「放課後のジェットリー」は眠らない

「何でその名前なんだよ?」

「何が?」

「ラジオネーム。変だろ、それ」

「変じゃねーよ。ちゃんと計算して付けた名前だぞ」

「『放課後のジェットリー』が?」

「いいか、ラジオネームってのはインパクトが命だ。名前八割、内容二割って言うだろ。そんだけネームは重要なんだよ」

「そんな比率、聞いたことねぇよ」

「考えてみろ。何百枚の応募から選ぶんだ。ジャブを何発撃ってもしょうがねーだろ。はなからストレートだよ」

「そういうもんなのか」

「あぁ、そういうもんだ」

「じゃあ、インパクトはいいとして、何でその名前なんだよ? お前、ジェットリー好きだったっけ?」

「いや、別に」

「だったら何で?」

「好きとか嫌いとかじゃねーんだって。ちゃんと法則で付けてんだから。いいか、『放課後のジェットリー』って聞いて、何を思い浮かべる?」

「何って、ふざけた名前だなぁって」

「違うんだよ。そうじゃなくてさー。オッケー、じゃあ分けて考えよう。なら、『放課後』って聞いて何が浮かぶ?」

「放課後? えー、放課後、放課後。放課後の……魔術師?」

「金田一かよ。随分古いな。時空超えてんじゃん」

「いや、それくらいでしょ、放課後で連想するものは」

「ダメ。全然ダメ。こりゃ、一回テストしねーとな」

「何だテストって?」

「お前の思考パターンのテストだよ。そんじゃー、『名探偵』だったらどうだ? 何が浮かぶ?」

「名探偵は、コナンだろ」

「不正解」

「何、これクイズなの?」

「クイズじゃねーよ。でも不正解。じゃあ、『工藤』は?」

「工藤? えー、工藤は、新一……かな」

「また不正解だ。コナンに新一って、お前の頭の中、青山先生ワールド一色じゃねーか」

「当たり前だろ。名探偵に工藤だったらどう考えたってコナンだろうが」

「違うんだよ、しょうがねー奴だなー。じゃあ、最後。『毛利』で浮かぶのは?」

「だから誘導尋問だろ。どのバス乗っても青山ワールド行きじゃねぇか」

「お前が勝手に乗ってるだけだろ! 勝手に乗車して文句言って、とんだクレーマーだな。青山先生に謝れ」

「青山先生関係ないだろ。とにかく、今までの流れなら小五郎も蘭も引っ掛けだろ。じゃあ、元就。毛利元就。……いや、ど真ん中はきっとハズレだ。やっぱ元就やめて、輝元でいく」

「輝元? 跡取りか? まー、お前がどんだけ家督相続させようが、残念ながら不正解だ」

「ていうかさ、その無茶苦茶なクイズの答えあるのかよ」

「だからクイズじゃねーって。クイズじゃねーけど、模範解答はあるぞ」

「何だよ模範解答って。何かいつもの面倒くさいパターンになってきたな。なぁ、その答え聞かなくていいからさ、コンビニ行こうぜ。腹減ったから何か食いたい」

「マジかよー。この時間のコンビニはやめとこうぜ。まだクラスの奴らいるって」

「いるかなぁ?」

「四時過ぎたばっかだろ、絶対にいる。イマムラなんかに見つかったらうるさくなるぜー」

「まぁ、確かにな。この前も買ったばっかのライフガードをパクられたし」

「なー、やめとこーぜ。触らぬナントカにナントカだ」

「ナントカ多過ぎだろ。ボカシまくって何だか分かんねぇよ」

「分かんねーままでいいんだよ。あれだ、腹減ってんならナカネベーカリー行こうぜ。今ならタイムセールで安くなってんぞ」

「この時間に行ってもレーズンパンしか残ってないだろ」

「いや、今日はチョココロネがある気がする。気がするっていうか、ある。とにかく行こうぜ」

 

***

 

