それはそれでめいっぱい抱きしめたいと思う

夕立を避けて息を殺し 

渡り廊下で合図を待つ

見下ろした中庭ではしゃぐ制服

びしょ濡れになって騒げたら

夜は怖くないんだろうな

 

開けっ放しの窓

ポカリを飲んで空に願掛け

広げた二本の指の間に

あなたの帰る道が伸びる

 

強い炭酸が苦手なのは

切れた口にしみるから

電話番号を教えないのは

続きを聞くのが怖いから

 

夕焼け色に染まった髪の毛

唇の横に刺さったピアス

原付で国道を飛ばしても

映画のようにはいかなかったね

 

どこから中を覗こうと

白く濁った液ばかり

どこから中を覗こうと

あの日に嗅いだ匂いばかり

 

過ぎた時間も流れた場面も

誇れないものにまみれて埋まった

あなたのように綺麗じゃないし

あなたのように澄んでもいない

汚れた身体を白状したら

見捨てた感情は報われるかな

 

美しいだけの言葉にバイバイ

その場しのぎの言葉にバイバイ

過去を思い出に変えるため

生きた証の首をしめて

横たわる言葉をここに残そう

 

届いても届かなくてもいい

「今」が永遠に続きはしない

あなたの痛みはあなたのもので

他の誰かのものではない

あなたの痛みはあなたのもので

誰かが価値を決めるのではない

 

黒く淀んだ実をつけようと

あなたが花だと思うのなら

どんな色でも花は花だ

それを美しいと思うのなら

どんな色でも綺麗な花だ

 

光に近づこうと伸ばした手が弱さを掴んでも

それはそれでめいっぱい抱きしめたいと思う

 

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ミレニアム前後のセレナーデ

シーブリーズを首もとにふりかけた女の子が、あぶらとり紙で頬についた98年を拭き取った。クラスで目立つグループに入っていた生徒は、だいたい「よーじや」を使っていて、1、2年前まで愛用していた白いルーズソックスの代わりに、シュッとしたラルフのハイソックスを履いていた。

売れている音楽を悪だと勘違いしていたあの頃の私は、借りてきたアイデンティティにならって3、4番手がイケてるのだと信じて疑わず、シーブリーズでもギャツビーでもなくGymを選んで、暇さえあればプシュープシューとノズルを押していた。

どうしようもなく息苦しくて、嫌なことばかりだった毎日。それでも笑ったり笑われたり、騙したり騙されたりしながら、窓の外を眺めて6時間目が終わるのを待った。

行ってもいいコンビニと行ってはいけないコンビニを見分けるのがあの頃を生き残るコツで、何も知らないうちは誤って魔窟へと足を踏み入れてしまい、入り口付近を占拠する鬼たちに「パーティー券」と呼ばれる紙クズを押し付けられ、バイト代をむしり取られたりした。ここなら安全だろ、と向かったデイリーヤマザキでさえ、曜日と共に移動するノマド的な鬼に捕まることもあり、全く気が抜けなかった。

ジョーダン狩り、エアマックス狩り、リーガルのローファー狩り、紺色ラルフのベスト狩り、クロムハーツ狩り(手が届く代物ではなかったが)などといった世紀末の名に相応しいワイルドワイルドウエストの荒野に放り込まれた私は、ラッシュの小瓶が転がる駅前を抜けて、完全自殺マニュアルが平積みになったヴィレッジヴァンガード脇でミスティオを飲み、身分証提示を必要としない合法と非合法がごっちゃ混ぜになった世界をすっ転びながら生きた。

デスクトップでもラップトップでもタブレットでもなかったアンコ型の「パソコン」はあの当時まだまだ遠い存在で、四角いセンティーAの殻を破り、小型化に成功したPHSを手に入れても、ライトグリーンに光る狭いスクリーンは世の中の不思議を何一つ教えてはくれなかった。

