ラジオネーム・放課後のジェットリー 

「さっきの電話、意味わかんねぇよ。一応買ってきたけど、何でケーキが必要なの?」

 

「話した通りだよ。大切なイベントだから、非日常アイテムが必要なんだよ」

 

「それで、何でケーキなの? お前、甘いもの食えないじゃん」

 

「いいんだよ、なんだって。雰囲気なんだから」

 

「だったら、プリングルスとペプシでいいじゃん」

 

「それじゃあ、いつもと一緒だろ。今日は特別なんだよ」

 

「何それ。まぁ、はい。ケーキと、一応いつものも買ってきたよ」

 

「ありがとう。気が利くねぇ。気が利き過ぎて、怖いよ」

 

「どーせ後で腹減ったとか言うじゃん。あれ、聞いててうるさいんだよ。あと、ケーキ選ぶの面倒くさかったから、今日は割り増しで千円な」

 

「でた、四捨五入」

 

「うるせぇよ。じゃあ、今度から自分で買ってこいよな」

 

「はい、千円です」

 

「お前、どんだけ動くの嫌なんだよ」

 

「千円を渡すぐらい嫌だよ。とにかくさ、ケーキもあるし、始めていいか?」

 

「ちょっと待って、何が始まるかわかんないけど、その前にトイレ貸して?」

 

「いいよ。あ、たぶん今かーちゃんが風呂入ってると思うから、気をつけて」

 

「またかよ。何でいつも時間かぶるんだよ? ていうか、何でお前んち脱衣所がないんだよ」

 

「知らねぇよ、そんなの。大丈夫、足音が聞こえたら出てこないから」

 

「お前のかーちゃん忍者かよ。マジで鉢合わせとか勘弁だから」

 

***

 

「で? 何が特別なの」

 

「あぁ。今日は、引退式なんだ」

 

「引退式? 何の?」

 

「ラジオ投稿。俺、ずっと投稿してたじゃん。中1の夏から、今年で丸々3年。それ、今日で引退すんの」

 

「え? ラジオ投稿の引退式?」

 

「うん」

 

「お前の?」

 

「うん」

 

「何? 俺がそれに付き合わなきゃいけないの」

 

「うん」

 

「なんで?」

 

「いや、付き合わなきゃいけない訳じゃないけど、丸々3年やってきたし、こういう形にしたほうが区切りがつくかなぁって思って」

 

「え? 勝手に辞めればいいじゃん。俺、関係なくない?」

 

「お前は俺の数少ない友達だろ? 明日は学校ないし、バイトも入ってなくて暇だろ? てか、絶対に暇だろ。協力してよ」

 

「確かに、暇だよ。何の予定もないよ。でも、お前のラジオと関係ないだろ?」

 

「そうなんだけど、頼むよ。ケーキ食べていいからさ」

 

「お前が食えないだけじゃん」

 

「麦茶もいれてきてやるからさ」

 

「いいよ、麦茶は。お前んちのマズイし。分かったよ。分かったから、俺のファンタ飲むなよ」

 

「マジで感謝する。お前は心の友だよ」

 

「なに、ジャイアン? で、何で引退すんの?」

 

「1枚も読まれなかったんだよ。3年間、毎週投稿したんだぜ。才能ないんだよ。だから辞める」

 

「ふーん。1枚も?」

 

「1枚も」

 

「ちゃんと切手貼ってたの?」

 

「あぁ、バッチリ貼ってたよ」

 

「へー。そんなもんなのか」

 

「あぁ、そんなもんだ」

 

「そんで、引退式って何すんの?」

 

「もう全部用意してある。これ、お前が引き受けてくれると思って、ちゃんと台本を作ったんだ。お前はこれ通りに読んでくれればいいから。俺はその進行に合わせて音だすから」

 

「俺がこれ読むの?」

 

「そう。お前は、パーソナリティー役。音はもう準備してあるから、その紙にあるバッテンマークの所は、声を出さないでね」

 

「なんか想像してたのと違うんだけど。えー、降りていい?」

 

「ダメだよ! 1回オッケーしたんだから、やり通してよ。お前がここで俺のラジオネームと投稿を読んで、初めて俺の3年間が報われるんだから」

 

「知らねぇよ! 巻き込むなよ」

 

「ほら、合図入ったから待ったなしだ。オープニング流すぞ」

 

「誰が合図出してんだよ。ほら、お前が変なことやろうとしてっから、猫が畳でツメ研いでんぞ」

 

「いいんだよそんなの。ほら、巻き入ってるから行くぞ! はい、5、4、3、2、…」

 

「え? あ、スズムラカツヤのオールナイトニッポン……おい、ちょっと!」

 

「なに? 何で止めんの?」

 

「お前、いま『ニッポン』のとこで変な声出しただろ? 『にっぽぉ〜ん』って」

 

「エコーだよ、エコー。お前ラジオ聴いたことないのかよ」

 

「奇声だよ、あれは。エコーじゃないだろ。お前のかーちゃん、何か疑うぞ」

 

「音のことは気にすんなよ。この部分は、エコーがかかんの。こんなペースでやってたら終わんないよ」

 

「お前が終わらす気ないんだろ」

 