「やっぱレーズンパンしかなかったじゃねぇか」

「あぁ。てことは、俺らまた貯金したな」

「はぁ? 何の話だよ」

「運だよ、運」

「何だ、頭おかしくなったか?」

「分かんねーのか? ラックだよ。ラッキーって言った方が分かるか」

「そこじゃねぇよ。何だよ貯金って」

「だからな、もしあそこでチョココロネがあったとするだろ。そしたらお前、今日の分のラックを全部使っちまってたとこだったぞ」

「はぁ」

『はぁ』じゃねーよ。ピントこねーなー」

「ピンとくる方がどうかしてるだろ」

「とにかく、俺らは今日もラックを貯めたぞ」

「お前の言う通りだと、今までの分で俺たちの貯金額は凄いことになってるな」

「あぁ、ちゃんと数えたらとんでもねーぞ。何年、いや、何十年分のチョココロネだ」

「全く嬉しくねぇな」

「チョココロネで考えるからだろ。もっと上をイメージしろよ。そのために想像力ってのがあるんだから」

「チョココロネ植え付けたのお前だろうが。まぁ、いいや。あー、何かダルいなぁ。何かないの、レーズンパン以外で、何かさ、パッとするようなこと」

「あるわけねーだろ。そんなもんあったら、商店街の隅っこでレーズンパンかじってねーよ」

「だな」

「あぁ、今まではな。だが、これからは違うぞ。なんつったって、イカしたラジオネームがあるからな」

「だから『放課後のジェットリー』だろ? それ使って何か変わるとは思えないけどな」

「お前は何にも分かってない。インパクトの黄金比なめんなよ。近いうちに俺のラジオネームでFMとAMに革命を起こす。言うなれば電波ジャックだ!」

「はぁ」

「だから『はぁ』はやめろって。それから死んだ目で俺を見るな。やめろ、その目をやめろっ!」

「いや、適切な対応だろ」

「ていうかさ、さっきの説明終わってなくない? 確か模範解答で止まってんだろ」

「えー、もういいよー。いつものくだらない話になるだけだろ。もう帰って寝たい」

「帰れねーだろ。今日、火曜だぜ。今帰ったらヤってる最中の可能性大だろ」

「うわぁ、今日火曜じゃん。マジで最悪」

「酒くせー熊ヤローにデレデレしてる母ちゃんの顔を拝みたくなければ、俺の模範解答を聞いておくべきだな」

「もー、マジでめんどくせぇ。めんどくせぇけど、奴の顔見るんだったら、お前のくだらない話の方がマシだ」

「だろぉ?」

「『だろぉ?』じゃねーだろ。何でテンション上がってんだよ。あー、何かムカつくなぁ。お前の楽しそうな顔が特にムカつく」

「まぁ、イライラするな。ジュース奢ってやるからよ。パックのレモンティーでいいか?」

「勝手に安い方にすんな。ダメ。パック禁止令。ライフガードでよろしく」

「しれっとグレードアップしてんじゃねーよ。しょーがねーなー。四畳半育ちは注文が多くて困るよ」

「お前だって四畳半だろ! ゴタゴタ言うと、からあげクン追加すんぞ」

「おー怖っ。四畳半の欲望は底なしだな。てか、買ってきたら俺の話聞けよ! こっちはイマムラに見つかるリスク背負って行くんだからよ。ギブアンドリターンだからな」

「それを言うならギブアンドテイクだろ。ブタゴリラかお前は」

「つべこべうるせーよ! 走るからもう聞こえねーぞ!」

 

***


「で、何だよ模範解答って」

「お前、食い過ぎだって! さっき一個食ったろ。ふざけんなよ、無限に湧いてくるもんじゃねーんだぞ、からあげクンは」

「分かったよ。これで最後だから。だから何なんだよ、模範解答。コナンとホームズ以外に名探偵で浮かばないだろ?」 

「いくつだって浮かぶだろ。ミツヒコアサミとか、コースケキンダイチとか」

「何でコシノジュンコみたいに呼ぶんだよ」

「敬意だよ、敬意。国際的に名が知れてるからな。でもそういった顔ぶれも正解じゃない。有名過ぎて意外性がない」

「有名じゃダメなのか?」

「あぁ。それじゃみんな答えられるからな。だから、これぞってチョイスが必要なんだ。その法則でいくと、名探偵は神宮寺三郎だろ」

「ジングウジサブロウ? 誰だそれ」

「あぁ? 神宮寺三郎を知らないのか? データイーストの貴公子だぞ」

「データイースト? 貴公子? 何の話をしてんだよ」

「お前んちファミコンなかったのかよ。あの当時のアドベンチャーゲームって言ったら、ポートピア連続殺人事件と新宿中央公園殺人事件だろ」

「ポートピアは知ってるけど、その、神宮寺の方はちょっと」

「お前それ、神宮寺好きを公言して、御苑洋子を知らないって言ってるようなもんだぞ」

「その例えが分かんねぇよ」

「まぁ、だから俺が言いたいのはそんな感じの意外性だ。おぉ、そう来たかってチョイス。それが必勝の法則だ」

「俺が神宮寺三郎を知らない時点で、その法則は崩壊してるだろ。まぁいいや、じゃあ工藤は?」

「公康だ」

「キミヤス? 工藤公康って、西武にいたあのピッチャーの? ん? それ意外性あるか? 結構有名だと思うけど」

「こっちは辿り着く難易度の話をしてんだよ。いいか、言葉を聞いて最初に浮かべるのはアニメのキャラクターか芸能人だ。それこそお前が言った工藤新一とか、工藤優作とか、芸能人だったら工藤静香がいるだろ。そういうのを差し置いて、公康がくるか?」

