好きな人はいますか?

週間予報に見つけた雪マーク。

楓の国は、もう寒い。 

 

コタツが主役の家で育ったせいか、私は寒さに弱い。

なので、出勤時には防寒ジャケットのジップを上まであげ、手袋をしてハンドルを握っている。

こんな調子では、近日中にブラックももひきの姿を拝むことになるだろう。

 

真冬よろしく着込んで歩く私の目の前を、薄着のカナディアンが横切る。

そんな光景を見かけるたびに、己の生物としての弱さを感じる。

気分はまるで、「ウララァー」と叫んだ未熟超人のようだ。

 

何で、寒くないのだろう。

何で、ショーツでスケボー乗ってるんだろう。

 

移住以来ずっとこの疑問と向き合ってきたが、答えが出ないのでその思いをサヨナラボックスに詰め込んだ。

ちなみに、一つ前に入れた疑問は、何でこちらのリスは玄関の前に固いパンを置いていくのだろう、だ。

 

風に揺られて舞い散るメープルリーフ。

赤や黄色がねじれるその様は風流だが、サラサラではなくガヤガヤ落ちてくる様子では、お茶はすすれない。

団子も食えない。

サンマも焼けない。

 

それでも、雪が降って白に覆われる前の芝生に出来るカラフル絨毯は美しい。

事前に決められていない不揃いな配色を眺めるのは楽しい。

 

そんな時、私は強く思う。

しばらく見ていても飽きないこの景色を、是非、好きな人に見せてあげたいと。

 

好きな人。

 

年を重ねるにつれて、好きな人が増えた。

嫁さんに首の後ろを蹴られる前に記しておきたいが、この「好き」に恋愛感情は含まれていない。

 

城郭が好き。

坂道が好き。

プロレスが好き。

油淋鶏が好き。

 

今ここで話している「好き」は、そういった「好き」にカテゴライズされる好きだ。

 

好き好きうるさい文章だな。

 

とにかく、増えた。

好きの先に肉体関係がない好きは、姿勢がフラットになる。

無駄につんのめらないし、深読みしてのけぞる必要もない。

 

そこは垣根フリーで、年齢、性別、職業、性格、趣味、ステータスなどがゴチャゴチャに混ぜられてすり身にされ、カマボコになっている。

 

私には今、好きな人が数多くいる。

そのうちの何人かは、会ったことも言葉を交わしたこともない人たちで、思いは確実に一方通行だ。

それでも、心地よい。

その人たちの発するものに触れると、嬉しくなる。

 

正直、自分がこんな風になるとは夢にも思わなかった。

 

もともと社交的な性格ではなく、交友関係は狭ければ狭いほど、深ければ深いほど素晴らしいものだと信じていた。

増築部屋に拾われた当時は、助けてくれた仲間、そして繋がりのあった二人の人物以外は、みな敵だと思っていた。

本心を見せたら負けだ、騙されて利用される、本気でそう考えていた。

 

だからとにかく輪を固めた。

 

「集まってる間は、全員参加で同じことをするよーに」

 

手始めに、桃鉄。

はい、終わったらコタツに集合。

次、みんな揃って喋りの時間。

 

 

あのドラマの主人公のセリフ、マズイだろー。

あそこなら、一旦、本をしまってから目線を動かすべきだよなー。

いや、あそこで追っかけちゃマズイって。それじゃ101回目と同じ展開に……。

お前の言ってるCMの案は、お縄もんだ。確実に変質者のたぐいだ。

ずっと思ってたんだけど、ヤムチャとクリリンってどんだけお互いを意識してんのかな。

それより、チャオズが星になった時、鶴仙人は何をやってたんだろう。

お前、今、足の裏の皮をこっちに投げたろ? ふざけんなって。あとそれ、コタツの下に溜めんなよ。これはフリじゃねーぞ。あれ、マジで臭くなんから絶対にすんなよ。

この前言った話、本当にやってくれるんだな。もう企画書は書いたぞ。ハンディカムだってちゃんと動く。

柔道着とランドセルは揃った。メイクはどうすんだ? え、またセロテープ? あれ引きつって痛いんだよ。

部屋半分潰せば舞台作れるだろ? いや、みかんのカゴの上にベニヤ引いてダンボール乗せれば、案外なんとかなるんだって。

ちゃんと撮れた? あ、これじゃダメじゃん。ほら、お前写っちゃってるよ。セリフもグダグダだし。もう一回やろう。大丈夫だって、朝マック食べたらやる気出るから。

 

