ギャンブルって言うんだろ?

「本当に、セキネだったんだね」

 

「何度も確認したけど、昨日も一昨日も、間違いなくセキネだった」

 

「セキネ、どんな様子だった?」

 

「柵に手をかけて、ずっと街の方を見てたよ」

 

「そこ、将棋会館のビルだったんだよね?」

 

「そうだよ」

 

「セキネって、将棋が好きなのかな? 結構長いこと顔を合わせてるけど、そんな話したことなかったね」

 

「会うときはいつも奴らの愚痴ばっかだからな」

 

「ちゃんと考えたら、僕たちセキネのこと殆ど知らないね」

 

「あいつ自身がそういう話をしないしな」

 

「それでも、仲間だよね?」

 

「あぁ、戦友だ。何が好きかとかは知らないけど、あいつがされてきたことは、俺たちがちゃんと知ってる」

 

 

「タクマ、財布あるかもう一回確認して」

 

「あるよ」

 

「心配だから手で確認してよ」

 

「大丈夫だって。ほら、ちゃんとあるから。フジカワ、それあと何回聞く?」

 

「仕方ないじゃん、気になるんだから。それにしても、それ、よく取れたね」

 

「頭ん中で何回も練習したからな。イメージ通りに行動できたよ」

 

「あの、前に見かけた、あのデッカい人から取ったんだよね。僕なんて想像しただけでも怖くて無理だよ」

 

「あのデカイの、パターンが決まってるんだよ。冗談みたいに同じ行動しかしないの」

 

「パターンって?」

 

「まずウチにきて飯食うだろ、それから少しして母ちゃんとヤリ始めんの。そんでヤリ終わったら酒を飲むんだよ。それも凄い量」

 

「毎回飲むの?」

 

「そう、毎回。だいたい決まった量を飲み終えると、そいつは母ちゃんの部屋に行って寝るんだけど、しばらくするとうるさいイビキが聞こえてくんの。そんで、そのイビキを合図に母ちゃんがタバコの買い出しに行くんだ。起きてタバコがなかったら暴れるからな」

 

「とんでもなく迷惑だね」

 

「あぁ、あいつの存在、全てが迷惑だ。まぁでも、その迷惑でうるさいイビキをかきだすと、しばらくは絶対に起きないって知ってたから落ち着いて動けたよ。そぉーっと襖を開けて、その隙間から、こう、ズボンのポケット目掛けて腕だけ伸ばしてさ、何かUFOキャッチャーやってる感じだった」

 

「あのさ、そいつ、起きて追ってきたりしないよね」

 

「大丈夫だよ。仮に財布がなくなったのがバレても、俺らの居場所なんて分からないし」

 

「そいつが起きたあと、タクマのおばさん平気かな?」

 

「どうだろう。どうだろうね。なぁ……フジカワ、こんなこと言ったら冷たく聞こえるかもしれないけど、俺、全然心配にならないんだ。何ていうか、何だろう、どうでもいいって言うか、これはきっと、母ちゃんが俺に思ってる気持ちと一緒なんだと思う。よく分かんないけど」

 

「そうなんだ」

 

「うん、そう」

 

 

「タクマ、分かってると思うけど、あれ、本心じゃないからね」

 

「何が?」

 

「あの、スマフォの動画のやつ」

 

「『ヤリマンの息子、マジで気持ちわり〜』ってやつ?」

 

「全部言わなくてもいいだろ」

 

「分かってるよそんなの。あ、お前もだよ。俺のだって本心じゃないからな。ていうか、俺のはさすがに無理があったろ? 会話を盗聴したって設定自体が不自然だもん」

 

「あれ、聞かされて笑いそうになったよ。『タクマはお前が嫌いで仕方ないらしいぞ』って、変に真面目な顔して迫ってきてさ、『あいつをヤるならいつでも力になるから』って、肩組んできて。そんなんで騙される奴がいるわけないじゃん」

 

「発想がどうしようもない。あれだろ、前に言ってたゲームをやりたかったんだろ? 何か一時期言ってたじゃん、『人間の心理を操ってコントロールする』とか。あんな頭で出来るわけないだろ」

 

「……でも、セキネのやつはひどかったね」

 

「あれはひどかった。あれ、言わされてて吐き気がしたよ」

 

「やっぱり信じちゃったのかな? だってあれから学校こなくなって、連絡もブロックされたでしょ」

 

「あぁ。考えたくないけど、信じたんだと思う」

 

「フジカワ、あれ言わされたの、何本で折れた?」

 

「11本」

 

「11本かぁ、頑張ったな」

 

「紙に書かれてる台詞があまりにもだったから、どうしても言いたくなくて何とか耐えた。あともう少しいけそうだったんだけど、急にズボンを脱がされて、写真を撮られた」

 

「写真って、下の?」

 

「うん。顔と一緒に写ってるやつ。クラスのグループ全員に送信するって言われて、心が折れた」

 

「最低だな」

 

「セキネには悪いと思ったんだけど、どうしても嫌で」

 

「11本耐えた先のそれだろ。仕方ないよ」

 

「うん……。タクマは? どうだった?」

 

「俺は、2本」

 

「え? 2本って、たったの2本? え、何で? 何でそんなんで折れちゃったの?」

 

「うん。今、絆創膏剥がすけど、ここ。ここだったから」

 

「あ……首」

 

「『お前は腕、効かねーんだよなー?』って。死ぬほど熱くて痛かったよ! あれは、死ぬほど苦しかった。しかも2本とも同じ箇所だったから、次が想像できて怖くてダメだった」

 

「タクマ……」

 

「でも、そういうの全部ひっくるめて、今日でおさらばだ。俺らにはこの財布があるからな」

 

「今更なんだけど、前に言ってたカードの話、本当なんだよね」

 

「あぁ。間違いないと思う。無駄に羽振りがよかったし、仕事もアレコレしてるみたいだし」

 

「暗証番号も、合ってるんだよね?」

 

「『大事なもんは全部お前の誕生日にした』って母ちゃんにしつこく言ってたし、母ちゃんも、そのカードで何回かおろしたことがあるって前に言ってたしな」

 

「それならいいんだけど……」

 

「フジカワが心配になる気持ちも分かるよ。俺だってこの先どうなるか分からないし、そうそう簡単にはいかないと思う。もしかしたら行った先で散々なことになるかもしれないしな。でも、俺は行くよ。こういうのを、ギャンブルって言うんだろ? 戻っても行っても地獄なら、俺は進むよ。もう、学校にも家にも戻らない」

 

「……僕も、行くよ。そのギャンブルにのる。どうせ戻る場所もないしね」

 

「セキネも、一緒に連れてくんだ」

 

「うん」

 

「あいつも帰る場所なんてないだろ。だから絶対に連れて行く」

 

 

「あ、タクマ! あそこ、あれ、セキネだよね?」

 

「あぁ。昨日と一昨日と一緒、間違いなくセキネだ」

 

「どうしよう。どうやって言おう」

 

「とにかく行って、謝らなきゃ」

 

 

 

「セキネー!!! 悪かったー!!! 本当に、申し訳なかったー!!!」

 

「セキネー!!! 僕ら、全部脅されて言わされてたんだー!!! セキネー!!! 本当にごめん!!! 本当に、ごめんなさい!!!」

 

「詳しいことは後で説明するー!!! セキネー!!! 俺たちと一緒に逃げよう!!! もう、どこにも戻らなくていいから!!! 俺らと一緒に行こう!!!」

 

「セキネー!!! 全部終わりにして!!! 僕たちと一緒に、この街を出よう!!!」

 

「セキネー!!! セキネー!!!」

 

 

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