目に見えるもの殆どが不透明だったミレニアム前後、距離で言えばSiriよりも一太郎の亀の方が断然近くにおり、私は所轄の刑事よろしく雑誌をめくっては情報を集め、とにかく足を動かして街を彷徨い、DA.YO.NEの向こう側にある宝物を探し求めた。知らないということは時として幸せなことであり、何百何千のレビュー代わりに信じるのは自分の感性で、CDのジャケット買いを繰り返しては、ナンバーワンになり得ないもっともっと特別なオンリーワンを見つけ出せたぞ、と自惚れられる自由さがあった。それは服や映画も同じで、下北のシカゴで古着を買えば、その服のデザインがどうあれ、めちゃくちゃオシャレに感じたし、金曜ロードショーの常連作品以外の映画を鑑賞すれば、とんでもなくディープな世界に浸れた気がした。四畳半の薄暗い部屋に閉じこもっていても、ソニーのヘッドホン越しに人間発電所やペーパードライヴァーズミュージックを耳に流せば、気分はMTVトップチョイスになれた時代だった。

10代後半から20代前半のセレナーデ。深夜過ぎに終わったバイト帰りの国道で2000年サングラスをかけた集団とすれ違った時、自分自身の今後も含め、本当に何もかもが漠然としていた。予想に反して1999年に世界は滅びず、勝手に世紀だけが変わってしまった社会で生きていく見通しがつけられなかった私は、だんだんとその場限りの快楽に逃げるようになり、新しい時代と歩調を合わすようにスピードを上げていく周りの人たちを羨んでは悪態をつき、布団の中に潜るようになった。

絶対に戻りたくはないけれど、所々ではちゃんと楽しかった日々。大嫌いで吐きそうな日々だったけれど、不透明な分ワクワクが多かったミレニアム前後。

あの頃に対する拒否感が薄れていき、浮かべる場面が増えていくほど、記憶は思い出に変わり、とんでもなかった時間に対して愛おしさが生まれる。

歳を重ねれば「あの頃」と踊れるものだと言われたことがあるが、あながち嘘でもないらしい。

これから世界がどうなろうとも、記憶が思い出に変わっていくのなら、生きていくのも悪くない。

今年の3月から見てきた混乱とも、いつの日かステップを踏める日がくるのだろうか。

どうして良いのか分からない規制が並び、手足を縛られた感覚に押し潰される時もあるけれど、近い将来、2020年前後のセレナーデが歌えることを願って、今日も眠りにつきたいと思う。

 

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赤い爪

雨が降っても開かない傘

帰れない火曜日に石を投げる

 

肌色が透ける磨りガラス

必死に動いてバカみたいだね

 

赤い靴下に真っ赤な下着

足の爪まで朱色に染まった

 

欲望は美しいって言われたって

子供に分かるわけないだろって

 

チューインガムで貼り付けた似顔絵

ペラペラの薄さでヘラヘラ笑う

鉛筆を回して尖らせた感情

突き刺した紙の目がこっちを見てんだ

 

消えない影は伸びた髪の毛

しつこく絡んで首を絞める

 

目を閉じても寝れない真夜中

苦しくなったら鏡を覗きな

 

目を背けなきゃ会えるから

あん時の自分に会えるから

 

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腕を伸ばして手を握ってくれ
自分を救えるのは自分だけだ

 

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Nobody Knows

Nobody Knows

 

閉所恐怖症の人はマスクができない。

でもそんなことは、誰も知らない。

先端恐怖症の人は注射が怖くて仕方がない。

でもそんなことは、誰も知らない。

 

普通の社会は普通に進み、新しい生活様式を強要する。

閉じ込められた苦しさや、針で刺された痛みなど、誰も知らない。

 

同じ色の服を着た正義の行進。

ファッションマスクで顔を隠した正義の行進。

 

「普通」という怪物が街を牛耳る。

彼らは至る所に存在し、「普通」以外を監視している。

通常、彼らは優しい。それが彼らの普通だからだ。

しかし、一歩「普通」から外れると、彼らは牙を剥き、異分子を追い詰める。

そんな彼らと上手く付き合う方法はひとつ、出来る限り「普通」に振る舞うことだ。

 

Nobody Knows

 

あの映画の公開から約16年経った。

今、目の前に何が見える?

