恥なんか、多摩川に捨てた

「なぁ、ダメ元で聞くんだけど、『付かず離れず』って、どんな感じの関係を言ってるのか分かるか?」

「付かず離れず? 何だ急に」

「大したことじゃないんだけど、ちょっと気になってね」

「何の雑誌だ?」

「え?」

「お前が変なこと聞いてくるときは、大体雑誌が出所だ。何の雑誌の情報だ?」

「何って、ホットドッグプレスだけど」

「やめとけ。ホットドッグプレスは素人が手を出す雑誌じゃねぇ」

「何だよそれ」

「お前な、ホットドッグプレスなめんなよ。あっこから正解見つけられんのは、カルバンクラインのトランクス履いてる奴らだけだ。諦めろ」

「諦めるもなにも、まだ何も言ってないだろ」

「『いつの間にやら急接近 付かず離れずのアプローチ』だろ? お見通しだよ」

「お前だって読んでんじゃねーか」

「俺のはジャケ買いだ。一緒にすんな」

「それ、言ってて恥ずかしくないか?」

「恥なんか多摩川に捨てた。で? 質問はなんだ?」

「だから、付かず離れずの関係。分からないならいいよ」

「そう簡単に諦めんなよ」

「さっきは諦めろって言ったろ。発言ブレブレだな」

「細かいなぁ。臨機応変に行こうぜ、21世紀なんだから」

「都合のいい脳みそだな」

「まぁあれだな、『付かず離れず』はひとことで言うと、チェリオだ」

「は?」

「間違ってもコーラじゃねぇぞ。あれの売りはハイタッチできる関係だからな」

「何の話をしてんだよ」

「分かんねーかなぁ。だったら図書室をイメージしてみろよ。俺の言ってることが分かるから」

「図書室? うちの学校か?」

「どこだっていいよ。とりあえず、部屋に入るとこからな」

「オッケー。じゃあ……はい、図書室に入ったぞ」

「よし、まずは受付な。カウンター越しにいる図書部員は午後の紅茶だ。細かく言うと、ミルクティーとストレートティーのふたり。レモンティーは陸上部だからここには登場しない」

「ん? 午後の紅茶?」

「頭に浮かぶ疑問は、一旦端っこに置いとけ。続けるぞ」

「疑問しか浮かばないが、了解した」

「いいか、ミルクティーとストレートティーは感じ良く対応してくれるが、各々の仕事を全うしているだけだ。プロフェッショナリズムを優しさと捉えちゃいけない。よって、付かず離れずではない。理解したか?」

