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それでも同じ空が広がる

頭の中 カナダ 海外生活

僕は目をつむる

こうしてまた目をつむる

 

何かを思い出したフリをして

ランチルームを後にした

 

休憩時間は残り10分

少し歩を早め ボールルームを通り越して備品室に急ぐ

ここは滅多に人が来ない場所

 

カードキーを挿し ゆっくりとドアを開ける

期待通り 誰もいない

 

来賓用の純白の椅子に腰を下ろし 僕は目をつむる

 

こんな時 どうすればいいんだ

 

「あー あー あー あー」

心で言葉を流す

「あー あー あー あー」

思考が入る隙間を塗りつぶす

 

結局 ここに来た

考えることを止めて ここに来た

 

「あー あー あー あー」

ずっと昔から同じやり方

「あー あー あー あー」

単一文字を黙読して 気持ちが収まるのを待つ

 

こんな時 どうすればいいんだ

 

出稼ぎに来たジャマイカ人 母国には奥さんと3人の子供がいる

彼は21歳のポーターを小突き 解雇された

「生きていれば楽なことばっかじゃない」

そう言って肩を叩いてきたバイトの子を突き飛ばし 

小突いた

殴ったのではない 

土足で人生に入り込むなと警告しただけだ

処分は早かった

男の子の母親は そのホテルのセールスマネージャーとして働いている

 

僕は目をつむる

 

28歳の皿洗い 彼は高校を出ていない 

「グレード12に戻ろうと決めたんだ」

1年迷った挙句の選択だった

「10年後も皿を洗っていたくはない」

お兄さんが死んだ後に家を出て 18歳で父親になった

「でも収入が減るのが怖いんだ」

彼はこちらを一度も見ず じっとテーブルの淵を眺めていた

 

彼がランチルームを去った後 ひとつ向こうの席に座るインド人が振り返った

「ここの国の奴らは贅沢だ インドの皿洗いは奴の半分以下の給料で3倍働いている」

言い終わる前に席を立ったインド人は ひどく怒っているようだった

 

僕は目をつむる

 

大学もサーバーのバイトも辞めたハタチの子

メイクが派手すぎると よく注意を受けていた 

彼女の就職先は有名銀行のテラー

父親はそこの地区長をしている

「みんなもっとオーガニックフードを食べて スピリチュアルに触れた方がいい」

それが彼女の口癖だった

 

僕は目をつむる

 

移民学校で知り合ったソマリア人は タクシーの運転手になっていた

握手をして調子を尋ねると 彼は間違えだらけの英語でこう言った

「何の仕事だっていい ここなら襲撃されないし 殺される心配もない」

繋いだ手に 力がこもっていた

 

僕は目をつむる

 

フロントデスクのパキスタン人

ゲストと揉めて問題になった

「お前の名前は複雑だから 今日からマイケルに変更しろ」

酔った客の戯言が許せなかった

「この名には 一族の魂が入っている」

ビザが切れる前に国に帰ることを決めた彼 

その佇まいは凛としていて 

とても美しかった

 

休憩時間の終わりを知らせるバイブレーション

僕は目を開ける

息を吐いて見上げた天井の先には

今日も同じ空が広がっている

 

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(今日も読んで下さり、ありがとうございました)

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