どういった世界を生きてる?

 

Nobody Knows

誰も知らない

 

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***

 

No matter what anyone says, I'm gonna live my life the way I want to.

 

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***

 

1998

「おい、おいっ! シンスケ! ちょっと何やってんだよ! こっち!」

「おぉ」

「『おぉ』じゃねーよ。遅れてきて何ボォーッとしてんだよ」

「ケンジ、お前、元気か?」

「は? 何だそれ? そんなことより、他に何か言うことあんだろ。ほら、昨日のやつ。ちゃんと聴いてたんだろ?」

「お前が元気そうで、本当に良かったよ」

「だから何なんだよそれ。気持ちわりーな。あ、あれか? 俺が先に『殿堂入り』して悔しいんだろ? いやー、気持ちは分かるよ。分かるけど、そこは大人になれって。俺だってお前のが先に読まれた時はマジかって思ったけど、ちゃんとファンタ買って祝ってやったろ? でもさ、昨日のやつ、あれマジで面白かったろ? 田中なんか爆笑してたもんな。あの瞬間はテンション上がったなー。ラジオ越しに空気が伝わってくるっていうかさ、おぉ! ていう感じが分かったもんね」

「あぁ、『爆笑問題カーボーイ』のやつか。お前あれ、本当に喜んでたもんなぁ」

「『喜んでた』って何だよ? 勝手に過去にすんなよ。俺は今喜んでんの。ナウだよナウ。分かってねーなー」

「ごめん、ごめん。悪かった。そうだな。うん、おめでとう。お前が喜んでるのを見て、俺もすっごい嬉しいよ」

「シンスケ、お前、何か裏があんだろ。何だ? あ、ダメだぞ、金なら返せねーぞ。バイト代入るの来週だからな。疑ってんなら財布見ろ。ほら、500円ちょっとしか入ってないだろ」

「別に裏なんかねぇよ。ていうか、お前、そういうとこ相変わらずだなぁ」

「何だその返し? 久しぶりに会った親戚のおじさんみてーだな。おい、親戚のおじさん気取るなら、何か奢ってくれよ。何かご馳走してくれてこその、親戚のおじさんだからな」

「あぁ、いいよ。殿堂入りのお祝いもあるし、何でも好きなの買ってやるよ」

「え! マジで? それマジで言ってんの? もう聞いちゃったから撤回できねーぞ」

「撤回なんかしねぇって。いいよ、何がいい?」

「はぁ? どうしたお前? 暑さで頭おかしくなったんじゃねーの? え、本当にどうした? マジで怖いんだけど」

「反応が大袈裟だよ」

「いやいやいや、だってお前だよ? 腹空きまくってた俺に、チョコデニッシュをひと口もくれなかったお前だよ? ガストで山盛りポテトを独り占めした、血も涙もないお前だよ?」

「いつの話をしてんだよ」

「ついこの間の話だろーが!」

「分かった、分かった。今回はちゃんと買ってやるから、何がいいんだよ?」

「おいおい、マジでどうにかしちまったみてーだな。まぁいい。じゃあさ、JPS買ってよ。あの、タクちゃんの親父が吸ってるやつ。あれ、いっかい吸ってみたかったんだよね」

「JPSかぁ」

「この前、やっと売ってる自販機見つけたんだよ。つばき台の坂の上に薬局あるだろ? そこの裏にある酒屋。あそこだったら殆ど人こねーから、制服のまま買っても問題なさそうだしな」

