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私が私をやめたなら

頭の中

私が私をやめたなら

あなたは満足するのだろうか

私が私をやめたなら

あなたは代わりを探すのだろうか

 

穴は深く どこまででも続く

 

ほつれた畳の縫い目が近い

ひれ伏した視線は 地面と水平だ

 

私が私を保つあいだは

誰かの叫びは聞こえない

私が私をやめない限り

呼び出される顔ぶれは変わらない

 

「誰かを救っている気分か」だって?

怖くて断れないだけだよ

 

夕日が映えるくたびれた校舎

許されるならこの時間は家にいたいんだ

オレンジ色は始まりの合図

青黒い空は終わりの合図

もう これで何年目だ?

 

今日も降りる駅を三つ飛ばした

見かける制服のデザインが違う

安全区域に入った証だ

 

誰もいない階段下の特等席

上りも下りも私を気にしない

 

カバンに忍ばせたサバイバルナイフ

短い刀身は己の覚悟と比例する

 

私が私をやめるとき

それは あなたがあなたをやめるとき

 

誰も見てないよ

分かってる

私に向ける眼球は 看板の中にいる芸能人だけ

誰も見てないよ

分かってる

それを知っているから 黒い柄を握っているんだ

 

誰にも見られてはいけない

足を向けるのは公衆トイレの個室

ワイシャツの裾からスライドさせて突き刺す

お金を渡すその瞬間 

あなたが喜ぶその瞬間を狙い

喉元めがけて突き刺す

 

白い蛍光灯の下での反復練習

それはまるで 小学校の時に繰り返した素振りのよう

イメージは完璧なんだ

 

勢いよく滑った刃先で中指が切れる

カビだらけのタイル 蜘蛛の巣に絡まる蛾の死骸

滲む鮮血を気にしているあの日が 頭から消えない

披露されることのない練習の成果

私はいったい何をしているのだろう

 

今日も降りる駅を三つ飛ばした

私は私をやめるべきか

十五分おきに入ってくる電車が答えをせかす

 

もう少し待ってくれないか

私は私をやめたくないんだ

 

誰も見てないよ

大きなブレーキ音が背中を押す

誰も見てないよ

なだれ込む雑踏が やけにうるさい

 

私の腰は硬いベンチにおろしたまま

 

また 同じ毎日が始まるのか

 

どうしようもなくなり 何かにすがりたくて顔を上げると

ホーム越しに見える通りの信号が青になった

 

どうしよう 涙が止まらない

 

「大丈夫ですか?」

黄色い線の内側に 黒いローファーが入り込む

「大丈夫ですか?」

目の前に立つ 青いネクタイをしたサラリーマン

「大丈夫ですか?」

彼の声は落ち着いていて とても真面目な顔をしていた

 

「大丈夫です」

赤の他人が仏に見えた

「ありがとうございます」

外は雨だけど 人が優しい

 

とにかく腰を上げよう

 

深く頭をさげて 下りの電車に乗る

行き先は三つ前の駅だ

 

いつもいてくれた仲間

海で拾った猫

声をかけてくれた人

そして姉

 

あなた達がこの世にいたから

私は私をやめなかった

 

誰かが誰かをやめる日は続く

もう これで何件目だ?

 

今日は黒いローファーを履き 青いネクタイを締めて駅へ行こう

今度は私の番だ

 

「大丈夫ですか?」

どうか あなたはあなたをやめないで

「大丈夫ですか?」

今が永遠に続きはしない

「大丈夫ですか?」

痛い思いをした上に居なくなってしまうなんて 

そんなの悲しすぎるから

 

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(種類は問いません。どんな神様だっていい、何なら神様じゃなくたっていい。どうかお願いですから、いじめをなくしてください)

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