 

楽しかった。

単純に。

 

そこは、神奈川の隅っこにあったネバーランド。

磨りガラスの薄い引き戸を閉めれば、現実世界で起こっていた全てを忘れられた。

365日入り浸ったネバーランド。

 

そこにいれば襲われない。

殴られない

金も取られない。

 

それが私の全てだった。

同化するほど密な関係こそが適切なのだと、頑なに思っていた。

 

 

そんな感じに目を瞑っても、時は流れる。

 

大人になったロストボーイズが、一人、また一人と増築部屋からいなくなっていき、空を飛べない私はネバーランドを失って現実に引き戻されるのが怖くなり、逃げた。

 

逃げ場所を探している時に出会った、肝の据わったティンカーベルに尻を蹴り上げられて向かった先はカナダ。

そこで私はどうにかこうにか居場所を作った。

 

私は無宗教だが、神様はいると思っている。

根拠はない。

でも、自分がこうして今の状況で生きられていることを考えると、そう考えるのが一番しっくりくる。

納得できる。

 

感謝。

 

 

私はこちらに来てからもしばらくはネバーランドの幻想にすがったが、年を取ると共に人間関係について持っていた固定観念は薄れていった。

 

あれだけ凝り固まっていた考えが、魔法が解けるようになくなっていく。

まさに、ミラクル。

やっぱり、加齢バンザイ。

 

好きな人が増えたのは、それからだ。

 

絶対的な安心がなくてもいい。

全部分からなくていい。

ここは好きだけど、ここはどうかなぁー、があってもいい。

気持ちがイコールじゃなくていい。

 

さっきも書いたが、文章でも絵でも写真でも音楽でも声でも思考でも、好きな人が発するものに触れると、嬉しくなる。

ワクワクして温度があがって、引き込まれて刺激を受ける。

濃いめのコーヒーよりも直に効く眠眠打破。

顔を洗わなくても両目パッチリ。

 

ありがたいなー、と思う。

それ以上に楽しいなー、と思う。

 

そう、楽しいのだ。

 

触れると芽生えて、それが広がり、予想外のものを連れてくる。

 

どうも、はじめましてこんにちは。

あら、何と私の頭の中から来られたんですか。

いやはや、こんな思いが隠れていたとはねー。

 

私は、そんな化学反応に幸せを感じる。

 

 

来年の4月に約3週間ほど日本に行く予定がある。

 

帰ったら、私は好きな人に会いにいく。

ちゃんと顔を見て、ありがとうと伝えるんだ。

 

 

……その前に、私は冬を越す。

シャベルでえっこら雪をかく。

脳裏に蘇るのは、あの衝撃。

 

あぶない腰痛リターンズ。

 

この冬は、人力を卒業しなくてはいけない気がする。

 

さようなら、20世紀。

こんにちは、21世紀。

 

 

f:id:yoshitakaoka:20180605120030j:plain

 

 

終わったんです

気持ちが高まっている。

そんな時は、タイプじゃなくてノートに書き出す。

まとまらなくなるのは分かっている。だからそのまま書かないが、今日は構わずタイプする。

 

只今、こちらは午前五時二十二分。

サーモスタットのパネルに映し出された気温は、4度だ。

 

兎にも角にも、どうにか間に合った。

締め切りギリギリは通常運転。小学生から変わっていない。

 

でも、終わった。

 

手を合わせて送信ボタンをクリック。

ありがとう、21世紀。

恩にきる、21世紀。

 

とにかく安心して、気の済むまで床で伸びた後に、机に戻った。

 

ありがとう。

 