「あれ、そういえばタクちゃんは? 今日こないのか?」

「彼女んとこだよ。一昨日も昨日も今日も彼女。あのクソヤロー、マジで集まり悪くなった。生意気にピッチなんか持ちやがって」

「彼女って、確か、クミちゃんだっけ?」

「クミちゃん? 誰だそれ? サトミって子だろ。青南高の。ほら、とんでもねー厚底ブーツ履いてる子。駅で何回か見かけたろ」

「あぁ、あっちの子か。茶髪のね」

「『だっちゅーの』の右側に似てる子だ。ていうか、『あっちの子』って何だ? あのクソヤロー、まさか二股でもかけてんのか? はぁ? ふざけんなって。まじで許せねー。おい、シンスケ、JPS買ったらブックオフ行こうぜ」

「ブックオフ?」

「先週あいつから借りた電気グルーヴのアルバムあるだろ、あれ売っちまおうぜ」

「最低だな、お前」

「当然だろ。二股かけた罰だ。それと、ルール破って童貞を捨てた罰でもある」

「完全な逆恨みだな」

「天誅だよ。天誅」

「意味分かんねぇよ。まぁ意味分かんねぇけど……やっぱり、お前はお前だな」

「何だそれ? 新手のなぞなぞか?」

「なぁ、ケンジ。本当に悪いんだけど、俺もう戻るわ」

「はぁ? 戻る? 何言ってんの? JPS買ってくれるって言ったじゃねーかよ」

「うん。だから、はい、これ。ちょっとデザイン違うけど、1000円は1000円だから自販機で使えるはずだ。これでJPS買ってくれ」

「え、何これ? 偽札? いやー、これは流石にマズいだろ」

「偽札じゃねぇよ。デザインは違うけど、本物だ。自販機で使うなら問題ねぇよ」

「えぇー、マジかよー。これ、めちゃくちゃ危ないやつじゃん」

「なぁケンジ、今から俺が言うこと、真面目に聞いてくれないか?」

「偽札渡すやつの話なんか真面目に聞けるかよ。じゃあよ、話は後で聞くから、これ本当に使えるか一緒に試しに行こうぜ。いやー、何かワクワクすんな」

「申し訳ないけど、俺は一緒に行けない。もう時間がないんだ。だからーー」

「あれか? また、あいつが家にくんのか? ひとんちのことだからどーこー言えねーけど、あんまし奴に関わんねー方がいいぞ。変な仕事に使われるだけだぞ。ヒロさんに探り入れたけど、いい噂は聞かねーよ。おばさんが入れ込んでんのは知ってんけど、いっかいちゃんと話してみた方がいいぞ」

「ケンジ、ありがとう。でも、そのことじゃないんだ」

「はぁ? 意味分かんねーよ。だったら何なんだよ」

「あのな、まず、お前が凄い心配してた恐怖の大王だけど、問題ない、来年になっても空からは何も降ってこないよ。安心しろ、1999年に世界は滅亡しない」

「は?」

「それで、こっからが大事な話だからちゃんと聞いてくれ。いいか、この1998年から2年経った後の2000年7月9日に、お前は緑奥市に行くことになる。ある人の家に頼まれた物を運ぶことになるんだ。いいか、2000年の7月9日だ。その日、絶対に頼まれた物を運ぶな。7月9日、お前は絶対にその人の家に行っちゃいけない」

「シンスケ、俺はお前が何をしたっていいと思ってる。除光液の匂いを嗅ごうが、何をしようが、それはお前の勝手だからな。でもな、絶対にクスリには手を出すな。おまえんちにくるようになった奴が、お前をどう脅そうと、何を強制しようと、絶対にそういったものに手を出しちゃいけない。最近ナカノさんとかが売ってる、ラッシュとかマジックマッシュルームもやめとけ。『合法だ』って言ってるけど、やべーって話を聞くから、手を出すな。友達として忠告する。もう手を出してるなら、今すぐ使うのをやめろ」

「ケンジ、いいかよく聞け、俺は正気だ。ちゃんとした頭でお前に話している。なぁ、頼むからちゃんと聞いてくれ。お前も俺のことを友達と思ってくれるなら、俺の言うことを必ず守ってくれ。2000年7月9日だ。それがどんなに断れない仕事でも、絶対に行くな。お前がその人にどんなに世話になってても、お前のケツを持っててくれてても、絶対に物を運んじゃいけない。絶対に、絶対にだ」

