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「へけけ」の国から、こんにちは

カナダへ移住してから幾つものカルチャーショックを経験しましたが、心の底から「ショック」を受けたのは、当のカナダ文化からではありません。

コンビニの店員が自然体すぎる(スマホ接客や、ポテチぼりぼり接客)、スーパーなどで大型カートを通路の真ん中に放置しすぎる、寒いのに短パンに固執しすぎる、などの細かい違いはあれど、コーラを飲みハンバーガーを食べ、MCハマーを聞きながらグーニーズや星の王子ニューヨークへ行く、を見てきた日本人とカナダ人に、それほど強烈なギャップは存在しません(偏った私見です)。

しかし、自分が移民学校、カレッジ、そして職場で出会った人々の一部は、エディ マーフィー友達同盟とは180度、異なるカルチャーを持っていました。

 

前に何度かここで言及した「生きてるだけで、ありがたい」という思いに駆られた文化の違いは、主に移民学校で感じたことなのですが、カレッジや職場で出会った何人かの人からは、「住む世界が違う」というカルチャーショックを受けました。

その隔たりの中身は、マネーです。

きっと日本でもたくさんいるのでしょうが、自分の交友関係が狭すぎて会ったことがない、漫画「おぼっちゃまくん」を連想させるリッチさん。赤いほっぺで「へけけ」と笑い、一角ヘルメットを被った、あの「ちゃま」です。

ちなみに、自分が知っているお金持ちといえば、実家がミカン畑とアパートを所有している地元の友達が関の山です。

そんな自分がカナダで出会った「へけけ」国の住人は、皆さん年齢が若く、人数も少なくありませんでした。

 

小学校時代の自分は、己の強烈な貧乏根性のせいでリッチな匂いのする話を聞くたびに羨んで羨んで、なんなら羨望を通り越して逆恨みしていました。

 

A 君の家は、ミニ四駆のコースがあって、聖闘士星矢のクロスが全部揃ってるってよ。

B 君がこの前、ビックリマンの箱買いしたらしいよ。

C さんとこ、去年はスキーで、今年はハワイだって。

D さん、ほら、毎年ディズニーランド行ってるDさん家、今度ゾウチクするんだって。

 

ゾウチク……キィィィィィィィー!!! って感じです。心の貧しさが出ています。

 

年を重ねるにつれて人を羨まなくなったのは、何かを達観したわけではなく、ただ現実を知っただけです。

「金持ちは金持ち。自分は自分。住む世界は一緒。生きてることに変わりはないさ」

そんな風に、諦めに似た感情で分かった気になっていた自分の横っ面を引っ叩くように、カレッジや職場で「住む世界は一緒」という定義をぶっ壊す「ちゃまんズ」と出会いました。

例えば、2年目に同じタイムテーブルを取ったロシア人の女の子。彼女は当時19歳。何度かグループワークを一緒にしたことがきっかけで、話をするようになりました。

 

「このカレッジ卒業したら、どうするの? ロシアに帰るの?」

「どうするか分からないけど、ロシアには帰らない。あと2つくらいは学校出たいな。いろんな国の学校。30歳くらいまでは世界を見るの。その後で家の会社に入るかどうか決めるわ」

「へー、30くらいまで。会社? お家、何か商売してるの?」

「トレーディングカンパニーよ。中国とアメリカに支店があるの」

「貿易……会社? オー、アイシー。アハ、アハハ……」

 

違う日は、車の話題になりました。

 

「ねー、レクサスって日本の会社でしょ?」

「うん」

「私、G2(日本でいう仮免)取ったから車買おうと思うんだけど、みんながレクサスを勧めるの。だから、レクサスだったらどの車種がいいか教えて?」

「レクサスの車種? そんなの、知らないよ。乗ったことないもん」

「え? レクサスって、日本の会社でしょ? 何で乗ったことないの?」

「ないよ! レクサスは高級車だよ!」

「そーかなー。ネットで調べたけど、そんなに高くなかったよ。テスラの方が高いよ」

「テスラ……。オー、アイシー。アハ、アハハ……」

 

いつも笑顔で、感じの良い子だったんです。でも、ビックリするほど会話が噛み合わないんです。

もちろん、僕らは同じ人間。生きてることに変わりはないんです……が、でも、違うんです。住む世界が、圧倒的に違う。

このロシアの子のみならず、車は一番分かりやすいツールでした。

クラスで見かける大人しそうな中国人の生徒たち。授業が終わると彼らの姿を、BMW、Audi、レクサス、アキュラ、インフィニティ、そしてキャデラック エスカレードなどの高級車の車内で見ることができます。

リラックマのようなキャラクターグッズでデコられたレクサスを見かけると、その違和感にぶっ飛びます。

 

住んでる世界が、違う。

 

