてくる様子では、お茶はすすれない。

団子も食えない。

サンマも焼けない。

 

それでも、雪が降って白に覆われる前の芝生に出来るカラフル絨毯は美しい。

事前に決められていない不揃いな配色を眺めるのは楽しい。

 

そんな時、私は強く思う。

しばらく見ていても飽きないこの景色を、是非、好きな人に見せてあげたいと。

 

好きな人。

 

年を重ねるにつれて、好きな人が増えた。

嫁さんに首の後ろを蹴られる前に記しておきたいが、この「好き」に恋愛感情は含まれていない。

 

城郭が好き。

坂道が好き。

プロレスが好き。

油淋鶏が好き。

 

今ここで話している「好き」は、そういった「好き」にカテゴライズされる好きだ。

 

好き好きうるさい文章だな。

 

とにかく、増えた。

好きの先に肉体関係がない好きは、姿勢がフラットになる。

無駄につんのめらないし、深読みしてのけぞる必要もない。

 

そこは垣根フリーで、年齢、性別、職業、性格、趣味、ステータスなどがゴチャゴチャに混ぜられてすり身にされ、カマボコになっている。

 

私には今、好きな人が数多くいる。

そのうちの何人かは、会ったことも言葉を交わしたこともない人たちで、思いは確実に一方通行だ。

それでも、心地よい。

その人たちの発するものに触れると、嬉しくなる。

 

正直、自分がこんな風になるとは夢にも思わなかった。

 

もともと社交的な性格ではなく、交友関係は狭ければ狭いほど、深ければ深いほど素晴らしいものだと信じていた。

増築部屋に拾われた当時は、助けてくれた仲間、そして繋がりのあった二人の人物以外は、みな敵だと思っていた。

本心を見せたら負けだ、騙されて利用される、本気でそう考えていた。

 

だからとにかく輪を固めた。

 

「集まってる間は、全員参加で同じことをするよーに」

 

手始めに、桃鉄。

はい、終わったらコタツに集合。

次、みんな揃って喋りの時間。

 

 

あのドラマの主人公のセリフ、マズイだろー。

あそこなら、一旦、本をしまってから目線を動かすべきだよなー。

いや、あそこで追っかけちゃマズイって。それじゃ101回目と同じ展開に……。

お前の言ってるCMの案は、お縄もんだ。確実に変質者のたぐいだ。

ずっと思ってたんだけど、ヤムチャとクリリンってどんだけお互いを意識してんのかな。

それより、チャオズが星になった時、鶴仙人は何をやってたんだろう。

お前、今、足の裏の皮をこっちに投げたろ? ふざけんなって。あとそれ、コタツの下に溜めんなよ。これはフリじゃねーぞ。あれ、マジで臭くなんから絶対にすんなよ。

この前言った話、本当にやってくれるんだな。もう企画書は書いたぞ。ハンディカムだってちゃんと動く。

柔道着とランドセルは揃った。メイクはどうすんだ? え、またセロテープ? あれ引きつって痛いんだよ。

部屋半分潰せば舞台作れるだろ? いや、みかんのカゴの上にベニヤ引いてダンボール乗せれば、案外なんとかなるんだって。

ちゃんと撮れた? あ、これじゃダメじゃん。ほら、お前写っちゃってるよ。セリフもグダグダだし。もう一回やろう。大丈夫だって、朝マック食べたらやる気出るから。

 

 

楽しかった。

単純に。

 

そこは、神奈川の隅っこにあったネバーランド。

磨りガラスの薄い引き戸を閉めれば、現実世界で起こっていた全てを忘れられた。

365日入り浸ったネバーランド。

 

そこにいれば襲われない。

殴られない

金も取られない。

 

それが私の全てだった。

同化するほど密な関係こそが適切なのだと、頑なに思っていた。

 

 

そんな感じに目を瞑っても、時は流れる。

 

大人になったロストボーイズが、一人、また一人と増築部屋からいなくなっていき、空を飛べない私はネバーランドを失って現実に引き戻されるのが怖くなり、逃げた。

 

逃げ場所を探している時に出会った、肝の据わったティンカーベルに尻を蹴り上げられて向かった先はカナダ。

そこで私はどうにかこうにか居場所を作った。

 

私は無宗教だが、神様はいると思っている。

根拠はない。

でも、自分がこうして今の状況で生きられていることを考えると、そう考えるのが一番しっくりくる。

納得できる。

 

感謝。

 

 

私はこちらに来てからもしばらくはネバーランドの幻想にすがったが、年を取ると共に人間関係について持っていた固定観念は薄れていった。

 

あれだけ凝り固まっていた考えが、魔法が解けるようになくなっていく。

まさに、ミラクル。

やっぱり、加齢バンザイ。

 

好きな人が増えたのは、それからだ。

 

絶対的な安心がなくてもいい。

全部分からなくていい。

ここは好きだけど、ここはどうかなぁー、があってもいい。

気持ちがイコールじゃなくていい。

 

さっきも書いたが、文章でも絵でも写真でも音楽でも声でも思考でも、好きな人が発するものに触れると、嬉しくなる。

ワクワクして温度があがって、引き込まれて刺激を受ける。

濃いめのコーヒーよりも直に効く眠眠打破。

顔を洗わなくても両目パッチリ。

 

ありがたいなー、と思う。

それ以上に楽しいなー、と思う。

 

そう、楽しいのだ。

 

触れると芽生えて、それが広がり、予想外のものを連れてくる。

 

どうも、はじめましてこんにちは。

あら、何と私の頭の中から来られたんですか。

いやはや、こんな思いが隠れていたとはねー。

 

私は、そんな化学反応に幸せを感じる。

 

 

来年の4月に約3週間ほど日本に行く予定がある。

 

帰ったら、私は好きな人に会いにいく。

ちゃんと顔を見て、ありがとうと伝えるんだ。

 

 

……その前に、私は冬を越す。

シャベルでえっこら雪をかく。

脳裏に蘇るのは、あの衝撃。

 

あぶない腰痛リターンズ。

 

この冬は、人力を卒業しなくてはいけない気がする。

 

さようなら、20世紀。

こんにちは、21世紀。

 

 

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