「……分かった。2000年7月9日な。よく分かんねーけど、分かったよ。だから、お前も約束を守れよ。今手元にあるやつは全部捨てろ。絶対に手を出すな、分かったな?」

「あぁ。分かったよ。でも、安心しろ。俺は何にも手を出してねぇよ」

「やってる奴に限ってそう言うんだよ」

「とにかく、俺はもう戻るけど、約束だからな」

「あ? 何だお前? 何やってんだ? 何でクソ暑いのにマスクなんかつけてんだ?」

「あぁ、馬鹿げてるだろ。馬鹿げてるけど、残念ながら、俺が戻る世界はこれをつけなきゃダメなんだ。クソ暑いのにな」

「あのさぁ、さっきからさ戻る戻るって言ってんけど、一体どこに戻るんだよ?」

「2020年」

「シンスケ、感謝しろよ。お前の頭が本格的におかしくなっても、俺が友達でいてやるからな。大変だと思うけど、いつか悪魔の誘惑を克服できる日がくるから。まぁとにかく、明日も集まりにこいよ。そんな状態だと、この先が心配だから俺が監視してやる」

「ケンジ、こうしてお前に会えて本当によかったよ。心の底から嬉しかった。お前が俺との約束を守って2000年7月9日を超えることができたら、その時は向こうの世界でまた会おう。大丈夫、今より世界がおかしくなってるけど、まだ笑えることが沢山あるから」

 

***

 

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衝動解放活動

楽しい時間はあっという間に終わる。

本当に同じ尺を使っているのかと疑いたくなるほど、楽しい時とそうでない時の体感差が激しい。それはもちろん集中しているか否か、脳内のナンチャラ成分が分泌されているか否かなどと言ってしまえばそれだけの話なのだが、どうもその説明では素直に納得できない。

まだ私が日本にいた頃、銀色の髪をした恐ろしい人の部屋に閉じ込められたことがある。『閉じ込められた』と言うと表現が強くなってしまうが、拉致や監禁ではなく、軟禁だ。

「お前、エヴァンゲリオン知ってるか?」

地元の駅で数年ぶりに再会してしまった恐ろしい中学の同級生は、銀色の髪をしていた。

「お前、エヴァンゲリオン知ってるか?」

私がその時、彼にどう返答したのか覚えていないが、しばらくして何故に何故だか私の体はその銀髪さんが住むアパートにテレポートしていた。時期が夏だったので、酷く蒸し暑い部屋だったことを記憶している。

鬼のようだった中学時代の銀髪さんと、新世紀エヴァンゲリオンとの接点を見出せないまま固まっていると、何の説明もなくビデオデッキにテープが差し込まれた。

「おもしろいから観ろよ」

銀髪の鬼はそんな感じの言葉を口にして、私の横に座った。

残酷な天使のように

少年よ神話になれ

早送り機能が壊れていたのか、もしくはアニメの主題歌に惚れ込んでいたのかは定かでないが、銀髪鬼はそのオープニングテーマを決して飛ばさなかった。

例えどんなに素晴らしいものであっても、受け取る状況によってその印象は大きく変化する。

まだ外が明るいうちに閉じ込められ、辺りが完全に暗くなるまでの間、蒸し暑い部屋で延々と主題歌付きの映像を観させられたせいで、エヴァンゲリオンのイメージがとんでもないものになってしまった。

終わりなきスパイラルのように繰り返された『残酷な天使テーゼ』、そのタイトルが全てを表しているかのような状況で、無言の圧力を感じながら碇シンジの憂鬱と共に時間を過ごした。

今考えても、何故あの時あの蒸し暑い部屋で強制的にエヴァンゲリオンを視聴させられたのか分からない。彼が夢中になった作品の伝道活動だったのかもしれないが、もしそうなら逆効果であり大失敗だ。