「いや、全く」

「ちゃんとついてこいよ。それで、受付を通過したお前の目に飛び込むのは、笑顔で話をしているグループだ。そいつらはファンタな」

「ファンタ?」

「そう。爽やか炭酸のファンタ。ファンタの社交性は高いぞ。そんでもって距離も近い。お前サッカー観るのか? 海外の、あのセリエなんとかって言うやつ」

「俺がサッカーの話なんかしたことないだろ」

「だったら情報仕入れといた方がいいぞ。目が合ったら話を振ってくるからな」

「マジかよ。ファンタ怖いな」

「怖くない怖くない。関係性のドアが開けっ広げなだけで、爽やかなグループだ。話振られてよく分かんなかったら、ジーコとかアルシンドの名前を出せば何とかなる」

「ジーコかアルシンドな、分かった」

「まぁ、そんなこんなだから付かず離れずで言うと、ファンタグループも違う」

「ちょっと待て、アルシンドだっけ、アルシエンドだっけ?」

「そこで止まるな、置いてくぞ。とにかく、ファンタ集団の脇を抜けると、窓際に佇む生徒がいる。その子がポッカな」

「窓際の子がポッカね。で、ポッカの何?」

「ポッカはポッカだろ。説明不要のビッグネームだ。何か問題あるか?」

「いや、商品名が続いてたから、そういうもんなのかと」

「おい、こっちは想像で話をしてんだからな。想像の世界に方程式があってたまるか」

「オッケー、オッケー。それで、ポッカがどうした?」

「だから、窓際で佇んでんの」

「うん……え、それだけ?」

「それだけって、お前、ポッカに失礼だろ。ちゃんと想像しろよ、図書室だぞ。窓際にポッカが佇んでたって何の問題もないだろ」

「ポッカを擬人化するとややこしいけど、まぁ、確かに佇んでてもおかしくないな」

「きっとさ、理由があってそこに立ってんだよ。だから、付かず離れずなんか言ってる場合じゃねぇ。そっとしといてやろうぜ」

「あぁ、そっとしとくけどさ、ふれないんだったら何でポッカを登場させたんだよ」

「俺なりの敬意表明だ」

「答え聞いて更に疑問が増えたよ」

「ちゃんと集中しろよ。本題に近づいてんだから」

「集中したって、お前の話は理解不能だぞ」

「で、次。歴史の本棚の奥で、紙に魔方陣描いてる生徒がいるだろ」

「いるだろって言われても、いるのか?」

「あの子はサンガリアだ」

「サンガリアって、『いち、にぃ、サンガリア』のサンガリアか?」

「あぁ。そこくるかって角度から新商品を召喚する、あのサンガリアだ」

「今回も会社名だけか?」

「同じ理論を何度も言わせんな。それはそうと、お前、サンガリアの企業スローガン知ってるか?」

「いや、『いち、にぃ、サンガリア』は耳に残ってるけど、スローガンはちょっと」

「『はてしなく自然飲料を追求するサンガリア』だ。これ、凄くないか? こんな突き抜けてるスローガンは、そうそうお目にかかれないぞ」

「『いち、にぃ』のポップ感とは打って変わっての重量感だな」

「そりゃそうだろ。『はてしなく』追求してんだからな。『いち、にぃ』と同じノリじゃ出来ねぇよ」

「確かにな。で、そのサンガリアは何してんだ?」

「そりゃ、はてしなく魔方陣を描いてんだろ。詳しくは分からねぇけど」

「何で話してる本人が定かじゃねーんだよ。お前の世界の話だろ?」

「まぁでもよ、俺は好きだぜ。周りから理解されなくても、自分の興味を追求している人は。その『好き』が本物なら、自然と光って見えるしな」

「お前の好みはどうでもいいけど、付かず離れずはどこにいった? ていうかさ、何でこの話の登場人物は飲み物とかその会社なんだ? 清涼飲料水じゃなきゃいけないのか?」

「質問が多いな。心配すんな、こっちはちゃんと考えてキャストを選んでんだから。それに、今回は説明を分かり易くする為に身近な飲み物を使ってんだよ」

「じゃあ、お〜いお茶は?」

「あ?」

「俺にとって身近な飲み物は、お〜いお茶だ。お前の分かりにくい話を理解するには、自分の基準が必要だ。ここにお〜いお茶を入れるなら、何の役になる?」

「勝手に脚本を変えようとすんな。まったく、しょーがねぇなー。お〜いお茶? お〜いお茶は、司書だ」

「司書か。オッケー。じゃあ、ジャスミン茶は?」

「何? ジャスミン茶? ジャスミン茶は……古文の教師だ」

「オロナミンCは?」

「体育教師だ」

「ただの連想ゲームになってんじゃねーか」

「連想ゲームじゃねーって。こっちはちゃんと考えてんだから」

「じゃあ、ダイドーは?」

「ダイドーって、会社はなしだろ」

「窓際に佇んでるポッカがいるだろが!」

「分かってるよ! ダイドーは転校生!」

 「完全に思いつきで言ってんな」

「失礼だな。そんな訳ねぇだろ」

「だったらポカリは?」

「ポカリは、野球部」

「部活にまで手を広げたか。みさかいねーな。それに、ここは図書室だろ? 司書はいいとしても、何で図書室に文化部と運動部が大集合してんだよ。オールスター感謝祭か?」

「グダグダうるせぇなー。野球部は窓から入ったボールを探しにきただけ、ジャスミン古文はダイドー転校生に図書室を案内してるだけだ。それぞれ理由があってこの部屋にいるんだよ」

