ミチコオノという時間があった(パート2)

ミチコオノ日記を読んでいると、不思議と自分の人生の一場面と重なる時がある。といっても、こちらが勝手に合わせているだけなのだが。

第4話に登場する盾矢ミユキと主人公オノミチコの関係が、そういった場面のひとつだった。

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盾矢ミユキ
O型
蠍座
ダンス部
派手だしオシャレ
友達が多い
わたしもその中の一人だと
自信をもって言えない

最近は廊下で会って

会釈する程度だ
ミユキはいつも人に囲まれている

 

昔はよく一緒に遊んだ
2人だけだった

ミユキは小学校の2年の時に
わたしのクラスに越してきた

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ミユキは転校初日に
消しゴムを忘れた

席は離れていたけど
だれに借りたらいいのか
きょろきょろしてるミユキを
わたしは見ていた

わたしの消しゴムは
ちょうど2個に割れていたから
ミユキにそれをあげた

ミユキは次の日に
わざわざ新品の消しゴム買ってきて
わたしに返してきた

断ったけど
「お願い 使って」
と言われたので
ありがたくもらった
でも
わたしにはもったいなくて
使う事ができなかった

たがらその消しゴムは
今でも家の机の引き出しの中に
大切にしまってある

 

ミユキが今月で引っ越してしまう

やっぱり あの消しゴムは
返すべきだろうか

 

ミユキが越してしまうという
話をわたしは人伝てに聞いた

それがものすごく寂しかったけど
そんなものなのかもと納得した

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小3のサマースクールで
一緒に見た星空を
ミユキはもう覚えていないだろう

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私は小学生の頃、野球部に入っていた。

私を含め、お世辞にも上手いとは言えないメンバーで構成されたチームだったが、そのチームでエースを任されていた子の実力は群を抜いていた。投げる球が取り立てて速いわけではないがコースをつけるコントロールがあり、ピンチになっても冷静さを保てる度胸があった。それに彼は、どんな状況でも場の空気を良い方向に持っていく不思議な雰囲気を持っていたのだ。もちろん、打つ方でも持ち前のセンスの良さを発揮して常に高出塁率を叩き出し、塁上にいるランナーをホームに生還させていた。「ライトにフライが飛んだらお終い」と言われていたチームが、とある大会の地区予選を勝ち抜いて本戦に出たのは、その子がいたからこそ成り立った奇跡だった。

私にとって、彼はスーパーマンだった。運動神経が良く、友達も沢山いて目立つ存在だったが、誰とでも分け隔てなく接することができる子だった。当時の私は、全くもってその子と似通った要素を持った年子の姉のことが大嫌いだったが、そのエースの子とは自然に仲良く遊べていた。

中学にあがり、名字が変わったその子は野球部に入らなかった。

つるむ顔ぶれが変わり、近寄り難くなったその子から野球を続けるつもりはないと聞いた時、ものすごく寂しかったけど、そんなものなのかもと思った。

作中のオノミチコがどんな気持ちで「そんなものなのかも」と口にしたのか分からないが、私がその言葉を吐く理由は、諦めだ。

こうして改めて「そんなものなのかも」と書き出すと、何だか悲しくなる。きっとこの言葉をこういった風に受け取るのは作者の意図に反していると思われるが、悲しいという感情が真っ先にきて、他の思いを外に押しやる。

理解したいのに理解できない。納得したいのに納得できない。心の処理能力を超え、その物事にどう対処したらいいか分からなくなった時に、私はこの言葉を使う。

「そんなものなのかもしれない」

「そんなものなのだろう」

「そういうもんだろ」

「そんなもんだろ」

社会という枠に頼まれてもいないのに勝手にはまっていく過程で、言い回しは徐々に変化していったが、その根底にあるのはずっと変わらず諦めだった。

諦めは、寂しくて悲しい。

年を取れば取るほど、その寂しさと悲しさが直に迫ってくる。

一度手放すと、いとも簡単に切れたり消えてしまうのだと気付いてから、処理能力を超えた出来事に遭遇してもいつもの定型文は出さず、無理にでも疑問形の箱に思考を押し込むように努めた。

「そんなものなのか?」

「そんなもんじゃないだろ?」

まだ最後のクエスチョンマークを付けられない日が多いが、飽きるほど繰り返せば、いつか私の脳みそもこのフレーズを新しい定型文として認識してくれるだろうと信じている。

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ミチコオノ氏の描いたこの絵を見ると、まだエースだった頃のその子の顔が頭に浮かぶ。

例え、いつかのあの子が本戦行きを決めた試合を忘れてしまっても、こちらが覚えている限り、その場面はこれからも頭の中に残り続けていくのだろう。

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