自分のケツは、自分で拭きます 〈高岡ヨシ + 大関いずみ〉

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「おーい、君ぃー! 聞こえるかー? そんなとこで、何してるんだー?」 

 

「あっ! お勤めごくろうさまです! あのー! わざわざ来てもらって悪いんですが、間に合ってまーす!」 

 

「いやー、えっ? 間に合ってるって、何だろうなー? とにかくさー、そこ危ないから降りてきなよー!」

 

「何だかすみませーん! でも、降りる気はないんで、お帰り下さーい!」

 

「いや、帰らないよー! ねぇ、君ぃー! そこで何をしてるのー?」

 

「自分のケツを拭こうとしてるんでーす!」

 

「うん、そうだねー! いや、そうじゃなくて、何でそんなトコにいるのかなー? どうしてそこに便器があるのかなー?」

 

「あのー! それ説明すると長くなるんで、勘弁してください! とにかく、今、僕は忙しいんでーす! 放っといてくれませんかー!」

 

「んー、放っとけないよー! あのー、君ぃー! もしねー、お尻を拭きたいんだったら、降りてきた方がいいよー! そこ危ないし、トイレなら下にもたくさんあるよー!」

 

「あのー! 下はダメなんです! どうしても、ダメなんでーす!」

 

「何でかなー? 何で降りてこられないのかなー?」

 

「話せば長くなりまーす!」

 

 

ガヤガヤ

 

クスクス

 

パシャ

 

ガヤガヤ

 

クスクス

 

パシャ

 

 

「あ! ちょっと待っててねー! すぐ戻るからー!」

 

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

 

「すみませんが、出て行ってもらえますか? あの、ちょっと、撮らないで下さい。撮らないで。あの……何で笑ってるんですか? 見て分かりますよね、この状況に何ひとつ面白い事はありませんよ。ほら、早く出て行ってください。これ以上、ここに残るつもりでしたら、本官への公務執行妨害で逮捕します。さぁ、出て行ってください!」

 

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

ガチャ

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

 

「ごめん、ごめん! 話の続きなんだけどー! 何で降りてこられないのかなー? 長くなっても構わないから、教えてくれないかなー?」

 

「今、今みた通りですよー! 下に降りたって、結局、同じなんでーす! 見ましたよねー? みんなの表情? あれが、全てでーす!」

 

「そうかなー? みんながみんな、同じじゃないと思うよー!」

 

「同じでーす! 僕の見てきた世界は、同じでしたー! あのー! もう、いいですかー? 僕は自分のケツを拭きたいんでーす!」

 

「やっぱり、そこじゃなきゃダメかなー?」

 

「ダメでーす! 僕はー! 僕はー! もう十分拭いてきたんです! 下でずっとー! 他人のケツばっかり! 拭いてきたんでーす! もう! 嫌なんです!」

 

「えーと、他人のケツって、どういうことかなー!」

 

「あのー! 何でみんな、嘘を教えてくるんですかねー? 助け合いだとか! 人に優しくとか! 自分の事じゃなくても、気付いた人がやりましょーとか! 全部、嘘じゃないですかー! ずっと、そうしてきましたよー! 親にも言われたんでねー! でもー! そうやって生きてきてもー! 何も報われなかったでーす!」

 

 

「……」

 

 

 

 「親がー! 借金を抱えましたー! ギャンブルでーす! でも、僕はちゃんとやりましたよー! 家族は大事に、ですもんねー! だから、バイト増やしてー! お金入れてー! やることはやりましたよー!」

 

 

「……」

 

 

「でもー! 足りないってー! 全然足りないからー、学校やめて働けってー! もう! 嫌なんでーす! 拭いても! 拭いても! 拭いても! キリがなーい! だから、終わりにするんです! 自分で自分のケツを拭いて、それで終わるんでーす!」

 

 

「……」

 

 

「それしか、ないですよねー! 下に降りてー、何があるんですかー? あなたがお金をくれるんですかー? 諦めちゃダメとか! 世の中そんなに悪くないだとか! 綺麗事以外に、解決策なんかありませんよねー!」

 

 

「……」

 

 

「もう、いいですから! 帰ってくれませんかー?」

 

 

 

 

 

「親父がー、親父が首を吊ったー! 

 

本官が17歳の時、理由はギャンブル! 

 

君んちと同じだー!    

 

 

 

ショックだったー! 

クソッタレって思ったー! 

みんないなくなればいいって思ったー!    

 

 

 

 

下の世界はー! こんがらがってるー! 

どっちにいってもー! 遠回りばっかだー!                       

 

 

 

 

 

友達にならないかー? 

 

本官とー! 

友達になってくれないかー! 

 

 

 

 

どこにもいかなくていいー! 

共通の趣味もなくていいー! 

だだー! 

君がよければー! 

友達になってくれないかー!

 

 

 

 

本官の名前はー! 

 

……俺の名前は、タグチコウタ! 

 

生まれは神奈川だー!

 

 

君のー! 

 

君の名前を、聞かせてくれないかー!!!」

 

 

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***

 

〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉大関いずみ

 

大関いずみ氏に、感謝。

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