いくつもの感情が溢れるが、そのどれをも押しのけて出てくるのは、感謝だ。

 

嫁さん、本当にありがとう。

そして、正直すまない。

 

ありがとうとごめんなさいは、いつも一緒に現れる。

 

結婚する時、契約書を作った。

仰々しく、拇印だって押した。

 

ご飯を作ります。

家事を喜んでします。

マッサージをします。

 

体をひっくり返して叩いても、何も出てこない当時の自分ができる約束がそれだった。

感覚的には、肩たたき券の延長。

金にも何にもならない、見る人が見れば、ただの紙クズだ。

 

一緒になってすぐに住む国が変わっても、肩たたき契約は遵守した。

 

はい、スープ。

今日もスープ。

明日はカレー、いきますか。

凝ってますねー、お客さん。

汚れた床を、拭きましょか。

 

こんな感じの毎日。

 

ツボも押せないマッサージじゃ、空腹の足しにはならんかね。

 

そんなこんなで時間が過ぎて、バタバタ手足を動かした。

 

学生ローン組んで学校行って、就職して。

25メートル! 50メートル! 次は100折り返し! って声に出して泳いでる日々だった。

 

やっとこさ落ち着いたら、今度は書きたいなんて言い出してね。

人生の宿題が終わってないんだー、消化できないーだの、どーだこーだごね出して、今まで溜めてた分を持ち込んできやがった。

 

しれっとご飯作る日が減って、掃除機も殆どかけない。頼みの綱のマッサージ券すら発行しない体たらく。

 

寝ろと言われても、寝ず。

仕事との両立でキャパも減って、追い込まれて。

映画も観ない。トランプもしない。Unoもしない。

コーヒーばっか飲んで、夜中にチョコを食う。

 

どうしても、書きたいんです。

これで生きていきたいんです。

ってね。

 

嫁さん、正直すみませんでした。

間違いなく、契約違反です。

 

無理を聞いてもらって、本当にありがとうございました。

 

お陰で、書けました。

20年間続いた放課後に、けじめをつけられました。

 

お願いだから、長生きしてね。

今まで受けた恩を返すには、10年20年じゃ足りないから。

 

 

いつか見てろよ、が燃料だった。

それはもちろん嫁さんにではなく、自分の過去と自分自身。

 

必要とされてない意識しかなくて、目をかけられた記憶もない。

薄く笑って合わせて汲んで、好きでもないのに欲しいと口にした。

その根底にあるのは恐れ。いつか「要らない」って言われる気がして、ビクビクしてた。

親の好きな人を応援して、洗いたての浴槽に唾を吐く。

 

つまんない毎日。

つまんない人生。

卵焼きばっか上手くなっても、誰も食べなきゃ意味ないね。

 

それから先は、答え合わせ。

 

ほら、やられた。

ほら、呼ばれた。

ほら、いなくなった。

ほら、裏切った。

 

何で、電話番号知ってんの?

何で、うちの場所知ってんの?

 

夜中のピンポンは、ホラーだ。

彷徨うジェイソンよりも、生きている人の方がよっぽど怖い。

窓に張り付く目。

全貌が見えない暗闇は、凶器だ。

 

怖いを怖いって言えるようになってよかった。

寂しいを寂しい。嬉しいを嬉しい。苦しいを苦しい。ループから抜け出せたならもっといいけど、口にできるだけで鍵確認の時間が減る。

加齢バンザイ。

 

やっぱり、言えないと斜に構える。

それが当時の防御策だったけど、気取ってからは、落ちるスピードが速かった。

 

底がない。

どこまで行っても、終わりがない。

 

ありがたく入れてもらえた増築部屋で、初めてタバコを吸った。

認めてもらいたくて、暇さえあれば火をつけ、気がついたら1日3箱が基本になっていた。

これは、塩辛と一緒。

「子供らしくない」と褒められたのが嬉しくて、目の前で無理して一瓶食べて隠れゲロ。それでも、任務に思えて、おつまみばっか食べるようになった。

カナダに来てなかったら、痛風だ。

タバコだってそう。一箱10ドル超えてたお陰でやめられた。

無収入の移住一年目。金がないなら買えないからね。

 

