好きな人はいますか?

週間予報に見つけた雪マーク。

楓の国は、もう寒い。 

 

コタツが主役の家で育ったせいか、私は寒さに弱い。

なので、出勤時には防寒ジャケットのジップを上まであげ、手袋をしてハンドルを握っている。

こんな調子では、近日中にブラックももひきの姿を拝むことになるだろう。

 

真冬よろしく着込んで歩く私の目の前を、薄着のカナディアンが横切る。

そんな光景を見かけるたびに、己の生物としての弱さを感じる。

気分はまるで、「ウララァー」と叫んだ未熟超人のようだ。

 

何で、寒くないのだろう。

何で、ショーツでスケボー乗ってるんだろう。

 

移住以来ずっとこの疑問と向き合ってきたが、答えが出ないのでその思いをサヨナラボックスに詰め込んだ。

ちなみに、一つ前に入れた疑問は、何でこちらのリスは玄関の前に固いパンを置いていくのだろう、だ。

 

風に揺られて舞い散るメープルリーフ。

赤や黄色がねじれるその様は風流だが、サラサラではなくガヤガヤ落ちてくる様子では、お茶はすすれない。

団子も食えない。

サンマも焼けない。

 

それでも、雪が降って白に覆われる前の芝生に出来るカラフル絨毯は美しい。

事前に決められていない不揃いな配色を眺めるのは楽しい。

 

そんな時、私は強く思う。

しばらく見ていても飽きないこの景色を、是非、好きな人に見せてあげたいと。

 

好きな人。

 

年を重ねるにつれて、好きな人が増えた。

嫁さんに首の後ろを蹴られる前に記しておきたいが、この「好き」に恋愛感情は含まれていない。

 

城郭が好き。

坂道が好き。

プロレスが好き。

油淋鶏が好き。

 

今ここで話している「好き」は、そういった「好き」にカテゴライズされる好きだ。

 

好き好きうるさい文章だな。

 

とにかく、増えた。

好きの先に肉体関係がない好きは、姿勢がフラットになる。

無駄につんのめらないし、深読みしてのけぞる必要もない。

 

そこは垣根フリーで、年齢、性別、職業、性格、趣味、ステータスなどがゴチャゴチャに混ぜられてすり身にされ、カマボコになっている。

 

私には今、好きな人が数多くいる。

そのうちの何人かは、会ったことも言葉を交わしたこともない人たちで、思いは確実に一方通行だ。

それでも、心地よい。

その人たちの発するものに触れると、嬉しくなる。

 

正直、自分がこんな風になるとは夢にも思わなかった。

 

もともと社交的な性格ではなく、交友関係は狭ければ狭いほど、深ければ深いほど素晴らしいものだと信じていた。

増築部屋に拾われた当時は、助けてくれた仲間、そして繋がりのあった二人の人物以外は、みな敵だと思っていた。

本心を見せたら負けだ、騙されて利用される、本気でそう考えていた。

 

だからとにかく輪を固めた。

 

「集まってる間は、全員参加で同じことをするよーに」

 

手始めに、桃鉄。

はい、終わったらコタツに集合。

次、みんな揃って喋りの時間。

 

 

あのドラマの主人公のセリフ、マズイだろー。

あそこなら、一旦、本をしまってから目線を動かすべきだよなー。

いや、あそこで追っかけちゃマズイって。それじゃ101回目と同じ展開に……。

お前の言ってるCMの案は、お縄もんだ。確実に変質者のたぐいだ。

ずっと思ってたんだけど、ヤムチャとクリリンってどんだけお互いを意識してんのかな。

それより、チャオズが星になった時、鶴仙人は何をやってたんだろう。

お前、今、足の裏の皮をこっちに投げたろ? ふざけんなって。あとそれ、コタツの下に溜めんなよ。これはフリじゃねーぞ。あれ、マジで臭くなんから絶対にすんなよ。

この前言った話、本当にやってくれるんだな。もう企画書は書いたぞ。ハンディカムだってちゃんと動く。

柔道着とランドセルは揃った。メイクはどうすんだ? え、またセロテープ? あれ引きつって痛いんだよ。

部屋半分潰せば舞台作れるだろ? いや、みかんのカゴの上にベニヤ引いてダンボール乗せれば、案外なんとかなるんだって。

ちゃんと撮れた? あ、これじゃダメじゃん。ほら、お前写っちゃってるよ。セリフもグダグダだし。もう一回やろう。大丈夫だって、朝マック食べたらやる気出るから。

 

