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口にしてはいけない蜜

頭の中

それは 口にしてはいけない蜜

人の心を掻き立てて 

気持ちを揺さぶる甘い蜜

 

三階のおばさんが暗躍し 

団地の噂が素早く回る

甘ったるい蜜の配達に 電子機器など必要ないのだ

 

(勤めていたパルプ工場が倒産し 父親が家を出た)

 

回覧板のように届けられる話

尽きることのない好奇心は

鉄製のドアをもすり抜ける

 

「つまらなそうだから 行かない」

 

キャベツ太郎にハートチップル

修学旅行のお楽しみを残らず開けてしまった君は

団地公園のブランコを強く蹴った

 

目の前でしおりを破った君は 嘘をついている

何にも知らないフリをしている僕も 嘘をついている

 

僕らは 嘘つきだ

 

「ドライブインのカツカレーは美味しかった?」

「華厳の滝に幽霊はいた?」

「まくら投げはやった?」

 

興味はないと言ったのに 

君の質問は止まらない

 

カツカレーはマズかった 

滝は綺麗じゃなかった

まくら投げはやらずに寝た 

 

心が騒ぐから

僕は事実と反対の言葉を並べた

 

お土産の提灯を渡すと 

君はやけに喜んで

「楽しかったんだね」と 

いつもの顔で笑った

 

頬を張られた気分になり

視線は床に張り付いた

 

僕は君に嘘をつき

君は僕に笑顔を見せた

 

「ごめんね」

 

あの時

僕は顔を上げられなかった

 

君の不幸は蜜ではない

どんなに舐めても ただただ苦く

くすんだ灰色が心を占める

 

君の不幸は蜜ではない

本当の甘い蜜は 

きっと

悲しみからは生まれない

 

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(アルゴンキンのトレイル。遠くまで、ずっと広がる緑の海でした)

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