「いいから、気にすんなって。よし、キュー出すから、もう止めんなよ。3、2、…」

 

「あ、スズムラカツヤの……フッ…ハハハッ! ちょっと、おい! 無理だって!」

 

「何だよ、何なんだよ! 真面目にやれよ!」

 

「それはこっちのセリフだよ! 何なんだよ、さっきから。合図出す度に、そんなに酸っぱい顔する必要あるか? 確実にワザとだろ?」

 

「酸っぱい顔? ふざけんな、これは真剣な顔だよ」

 

「真剣に梅干し食った顔する奴がどこにいんだよ。お前、相撲の取り組みの時に、酸っぱい顔の力士を見たことあるか?」

 

「あるよ。基本、みんな酸っぱい顔だろ」

 

「酸っぱいわけねぇだろ! そんな力士いねぇよ!」

 

「いたんだよ。前頭から4番目くらいの奴」

 

「4番目くらいの奴って。お前、相撲なんか見ねぇじゃねぇか」

 

「見ないだろ普通! アンコ食わないのと一緒だよ! 逆に、何でお前はその歳で力士に夢中なんだよ。どうかしてるよ」

 

「相撲は男のロマンなんだよ! もういいよ、相撲の話は。あのさ、今気づいたんだけど、この紙に書いてある、ここ。タイトルコール後のフリートークってあるけど、何これ?」

 

「あぁ、そこ? 書いてある通り、フリートークだよ。何でもいいから、ちゃちゃっと話してくれないか?」

 

「ちゃちゃっとって、無理だろ。話すことなんかねぇよ。あー、面倒くせぇ。やめる! もう、やめる」

 

「待て、待て! そこを何とか頼むって。マジで何でもするからさ。じゃあ、これ。お前が大好きな、タニザキアカネの切り抜き集。1週間貸してやるから。これ、マジで奇跡の書だぞ。これスクラップすんのに、どんだけ時間がかかったか。だから頼む。この通り!」

 

「なにこれ? 全部お前が作ったの? お前、頭おかしいよ。マジで貸してくれんの? 本当に? じゃあ、やる。全然やる」

 

「オッケー、交渉成立。そうと決まれば時間がないんだ、すぐいくよ。はい、3、2、…」

 

「……また……はい。スズムラカツヤのオールナイトニッポン。えぇー、夏ですね、夏です。暑いです。スイカをね、食べました。2切れ食べました。えぇー、あとですね、かき氷も食べました。あ、味はメロンですね。それから……」

 

「おぃ! カット、カット! なにそれ? 小3の絵日記? ラジオなめてんの? 感情が何にも伝わらないよ」

 

「伝わるわけねぇだろ! いきなりフリートークって言われても、何も出てこねぇよ。やっぱ、無理。やめる」

 

「弱音吐くなよ! やれば出来るって。じゃあさ、俺がお題出すから。んー、じゃあ、稲刈り。稲刈りでいいや。何でもいいからさ、稲刈りに関してバァーっと盛り上げて喋ってよ。テンションマックスって感じで」

 

「は? 何で稲刈りなの。ていうか、稲刈りで盛り上がる奴なんかいねぇだろ。もしいたら、そいつ狂ってるよ。時期もムチャクチャだし」

 

「ブーブーブーブー、文句ばっかだな。ラジオに時期は関係ないんだよ。いるんだよ世の中には、稲刈りで我を忘れる奴が。イメージしろよ、イメージ。これ成功出来たらさ、アカネちゃんの出演番組だけをダビングした奇跡の波動を貸してやるから」

 

「え? お前、そんなの持ってたの? マジで? じゃあ、結構前にやってたポッキーのCMも入ってる?」

 

「つぶつぶ苺のやつだろ? もちろん、収録済みだよ」

 

「うそ? あれ、期間限定だったやつだぞ。 本当に入ってるんだな?」

 

「変態に、二言はない」

 

「マジか? あんた神だ! 分かった。出来る限りテンション高めにやってみる」

 

「よし、それでこそ俺の幼馴染だ。オッケー。敬語は使うなよ、テンションマックスな、じゃあ、いくぞ。3、2、…」

 

「す、すっずむらかつやのぉー、オールナイトニッポンっ! えぇー、始まったね! もぅ、始まっちゃった! 俺はね、稲刈りが好きダァー!!! 稲刈りがぁ、好きなんダァー!!! もぅ、刈りたい! 是非とも刈りたい! 刈らせてくれるなら、お餅あげちゃう! とっておきのを、3っつ! 3っつもあげちゃうんダァー!!! 稲刈りぃ、ばんざぁーいっ!!!」

 

(アキヒサ! ちょっと来なさい!)

 

「やべっ! かーちゃんメッチャ怒ってる。おい、お前テンション上げすぎだよ。それ、テンションマックスっていうか、イってるよ。稲刈り中毒だよ。怖い、怖い。完全に、稲刈りに取り憑かれてるじゃん。あー、もーしょうがない。とりあえず俺、かーちゃんに謝ってくるからさ、ちょっと桃鉄でもして待ってて。戻ってきたら、絶対再開するから。まだ俺のラジオネームも、爆笑間違いない投稿も読まれてねぇじゃねぇか。ふざけんなよ、お楽しみは、これからだからな」

 

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