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今も、何か書いてる?

頭の中

その白い指は 確かに舞った

 

氷上を滑るフィギュアスケーターのように

何の面白味のない無機質なホワイトボードの上を

エッジを効かせて駆け抜け

息をのむ美しい文字を残した

 

あの時 

心は持っていかれたんだ

 

イチョウ並木に足を止める余裕もなく

ひっ叩いても 体は素直に動かない

家を出て 大学のある駅まで着くので精一杯

泣いても怒っても それが自分の限界なのだ

 

教室の代わりに足を向ける図書館

言い訳を探すために座る哲学書の資料室

もう うんざりだった

 

背中を押してもらう理由を探す日々

頭を灰色が覆うから 

白い指を求めた

 

ドイツ文学に興味はない

ただ 白い指を眺めたかった

 

巨大スクリーンに映し出される細長い指

期待を裏切らずに舞う白い指

大好きな映画よりも 90分が短く思えた

 

時間と共に失っていく 存在していた自分の意思 

付きまとってくる鬱憤を 

何かに

どこかに

誰かに

ぶつけたかった

 

白い指から出された課題は

エンデの「モモ」

お決まりの題材に 頭の中を捧げようと決めていた

 

ストーリーは終わらない

登場人物の「その後」を追った ルポルタージュ

 

モモ 

ベッポ 

ジジ 

ニノ

ニコラ

マイスターホラにカシオペイア

 

可能な限りインタビューを敢行し

当時を振り返る形で話をしてもらった

 

時が経って 新たに繋がる物語

 

スコアは気にしない

堅苦しいものにはしたくなかった

 

「読み物として面白かった」

 

白い指にかけられた声 

背中が熱く 苦しくなった

 

誰かが読んで 感情をくれる

 

その時から 書き物の意味が大きく変わった

 

頭にしっかりと録音した言葉

曲のリフレインのように 

何度も何度も繰り返し

消え入る自尊心に光を当てた

 

「今も 何か書いてる?」

 

研究室に顔を出すようになった私に

あなたはいつも 問いかけてくれた

 

初めて会話を交わした日から 鞄に入れた詩集

 

「見てもらえますか?」

 

何遍も練習した台詞は けっきょく口に出せなかった

 

あなたが敬愛していた 

オトフリートプロイスラーも 横浜ベイスターズも

正直 あまり惹かれはしなかったが 

とにかく 話が聞きたかった

 

「好きだったら 書き続けなさいよ」

 

中退の報告を済ますと

あなたはそう言って 白い指を差し出した

ずっと憧れていた白い指

 

あの日の握手が 最初で最期

あなたに触れた 最初で最期

 

「今も 何か書いてる?」

 

はい 

書いています

生きるために何も手をつけない時期もありましたが

今こうして 思いを注いでいます

 

「今も 何か書いてる?」

 

やっと 

そのままを出せるようになりました

もう 書くという行為にすがってはいません

劣等感を埋めるためには 書いていないのです

 

ただ 書きたいから

心の底から 書き続けていきたいから

ありがたく もがいております

 

あなたがくれたリフレイン

しがみついていたリフレインは 

もう聞こえません

 

だから

さようなら

 

白い指をした人

 

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(休みの散歩は4時過ぎ出発。大好きな色に染まる4時過ぎ出発)

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