「未来」と言っても、何百年も先の話ではなく、何十年先の「近未来」。
例えば、今から20年先の2037年。
地球がどうなっているとかいう話はひとまず置いておいて、一部分にクローズアップ。
映し出すのはホテル。
自分が以前、働いていた場所の20年後の姿。
恐ろしくも興味が惹かれる、そのホテルでのチェックイン模様。
《 以下の文は、書き手の勝手な妄想によって書かれており、登場する法律、出来事、機能などは全てフィクションです》
ようこそ、ホテル「近未来」へ!
今から20年後の2037年。車はまだ世界中の空を飛んでいません。
技術上では実現可能なのですが、法律の整備、政府と民間との間での空中空間権利などが整っておらず、実験的に上空飛行を実施しているバルト三国でしかその姿を見ることは出来ません。
ですので車で来られるお客様は、今でも普通に道を走ってこられます。
ただ、燃料はガソリンではなく水、運転も完全自動となっております。
パーキング
お客様がホテルの正面玄関に着きますと、車に標準装備されているタブレットに番号が表示されます。
それが、お客様のパーキングナンバーです。
番号は今記憶されなくても結構です。お客様のパーキングナンバーは、車のタブレットとコネクトされている全ての末端デバイスに自動で送信されます。
クラシック車種(ガソリン車)でお越しになるお客様につきましては、予約の際にご登録いただいた電話番号のスマートデバイスにパーキングナンバーが表示されますので、そちらでご確認ください。
(尚、バレーパーキングサービスは、クラシック車種のお客様限定とさせて頂きます)
国からお客様へのお願い
ガソリン車から水電動車への切り替えリミットは、2045年です。
それ以降のガソリン車での公道走行は罰則対象になりますので、切り替えはお早めに。
お車をお止めになった際、指紋認証、及びマイクロチップセキュリティーシステムは必ずオフにして下さい。
利用規約の欄に明記されている通り、お客様がホテルにチェックインされた後、お客様の車は当ホテルのメインホストコンピューター預かりになります。セキュリティーシステムをオンにされたままですと、コントロールエラーが生じ、お客様の車を安全に駐車場へ運ぶことが出来ません。
お車をご利用の際は、客室のスマートデバイス、もしくはお客様のスマートデバイスからホテルのリクエストボックスへアスセスし、番号を入力してください。
入力から15分以内に、ホテルのフロントへお車をお運びいたします。尚その際、お車の指紋認証、及びマイクロチップセキュリティーシステムはオンになっておりますので、お手数ですがお車を再度お預けになる際は、必ずシステムをオフにしてからお戻りください。
(お客様が15分以内に乗車されない場合、お車をテンポラリーパーキングスペースへと移動させて頂きます。そちらから再度フロントへ車を回す際、5分ほどの待ち時間を頂きます。尚、リクエストから30分が過ぎますと、お客様の車は自動的にテンポラリーパーキングスペースからメイン駐車場へと移動しますので、お客様のリクエストは無効となります。お手数ですが、スマートデバイスに無効アラートが表示された際は、リクエストの再入力をお願いいたします)
ベルサービス(お荷物サービス)
お客様のお荷物は、ベルサービスカートが迅速に、そして安全にお部屋へとお運びします。
お荷物のお手伝いが必要な際は、お近くのベルパーソンへ声をお掛けください。
係りの者がお客様のお荷物を車からベルサービスカートへと移します。
全ての荷物を移し終わりましたら、ベルサービスカートのタッチスクリーンにお荷物を受け取る方のマイクロチップをかざしてください(複数可)。尚、マイクロチップの埋め込みがなされていないお客様につきましては、指紋のスキャンをお願いしております。
お客様の個人認証が済んだ時点で、サービスカートは強化プラスチックで覆われ、お客様の到着より早く、お部屋へとお運びします。
お荷物を受け取る際は、マイクロチップ、もしくは指紋をカートのスクリーンにかざし、強化プラスチックカバーを解除してください。
(自動チェックインが事前にお済みでない場合、到着が遅れる場合がございます)
チェックイン
当ホテルは、チェックインフリープログラムに参加しております。
ご予約時にタップして頂いたお客様のマイクロチップ、もしくはスマートデバイスがホテルの敷地内に入られたと同時に、お客様の希望にそったお部屋をご用意いたします。
(混雑時は、ご要望にそえない場合がございます)
お客様がマイクロチップ、もしくはスマートデバイスをお持ちでない場合は、マニュアル型のAIチェックインをご利用いただけます(個人認証に15分ほどお時間が掛かります)。
国からお客様へのお願い
マイクロチップの埋め込みは安全で、あなたの生活を便利にします。
埋め込み後は、マニュアル型の個人認証で時間を取られることも、スマートデバイスの盗難、紛失を心配する必要もありません。
埋め込みに要する時間は1分ほど。費用もかからず、痛みも全くありません。
マイクロチップの埋め込みは、地方自治体のコミュニティーセンターで24時間、365日承っております。
(高齢者のための、訪問埋め込みサービスも開始いたしました)
アンドロイドスタッフへの注意点
当ホテルでは、ロビーにあるインフォメーションセンターに2名、29階にあるコンシェルジュラウンジに3名のアンドロイドスタッフを配置しております(2037年1月現在)。
2036年8月に施行された「アンドロイド保護法」により、アンドロイドに対して以下の行為が罰則の対象になりました:
- アンドロイドへの身体的、精神的な暴力行為(誹謗中傷も含む)
- アンドロイドへの身体的、精神的なセクシャルハラスメント行為
以上の行為が確認された場合のみ、アンドロイドスタッフに内蔵されているデーターから違法行為を犯した個人を特定し、その内容をサイバー警察署へと送信させて頂きます。
(それ以外のデーターはプライバシー保護法に基づき、公表されることはありません)
……すみません。思ったよりもダラダラと長くなってしまいました。
小説に書く題材は今の所、現代のものばかりなのですが、こういった未来の日常を想像するのは、とても楽しいです。
そこの世界にいる方たちの(客やスタッフなど)会話がたくさん浮かんできます。
「人間を出せ」
このフレーズは、自分の中で2037年のナンバーワンハッシュタグです。いつの時代も、人は人に文句を言いたいものだと予想します。
頭の中で想像する未来は、いつも面白く、そして恐ろしいです。
よろしければ、こちら続きとなっております。
(例え2037年になろうとも、この街の目玉はきっと滝のまま。デジタルでは表現できない強さと安心感があります)