夏をやってない

ハッとして目を覚まし

通りに近い窓を開ける

 

緑を覆う色あせた枯れ葉 

喉に飛び込む息は冷たい

 

薄く横に伸びる雲

縦に登れず空を這う

 

確かにここにあった夏

それなのに

僕は夏をやってない

 

バケツに飛び込む手持ち花火

生み出す音が夜を鎮める

 

咲き終わりに残る白いライン

暗闇に写す向日葵の花びら

 

もう 

何年見ていない?

 

市営プールの帰り道

夕焼けに交わる塩素の匂い

 

天に浮かんだ五色の曼荼羅

オレンジの雲は何にでも化ける

 

灰色へと続く通学路

遠くに見える工場の煙

 

もう

何年帰っていない?

 

特別が日常になり

御馳走への距離が縮まる

 

不便や貧困を崇めない

でも

スイカに種があったっていい

 

僕は夏をやっていた

 

一人でいても

家に帰らなくても

 

僕は夏をやっていた

 

夜明け前に飛び出す国道

車の列をやり過ごし

瞬間を逃さずシャッターを押す

 

大した写真は撮れてない

それでも

そこには夏があった

 

制服を着替えて家を出る

目指す先はデパートの屋上

 

夕陽に幕が下りたなら

蛍光灯がその目を覚ます

 

出っ張ったコンクリに足をかけ

ビルを使って描く地図

 

あんなに頭を乱されて

あんなに体を取られた街が

小さくなってひかり輝く

 

現状は何にも変わらない

それでも

そこには夏があった

 

僕は座ってた

 

拝殿の裏に

高架下の隅に

 

僕は見つめてた

 

底に沈む金魚を

干からびたカマキリを

 

扇風機に押されて歌う風鈴

宙に響く祭りの太鼓

 

確かにそこにあった夏

 

収まらない感情の避難所 

それが僕の夏だった

 

ネクタイを締めて夏が消えた

お金と引き換えに夏が消えた

 

いや

 

そんなことはない

 

僕が夏を消した

 

言い訳ばっかり口にして

 

僕が夏を消した

 

***

 

休みを取った

 

ドリンクホルダーに炭酸を入れ

アスファルトを三時間踏んだ

 

土砂降りの後に赤が出て

黄色と混ざって青黒になった

 

寄り道をして超えた坂

ひらけた先に夏があった

 

気温五度の温水プール

十二年間を肌で取り込む

 

大好きな逆立ちをした

誰もいないのをいいことに

気の済むまで逆立ちをした

 

耳に水が流れ込み

感覚が狂って夏になった

 

もう若くはない

 

何が必要で

何が不要か

 

心が求めてるものしか欲しくない

 

人目を気にして震える代わりに

夏を残して奥に潜ろう

 

比べて鼻を伸ばす代わりに

残した夏で想いを繋ごう

 

進んで行きたい道がある

余計なものはもういらない

 

取捨選択して始める引き算

 

執着ばかりで埋まった容量

腰を下ろして紙に書き出す

どれだけ記憶を削っても

戻った夏は二度と消さない

 

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