黒いネクタイを締めた日

夜明け前に布団を上げて

窓に近づき目を細める

 

仄暗さに負けない薄紅の桜

五年振りに見るその姿は 冗談みたいに美しかった

 

今日は黒いネクタイを締める日

 

はっきりしない空を覆うネズミ雲

絶え間なく土を濡らす雨雫のように 私は涙を流せない

 

ドライアイスに埋もれた白装束 

それを囲む黒い影

故人を食い物にしていた喪主は 口を押さえて肩を震わせた

手順を確認し 配役通りに動く様子は場末の寸劇

あなたの瞳に浮かぶ水には 一滴の血も通っていない

 

会食時に大きな口を開けて あなたは笑った

桜よりも色を濃くした頬っぺたと 黄色がかってくすんだ歯茎

私はその二色を受け入れはしない

 

手を震わせ読み上げた弔辞 

たいそうな言葉の羅列に負けて 何度もつかえるあなたを眺め

どうしようもない寂しさを覚える

 

いつまでも据わらぬ腹

重ねてきたのは歳の数だけか

 

冷めた唐揚げに不自然な色の巻き寿司が並ぶテーブル

大好きだったビンのHi-Cオレンジとは 

こんな形で再会したくはなかった

 

日本は私が生まれた国

日本は私が育った国

 

私を救った親友も 

人生を変えてくれたあの人も

みんなこの国で生まれ育った

 

あの人が白い骨になり

お箸で拾って雲が晴れる

 

夕日に照らされ煌めく桜 

悪意のないその姿に 垂れる涙が止まらない

 

黒いネクタイを締めた日

ここに私の居場所は無い

 

一つ 二つ 三つ 四つ

背中を引っ張る因縁を断ち切る

 

ごめんなさい

でも

もう サヨナラだ

 

黒いネクタイを締めた日

それは 

私が国を出た理由を再確認した日

 

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(夢にまで見た桜の木。時間が止まったようでした)

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