「ふざけんな、窓から野球ボールが入ったんならポッカに直撃じゃねーか! どうしてくれんだ!」

「大丈夫だ、サンガリアがいる。何の為に魔方陣描いてたと思ってんだよ」

「都合よくサンガリアを使ってんじゃねー。勘違いすんなよ。お前のストーリーの穴を埋める為にサンガリアが魔方陣描いてんじゃねーからな」

「鬼の首を取ったみたいに騒ぐなよ。話が進まねぇじゃねーか」

「お前がむちゃくちゃなこと言ってんからだろ」

「とにかくよ、サンガリアから視点を移そうぜ。ほら、歴史の本棚の左にある長机を見ろよ。隅に座って分厚いJRの時刻表を読んでる生徒がいるだろ。あれが付かず離れずのキーパーソン、チェリオだ。話が脱線して長くなったが、とうとうご本人さんの登場だぜ」

「モノマネ番組みたいだな」

「お前、今ちょうど2Bの鉛筆が折れただろ?」

「は?」

「あのな、お前は今、チェリオと同じ長机に座って何かを書こうとしてんの。そんで、手に持った2Bの鉛筆の芯が不幸にも折れちゃったんだよ。どうすんだ、大変な状況だぞ!」

「お……おぉ。でも、俺シャーペンしか使わないんだけど」

「ピンとこないなぁー。設定では鉛筆しかないんだよ」

「分かった、分かった。はい、たった今、手に持った2Bの鉛筆の芯が折れましたよ〜」

「お前、俺のことバカにしてるだろ」

「バカにしてんじゃねー。あやしてんだよ」

「あやされてんのか。怒るべきなのかどうか、ギリギリのラインだな。まぁいい、そんで、お前は折れた鉛筆を手に持って呆然としてんだ。なんたって、鉛筆はそのいっぽんしかないんだからな。こりゃー困ったことになったぞ。今とんでもなく素晴らしいアイデアが浮かんで、それを書き残さなきゃいけないのに肝心の鉛筆がない。発想は生モノだからな、今書かなかったらそのアイデアは泡のように消えちまう。さぁーどうしよう。目の前真っ暗で、頭真っ白よ。困った困った。あぁー、困った困った」

「お前の煽り方、とんでもなく下手だな」

「まぁ聞け。そんでな、そんな状況で為す術もなく下を向いて口半開きになってるどうしようもないお前の視界に、ススゥーと何かが滑り込む。おい、それ、何だと思う?」

「え? ごめん、ちょっと聞いてなかった」

「おい、人の話ちゃんと聞けよ! こっちはノーギャラで話してんだぞ!」

「こっちはノーギャラで話聞いてやってんだ。文句言うな」

「だから! ススゥーって机の上を滑ってきたの! ススゥーって! 消しゴム大サイズで、端っこに丸い穴が空いてて、削り刃が付いてる。お前それ何だと思う? なんと、携帯鉛筆削り器だぞ。まさに地獄に仏。驚きだろ?」

「驚かねーよ。長い説明の中にヒント満載で、ほぼ答え言ってたからな」

「バカ野郎。こっちは小道具の話なんかしてねーんだ。ブツの出所の話をしてんだよ。物事を俯瞰してみろ。ススゥーを逆再生して行き着く先は、チェリオだ」

「はぁ」

「返事に気持ち込めろよ。これ、ちゃんと考えるとすげーことだぞ。何の面識もないお前の為に、チェリオは自分の削り器をススゥーとお前の目の前に滑り込ませた。蛍光ペンを持った右手でJRの時刻表に線を引き、空いてる左手でカーリングのストーンを投げるみたいにススゥーっと。しかも何も言わずに。そんな芸当は一朝一夕で出来る代物じゃねぇ」