 

楽しかった。

単純に。

 

そこは、神奈川の隅っこにあったネバーランド。

磨りガラスの薄い引き戸を閉めれば、現実世界で起こっていた全てを忘れられた。

365日入り浸ったネバーランド。

 

そこにいれば襲われない。

殴られない

金も取られない。

 

それが私の全てだった。

同化するほど密な関係こそが適切なのだと、頑なに思っていた。

 

 

そんな感じに目を瞑っても、時は流れる。

 

大人になったロストボーイズが、一人、また一人と増築部屋からいなくなっていき、空を飛べない私はネバーランドを失って現実に引き戻されるのが怖くなり、逃げた。

 

逃げ場所を探している時に出会った、肝の据わったティンカーベルに尻を蹴り上げられて向かった先はカナダ。

そこで私はどうにかこうにか居場所を作った。

 

私は無宗教だが、神様はいると思っている。

根拠はない。

でも、自分がこうして今の状況で生きられていることを考えると、そう考えるのが一番しっくりくる。

納得できる。

 

感謝。

 

 

私はこちらに来てからもしばらくはネバーランドの幻想にすがったが、年を取ると共に人間関係について持っていた固定観念は薄れていった。

 

あれだけ凝り固まっていた考えが、魔法が解けるようになくなっていく。

まさに、ミラクル。

やっぱり、加齢バンザイ。

 

好きな人が増えたのは、それからだ。

 

絶対的な安心がなくてもいい。

全部分からなくていい。

ここは好きだけど、ここはどうかなぁー、があってもいい。

気持ちがイコールじゃなくていい。

 

さっきも書いたが、文章でも絵でも写真でも音楽でも声でも思考でも、好きな人が発するものに触れると、嬉しくなる。

ワクワクして温度があがって、引き込まれて刺激を受ける。

濃いめのコーヒーよりも直に効く眠眠打破。

顔を洗わなくても両目パッチリ。

 

ありがたいなー、と思う。

それ以上に楽しいなー、と思う。

 

そう、楽しいのだ。

 

触れると芽生えて、それが広がり、予想外のものを連れてくる。

 

どうも、はじめましてこんにちは。

あら、何と私の頭の中から来られたんですか。

いやはや、こんな思いが隠れていたとはねー。

 

私は、そんな化学反応に幸せを感じる。

 

 

来年の4月に約3週間ほど日本に行く予定がある。

 

帰ったら、私は好きな人に会いにいく。

ちゃんと顔を見て、ありがとうと伝えるんだ。

 

 

……その前に、私は冬を越す。

シャベルでえっこら雪をかく。

脳裏に蘇るのは、あの衝撃。

 

あぶない腰痛リターンズ。

 

この冬は、人力を卒業しなくてはいけない気がする。

 

さようなら、20世紀。

こんにちは、21世紀。

 

 

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ユワシャ

ハロウィンに特別な思い入れはない。

出勤と同時に化けの皮を被っているのであえて仮装する必要はなく、トリックを披露する場も、トリートを配る機会もないので、職場のバスケットに詰め込まれていた甘いチョコ菓子をかじる以外は、いたって普通の水曜日だった。

 

カナダで口にするチョコ菓子は甘い。

とにかく甘い。

甘すぎるチョコ菓子は、もはやチョコ菓子ではなく、黒くて茶色い砂糖だ。

 