自分がカレッジに入る前に働いていたレストランでも、そのことをハッキリと感じた瞬間がありました。

こちらの学校には、企業研修を単位の一つに組み込んでいるコースが多くあり、お金持ちで普段労働する必要がない子でも、一定期間働かなければ卒業することが出来ないというシステムになっています。そのプログラムを通して、何人かの生徒が自分がいたレストランにインターンとして働きに来ていました。

父親がパイロットだという香港出身の女の子も、そのインターンの一人でした。

大きい目が印象的だった彼女は、多少ぶりっ子でしたが気立てがよく、育ちの良さがその純粋さに表れていました。そう、無垢でピュアだった故に、思ったことがスルゥーっと口から出ちゃう子なんです。

 

「何で、そんなにプアーなの?」

 

ある日の職場での休憩中、彼女が自分に言った言葉です。

彼女の性格を考えたら、悪気は全くないんです。そう思ったから純粋にそう言っただけです。ただカナディアンからは絶対に聞かない、第2言語者ならではのストレート kill ワードだったので破壊力は抜群でした。

きっかけは、たわいもない会話だったのです。

ちょうどその頃、レストランは忙しい時期で、ツアーなどが入っている日は朝から夜中までダブルシフトをこなさなくてはいけませんでした。そんな時は休憩時間を使って、スタッフルームのソファーで仮眠を取るのですが、そこで寝ていた自分へ彼女が声を掛けてきたのが始まりでした。

 

「何でここで寝てるの?」

「家に帰るのがもったいないからだよ」

「さっきまで仕事してたのに、何で夜も働くの?」

「ダブルのシフトだからだよ」

「何でそんなシフトを取るの?」

「何でって、組まれたからだよ」

「何で断らないの?」

 

……きっと、この「何で?」の連続ジャブは「何で空は青いの?」と同じ類の「何で?」だと思います。知らないから聞く。理解できないから聞く。ただそれだけのことです。

しかし、当時の自分は彼女とのピュア問答を繰り広げる余裕がありませんでした。

 

「断れないよ! ノーワーク、ノーマネーでしょ。それじゃあ生きていけないよ」

「何で、そんなにプアーなの?」

 

彼女は、本当に不思議そうな顔をして尋ねてきました。ニンテンドーDSしながら。

 

(もう、止めよう)

彼女の言葉を聞いて、さもしくなり、何だか考えさせられてしまいました。

なんだかんだで、全部自分が選択してやっている事です。

ダブルシフトも、あのレストランで働いていたことも、英語で四苦八苦していたのも、カナダに来たことも。

誰に強制されたことではありません。

好きでやっているのに、ああいう答え方をしたら、人によっては「何で、そんなにプアーなの?」と捉えられてしまいます。

何だか自分に申し訳なくなり、「あんな風に答えるのは、もう止めよう」と強く思いました。

「へけけ」の国からの強烈な右ストレート、腹を決めるのに十分な威力でした。

 

みんながみんな、同じ価値観じゃない。国が違えば尚更です。

同じ日本人だって、みんながみんなファンタオレンジを宝物だと思って育っていない。

そんな当たり前のことを確認させてくれた、香港ガールに感謝。

 

「へけけ」の国の人々は、一見、何の不自由も無さそうで、パーティーフォー! な感じですが、彼らには彼らの悩みがあります。

何人かのリッチーズと話して分かったのですが、彼らに多く共通する点は「カナダへ来たくて来てるわけではない」という部分です。

他は分かりませんが、自分が見てきた限り、特に中国の方に多くいました。

全員が全員ではないですが、彼らの一部は来たくもなんともない国に長い期間滞在しなければならないのです。

大体が親の意向で、色々な方向性を考えて(本国で何があってもいいように、など)自分たちの子供をこちらに送り、カナダの永住権を取得させようとします。

なので、そういった子たちはカレッジでも母国語話者同士で固まり、英語を余り話そうとしません。

彼らのことをどうこういう声も聞きますが、微妙なところです。

もし、自分だったらと考えると、親の意向で進路を強制される人生は嫌です。確かにお金に困ることは一生ないと思うのですが、どうでしょう。果たしてそれだけで幸せなのか、自分には分かりません。

一段一段、階段を上っていく感覚。自分はそれが好きです。

ゆっくりでも確実に進んでるのが分かります。住宅と車のローンで楽ではないですが、オンギャーと産声をあげてから全て揃っている生活では、味わえない感覚です。

でも、ありがたく何とか生活を送れてるからこそ、きっと自分は「それが幸せかどうか分からない」なんてことが言えるのかもしれません。生きるか死ぬかで必死だったら、間違いなく、オンギャー with ハーゲンダッツの生活に手を伸ばすことでしょう。

 

うーん。どっちもどっち、なのかもしれませんね。

どちらの人生に生まれても、その道ならではの良さを味わえたら、90年代ドラマのようなハッピーエンドが待っているのではないかと思います。

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(空が、もうすぐ瞬きをします。裏に控えてる夜の準備は万全です)

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