反省文

両耳にかかる水圧。目を閉じてるから光はなくて、とにかく重くて息苦しい。

 

光を掴んだ気がした。

こじ開けた穴に腕をねじ込み、チャンスの尻尾を掴んだ気がした。

先が見えた。そう実感したから眠くならなかった。ずっと頭が興奮して、睡眠なんて必要なかった。

景色を変えるんだって意気込み、期待を寄せて広げた手のひら。

そこには何にも残ってなかった。

 

2020年4月2日

状況は何も変わっていない。

何の進展もみえないまま、グルグルその場を回っているうちに世界は変わり、後戻り出来ない事態になった。

オフィスと机が与えられた代償は誰もいない街に向かう行為で、慣れない仕事を頭に詰め込み、消毒液に囲まれて毎日が過ぎていった。

この選択が逃げだったのだと気付いたのは、ついこのあいだの真夜中で、情けなさが湧き上がって自分が心底嫌いになった。

 

昇進は、かぜ薬だ。

即効性があり熱を下げるが、その根本をなおしてはくれない。

服を変えたことで気持ちが変わった。正直なところ、承認欲求が満たされたのだ。のしかかる責任の重さはあったが、自分の決断で事を進められる充実感があった。くだらないしがらみを解体し、搾取も甘い蜜も全て壊した。

気分は月9の主人公。90年代のドラマみたいに勧善懲悪を遂行した。

これが欲しかったものだ、これが求めた結果なんだ、そう言い続けて朝を迎えたが、コーヒーを飲むたびにため息が出た。

 

生まれてから日本を出るまで、何ひとつやり遂げられなかった。「努力をすれば報われる」という合い言葉を小、中学校で否定され、高校で日常を捨ててからは、「普通」の人たちを恨んで生きた。

今は分かっている。ただの逆恨みだ。

どこからどこまでが環境のせいで、どこからどこまでが自分のせいだという線引きが見えずに、弱さを売って人様の善意を食べた。

いつも人の目を見ていた。自分がそうしていたように言葉は嘘をつくから、動く黒目を見つめていた。

ずっと認めて欲しかった。親や兄弟や友達、殴ったり金を取ってきた奴らからでさえも、生きる価値がある人間だという許可が欲しかった。

そんな感情がこびりついてるから、承認されることが嬉しかった。

そう、単純に嬉しかった。

多少モヤモヤしているが、走っていける道を見つけて靴を履いた。そうじゃないだろうと心が言ったが、小さな声を無視してシャツとジャケットを着た。

純粋な希望や向上心でもない。望んだ形で埋められなかった承認欲求の穴を、ポジションというコンクリートで塞いだ。

移住したのを機に「真人間」になろうともがき、紆余曲折の末に手にした承認は、消毒液で拭いたらあっけなく消えた。ここ何ヶ月か前に産声をあげたCOVID-19という名の混乱は、物凄いスピードで成長していき、自負と同じ薄さをしたコンクリートをいとも簡単に吹き飛ばして私を再び穴へと突き落とした。

 

身動きが取れない穴の中で、見たくもない自分を目にする。

人の目ばかりを気にする自分。

バランスを取ろうとする自分。

聞こえのいい言葉を吐く自分。

打算的に動く自分。

誰かの背中を追ってるつもりが、誰かと比べて己の価値を決めてる自分。

何だこれは。何なんだこれは。

たくさんのものを得たつもりだったが、言い訳のカードを増やしただけだ。

何だかんだ言ったって、結局、私は逃げたのだ。

 

本当に申し訳ありませんでした

もう二度と自分は自分を裏切りません

 

ひとりになった部屋の中で何度も声を出す。

口に出してバカらしくなる。これで何度目の決意表明だ。いったい誰に謝って、何に誓いをたてている。

どうしようもなくバカらしく、どうしようもなくくだらない。

今更何を飾る?

そもそも真人間って何だ?

バカらしい。

本当にバカみたいだ。

 

他人に預けた言葉を戻そう。

元を辿れば、自分に向けての言葉のはずだ。

黒でいい。

そもそも生まれは真っ黒だ。

だから黒いままでいい。

それが言葉になるのなら、何をしたって消えないはずだ。

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