ちなみにドーナツも甘い。

正確に言うと、甘ったるい。

こんなにも糖分が高いものを食べていたら明らかに体に毒だと思うのだが、こちらの人はピンピンしている。

目を疑うほどに、ピンピン。

じーさんもばーさんも杖やウォーカー、もしくは自動歩行器にまたがってカフェへ繰り出し、ダブルダブルのヒーコちゃん(砂糖×2、クリーム×2)を飲みながら甘パンを頬張っている。

その光景は、まるで34丁目の奇跡。

彼らの顔は、一様に幸せそうだ。

 

そんな場面を何度も見てきた。

糖質オフの向こう側にある甘パンワールド。

砂糖の海に浸かっても病気にならない。

 

『食べるものよりも、ストレスが体を壊す』

心に引っかかっていた言葉が頭に浮かぶ。

 

不公平だと思うのは、性格がひねくれているせいか。

 

自分で見てきたものしか分からない。

 

12年間、この目で捉えたメープル国の方々の多くは、笑顔だった。

といっても、決して温厚なわけではない。

『ファック! ファック!』の大合唱がストリートから聞こえ、罵り合いや、我を失って暴れている人たちを見かけるのは、ここでは珍しいことではない。

 

ストレスが溜まったら外に吐き出すハッピールーティン。

理想的で、それでいて全く出来る気がしないポジティブアクション。

そんなアティチュードをフォローしないピーポーは、内へ内へと向かって行き、過去を引っ張り出して自己否定を繰り返す。

 

私は今、自分のことを話している。

 

 

10月17日の解禁以降、街では大麻のニオイがきつくなった。

街だけではない。

住宅地からも、お隣さんのバックヤードからもニオってくる。

 

私は吸わないし、吸おうとも思わないが、大麻自体に対して特に悪いイメージもない。

吸いたい人は吸えばいいと思うし、吸っている人に対してもどうやこうやの感情はない。

それでハッピーになれるのなら吸えばいいのだ。

法律違反でもないし。

 

今日話したご婦人は、「街がケイオスに包まれる」と嘆いていたが、他人を蹴飛ばして好き放題やるユワシャ(You は Shock)は、大麻や酒を摂取していなくても、きっと同じことをするのだと思う。

 

渋谷の街を蹂躙した集団のように。

 

 

一人だけだったのが二人、三人、四人と増えて集団になる。

中心人物が煽って取り巻きに火をつける。

一発、二発。

いいのが入ったのをきっかけに興奮して、目つきが変わる。

いっちょ前にステップ踏んで蹴りなんか入れてきて、しまいに誰がどこまでエグいことをやれるかの発表会になる。

それで、男をあげたってさ。

飲み会のネタが出来てよかったね。

少し話を盛って、武勇伝の完成かい?

 

集団がエスカレートしていく様は、嫌悪感しか覚えない。

とてつもなく嫌なもの。

囲まれた時の目が大嫌いだ。

人が人を捨てる瞬間。

あぁ、あんたもか。

あんたもそっちに行ったのか。

 

 

何とも、寝付きが悪くなりそうだ。

 

 

私は仮装しないし、渋谷にも行かない。

でも、仮装する人は仮装して、楽しくやればいいと思う。

ハロウィンの起源など詳しく知らなくても、それを叩こうとは思わない。

そもそも、地元の祭りの起源を何人の人が正確に言えるのだろうか。

夜に提灯が揺れて、舞う浴衣を眺めながらラムネを飲んで焼き鳥食って、あー楽しい。

それでよいのだと思う。

牌の揃っていないドラえもんドンジャラをつかまされたのも、いい思い出だ。

 

でも、楽しいを盾にして好き放題やるのは違うと思う。

 

楽しいを求めて人が集まると、なぜ攻撃性が顔を出すのか?

エスカレートして歯止めが効かなくなるのは、人間の性なのか?

楽しいだけじゃダメなのか?

