好きな人はいますか?

週間予報に見つけた雪マーク。

楓の国は、もう寒い。 

 

コタツが主役の家で育ったせいか、私は寒さに弱い。

なので、出勤時には防寒ジャケットのジップを上まであげ、手袋をしてハンドルを握っている。

こんな調子では、近日中にブラックももひきの姿を拝むことになるだろう。

 

真冬よろしく着込んで歩く私の目の前を、薄着のカナディアンが横切る。

そんな光景を見かけるたびに、己の生物としての弱さを感じる。

気分はまるで、「ウララァー」と叫んだ未熟超人のようだ。

 

何で、寒くないのだろう。

何で、ショーツでスケボー乗ってるんだろう。

 

移住以来ずっとこの疑問と向き合ってきたが、答えが出ないのでその思いをサヨナラボックスに詰め込んだ。

ちなみに、一つ前に入れた疑問は、何でこちらのリスは玄関の前に固いパンを置いていくのだろう、だ。

 

風に揺られて舞い散るメープルリーフ。

赤や黄色がねじれるその様は風流だが、サラサラではなくガヤガヤ落ちてくる様子では、お茶はすすれない。

団子も食えない。

サンマも焼けない。

 

それでも、雪が降って白に覆われる前の芝生に出来るカラフル絨毯は美しい。

事前に決められていない不揃いな配色を眺めるのは楽しい。

 

そんな時、私は強く思う。

しばらく見ていても飽きないこの景色を、是非、好きな人に見せてあげたいと。

 

好きな人。

 

年を重ねるにつれて、好きな人が増えた。

嫁さんに首の後ろを蹴られる前に記しておきたいが、この「好き」に恋愛感情は含まれていない。

 

城郭が好き。

坂道が好き。

プロレスが好き。

油淋鶏が好き。

 

今ここで話している「好き」は、そういった「好き」にカテゴライズされる好きだ。

 

好き好きうるさい文章だな。

 

とにかく、増えた。

好きの先に肉体関係がない好きは、姿勢がフラットになる。

無駄につんのめらないし、深読みしてのけぞる必要もない。

 

そこは垣根フリーで、年齢、性別、職業、性格、趣味、ステータスなどがゴチャゴチャに混ぜられてすり身にされ、カマボコになっている。

 

私には今、好きな人が数多くいる。

そのうちの何人かは、会ったことも言葉を交わしたこともない人たちで、思いは確実に一方通行だ。

それでも、心地よい。

その人たちの発するものに触れると、嬉しくなる。

 

正直、自分がこんな風になるとは夢にも思わなかった。

 

もともと社交的な性格ではなく、交友関係は狭ければ狭いほど、深ければ深いほど素晴らしいものだと信じていた。

増築部屋に拾われた当時は、助けてくれた仲間、そして繋がりのあった二人の人物以外は、みな敵だと思っていた。

本心を見せたら負けだ、騙されて利用される、本気でそう考えていた。

 

だからとにかく輪を固めた。

 

「集まってる間は、全員参加で同じことをするよーに」

 

手始めに、桃鉄。

はい、終わったらコタツに集合。

次、みんな揃って喋りの時間。

 

 

あのドラマの主人公のセリフ、マズイだろー。

あそこなら、一旦、本をしまってから目線を動かすべきだよなー。

いや、あそこで追っかけちゃマズイって。それじゃ101回目と同じ展開に……。

お前の言ってるCMの案は、お縄もんだ。確実に変質者のたぐいだ。

ずっと思ってたんだけど、ヤムチャとクリリンってどんだけお互いを意識してんのかな。

それより、チャオズが星になった時、鶴仙人は何をやってたんだろう。

お前、今、足の裏の皮をこっちに投げたろ? ふざけんなって。あとそれ、コタツの下に溜めんなよ。これはフリじゃねーぞ。あれ、マジで臭くなんから絶対にすんなよ。

この前言った話、本当にやってくれるんだな。もう企画書は書いたぞ。ハンディカムだってちゃんと動く。

柔道着とランドセルは揃った。メイクはどうすんだ? え、またセロテープ? あれ引きつって痛いんだよ。

部屋半分潰せば舞台作れるだろ? いや、みかんのカゴの上にベニヤ引いてダンボール乗せれば、案外なんとかなるんだって。

ちゃんと撮れた? あ、これじゃダメじゃん。ほら、お前写っちゃってるよ。セリフもグダグダだし。もう一回やろう。大丈夫だって、朝マック食べたらやる気出るから。

 

 

楽しかった。

単純に。

 

そこは、神奈川の隅っこにあったネバーランド。

磨りガラスの薄い引き戸を閉めれば、現実世界で起こっていた全てを忘れられた。

365日入り浸ったネバーランド。

 

そこにいれば襲われない。

殴られない

金も取られない。

 

それが私の全てだった。

同化するほど密な関係こそが適切なのだと、頑なに思っていた。

 

 

そんな感じに目を瞑っても、時は流れる。

 

大人になったロストボーイズが、一人、また一人と増築部屋からいなくなっていき、空を飛べない私はネバーランドを失って現実に引き戻されるのが怖くなり、逃げた。

 

逃げ場所を探している時に出会った、肝の据わったティンカーベルに尻を蹴り上げられて向かった先はカナダ。

そこで私はどうにかこうにか居場所を作った。

 

私は無宗教だが、神様はいると思っている。

根拠はない。

でも、自分がこうして今の状況で生きられていることを考えると、そう考えるのが一番しっくりくる。

納得できる。

 

感謝。

 

 

私はこちらに来てからもしばらくはネバーランドの幻想にすがったが、年を取ると共に人間関係について持っていた固定観念は薄れていった。

 

あれだけ凝り固まっていた考えが、魔法が解けるようになくなっていく。

まさに、ミラクル。

やっぱり、加齢バンザイ。

 

好きな人が増えたのは、それからだ。

 

絶対的な安心がなくてもいい。

全部分からなくていい。

ここは好きだけど、ここはどうかなぁー、があってもいい。

気持ちがイコールじゃなくていい。

 

さっきも書いたが、文章でも絵でも写真でも音楽でも声でも思考でも、好きな人が発するものに触れると、嬉しくなる。

ワクワクして温度があがって、引き込まれて刺激を受ける。

濃いめのコーヒーよりも直に効く眠眠打破。

顔を洗わなくても両目パッチリ。

 

ありがたいなー、と思う。

それ以上に楽しいなー、と思う。

 

そう、楽しいのだ。

 

触れると芽生えて、それが広がり、予想外のものを連れてくる。

 

どうも、はじめましてこんにちは。

あら、何と私の頭の中から来られたんですか。

いやはや、こんな思いが隠れていたとはねー。

 

私は、そんな化学反応に幸せを感じる。

 

 

来年の4月に約3週間ほど日本に行く予定がある。

 

帰ったら、私は好きな人に会いにいく。

ちゃんと顔を見て、ありがとうと伝えるんだ。

 

 

……その前に、私は冬を越す。

シャベルでえっこら雪をかく。

脳裏に蘇るのは、あの衝撃。

 

あぶない腰痛リターンズ。

 

この冬は、人力を卒業しなくてはいけない気がする。

 

さようなら、20世紀。

こんにちは、21世紀。

 

 

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