自分がないから、もので埋める。期待で埋める。奉仕で埋める。

透明な子だったから、色はなかった。

 

ターニングポイントよ、ありがとう。

 

そう、感謝の話をしていた。

話がズレても猫が来る。すっかり大人になった君には、この世界はどう見えているのだろう。

顔を近付けてスリスリしたら、カリカリの臭いがした。

 

健康的で良い餌を買い与えるから、どうか長生きしておくれ。

もう会えないかもしれないから、どうかたくさんの時間を過ごしておくれ。

あんたら5匹が俺らの子供。

種族は違うけど、愛しているから家族だ。

 

だから、ありがとうの話。

 

ありがとうばかりが溢れている。

同時にごめんなさいも。

 

迷惑ばっかりかけた。

尖ってる方の迷惑ではなく、出口のない迷惑の方。

出会ってくださったほぼ全ての方々、面倒をかけてすみませんでした。

 

そして、ありがとう。

 

血は繋がってなくても家族。

365日以上一緒にいた仲間。

避難場所を娯楽スペースに変えてくれてありがとう。

あんた達がいてくれたから、今も生きてる。

底の底から引き上げてくれた恩は、一生忘れない。

 

海で拾った猫。きったなくて狭い砂壁に似合わなかった綺麗な毛並み。

一番辛い時にそばにいてくれてありがとう。

あんたがいるのは絶対に、天国だな。

 

もう、話をまとめる気は無い。

浮かんだ順に書いている。

 

今に見てろよが燃料だった。

 

バタついて走って、とにかく走って、行けるだけ走った。

金がないのが嫌だったんじゃない、いや、嫌だったんだけど、昭和ルックルックよこんにちは、みたいな生活をさせているのが嫌だった。

 

リサイクル屋以外で服を買ってあげたい。

これでいい、なんて言わせたくない。

 

そんなんだから走っている最中に、たくさん目を瞑った。

止まりたくなかったから、感情を見ないようにしていた。

 

どうにか困らなくなった頃には、鬱憤が体に張り付いていた。

 

国が変わっても、人は変わらない。

アドバンテージを取ってくるやつは、何人でも変わらない。

 

分かりやすく焦げた肉を出すレストラン。

白人に笑顔、こちらに仏頂面。

色は違うが人間だぜ。

 

立てられた中指。

キツい口臭でがなり立てなくても、あんたの言ってる英語は分かってるよ。

 

だから、いつか見てろよ。

日本でもカナダでも、肉体的にも精神的にも受けた全てに、今に見てろよ。

 

今に見てろよ……だった。

もう、現在進行形ではない。

 

今回の話を書き終えて、ケジメがついた。

報いたい人と思いにも、ちゃんと向き合えた。

逃げなかった。

だから、ありがとう。

さようなら。

 

 

キリがないな。

マイナスばっか見ていたら、キリがない。

 

それでも、思考が行くんだよ。

昔の記憶なんか連れて来ちゃってさ。

学ばないね、あんたも好きだね。

 

金は大事だ。

いや、あえてお金と言おう。

 

良いものを着ていたら第二言語のアジア人だって白人並みに扱ってもらえる。

ピックアップトラックで乗りつければ、バカにされて笑われない。

 

でも、それが何だっていうんだ?

それが幸せの形か?

 

書いていて気持ちの悪くなる文章だ。

 

対等なんてあるのかね。

この国にいる限り、俺らは一生、外国人。

よーいドンで、拒否する人は俺らを拒否する。

 

でも、それが何だっていうんだ?