私が彼の部屋に軟禁されている間、その場に流れる時間の進みがすさまじく遅かった。アニメの30分枠があれほどまでに長く感じたのは、後にも先にもあの蒸し暑い部屋で観たエヴァンゲリオンだけだった。

 

1日を構成する時間は24で区切られていて、その24の内訳が60だということに異論はない。そして、それらの数が毎日変わらず平等に私たちに配られていることも理解している。だがその事実から数字という概念を取っ払うと、時間は平等なものではなくなるはずだ。……そう、なくなるはずだと言い切りたいのだが、実際のところはよく分からない。

ただ、「1日は24時間で1年は365日だから絶対的に時間は平等!」という説明よりも、「時間は状況次第で速くも遅くもなるから、24時間じゃないかもしれないし、365日でもないかもしれないので平等とは言えない」と説かれた方が腑に落ちるのだ。

楽しい時間とそうでない時間が選択肢としてあるのなら、もちろん楽しい時間を選んで生きていきたい。気が付いたら1、2時間などパッと過ぎてしまっているあの感覚だ。

年を取ったら落ち着くものだ、などと言う定説に賛同する気はないが、年を取ることでいわゆる「あの頃」におこなっていた衝動解放活動の回数は確実に減ってしまった。ここで言う衝動解放活動とは、心が躍る行為であり、もっと平たく表現すると「楽しくて好きで仕方のないこと」である。他の誰かのためではなく、湧き上がる思いを自ら肩に担いで走り回る衝動解放活動。私の頭の中にある「これぞ」という感覚を、さかもツイン id:sakamotwinのねねさんが記事に書いておられた。

『火曜サスペンスごっこ』と銘打たれた彼女の活動は、私が思い描く衝動解放活動そのものだった。ねねさんが取り組んでいる『火曜サスペンスごっこ』とは如何なるものかは、以下の写真で確認して頂きたい。

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1枚目は写真自体が話してくれているので、何の説明もいらない。最初の写真も素敵なのだが、私のお気に入りは2枚目だ。誰もいない波止場、遠くに見える工場の夜景、その光が映った日没後の海、といった火曜サスペンス的な要素が詰め込まれたザ・火サス的なフォトグラフで、「何ともまぁ」という気分になった。

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学生時代50m12秒台の栄光は波より遅いダッシュとして今も私のなかに輝き続ける。

適切に表現できないのだが記事内にある上記のフレーズを目にした時、昔大好きだった炭酸飲料が頭に浮かんだ。「そうだよな、やっぱライフガードだよな」という感情が弾け、液晶画面に向かって何度も頷いた。

上に貼ったリンクの見出しにもあるように、大きな声を出して走り回ったり笑ったりしたほうがいいと、個人的にも強く思う。それは彼女のように実際に体を動かしても、体ではなく心を動かしてもどちらでも良いのだと考えている。

フワッとしたイメージが景色になり、映像に変わって色がつく。そこに音と匂いが入って会話が始まると「よしっ!」となる。胸が高鳴ると楽しい。頭の中で生まれた世界がオンギャーと歩き出した気がして嬉しくなる。その感覚は小説を書いてる時や自分の街を作ってる時だったり、シャワーを浴びている最中に現れるのだが、忙しさにかまけているとすぐに何処かへ行ってしまう。

COVID-19が日常を変える半年ほど前、私は仕事を通して自分の承認欲求を満たそうと決めて昇進のオファーを受けた。その決断が自分の周りにかかるモヤを吹き飛ばすと考えていたからだ。書く時間を犠牲にしてでも、心の隙間を欲で埋めれば総合的に見てプラスに働くものだと思っていた。

でも、違った。私の選択は間違っていた。

心と距離が離れた場所で承認欲求を満たそうとすると、穴の空いた袋にビー玉を詰め込んでいる気分になる。どれだけ玉を入れたところで、袋が満たされることはない。

(これはマズイことになった)

底が抜けた袋を手にしていたことに気付き、慌てて床に散らばったビー玉を回収していると、予告もなしに空からパンデミックが降ってきた。

(とんでもねぇことになった)

