アチラとコチラ (1つ目)

並行世界、パラレルワールド。

呼び名は何だっていい。滑稽な話に聞こえるかもしれないが、私はそういった世界の存在を信じている。

私が生きている世界、私が生きている別の世界、そして私が死んだ世界。

宗教的な話や非科学的な話をしたいのではない。ただ、そう考えるようになったきっかけが、今まで生きてきた中で3つあった。

 

不思議な出来事、そこで別れた世界。

 

1つ目

 

あの頃、全てが真っ暗でどうしようもなかった。

増えていく上納に、終わらない暴力。どれだけ働いても高校生のバイトでは限界があり、家の金にも手をつけはじめていた。学校、家や街、どこにも居場所はなく、呼び出されることばかり気にして毎日を過ごしていた。

何度も心を折られた。でも、私も人を傷つけた。

手に入れた弱さを使って、たくさんの人に迷惑をかけた。だが当時の私は、そのことに罪悪感を抱いていなかった。

(これだけのことをされてるんだ。弱さを売って何が悪い)

そう、考えていた。

周りも自分も、何もかもが嫌で堪らなかった。恐怖と不安で睡眠を取るのが困難になっていたある日、私は授業中に吐血した。

もう、心も体も限界だった。

 

何もかも投げ出して逃げればよかったのだと、今は思う。

でも、当時はそんな考えにならなかった。

家の場所を知られている以上、逃げてもいずれ捕まる。捕らえられたが最後、倍の仕打ちが待っているのは想像に容易かった。それに、あの時私は「世間体」というものを強く意識していた。

クソみたいな仕打ちを受けている自分が恥ずかしくて惨めで、その事実をどうにか誤魔化そうと必死になっていた。だから、不登校などもってのほかだった。

 

顔に目立つ傷を付けられた時、私は担任の先生に呼ばれた。目の下に目立つくまがあったので、今までも何度か呼び出しを受け、その都度適当な言い訳をしていたのだが、この件については追及が激しく、誤魔化すことは不可能だった。

全てを公にした後の復讐を恐れた私は、実行グループの名を告げる代わりに、家族を売った。

 

その日の帰り道、私は私を終わらせようと決めた。

 

原付バイクで向かった近所の山。

脱いだジャージを木に括り付けて見渡す緑。

下着姿で輪っかを抱え、何も出来ずに泣いている自分がそこにいた。

 

階段をのぼれなかった日を境に、私は何者でもなくなった。抗うことも、隠し通すことも、自ら終わらすことも叶わず、ただ目の前のものに頭を下げ、何も変わらない毎日を受け入れるだけの者になった。

 

岐路

 

あの日、学校帰りに乗った小田急線の車内で幼馴染と行き合った。

その日、私は「たまたま」いつも乗る最後尾に近い車両ではなく、前の方の車両に乗り込んだ。

あの時どうしてそんな行動を取ったのかは分からない。他よりも乗客が少なく、安全地帯だと知ってて決まった車両を選んでいた当時の状況を考えると、なぜ自分がそんなことをしたのか見当がつかないが、私は「たまたま」車両を変えたことで、疎遠になっていた彼と鉢合わせした。

入院している友達の見舞いに行く途中だった幼馴染は、私の目のくまの理由を質問した後に、一緒に病院に来ないかと提案してくれた。

彼の誘いを受けて訪ねた病室、足にギプスを付けてベッドに横たわっていた男はこちらを見て、「そっちが入院した方がいいよ」と言った。

 

「たまたま」変えた車両に、「たまたま」疎遠だった幼馴染が乗っており、その時期に「たまたま」大きな怪我を負った幼馴染の友人がいた。入院していた彼は、幼馴染が遊んでいたグループのリーダー格であり、私はその時の出会いをきっかけにして彼らの集まりに拾われた。

そして、そこが私の避難所になり、居場所になった。

 

今でも、あの時の感情を思い出す。

自力で事を成し遂げられなかった私の次の候補地は、国道246だった。

自ら終わらせないのであれば、他力で。

とにかく、何でもいいからどうにかしてどうにかしなければ。

そんな焦りに似た気持ちが、ずっと心にあった。

 

幼馴染をきっかけにして拾われたグループに入っていなければ、今の私は確実にいない。彼らと出会ったことにより、私は常に誰かと行動を共にして生活するようになった。

あの時、「たまたま」車両を変えたことにより、私の世界は2つに分かれた。

 

私が生きている世界。

私が死んだ世界。

 

私は今、私が生きている世界を生きている。

 

私は無宗教であるが、神様はいると考えている。

便宜上「神様」という言葉を使ったが「並行世界」と同じように、呼び名は何だっていいと思っている。

目に見えない大きな存在。

元々、懐疑的な性格なのでそういったものに対して疑いの目を向けていたが、2つ目、そして3つ目の岐路を通して、名前を知らない「何か」の存在を信じざるを得なくなっていった。

 

〈続く〉

 

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