これは超能力ですか?

ミスターマリックにトランプマン、そしてユリゲラー。

自分は子供の頃、この3人を本物の超能力者だと信じていました(ユリゲラーに関しては未だにグレーゾーン)。

もちろん、「手品」や「トリック」といった言葉は知っていましたが、変に裏を読み

(この人達は、その凄まじい能力を隠すためにワザワザ『ハンドパワーです』って言ったり、トランプを飛ばしたり、スプーンを曲げているんだ!)

などと考えていました。

 

超能力者は正体をバラしてはいけない

当時、姉が読んでいた「ときめきトゥナイト」や、自分が好きだった「パーマン」の世界観よろしく、(特別な能力や秘密を持った方々は、それをひた隠しにして生きているのだ)と勝手に思い込み、上記の3人も例に漏れず、日常生活でポロッとその力が出てしまっても誤魔化せるようにマジシャンという職業を選んでいるのだろう、と決めつけていました。

 

物語に出てくる超能力は、たいてい良くも悪くも強い力と影響力を持っています。

それこそ世界を救う、もしくは、混乱させるような。

 

身を偽る必要性や、世界を変える力があるわけではありませんが、自分は一種の特殊能力を持っています。

 

海を渡って10年が過ぎ、開眼したその力は

カナダのスーパーのレジの調子を悪くさせる」というものです。

 

今、タブを閉じようとした方、待ってください。

自分はふざけているのではありません、困っているのです。

いや、冗談ではなく、制御できない己の力に迷惑しています。

上で「カナダの」と限定したのは、日本にいた時はこういった現象に悩まされなかったからです。

 

説明します。

このスーパーパワーが発生するのは、自分が焦っている、もしくはイライラした状態でいるのが前提です。

その「アセアセイライラ」コンディションでレジに並ぶと、笑えないほどの高確率でレジが不調になり、列が一向に進まなくなります。

 

具体的には、レシートが出なくなったり、商品コードがスキャン出来なくなったり、レジの画面がフリーズしたりといった症状が現れます。

 

故障するわけではありません、調子が悪くなるのです。

なので、管理者や責任者が出てきてしばらく機械をいじっていると、どうにか元に戻ります。

しかし、復旧までに時間がかかることもあり、自分のみならず、列に並んでいる他の人達もアセイラ星人になってしまうという負の連鎖が起きてしまうのです。

 

ちなみにこの現象は、自動チェックアウトでも同様に起きます。

 

心穏やかにカートを押して、鼻歌を口ずさむ怪しいアジア人となっている日は問題ないのですが、時間がない時に限って「待ってました!」とレジがヘソを曲げるので、正直、心底嫌になる瞬間があります。

 

「それは引き寄せの法則だよ」

そう言われてしまえば、その通りなのかもしれませんが、どうしてもそれだけでは納得できません。

 

なぜなら、この能力(?)の影響を受けるのは、スーパーのレジだけだからです。

仕事で、YouはShock な人々に遭遇し、半端なくイライラした状態になっても、業務で使っているパソコンに不具合は生じません。

 

波長がバッチリ合うのは、唯一、カナダにあるスーパーのレジだけ……。

まるでツインソウルと見まごうばかりの共鳴力です。

 

破壊するのではなく、機嫌を損ねさせるのが関の山。しかもレジのみ。

仮に、自分に備わっているものが何らかの超能力であったとしても、はっきり言って何の役にも立ちません。

 

もしもこの力を全ての電子機器に向けれるのであれば、使い方次第で、巨悪企業の悪巧みを阻止することも可能でしょうが、今の状態では迷惑しか生み出しません。

 

うーん、何かないですかね? 

どうすれば、この特殊能力(?)を生かせるのか……。

 

使えるかどうか分かりませんが、ちょっと頭に浮かんだものを書いてみます。

ケース1

スーパーでレジ打ちをしている引っ込み思案で奥手の店員君。

不自然に焦っている様子の男が差し出した「雪国まいたけ」がスキャンを通らず、彼はそのコード番号をマニュアルで入力しなくてはいけなくなった。

今までの経験を生かし、文明の利器に立ち向かう店員君。

「やれないことはないさ、源氏パイの乱を収めたのは、この俺だぜ」

平均コード入力スピード2.6秒(マニュアル)と、Windows Meで培った忍耐力は、彼に絶対的なレジ打ちの自信を与えた。

しかし、そんな彼の思い上がりを打ち砕くように、レジの画面は原因不明のフリーズを起こす。

舌打ちをする買い物客、いつもより早足で登場する脂汗店長、そしてチョコエッグを持って泣き叫ぶ女の子。

買い物レーン「7番」にカオスの嵐が吹き荒れる中、震える右手を背中に隠した店員君の口元は、怪しく緩んでいた。

(次にレジが不調になったら店の向かいにある「ミスタードーナツ」で勤務している林さん(仮名)に声をかける。ポンデリングを掴むタイミングで声をかける。かけるって言ったら、かける!)