 

この国にも素晴らしい人はたくさんいるし、人が圧倒的に少ない分ストレスも少ない。

それでいいじゃないか。

そこだけに目をやっていれば、それできっと幸せなんだ。

 

そんな考えを実行できたら、今日も明日も明後日も、晴れだろう。

 

傘もいらない。

毎日が夏休み。

 

僕らの七日間戦争。

 

街でもらった毒を餌に記憶を釣る。それで頭を悩ます生活を送っていても、いつか、そんな風に思える日が来るのだろうか。

 

そんな日が来たら、素晴らしい。

皮肉でも何でもなく、素直にそう思う。

 

じゃあ、それまで書こう。

そんなエレクトリカルパレードな日がやってくるまで、思いを、記憶を、発想を、鬱憤を書き続けよう。

 

さぁ、朝の六時を過ぎた。

明日、じゃなくて、今日の仕事を思うとワァオってなるけど、それはそれ。

多めにチョコを持っていけば、きっと乗り切れるはずだ。

 

 

 

頭の中垂れ流しを読んでくださったあなたにも、ありがとうを送ります。

 

f:id:yoshitakaoka:20181018184706j:plain

 

 

 

12年かかって見た景色

 

12年かかって見た景色。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525121744j:plain

 

12年前。

お金も、仕事も、居場所もなかった。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525121947j:plain

 

12年前。

「柱もねぇ、壁もねぇ、床板まともにはまってねぇ」幾三ハウスから始まった生活。

ダンボールをタンスにし、結婚記念日にウェンディーズのバーガーセットを食べていた。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525122546j:plain

 

逃げてきた分、1歩1歩が重かった12年。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525122647j:plain

 

日が落ちて、人が少なくなった街を歩く。

塔の上ではためくメープルフラッグを眺めている時、頭にあったのは、泣きながら空のスーツケースを投げつけられた日だった。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525123340j:plain

 

時間が進まない、病院の長い廊下。

受け取られなかった手紙。

灯りがつかない部屋。

 

馴染まない水を飲んで、何とか笑顔を浮かべていた日々が浮かんでは消えた。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525123952j:plain

 

暮れ行く街に向かい、手を合わせる。

 

ありがたいことに、もう生きるか死ぬかじゃない。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525124923j:plain

 

12年かかって見た景色。

12年かけて固めた地盤。

 

踏み込んだ足を弾く堅さがあれば、描いた通りに跳んでいける。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525125901j:plain

 

全てに感謝します。

 

***

 

ちなみに、塔の内部は256キロバイトのドラクエIIIでした。

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131253j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131336j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131404j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131435j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131508j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131549j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131612j:plain

 

f:id:yoshitakaoka:20180525131642j:plain

 

写真はブレても、記憶はブレない。

ありがとうございました。

 

満天の星をみたか

f:id:yoshitakaoka:20171205145152j:plain

 

満天の星をみたか

 

寒さの産声が響く中

黒を濃くした夜空に浮かぶ

満天の星をみたか

 

工場から漏れる煙も

街を埋める電波でも覆えない

内なる想いを照らす

満天の星をみたか

 

俺は見た

真夜中の真ん中に開けた窓から

溢れる星を確かに見た

 

四方に散らばり輝く星群

そのうちの一つ

東の果てに佇む光が

あんたなんだと思った

 

理由は分からない

ただ直感でそう思えた

 

会えなくなって随分経つけど

忘れたことは一度もない

 

赤いカバンをかけた背中

当時の景色はかすれていない

 

そっちの空気はどうなんだ?

あんたはあんたでいれているか?

 

こっちのことは心配ない

色々もがいて回っているけど

今でも好きで書けているよ

 

ため息を深呼吸に

憂鬱を動機に変えて生きてきた

 

でも

俺は弱いから

いつもあんたを探してた

 

一人じゃ何にもできないから

あんたの姿を探してた

 

何もかもが変わっていくけれど

ずっと変わらないものもある

 

社交性がなくても

孤立していても構わない

 

俺はあんたの友達で

あんたは俺の友達だから

 

過去を誇れなくても

今につまずいていても構わない

 

俺はあんたの友達で

あんたは俺の友達だから

 

普通の世界をもがいて進む

過敏であるほど生きにくい

 

突然すべてが嫌になっても

おかしくなったとは思わない

 

まともを演じて壊れるのなら

全部まとめて投げ出していい

 

それでも

一つだけ覚えていて欲しい

 

病んでいても

鬱であっても構わない

 

俺はあんたの友達で

あんたは俺の友達だから

 

ずっと空の上

雲の先はいつも晴れてるんだろ?