 

 

答えが出ない問いは、エネルギーを消費する。

手が届かない「桃太郎ランド」を買おうとする熱量と同じ分を使う。

 お値段、200億。

とんでもないな。

 

 

楽しいことをしていきたい。

楽しくないことがあった分、楽しく生きたい。

ニッコリでも、ニタニタでも、ニヤニヤでも構わない楽しいこと。

 

滅茶苦茶したい時は、頭の中でぐわんぐわんするからそれでいい。

攻撃的な感情も、破壊衝動も、頭の中でぐわんぐわんすればいい。

 

 

2018年のハロウィンが終わる。

 

トリックもトリートも、蹂躙もいらないので、いにしえの水曜日午後7時25分辺りのエンディングで、ブルマがくれると約束したものを頂きたいと考えております。

 

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終わったんです

気持ちが高まっている。

そんな時は、タイプじゃなくてノートに書き出す。

まとまらなくなるのは分かっている。だからそのまま書かないが、今日は構わずタイプする。

 

只今、こちらは午前五時二十二分。

サーモスタットのパネルに映し出された気温は、4度だ。

 

兎にも角にも、どうにか間に合った。

締め切りギリギリは通常運転。小学生から変わっていない。

 

でも、終わった。

 

手を合わせて送信ボタンをクリック。

ありがとう、21世紀。

恩にきる、21世紀。

 

とにかく安心して、気の済むまで床で伸びた後に、机に戻った。

 

ありがとう。

 

いくつもの感情が溢れるが、そのどれをも押しのけて出てくるのは、感謝だ。

 

嫁さん、本当にありがとう。

そして、正直すまない。

 

ありがとうとごめんなさいは、いつも一緒に現れる。

 

結婚する時、契約書を作った。

仰々しく、拇印だって押した。

 

ご飯を作ります。

家事を喜んでします。

マッサージをします。

 

体をひっくり返して叩いても、何も出てこない当時の自分ができる約束がそれだった。

感覚的には、肩たたき券の延長。

金にも何にもならない、見る人が見れば、ただの紙クズだ。

 

一緒になってすぐに住む国が変わっても、肩たたき契約は遵守した。

 

はい、スープ。

今日もスープ。

明日はカレー、いきますか。

凝ってますねー、お客さん。

汚れた床を、拭きましょか。

 

こんな感じの毎日。

 

ツボも押せないマッサージじゃ、空腹の足しにはならんかね。

 

そんなこんなで時間が過ぎて、バタバタ手足を動かした。

 

学生ローン組んで学校行って、就職して。

25メートル! 50メートル! 次は100折り返し! って声に出して泳いでる日々だった。

 

やっとこさ落ち着いたら、今度は書きたいなんて言い出してね。

人生の宿題が終わってないんだー、消化できないーだの、どーだこーだごね出して、今まで溜めてた分を持ち込んできやがった。

 

しれっとご飯作る日が減って、掃除機も殆どかけない。頼みの綱のマッサージ券すら発行しない体たらく。

 

寝ろと言われても、寝ず。

仕事との両立でキャパも減って、追い込まれて。

映画も観ない。トランプもしない。Unoもしない。

コーヒーばっか飲んで、夜中にチョコを食う。

 

どうしても、書きたいんです。

これで生きていきたいんです。

ってね。

 

嫁さん、正直すみませんでした。

間違いなく、契約違反です。

 

無理を聞いてもらって、本当にありがとうございました。

 

お陰で、書けました。

20年間続いた放課後に、けじめをつけられました。

 

お願いだから、長生きしてね。

今まで受けた恩を返すには、10年20年じゃ足りないから。

 

 

いつか見てろよ、が燃料だった。

それはもちろん嫁さんにではなく、自分の過去と自分自身。

 

必要とされてない意識しかなくて、目をかけられた記憶もない。

薄く笑って合わせて汲んで、好きでもないのに欲しいと口にした。

その根底にあるのは恐れ。いつか「要らない」って言われる気がして、ビクビクしてた。

親の好きな人を応援して、洗いたての浴槽に唾を吐く。

 

つまんない毎日。

つまんない人生。

卵焼きばっか上手くなっても、誰も食べなきゃ意味ないね。

 

それから先は、答え合わせ。

 

ほら、やられた。

ほら、呼ばれた。

ほら、いなくなった。

ほら、裏切った。

 

何で、電話番号知ってんの?