穴の空いた袋を手放し、必死に集めたビー玉を放り投げた私は、とんでもねぇことになった社会に対応するため、とんでもねぇ空気になっている会社の会議に参加した。

『マネージャー陣は基本継続して勤務』という有無を言わせない方針が決まり、訳が分からぬまま消毒グッズに囲まれる日々が始まったのが3月中旬。その少し前に、カナダ政府が4ヶ月を上限に月々2000ドルを個人に支給するという政策を耳にしていた私は、半年前に自分が下した決断を深く後悔した。

4ヶ月間の合計労働時間=0hrs

4ヶ月間の合計不労収入=$8000

上の数字は夢だ。言うなれば、エンジェルナンバーだ。

あのまま社員でいたら、4ヶ月間書き放題だったじゃないか。つまり、昼過ぎに起きてチョコが付着したビスケットをかじりながらコーヒーを飲み、好き放題猫んズと戯れてラーメンなどを食い、気になる事件を調べた後にストリートビューで多摩ニュータウンに舞い降りることができたわけだ。

半年前の自分が享受できたであろう生活が頭をかすめ、「何やってんだよ!」という感情が腹の底から湧き上がった。

そもそも動悸が不純だった。決して承認欲求が悪い訳じゃない。対象をすり替えたのがいけなかった。エリーゼを強く欲してる時に、ルマンドやバームロールでは替えがきかない。ルマンドもバームロールも美味しいのだが、そういう問題ではないのだ。それに、承認欲求と衝動解放活動を天秤にかけること自体おかしい。このふたつは全く別物であって比べる対象ではない。たけのこの里を食べたらきのこの山が食べたくなるように、両者の関係が「衝動解放活動ー承認欲求」と付随するのなら分かる、でもmeijiの二枚看板を計りにかけちゃいけない。まさに、「何やってんだよ!」だ。

今回の騒動しかり、自分の昇進の件しかり、物事は何か意味があって起こっているのだと信じている。本当の本当など分からないが、ただそう信じている。自分の身に起こったことを全て都合よく捉えるならば、このきっかけがなければ承認欲求と衝動解放活動の違いをこういった形で意識することができなかったのかもしれない。今の仕事を辞める気はないが、今後何かの決断を下す時は衝動解放活動を最優先に考えようと心に決めた。食べていくことの次に大事なことは、嬉しくて楽しいことだ。嬉しくて楽しい時間が続くと、承認欲求は影をひそめる。きっと、使う脳みそが違うのだろう。

 

どうせなら、嬉しく生きる。

どうせなら、好きに咲く。

 

楽しくて好きで仕方がないから、私は書いているんだ。

 

***

 

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無料ダウンロードキャンペーンのお知らせ

本日5月7日から11日まで、Amazon Kindleストアで販売している電子書籍「じゃあ、またね」の改訂版無料ダウンロードキャンペーンを行います。
以下があらすじ、及び、ダウンロードページのリンクです。

 

ムラセコウタを最後に見たのは、アズマたちに呼び出しを受けなかった「解放日」の帰り道だった。
茜橋のたもとでムラセが手を振った日を境に、サエジマワタルの生活から日常が消えた。

『仇を討ってください。僕はこいつらを絶対に許さない』

手渡された文庫本の余白ページに記されたメッセージ。そこに名前が書かれた四人の生徒たちとの関わりを通して、サエジマ、ムラセの母親、そして協力者であるカネコの人生が大きく変わっていく。

秘めた思いを抱えたまま、ムラセの無念を晴らそうともがくサエジマ。
息子が首を吊った理由を探すムラセの母親。
進むべき道を「神」に委ね、搾取される人生に終止符を打とうとするカネコ。

それぞれの思惑が交錯したまま、止まることのできない運命共同体は進んでいく。

 

ダウンロードページ:

https://www.amazon.co.jp/dp/B07QVDJXGS

この作品には暴力的な表現が含まれていますので、お気をつけ下さい。

 

読んでいただけたら嬉しいです。

 

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