 

だったら夜には星が出る

 

だったら俺は一人じゃない

 

俺は怖くはない

あんたがそばにいてくれるなら

俺は怖くなんかない

 

だからそばにいて欲しい

 

姿が見えても

見えなくても構わない

 

あんたがそばにいるのなら

これから先も歩いていける

 

***

 

Stand By Me

 

f:id:yoshitakaoka:20180520051025j:plain

 

***

 

Sending my deepest gratitude to Michiko Ono.

 

ご報告

自身の作品である「歩けばいい」が Amazon × よしもとクリエイティブ・エージェンシーが主催する「原作開発プロジェクト」において優秀賞を受賞しました。

 

ドアが開き、橋がかかった事がとても嬉しいです。

 

作品を読んでくださった方々、選んでくださった方々、サポートしてくださった方々、そして表紙を描いてくださったミチコオノ氏、その全ての人たちに感謝します。

本当に、ありがとうございました。

 

受賞の報告を受けた日、結果をまだ知らない自分は仕事帰りに嫁と合流し、テイクアウト専門のチャイニーズレストランへと向かっていました。

その日、普段よりも多くの料理を注文をした理由は、夕食時に残念会をするためでした。

Amazonから結果報告がくるのならばこの日だろう、と自分の中で勝手に決めていた日が報告を受けた前日だったので、受賞の可能性はなくなったのだろうと悟り、大好きな海老ビーフンを食べて気持ちをさっぱりと切り替える予定だったのです。

 

「テンミニッツ!」

 

電話口で告げられたテイクアウトの待ち時間。どれほど多くの注文をしても決して超える事はない10分のライン。

今日のオーダーの量はさすがに無理ではなかろうか、という気持ちを抱えたまま店に入ると、驚くことにレジの横にはすでに大きな紙袋が2つ用意されていました。

 

「キャッシュ オア デビット?」

 

テンミニッツマジックの奇跡を目の当たりにし、ズシリと重い袋を両手に持って車に戻ると、曇っていた気分は徐々に晴れていきました。

 

 

書くことが楽しい。

頭の中にあるものを表に出したい。

今まで受けてきたもの、目にしてきたもの、それらを言葉にして過去を報いたい。

 

受賞しようがしまいが書き続けていくという思いに変わりはありませんでしたが、ここしばらく、特に、溜め込んできたのと同じ時間をかけて解放したのでは夜がいくつあっても足りないのだと気付いてからは、心がきっかけを求めるようになりました。

夜と昼を逆転させるきっかけを、もっと先へ行くためのきっかけを。

 

 

外出ついでにと、自分がペットショップで猫の餌を買っている間に、嫁は隣の酒屋でこの辺りだと珍しいアサヒスーパードライ(サッポロの缶はどこにでもあるのですが、アサヒとキリンはレアアイテムなのです)を購入してくれていました。

テンミニッツチャイニーズマジックに、普段は飲まないビール。

宴の準備が揃い、残念乾杯をして食べ始めると、スマホに仕事関連のテキストが入りました。

内容はビールの味をとんでもなく苦くするトラブルマター。それは、チャーハン&ビーフンという炭水化物コンビを吹き飛ばすほどの威力がありました。

白い麺の森を前に、進まぬ箸。

正直、「なんてこった」でした。

急いで各所に連絡し、ドスコイドスコイしている内に冷める料理。何とも言えない空気がその場を満たし、残念会どころの話ではなくなってしまいました。

シャープな筈のアサヒが、喉に絡まる絡まる。

 

そんな訳で、どうにか問題をうっちゃりした後は精魂尽き果て、ソファーに寝転がる牛と成り果てました。

そんな状態で開いたホットメール。

 

結果を知った血圧の上昇具合は、あの日に乗って涙した富士急ドドンパのそれでした。

 

牛から人に戻り、急いでキッチンに走って開けるドア。

あの時に見た嫁の表情、キッチンの空気、それらを引っ括めた情景は、今後の自分の背中を押していくのだと強く思いました。

 

 

今、進めている中編を含め、まだまだ自分には書きたい思いが沢山あります。

必ず外に出すと決めている記憶があります。

よろしければこれからも、自分が書いたものを読んでやってください。

 

どうぞよろしくお願いします。

 

 

f:id:yoshitakaoka:20180421161846j:plain

この土地は誰のもの?