何で、うちの場所知ってんの?

 

夜中のピンポンは、ホラーだ。

彷徨うジェイソンよりも、生きている人の方がよっぽど怖い。

窓に張り付く目。

全貌が見えない暗闇は、凶器だ。

 

怖いを怖いって言えるようになってよかった。

寂しいを寂しい。嬉しいを嬉しい。苦しいを苦しい。ループから抜け出せたならもっといいけど、口にできるだけで鍵確認の時間が減る。

加齢バンザイ。

 

やっぱり、言えないと斜に構える。

それが当時の防御策だったけど、気取ってからは、落ちるスピードが速かった。

 

底がない。

どこまで行っても、終わりがない。

 

ありがたく入れてもらえた増築部屋で、初めてタバコを吸った。

認めてもらいたくて、暇さえあれば火をつけ、気がついたら1日3箱が基本になっていた。

これは、塩辛と一緒。

「子供らしくない」と褒められたのが嬉しくて、目の前で無理して一瓶食べて隠れゲロ。それでも、任務に思えて、おつまみばっか食べるようになった。

カナダに来てなかったら、痛風だ。

タバコだってそう。一箱10ドル超えてたお陰でやめられた。

無収入の移住一年目。金がないなら買えないからね。

 

自分がないから、もので埋める。期待で埋める。奉仕で埋める。

透明な子だったから、色はなかった。

 

ターニングポイントよ、ありがとう。

 

そう、感謝の話をしていた。

話がズレても猫が来る。すっかり大人になった君には、この世界はどう見えているのだろう。

顔を近付けてスリスリしたら、カリカリの臭いがした。

 

健康的で良い餌を買い与えるから、どうか長生きしておくれ。

もう会えないかもしれないから、どうかたくさんの時間を過ごしておくれ。

あんたら5匹が俺らの子供。

種族は違うけど、愛しているから家族だ。

 

だから、ありがとうの話。

 

ありがとうばかりが溢れている。

同時にごめんなさいも。

 

迷惑ばっかりかけた。

尖ってる方の迷惑ではなく、出口のない迷惑の方。

出会ってくださったほぼ全ての方々、面倒をかけてすみませんでした。

 

そして、ありがとう。

 

血は繋がってなくても家族。

365日以上一緒にいた仲間。

避難場所を娯楽スペースに変えてくれてありがとう。

あんた達がいてくれたから、今も生きてる。

底の底から引き上げてくれた恩は、一生忘れない。

 

海で拾った猫。きったなくて狭い砂壁に似合わなかった綺麗な毛並み。

一番辛い時にそばにいてくれてありがとう。

あんたがいるのは絶対に、天国だな。

 

もう、話をまとめる気は無い。

浮かんだ順に書いている。

 

今に見てろよが燃料だった。

 

バタついて走って、とにかく走って、行けるだけ走った。

金がないのが嫌だったんじゃない、いや、嫌だったんだけど、昭和ルックルックよこんにちは、みたいな生活をさせているのが嫌だった。

 

リサイクル屋以外で服を買ってあげたい。

これでいい、なんて言わせたくない。

 

そんなんだから走っている最中に、たくさん目を瞑った。

止まりたくなかったから、感情を見ないようにしていた。

 

どうにか困らなくなった頃には、鬱憤が体に張り付いていた。

 

国が変わっても、人は変わらない。

アドバンテージを取ってくるやつは、何人でも変わらない。

 

分かりやすく焦げた肉を出すレストラン。

白人に笑顔、こちらに仏頂面。

色は違うが人間だぜ。

 