出勤前の自分にかけた暗示が彼の頭で鳴り響いた時、エプロンを外した店員君は、レジの鍵を脂汗店長に託し、自動ドアの向こうへと走って行った

 

……何ですかね、これは。

進む方向を完全に間違えています。

 

声をかけるタイミングを事前に決めている、つんのめった店員君の姿勢を考えると、声掛けの際に言葉がハンブルする確率は高いと思われます。

そうなると焦って、買う予定のなかったフレンチクルーラーや、ハニーディップをトレイに乗せ、無言で支払いを済ませてしまう結果は目に見えています。

一人暮らしの六畳間。

「まただ。何であそこでハニーディップ入れるかなぁー? おい、俺っ。こんなこと繰り返したら、3ヶ月後には糖尿だぞ」

タッチのヒロイン「浅倉 南」を彷彿とさせる戒めを自分自身に入れ、食べ飽きたドーナツを頬張る午後7時半。

開け広げたアパートの窓から見えるのは、斜め向かいで煙を吐く、焼きトン屋の黄色い看板。

テレビを消し、ニヤついた顔で缶コーヒーを開ける彼の背中が哀愁を誘います。

 

……やっぱり、間違えています。

哀愁を誘う? 展開が行き場を失いました。

店員君、林さん(仮名)に声をかけていませんし、全体的にスッキリしない昭和の香りが漂うだけです。

というか、彼、仕事放棄していますね。

後に残された脂汗店長が不憫で仕方ありません。

 

自分の能力、一切関係ないですね。

これでは、力どうこう以前の問題です。

なので、却下。

好き勝手やると文字数が増えるだけなので、ちょっと真面目に考えます。

 

ケース2

アセアセイライラしている自分の後ろに並ぶ、マスクを付けた初老の男性。

実はこのジェントルマン、上下総入れ歯だがレジ強盗を企んでおり、コートの内側には一昨日購入した文化包丁を忍ばせている。

緊張しつつ「その時」が来るのを待っていたポリデントジェントルマンだが、前に並んだイライラ男が購入した「果汁グミ」が原因で、レジに不調が発生。

「何でレシートが出ないんですか! レシート集めと果汁グミが僕の生き甲斐なんです!」

大きな声で叫んだその男は、その場でクルクルと回りだす。

その様子を見た買い物客が足を止め、レーン「7番」には人だかりが。

喧騒が辺りを支配する。

大声を聞いて驚き、泣き始める男の子。

苦しそうなその子の嗚咽が気になり、ポリデントさんが目をやると、男の子の頭にはイニシエの球団「大洋ホエールズ」の帽子があった。

 

(あの坊主、懐かしいもん被ってるなぁ。スーパーカートリオもいたが、ホエールズといったらポンセだ。87年だったっけなぁ? ポンセは打ったなぁ。あの年、あいつはとにかく打った。あの頃の中区はまだゴチャゴチャしてたけど、楽しかったなぁ。あぁ、応援歌が耳に残ってる。♪バモス ポンセ バモス ポンセ 打て場外へー♪ かぁ)

 

「おぃ、坊ちゃん。あんたぁ、ホエールズのファンかぃ?」

「エェ、ウグゥ、グゥ。え? ほえーるず?」

「そうだぁ、あんたの被ってる帽子だよ」

「ぼうしぃ? あぁ、これ、タイガーマスクWだよ。今、テレビでやってるやつ」

「タイガーマスクダブルぅ? いや、あんたぁ、この青は、これはホエールズの帽子だぁ。間違いねぇ」

「なにぃ、ほえーるずってぇ? タイガーマスクWだってばぁ! もう、うるさいぃ」

「あぁ、泣くな泣くな。分かったぁ、分かった。こいつぁ、タイガーマスクの帽子だ! ホエールズなんかじゃぁねぇ! うん、うん……」

 