「なぁ、お前が今ダラダラ垂れ流してる妄想話と、俺が聞きたい付かず離れずの関係は、いつかくっつく時がくるのか?」

「お前何言ってんだよ! 今の時点でくっつくどころか、ガッチガチに絡み合ってるだろうが! いいか、今回チェリオが取った行動は『付かず離れず』の素晴らしい見本だ。気軽に声をかけるわけでもなく、かといって困ってるお前を見捨てるわけでもなく、あくまで自然体で行動を起こした。お前な、ゴミを見るような目で俺のこと見てるけど、お前はチェリオと同じことができるのか? 確か、お前のボーリングのハイスコアは68だよな? その腕前じゃ、鉛筆削り器は明後日の方向にサヨナラしてジ・エンドだ。そんでもって、お前がガーター出して床に落ちた削り器を誰が拾うと思う? ファンタだよ。これで分かっただろ。付かず離れずの極意は、付け焼き刃じゃ会得出来ない。とにかく、カルバンクラインのトランクスを履いて出直してくることだ。まずはそっから始めようぜ」

「あのさ、今更聞くのも何なんだけど、お前が履いてるトランクスは何なんだよ?」

「あぁ? 今の話と俺のトランクスが何の関係があんだよ」

「いや、関係あるだろ。長々講釈垂れたんだ、お前のトランクスはもちろんカルバンクラインだよな?」

「関係ねぇだろって。何のトランクスを履こうが人の自由だろ。まぁ、そうは言っても、別に隠す必要もないけどな。俺が今日チョイスしたのはハネスだ。もちろんカルバンクラインも持ってるけど、ハネスのアットホーム感が気に入ってる」

「ハネス?」

「あぁ、ハネスだ。知らねぇのか? めちゃくちゃ有名なブランドだぞ」

「ハネスって、どうやって書くんだよ」

「どうやって書くって、ローマ字だよ。Hからはじまるやつ。綴りは忘れちゃったよ。あ、そうだ。今日着てるTシャツもちょうどハネスのやつだから、背中のタグを見てみろよ。お前もロゴ見れば分かるよ。結構流通してるブランドだから。ほら」

「オッケー。じゃあちょっとしゃがんで体勢低くして。うーん、あのさ、なんか掠れててよく見えないから、もうちょっと姿勢低くして。そう、これでよく見える」

 

『Hanes(ヘインズ)』

 

「あ……おぉ。あー、オッケーオッケー。おぉ、分かった。あの、ありがとう。もういいよ。もう大丈夫」

「見たことあんだろ。確かアメリカのブランドだ」

「おぉ、あるある。アメリカのな、うん」

「ハネスもそうだけど、同じアメリカ繋がりでフルーツバスケットも気に入ってるな」

「フルーツバスケット?」

「ほら、リンゴとかグレープとかがバスケットに入ってるやつだよ。あれだよ、名前聞いたことなくてもロゴ見れば分かると思うぜ。これもビッグブランドだからな」

「あぁ……あれー、あれな。あのー、今日俺その、フルーツオブザルー……フルーツバスケットのTシャツ着てるよ」

「え、マジで? あれいいよなー。バスケットに入ってるフルーツのロゴも可愛いし」

「あぁ、そうだな。あのー、あれだな。何か、ごめんな」

「は? 何だよ急に。何で謝るんだよ」

「いや、いいんだ。うん、俺が悪かった。そうだ、気晴らしにナカネベーカリー行こうぜ。気を遣ったら小腹減ったし」

「何に気を遣ったんだよ。まぁいいけど、でもあれだぞ、いつも言ってんけど、今の時間に行ってもレーズンパンしか残ってねぇぞ」

「問題ねーよ。今日はレーズンパンでいい。いや、むしろレーズンパンがいい」

「珍しいな。よし、じゃあ行くか」

「おい、今日は奢れよ」

「は? 何で俺が奢んなきゃいけねーんだよ」

「これは気遣い代だ。理解出来ねぇなら、お前が話したチェリオの部分をなぞってみろ。俺の言ってることが分かるから」

 

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