立てられた中指。

キツい口臭でがなり立てなくても、あんたの言ってる英語は分かってるよ。

 

だから、いつか見てろよ。

日本でもカナダでも、肉体的にも精神的にも受けた全てに、今に見てろよ。

 

今に見てろよ……だった。

もう、現在進行形ではない。

 

今回の話を書き終えて、ケジメがついた。

報いたい人と思いにも、ちゃんと向き合えた。

逃げなかった。

だから、ありがとう。

さようなら。

 

 

キリがないな。

マイナスばっか見ていたら、キリがない。

 

それでも、思考が行くんだよ。

昔の記憶なんか連れて来ちゃってさ。

学ばないね、あんたも好きだね。

 

金は大事だ。

いや、あえてお金と言おう。

 

良いものを着ていたら第二言語のアジア人だって白人並みに扱ってもらえる。

ピックアップトラックで乗りつければ、バカにされて笑われない。

 

でも、それが何だっていうんだ?

それが幸せの形か?

 

書いていて気持ちの悪くなる文章だ。

 

対等なんてあるのかね。

この国にいる限り、俺らは一生、外国人。

よーいドンで、拒否する人は俺らを拒否する。

 

でも、それが何だっていうんだ?

 

この国にも素晴らしい人はたくさんいるし、人が圧倒的に少ない分ストレスも少ない。

それでいいじゃないか。

そこだけに目をやっていれば、それできっと幸せなんだ。

 

そんな考えを実行できたら、今日も明日も明後日も、晴れだろう。

 

傘もいらない。

毎日が夏休み。

 

僕らの七日間戦争。

 

街でもらった毒を餌に記憶を釣る。それで頭を悩ます生活を送っていても、いつか、そんな風に思える日が来るのだろうか。

 

そんな日が来たら、素晴らしい。

皮肉でも何でもなく、素直にそう思う。

 

じゃあ、それまで書こう。

そんなエレクトリカルパレードな日がやってくるまで、思いを、記憶を、発想を、鬱憤を書き続けよう。

 

さぁ、朝の六時を過ぎた。

明日、じゃなくて、今日の仕事を思うとワァオってなるけど、それはそれ。

多めにチョコを持っていけば、きっと乗り切れるはずだ。

 

 

 

頭の中垂れ流しを読んでくださったあなたにも、ありがとうを送ります。

 

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12年かかって見た景色

 

12年かかって見た景色。

 

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12年前。

お金も、仕事も、居場所もなかった。

 

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12年前。

「柱もねぇ、壁もねぇ、床板まともにはまってねぇ」幾三ハウスから始まった生活。

ダンボールをタンスにし、結婚記念日にウェンディーズのバーガーセットを食べていた。

 

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逃げてきた分、1歩1歩が重かった12年。

 

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日が落ちて、人が少なくなった街を歩く。

塔の上ではためくメープルフラッグを眺めている時、頭にあったのは、泣きながら空のスーツケースを投げつけられた日だった。

 

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時間が進まない、病院の長い廊下。

受け取られなかった手紙。

灯りがつかない部屋。

 

馴染まない水を飲んで、何とか笑顔を浮かべていた日々が浮かんでは消えた。

 

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暮れ行く街に向かい、手を合わせる。

 

ありがたいことに、もう生きるか死ぬかじゃない。

 

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12年かかって見た景色。

12年かけて固めた地盤。

 

踏み込んだ足を弾く堅さがあれば、描いた通りに跳んでいける。

 

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全てに感謝します。

 

***

 

ちなみに、塔の内部は256キロバイトのドラクエIIIでした。

 

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写真はブレても、記憶はブレない。

ありがとうございました。

 

満天の星をみたか

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満天の星をみたか

 

寒さの産声が響く中

黒を濃くした夜空に浮かぶ

満天の星をみたか

 

工場から漏れる煙も

街を埋める電波でも覆えない

内なる想いを照らす

満天の星をみたか

 

俺は見た

真夜中の真ん中に開けた窓から

溢れる星を確かに見た

 

四方に散らばり輝く星群

そのうちの一つ

東の果てに佇む光が

あんたなんだと思った

 

理由は分からない

ただ直感でそう思えた

 

会えなくなって随分経つけど

忘れたことは一度もない

 

赤いカバンをかけた背中

当時の景色はかすれていない

 

そっちの空気はどうなんだ?

