メープル通りの白樺荘

白樺は、親父にとって特別な木だった。

小さくて狭い実家の裏庭にあった白樺の木。周囲の景色に馴染まないその様子は、四畳半に寝転がるペルシャ猫のようだった。

「サラサラって葉っぱの音を聞いたら、北海道かどっかの避暑地にいるみたいだろ」

窓を開けられる季節が訪れると、親父は決まってそんなことを口にした。

青が褪せて、くたびれた水色に変わった網戸。私はそのライトブルー越しに、すくっと伸びる白樺を見ていた。

風が吹いて葉音がしても避暑地にいるようには思えなかったが、「避暑地=北海道=別荘=金持ち」という刷り込み教育を受けたおかげで、私の中の白樺の地位は、ヒマワリよりも高かった。

幹が虫に食われているのが分かり、安全のために切り倒すことが決まった時、親父はとても寂しそうな顔をした。

 

命あるものは、いずれ朽ち果てる。

命ないものも、消えてなくなる。

 

実家に白樺があった頃、指が簡単に入ってしまうブルーハワイ色した扇風機も現役で作動しており、生ぬるい風を提供してくれた。

ブラウン管の中では、オノデン坊やが未来と遊んで、サトームセン がタップダンスを決めており、スポーツ刈りでいつも同じジャージを着ていた私は、薄い麦茶か粉ポカリを飲みながらタッチの再放送を観ていた。

あの時、私が眺めた世界はもう存在しない。

あれだけ夏に愛されたチューペットさえ、いなくなってしまった。

 

時代は進み、時は流れる。

過ぎた時間を思い、感傷に浸っているのではない。ただ、命あるものもないものも、いつかは記憶となり、忘れ去られ、消えていくという事実を見つめている。

 

だから書き残す。

消えてしまうものを、なくなって欲しくないものを、書いて出して残していく。

それが私の存在証明。私の思いの再放送。

 

前置きが長くなりましたが、Amazon Kindleストアで、電子書籍「メープル通りの白樺荘」を出版しました。

小説の舞台は、カナダのオンタリオ州というところです。移住して今年で14年、この国で感じた思いを書きました。読んで頂けたらとても嬉しいです。

 

以下があらすじと商品ページのリンクになります;

https://www.amazon.co.jp/dp/B084LD72GV

 

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