メインストリートのコーヒーショップ

右肩に彫られたハイダのイーグル

握手をした友人はもういない

 

「弓を引く者」

彼はその名を捨てたと言った

 

トライブを抜けた者

居場所を探す者

 

私も流れてここに来た

 

「よそ者」レッテルの永住者

私はあなたの敵ではない

 

「仕事を奪い取る移民者」

私はあなたの敵ではない

 

立てた中指をしまって欲しい

私はあなたの敵ではないんだ

 

ここで産声をあげてはいないが

この国に手を添えている

 

ナショナリズムに愛国心

大きな声は人を惑わす

 

異なる色を叩かなくとも

生まれ育った国を愛せる

 

「ここは俺たちの土地だ!」

 

つまらぬ悪意を埋め込まれた日

コーヒーショップのドアを開けた

 

壁際の丸テーブル

右肩で羽ばたく赤い大鷲

 

イーグルの目に引き寄せられ

席を立ち声をかけた

 

そこに座っていたのは

ずっと前から知っている匂い

 

背の低い草と土の香り

鼻に残るがウィードではない

 

頭に広がる湿った草原

 

気のせいでも

思い込みでも構わない

 

浮かんだ景色に救われた

 

「この土地は誰のもの?」

「誰のものでもない」

「でも、あなた達のものだった」

「そんなことはない」

「あなた達が先に住んでいた」

「順番など意味はない」

 

メインストリートのコーヒーショップ

右肩に刻まれたレッドイーグル

スピリットの意味を教えてくれた

ハイダの精霊はもういない

 

生まれた場所だから住む

生まれた場所を知って住む

 

配慮ある知識は無知の連鎖を断ち

弱者が弱者を叩くシステムを絶つ

 

そんな場所に

私は住みたい

 

人類皆兄弟だとは思えない

それでも

共存できると信じている

 

コミュニティを抜けた者

名前を捨てた者

漂い流れ着いた者

 

枠から外れても息ができる

 

そういった場所で

私は生きたい

 

魂となったハイダの友人

土に帰ったその瞬間に

右肩のイーグルは羽を広げる

 

肉体を抜けた彼の精神は

狩られる恐怖から解放されて

高い空へと舞い上がる

 

f:id:yoshitakaoka:20180323103957j:plain

 

自分のケツは、自分で拭きます 〈高岡ヨシ + 大関いずみ〉

f:id:yoshitakaoka:20171127074622j:plain 

 

「おーい、君ぃー! 聞こえるかー? そんなとこで、何してるんだー?」 

 

「あっ! お勤めごくろうさまです! あのー! わざわざ来てもらって悪いんですが、間に合ってまーす!」 

 

「いやー、えっ? 間に合ってるって、何だろうなー? とにかくさー、そこ危ないから降りてきなよー!」

 

「何だかすみませーん! でも、降りる気はないんで、お帰り下さーい!」

 

「いや、帰らないよー! ねぇ、君ぃー! そこで何をしてるのー?」

 

「自分のケツを拭こうとしてるんでーす!」

 

「うん、そうだねー! いや、そうじゃなくて、何でそんなトコにいるのかなー? どうしてそこに便器があるのかなー?」

 

「あのー! それ説明すると長くなるんで、勘弁してください! とにかく、今、僕は忙しいんでーす! 放っといてくれませんかー!」

 

「んー、放っとけないよー! あのー、君ぃー! もしねー、お尻を拭きたいんだったら、降りてきた方がいいよー! そこ危ないし、トイレなら下にもたくさんあるよー!」

 

「あのー! 下はダメなんです! どうしても、ダメなんでーす!」

 

