決まらない男

もしもこの世界を「決まる人、決まらない人」の2タイプに分けるならば、自分は間違いなく後者に分類されます。

 

「決まる人、決まらない人」

この言葉の定義を考えると「もっている人、もっていない人」と共通点があるように思えますが、両者は似て非なるものです。

勝手な解釈ですが、自分が思う「決まる人、決まらない人」の決定的な違いは、物事をスマートにこなせるか否かです。

 

例えば、バレンタインデー当日の学校。

例年通り1つも貰えないという結果は同じだとしても、決まる人はサラッと風のように自分の机の中や下駄箱をチェックできます。

言動に焦りがなく、無駄にソワソワもしていないため、誰も彼の「ちょっとトイレに行ってくる」という見え見えなはずの言い訳を疑いません。

しかし、決まらない人の場合は3回下駄箱に行ったとしたら3回とも漏れなくチェックしている姿を友達に目撃されます。

3分の3。驚異の100%です。

無理もありません。

泳いだ目で言う「ちょっとトイレ」は、もはやフリ以外の何物でもなく、「押すなよ、押すなよ」と同じ枠に収まる言葉になっています。

 

ちょっと近所のコンビニへ、というシチュエーションでも同じです。

家から歩いて3分の距離にあるローソン。

いつもは最低限、外に出れる格好で行くのに、(もう夜中近いし、からあげクンを買うだけだし)と油断をして、絶対に家でしか着ない、着心地最高デザイン最低の上下ワンちゃんトレーナーをチョイスした時に限ってクラスの気になるあの子に会う、という奇跡を決まらない人は起こします。

決まる人は、たとえワンちゃんトレーナーに身を包んだとしてもコンビニの店員以外には会いません。

なので翌日の教室で、バウバウトレーナーマンなどという裏ネームを囁かれる事もないのです。

 

上記に挙げた例をなぞるように、自分は決まらない男街道を歩いてきました。

 

初めて付き合った彼女に6日で振られ、失意を晴らそうと自転車で海に向かった際に道に迷い、友達に「ウミガナイ タスケテ」とポケベルでメッセージを送る羽目になったり、慣れない飲み会に参加して、慣れないカクテルを頼んではストローの代わりにマドラーを吸う羽目になったりと、数々の醜態を晒してきました。

 

そんな自分も今や、決まらない男のベテラン戦士。

こうして今まで決まらない自分と共存してきた中で、「決まる、決まらない」は行動だけではなく、髪型にまで表れるのだという事に気がつくようになりました。

振り返ると自分の決まらなさは、過去の髪型遍歴にも出ています。

 

小学生時代のJ・尾崎スタイルから始まり、ウォーズマンヘルメット、テングダケマッシュルーム、ウゴウゴルーガと進んで、高校卒業と同時に、たけのこの里のような髪型をしてカナダのバンクーバーへと逃げました。

 

(全てを変えたい)

 

それまで生きてきて溜め込んだ負の感情と鬱憤をどうしても開放したかった自分は、鏡に映る冴えない「のり弁ヘアー」を大改造する決心をしました。

 

(こうなったら、パーマだ)

 

選択肢は色々とあったと思うのですが、そのとき頭に強く浮かんだのがメンズノンノの表紙を飾っていそうな、毛先がクルッとしたフワッとアンニュイパーマでした。

 

(フワッとパーマだ)

 

ローマ字で名前を書けなかった状態から少しは進歩したとはいえ、This is a pen に毛が生えた状態でパーマをアテるのはどう考えても無謀でしたが、頭の中はフワッとメンズノンノ一色になっていました。

 

英語で詳細を説明する自信がなかったので、ソレっぽい髪型をしたモデルさんの切り抜き写真を握りしめ、住んでいた所から歩いていける、見た目ガッツリ床屋さんのドアを開けました。

頼みの綱は、アンニュイパーマで笑うイケメンさんの写真です。

 

「クッジューカッティイットライクディス?」

事前に用意していた呪文を唱え、笑顔で写真を眺めるインド系のおじさんに全てを託しました。

 

人生初パーマ。

カットよりも沢山の時間をかけた末に出来上がった頭は、石立鉄男先生でした。

 

「ワーカメ好き好き」

「よっ! 四角い顔っ!」

 

そんな往年のフレーズが聞こえてくるような、紛うことなき石立パーフェクション。

どうやって支払いを済ませたかを思い出せないほどショックを受けた自分は、激しく動揺しました。

店を後にして右往左往するワカメ好き好き。

通りの角にあるスターバックスの窓に映ったのは、ゴリラのパーカーを着た佐藤蛾次郎先生でした。

石立先生も、蛾次郎先生も色男です。

ただ当時の自分が気安く近づけるヘアースタイルではありませんでした。

 

(今すぐ、元に戻そう……)

 

心に迷いはありませんでした。

蛾次郎スターバックスで足を止めた自分は、踵を返し、家とは逆方向にあるドラッグストアーへと駆け込みました。

 

あれほどオサラバしたかったのり弁ヘアーが愛おしく感じる気持ちを抱え、鋭い視線で凝視する商品棚。

後々の悲劇を思うと、この時点で店員さんに助けを求めればよかったのでしょうが、何といっても This is a pen のカナダ1年目。

当時は恥をかきたくない一心で、極力、人にものを尋ねないで生活していました。

ですので自分がとった行動は、ストパー液のジャケ買いです。

お目当のレコードをディグするかの如く、数あるチョイスの中から自分が手に取ったストパー液は、ソウルフルでファンキーな黒人さんが満面の笑みをこちらに向けている商品でした。