あんたはあんたでいれているか?

 

こっちのことは心配ない

色々もがいて回っているけど

今でも好きで書けているよ

 

ため息を深呼吸に

憂鬱を動機に変えて生きてきた

 

でも

俺は弱いから

いつもあんたを探してた

 

一人じゃ何にもできないから

あんたの姿を探してた

 

何もかもが変わっていくけれど

ずっと変わらないものもある

 

社交性がなくても

孤立していても構わない

 

俺はあんたの友達で

あんたは俺の友達だから

 

過去を誇れなくても

今につまずいていても構わない

 

俺はあんたの友達で

あんたは俺の友達だから

 

普通の世界をもがいて進む

過敏であるほど生きにくい

 

突然すべてが嫌になっても

おかしくなったとは思わない

 

まともを演じて壊れるのなら

全部まとめて投げ出していい

 

それでも

一つだけ覚えていて欲しい

 

病んでいても

鬱であっても構わない

 

俺はあんたの友達で

あんたは俺の友達だから

 

ずっと空の上

雲の先はいつも晴れてるんだろ?

 

だったら夜には星が出る

 

だったら俺は一人じゃない

 

俺は怖くはない

あんたがそばにいてくれるなら

俺は怖くなんかない

 

だからそばにいて欲しい

 

姿が見えても

見えなくても構わない

 

あんたがそばにいるのなら

これから先も歩いていける

 

***

 

Stand By Me

 

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***

 

Sending my deepest gratitude to Michiko Ono.

 

ご報告

自身の作品である「歩けばいい」が Amazon × よしもとクリエイティブ・エージェンシーが主催する「原作開発プロジェクト」において優秀賞を受賞しました。

 

ドアが開き、橋がかかった事がとても嬉しいです。

 

作品を読んでくださった方々、選んでくださった方々、サポートしてくださった方々、そして表紙を描いてくださったミチコオノ氏、その全ての人たちに感謝します。

本当に、ありがとうございました。

 

受賞の報告を受けた日、結果をまだ知らない自分は仕事帰りに嫁と合流し、テイクアウト専門のチャイニーズレストランへと向かっていました。

その日、普段よりも多くの料理を注文をした理由は、夕食時に残念会をするためでした。

Amazonから結果報告がくるのならばこの日だろう、と自分の中で勝手に決めていた日が報告を受けた前日だったので、受賞の可能性はなくなったのだろうと悟り、大好きな海老ビーフンを食べて気持ちをさっぱりと切り替える予定だったのです。

 

「テンミニッツ!」

 

電話口で告げられたテイクアウトの待ち時間。どれほど多くの注文をしても決して超える事はない10分のライン。

今日のオーダーの量はさすがに無理ではなかろうか、という気持ちを抱えたまま店に入ると、驚くことにレジの横にはすでに大きな紙袋が2つ用意されていました。

 

「キャッシュ オア デビット?」

 

テンミニッツマジックの奇跡を目の当たりにし、ズシリと重い袋を両手に持って車に戻ると、曇っていた気分は徐々に晴れていきました。

 

 

書くことが楽しい。

頭の中にあるものを表に出したい。

今まで受けてきたもの、目にしてきたもの、それらを言葉にして過去を報いたい。

 

受賞しようがしまいが書き続けていくという思いに変わりはありませんでしたが、ここしばらく、特に、溜め込んできたのと同じ時間をかけて解放したのでは夜がいくつあっても足りないのだと気付いてからは、心がきっかけを求めるようになりました。

夜と昼を逆転させるきっかけを、もっと先へ行くためのきっかけを。

 