「いや、野球好きだったらむしろ真っ先に公康だと思うけどな」

「こないだろ! 工藤兄弟を押しのけて、背番号47を選ぶかよ」

「工藤兄弟だったら、公康の方が……」

「屁理屈はいい! はいっ、次!」

「出た。強制終了。調子悪い時のWindows XPばりだな。じゃあ、毛利は何だよ。小五郎でも蘭でも元就でもないんだろ。どんな意外性がくるんだよ?」

「毛利つったら名人だろ。それ一択以外に何もないだろ」

「毛利、名人? 毛利名人?」

「またかよ! お前どっかに小学生時代の記憶落としてきたんじゃねーの? 高橋名人のライバル、コロコロのサンバイザーを着こなせる、あの毛利名人だよ」

「あの、って言われてもな」

「お前、ピンとこないにも程があるぞ。チェリオ飲んでやり直してこいよ」

「ていうかさ、その模範解答って、お前が好きなもの並べてるだけだろ。意外性って言うか、ただの好みのような気がすんだけど」

「何だ? またクレームか。文句言うならそのライフガード返せ」

「これはくだらない話を聞いてやる代わりの給料だろ。すり替えんなよ」

「とにかく、ただの好みで言ってんじゃねーの。何度も言うように、黄金比にのっとった法則なんだぞ」

「ここまできたら詐欺にしか聞こえないな」

「詐欺じゃねーよ! 人聞き悪いな。意外性の要素を組み込んだ静と動の法則、どっからどう聞いたって科学だろ!」

「慌てぶりが半端ないな。詐欺ご飯の上に、胡散臭さをふりかけてるみたいになってんぞ」

「ふざけんなって! 放課後の響きが哀愁で、ジェットリーが躍動感。はいっ、静と動にインパクトまで合わさった黄金比、記憶に残ること間違いなしだろ! お前な、冷静に考えてみろ。これがもし放課後のモーガンフリーマンだったら、哀愁プラス哀愁になるだろ。そしたらどうなる? 哀愁と哀愁が隣同士になって、哀愁と哀愁が喧嘩するだろ」

「哀愁哀愁うるさいな」

「揚げ足とんなって! お前、そんなに馬鹿にすると、お前のために考えてきた必勝ラジオネーム教えてやんねーぞ」

「いらねぇよ」

「え?」

「そんなのいらねぇ」

「え……いらねーの?」

「あぁ、いらねぇ。だって必要ねぇだろ。ラジオに投稿なんかしねぇんだから」

「え? お前、ラジオに投稿しねーの?」

「しねぇだろ。てか、どんだけうろたえてんだよ。目が泳ぎ過ぎだろ。そんなに驚くことか?」

「驚くっていうか……ショックだろ。だって、ラジオだぜ。みんな大好き、ラジオだぜ?」

「好かれてんの前提で話すなよ。そりゃ、お前みたいに好きな奴もいるだろうけど、みんなじゃないだろ。カレーじゃないんだし」

「カレーと一緒にすんじゃねー!」

「何で怒ってんだよ! 意味分かんねぇよ」

「カレーと一緒にするからだろ! 香ばしさで誤魔化す奴と同じ枠に入れんな。いいか、ピリ辛で香ばしいとな、シーチキンを肉と勘違いするんだよ。で、半分過ぎたぐらいで気付くんだ。『あ、これ肉じゃねぇな』って」