目尻に光るものを湛えた老紳士は、こっそり列を離れ、もっていた「月間 盆栽生活」を雑誌ラックに戻して、静かに店を後にした

 

果汁グミは好きですが、自分の趣味はレシート集めではありませんし、その場でクルクル回りもしません。

 

このケースはレジ強盗を未然に防いだことで役に立っているかもしれませんが、もしその老紳士の肚が決まっているのなら、場所を変えて決行するだけなので、根本的な問題解決になっていません。

自分がその人を付回して、行く先々のスーパーのレジで前に並ぶことが出来るのなら話は別でしょうが、その場合は、相手の心が読める能力が必要になります。

そうでなければ、誰がよからぬ事を計画しているか分かりません。

というか、もし人の心を読めるなら、レジを調子悪くさせる3軍能力は要りませんね。

ですので、こちらも却下です。

 

せっかくのスーパーパワーですが、どうも話が1丁目、2丁目規模の枠を超えません。

超能力を披露する場面といえば、世界レベルの危機と相場は決まっております。

このままですと、商店街のアーケードから抜けれそうもないので、多少無理にでもスケールを大きくして考えたいと思います。

 

ケース3

新しく巨大悪徳企業のITセキュリティー責任者に就任した黒メガネ。

彼の持ち味は意外性と、裏の裏の裏を想定する用心深さ。

そんな黒メガネは就任早々その才能を発揮して、数々の悪事の証拠が残されているデーターを系列会社のスーパーのレジシステムにしまい込むという、常人には考えつかないアイデアを実行した。

全ては彼の想定した通りに上手くいっていた。

そう、無駄に焦った様子の男が、「ぷっちょ」を手に持ちレジに並ぶまでは。

移したデーターを取引相手の巨悪企業に開示して、わっるーい信頼を勝ち取る大事なプレゼンがあったその日、黒メガネはデーターを引き出そうとスーパーのレジシステムに侵入を試みたのだが、プロセスが一向に進展しない。

約束の時間は刻一刻と迫る。

苛立ちを覚え、右手の人差し指に力を込めるが、何度トライしても結果は同じ。

タイムリミットまで後20分となった所で、万が一の事態に備え、忍び込ませていた部下、「脂汗男」に連絡を取る。

 

「黒メさん、ダメです。レジがフリーズした挙句、変な男がレシートを出せと暴れていて現場を収集できません! 本社のITテクニシャンに連絡したのですが、多摩川の花火大会の影響で車が進まず、どんなに早くても30分はかかるそ……」

 

これ以上の報告は無意味だ。

胸ポケットから出した辞表を机の上に置いた黒メガネは、秘書の説得にも耳を貸さず、呼んでおいたタクシーに乗り込んで、一路、羽田空港を目指した。

行き先は次の就職先、シンガポールだ。

 

やりました。ついに自分の能力が世の役に立ちました。

ケース1、2、3と、どうしようもなく陳腐な設定で繰り広げられた戯れ芝居の結果、何とか胸を張って通りを歩ける日が訪れたのです。

ただ、裏の裏の裏を読んで、正常な判断が出来ずに空回りするITセキュリティー責任者の存在が設定上必要不可欠ですが……。

 

はい。やはり、どう足掻いても使えない力ですね。

 

超能力、スーパーパワー、特殊能力。

自分はその存在を疑いません。

漫画やドラマなどで見るものと違って、もっと生々しいものだと想像しますが、本人が求めても求めなくても、そういった能力を持っている方は、この広い世界のどこかに存在すると思います。

 

仮に何かのきっかけで自分にそういった力が授けられるなら、空を飛んだり、透視したり(男の憧れですが)、人間離れした力を手に入れたりできなくてもいいので、人をポジティブにする能力が欲しいです。

 

「この先に何の希望もない。どうして生きていなきゃいけないのか分からない」

 

今まで聞いた中で、一番悲しい言葉でした。

自分が受けたどんな罵倒や存在否定よりも、辛い気持ちになりました。

 

毎日マンモスハッピーにならなくていい。

少なくとも「なぜ生きていかなければならないのだろう」という場所から引っ張りたい。

おこがましいけど、引っ張りたい。

しつこいけど、引っ張り出したい。

 

もう二度と、そんな言葉を面と向かって聞かないように、 超能力に頼らずとも、どうにかして引っ張り出したい。

いや、引っ張る。

 

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 

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(オンタリオ湖に両手を広げて沈む夕日。昇る時はバンザイ型です)

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