 

選んだ決め手は、写真の分かり易さです。

 

買い物を済ませ、ゴリラパーカーのフードを被って家路を急ぐ間、家にあるいつもの見慣れた鏡で確認すれば少しはマシに見えるかもしれないという微かな望みが顔を出しましたが、帰宅後向かった洗面台のミラーに映し出されたのは、マサト・シモンでした。

 

(とっとと、のり弁に戻ろう)

 

辞書を片手に細かく手順をチェックした自分は、頭に乗っているワカメに勢いよく液を塗りたくりました。

そうしてしばらく待っていると、はじめに頭皮が痒くなってきました。

痒さが強い部分を爪で引っ掻きたい衝動を抑え我慢していると、今度はそれにチクチク感が加わりました。

感覚的にはピリ辛マーボー。まだ大丈夫な刺激です。

しかし、放置予定時間を半分過ぎた辺りから事態は急変しました。

激しい痛みと共に、怪しい臭いが漂いだしたのです。

それは、何と言うか、とんでもない箱を開けてしまったかのような臭い。とにかく普通じゃない臭いでした。

 

(ストパーとは、こういうものなのか? あっ、痛っ。 臭っ)

 

ここで即刻中止の判断をすべきだったのです。

しかし、脳みそ監督は動きませんでした。

先発投手がバッカバカ打たれているのに、無慈悲の放置。

まさに「お前と一緒に心中や!」を地でいく采配です。

9回終了のタイムアップの目覚ましがなる頃には、痛みと臭さでどうにかなりそうでした。

とにかく自分はベルを合図にシャワーに飛び込み、髪を激しく濯ぎました。

すると、どうでしょう。頭に乗っていたワカメが剥がれ、岩のりとして生まれ変わり自分の手のひらに張り付きました。

 

(え? え?)

 

目の前で起きていることが理解できません。

己の頭から桃屋の「ごはんですよ」が生産されるメカニズムが、どうしても理解できなかったのです。

「ごはんですよ」は美味で大好きですが、自家製ごはんですよでは白飯は食えません。

 

うすうす、というかはっきりと分かってきた「のり弁には戻れない」という事実。

その揺るぎない事実にあえて背を向けた自分は、ネチャッとする感覚が指先からなくなるまで、岩のりを洗い続けました。

 

運命のビフォーアフター。

自分は心を決め、いつも見慣れた洗面台の鏡の前に立ちました。

 

絶句。

まさに、絶句です。

 

人間って予想以上の結果を目の前にすると、声が出なくなるのですね。

 

ボロボロの髪型もそうなのですが、ただれた頭皮に滲む血がまぁ何とも言えず、水木しげる先生の世界の妖怪辞典で見かけたことがあるなぁ、という絵図らでした。

 

(もう、後には引けない)

 

明後日の方向に気持ちが振り切った自分は、長く残っているワカメさんをハサミで切り落とし、ヒリッヒリする頭皮にシェイビングクリームを塗りつけて剃刀を滑らせました。

 

のり弁 → ワカメ好き好き → 大きな玉ねぎの下で

 

たった1日の内にこれだけ髪型が変わった日は、あの日が最初で、そして最後だと思います。

初めて見る自分の頭皮に刻まれた傷は、まるで北斗七星のようで、その瞬間だけ北斗の宿命を背負った男に見えました。

 

パーマも決まらず、ストパーも決まらず、髪が溶け、北斗の宿命を背負う。

 

それはまさに、決まらない男の真骨頂のような日でした。

 

きっと決まる人はちゃんと自分のイメージを伝えられるでしょうし、パーマをかけたその直後にファンキーでソウルフルなブラザー用の強力ストパーなどかけはしません。

 

うーん、どうでしょう……。

こうして書いていて思ったのは、これは「決まる、決まらない」といった問題以前の行動なのではないか……。

若さって、恐ろしいですね。

 

最後に、これも勝手な持論なのですが、「決まる、決まらない」は努力次第でどうにかなる能力ではないと自分は考えています。

決まっている風、には出来るけど、ナチュラルに決めることは出来ない。

自分がこう考えるようになった経緯には、ボランティアでインターン教師をしていた時期に出会った、当時小学5年生だったジャスティンビーバーの存在が大きくあります。

 

同じ小学校時代のマラソン大会というシチュエーションで考えても、片や道路の溝に足を突っ込んで途中リタイア(もちろん自分です)、片やドラマの1場面を再現するかのようなヒーロー的ゴール(もちろんジャスティンです)。

 

(詳細はコチラ)

 

彼のバシ決め才能は、あの日に見たキムタクフィニッシュに集約されていると言っても過言ではないと思います。

 

いつも決まる男になりたいと思っていました。

いつかはバシッとスマートに決めるのだと。

でも、今はそう思いません。

 

時間はかかりましたが、自分はそっち側の人間ではないと知りました。

 

今でもフザケタ髪型をしていますし、ティーラウンジで「アーリーグレイを下さい」と言って、嫁におもいっきり白い目で見られるといった通常運転は続いております。

 

自分は決まらない男として色々な出来事を体験しました。

なので、そうでなければ見えなかった世界(見たくもないと思いますが)の経験を糧に、これからも頭の中にあるものを書き表していきたいと思います。

 

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 

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(散歩道で見える空の線。自分は観覧車のある風景と縁があります)

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