「何の話をしてんだよ。知らねーよ、お前んちのカレー事情なんか」

「馬鹿野郎。こっちは、どれだけショックだったかっていうのを噛み砕いて説明してんだよ」

「そうか。本質まで噛み砕いた馬鹿がいたってことは理解したよ」

「手加減なしだな。鬼かお前は」

「鬼じゃねぇから話を聞いてやってんだろーが」

「だからな、お前のラジオネームは俺のと発想が被らないように、法則その二を使うことにした」

「勝手に進めてんじゃねぇよ。だからいらねぇって」

「貰えるもんは貰っとけよ。後で感謝する日がきっとくるぞ」

「絶対にない」

「そう決めつけるな。旅先とかであるんだよ。まぁそれでな、法則その二はリバイバル枠だ」

「リバイバル枠?」

「あぁ。昔流行ったのが急にまた流行ったりするだろ。ほら、たまごっちとか、あれだ、あのー、たまごっちとか」

「限定的だな」

「それで、そのリバイバルネームに苗字をつけると完全無欠になる」

「苗字? 田中とか、佐藤とか?」

「いや、そういうんじゃなくて、キャッチコピーみたいなやつ。例えば、『帰ってきたウルトラマン』とか。苗字の場所にあるやつ」

「苗字の場所ではないけど、言いたいことは分かる」

「それで、その二つを兼ね備えた名前を考えてきた。発表してもいいか?」

「拒否しても言うんだろ」

「そう、必勝の法則を取り入れたその名前は、『遅れてきたドッチーモ』だ」

「……ごめん。どう反応していいか分からない」

「好きに喜びを表せよ。何なら歌ってもいい」

「歌わないし、そもそも喜んでない」

「内弁慶か?」

「突っ込みたくもないが、使い方間違えてるぞ。なぁ、またピーピー言われるんだろうけど、ドッチーモって何だ?」

「ピーピーなんて言わねーよ。お前んち、テレビなかったもんな」

「14インチ馬鹿にすんな」

「あったなら見てたろ。タッキーと鈴木京香が出てたCM」

「いや、だからな、CMの前にドッチーモって何だよ」

「おい、そっからかよ。ちょっと頭使えば名前で連想できんだろ。ドッチーモ、どっちーも、どっちも。ほら、これでもう分かんだろ?」

「それで分かったらエスパーだ」

「マジかよ。こんなの『バナナと言ったら黄色』レベルだぞ。『どっちも、だからドッチーモ』てことは?」

「『てことは?』じゃねーよ。ムカつくな。これ以上引き伸ばしたら、話聞かねぇぞ」

「悪かった悪かった。怒んなって。答えは、PHSにも携帯にもなる魔法の機械、どっちにもなるからドッチーモ。可愛い名前だろ?」

「何か、そのおちゃめ感が癪に触るな。それで、そのドッチーモがラジオネームなのか?」

「違う。それじゃただの懐かしネームになる。『遅れてきたドッチーモ』が正式名称だ。『ちょっと遅れましたけど、20世紀から帰ってきましたよ』ってニュアンスを込めてる。言うなれば銭湯で飲むコーヒー牛乳みたいなもんだ」

「今言った説明、ひとつも共感できなかったわ」

「お前の頭の固さにビックリだよ。本当に何も感じない? ほら、親しみやすい近所の兄ちゃん的な空気」

「俺が感じるのは、話しかけちゃいけない近所の不審者的な空気だ」

「おい! 謝れ! とにかく、俺に謝れ!」

「ビックリした! 大きな声出すなよ。だって……」

「だってじゃない! 謝れ!」

「ちょ、え、分かったよ。すいませんでした」

「分かればいい」

「何だよ、急に」

「とにかく、その名前にすると『ドッチーさん』って呼ばれる可能性が高くなる。そうなったらこっちのもんだ、ドッチーさんだぞ、子供から大人まで幅広く親しみやすいマスコット的な存在になれる。それに、名前の響きもCMに出てたタッキーを連想させて一石二鳥だしな」

「いや、無理だろ。強引に寄せた分、本家との差が明確になってる」

「発言が後ろ向きだなー。『遅れてきたさん』じゃなくて、『ドッチーさん』だぞ、最高じゃないか! こっちなんか『放課後さん』だっていうのによ」

「『ジャットリーさん』だと色々問題になるからな」

「まんま本人だからな」

「間違いない」

「それにお前のラジオネームは局を選ばない優れものだぞ。俺のは名前的に深夜寄りになるけど、お前のは『お早うネットワーク』枠も夢じゃない。これヤベーな。『ビバリー昼ズ』枠もいけんじゃないか」

「盛り上がってるとこ全部ぶっ壊すようで悪いんだけど、出さねぇから。俺、ラジオ投稿しねぇから。申し訳な……いや、何で謝ってんのか全く分からないけど、ごめん、そのラジオネームいらない」

「分かったよ、分かった。語呂が嫌なんだろ? リズムがいまいちって思ったんだろ。実はさ、俺も薄々感じてたんだ。うん、オッケー。分かった! お前がそんなに言うなら俺も本気出す。新しいラジオネーム、今度は黄金比をばっちり入れて考えてきてやるよ。全くしょーがねーなー。本気出すってなると、徹夜だな。今夜は忙しくなるぞ! 明日までには用意してやるから、どこに投稿するかちゃんと決めておけよ!」

 

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