 

外出ついでにと、自分がペットショップで猫の餌を買っている間に、嫁は隣の酒屋でこの辺りだと珍しいアサヒスーパードライ(サッポロの缶はどこにでもあるのですが、アサヒとキリンはレアアイテムなのです)を購入してくれていました。

テンミニッツチャイニーズマジックに、普段は飲まないビール。

宴の準備が揃い、残念乾杯をして食べ始めると、スマホに仕事関連のテキストが入りました。

内容はビールの味をとんでもなく苦くするトラブルマター。それは、チャーハン&ビーフンという炭水化物コンビを吹き飛ばすほどの威力がありました。

白い麺の森を前に、進まぬ箸。

正直、「なんてこった」でした。

急いで各所に連絡し、ドスコイドスコイしている内に冷める料理。何とも言えない空気がその場を満たし、残念会どころの話ではなくなってしまいました。

シャープな筈のアサヒが、喉に絡まる絡まる。

 

そんな訳で、どうにか問題をうっちゃりした後は精魂尽き果て、ソファーに寝転がる牛と成り果てました。

そんな状態で開いたホットメール。

 

結果を知った血圧の上昇具合は、あの日に乗って涙した富士急ドドンパのそれでした。

 

牛から人に戻り、急いでキッチンに走って開けるドア。

あの時に見た嫁の表情、キッチンの空気、それらを引っ括めた情景は、今後の自分の背中を押していくのだと強く思いました。

 

 

今、進めている中編を含め、まだまだ自分には書きたい思いが沢山あります。

必ず外に出すと決めている記憶があります。

よろしければこれからも、自分が書いたものを読んでやってください。

 

どうぞよろしくお願いします。

 

 

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この土地は誰のもの?

メインストリートのコーヒーショップ

右肩に彫られたハイダのイーグル

握手をした友人はもういない

 

「弓を引く者」

彼はその名を捨てたと言った

 

トライブを抜けた者

居場所を探す者

 

私も流れてここに来た

 

「よそ者」レッテルの永住者

私はあなたの敵ではない

 

「仕事を奪い取る移民者」

私はあなたの敵ではない

 

立てた中指をしまって欲しい

私はあなたの敵ではないんだ

 

ここで産声をあげてはいないが

この国に手を添えている

 

ナショナリズムに愛国心

大きな声は人を惑わす

 

異なる色を叩かなくとも

生まれ育った国を愛せる

 

「ここは俺たちの土地だ!」

 

つまらぬ悪意を埋め込まれた日

コーヒーショップのドアを開けた

 

壁際の丸テーブル

右肩で羽ばたく赤い大鷲

 

イーグルの目に引き寄せられ

席を立ち声をかけた

 

そこに座っていたのは

ずっと前から知っている匂い

 

背の低い草と土の香り

鼻に残るがウィードではない

 

頭に広がる湿った草原

 

気のせいでも

思い込みでも構わない

 

浮かんだ景色に救われた

 

「この土地は誰のもの?」

「誰のものでもない」

「でも、あなた達のものだった」

「そんなことはない」

「あなた達が先に住んでいた」

「順番など意味はない」

 

メインストリートのコーヒーショップ

右肩に刻まれたレッドイーグル

スピリットの意味を教えてくれた

ハイダの精霊はもういない

 

生まれた場所だから住む

生まれた場所を知って住む

 

配慮ある知識は無知の連鎖を断ち

弱者が弱者を叩くシステムを絶つ

 

そんな場所に

私は住みたい

 

人類皆兄弟だとは思えない

それでも

共存できると信じている

 

コミュニティを抜けた者

名前を捨てた者

漂い流れ着いた者

 

枠から外れても息ができる

 

そういった場所で

私は生きたい

 

魂となったハイダの友人

土に帰ったその瞬間に

右肩のイーグルは羽を広げる

 

肉体を抜けた彼の精神は

狩られる恐怖から解放されて

高い空へと舞い上がる

 

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