「何でかなー? 何で降りてこられないのかなー?」

 

「話せば長くなりまーす!」

 

 

ガヤガヤ

 

クスクス

 

パシャ

 

ガヤガヤ

 

クスクス

 

パシャ

 

 

「あ! ちょっと待っててねー! すぐ戻るからー!」

 

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

 

「すみませんが、出て行ってもらえますか? あの、ちょっと、撮らないで下さい。撮らないで。あの……何で笑ってるんですか? 見て分かりますよね、この状況に何ひとつ面白い事はありませんよ。ほら、早く出て行ってください。これ以上、ここに残るつもりでしたら、本官への公務執行妨害で逮捕します。さぁ、出て行ってください!」

 

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

ガチャ

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

 

「ごめん、ごめん! 話の続きなんだけどー! 何で降りてこられないのかなー? 長くなっても構わないから、教えてくれないかなー?」

 

「今、今みた通りですよー! 下に降りたって、結局、同じなんでーす! 見ましたよねー? みんなの表情? あれが、全てでーす!」

 

「そうかなー? みんながみんな、同じじゃないと思うよー!」

 

「同じでーす! 僕の見てきた世界は、同じでしたー! あのー! もう、いいですかー? 僕は自分のケツを拭きたいんでーす!」

 

「やっぱり、そこじゃなきゃダメかなー?」

 

「ダメでーす! 僕はー! 僕はー! もう十分拭いてきたんです! 下でずっとー! 他人のケツばっかり! 拭いてきたんでーす! もう! 嫌なんです!」

 

「えーと、他人のケツって、どういうことかなー!」

 

「あのー! 何でみんな、嘘を教えてくるんですかねー? 助け合いだとか! 人に優しくとか! 自分の事じゃなくても、気付いた人がやりましょーとか! 全部、嘘じゃないですかー! ずっと、そうしてきましたよー! 親にも言われたんでねー! でもー! そうやって生きてきてもー! 何も報われなかったでーす!」

 

 

「……」

 

 

 

 「親がー! 借金を抱えましたー! ギャンブルでーす! でも、僕はちゃんとやりましたよー! 家族は大事に、ですもんねー! だから、バイト増やしてー! お金入れてー! やることはやりましたよー!」

 

 

「……」

 

 

「でもー! 足りないってー! 全然足りないからー、学校やめて働けってー! もう! 嫌なんでーす! 拭いても! 拭いても! 拭いても! キリがなーい! だから、終わりにするんです! 自分で自分のケツを拭いて、それで終わるんでーす!」

 

 

「……」

 

 

「それしか、ないですよねー! 下に降りてー、何があるんですかー? あなたがお金をくれるんですかー? 諦めちゃダメとか! 世の中そんなに悪くないだとか! 綺麗事以外に、解決策なんかありませんよねー!」

 

 

「……」

 

 

「もう、いいですから! 帰ってくれませんかー?」

 

 

 

 

 

「親父がー、親父が首を吊ったー! 

 

本官が17歳の時、理由はギャンブル! 

 

君んちと同じだー!    

 

 

 

ショックだったー! 

クソッタレって思ったー! 

みんないなくなればいいって思ったー!    

 

 

 

 

下の世界はー! こんがらがってるー! 

どっちにいってもー! 遠回りばっかだー!                       

 

 

 

 

 

友達にならないかー? 

 

本官とー! 

友達になってくれないかー! 

 

 

 

 

どこにもいかなくていいー! 

共通の趣味もなくていいー! 

だだー! 

君がよければー! 

友達になってくれないかー!

 

 

 

 

本官の名前はー! 

 

……俺の名前は、タグチコウタ! 

 

生まれは神奈川だー!

 

 

君のー! 

 

君の名前を、聞かせてくれないかー!!!」

 

 

f:id:yoshitakaoka:20171127074622j:plain

 

***

 

〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉大関いずみ

 

大関いずみ氏に、感謝。

fukaumimixschool.hatenadiary.com

© Copyright 2016 - 2024 想像は終わらない : 高岡ヨシ All Rights Reserved.