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3人の鉄人

カナダ 海外生活

カナダへ来て10年が過ぎましたが、未だに驚かされることがあります。

それは、この国における日本文化の浸透率の高さです。

「文化」という言葉を使うと少し固くなるので、この場合「エンターテインメント」と表記する方が正しいのかもしれません。

まあ、とにかく凄いんです、その日本のエンターテイメントが。

仕事場での休憩中以外はテレビを殆ど見ない自分にも、その勢いがこれでもかと伝わってきます。

一番分かりやすい所でいうと、アニメや漫画、及びキャラクタービジネスです。

毎日ホテルで見かける、世界各国の子供たち。その子たち(時々、大人)の服、靴、所持品などのどこかに、高確率でスモールジャパンを発見します。

ポケモンは言わずもがな、キティーちゃん、妖怪ウォッチ(詳しく知りません)、ナルト、ドラゴンボール(中年限定)などが国境を越え、版権出稼ぎ戦士として日夜頑張っている姿を職場で見かけることができるのです。

ホテルで働いている従業員の中にも、アニメ、漫画好きが数多くいます。その中の一人、フロントデスクのスーパーバイザーのJさん(男)は、自分の事を「ヨシサマァー♪」と呼びます。何でも彼の好きな作品の登場人物の中で、誰にでも「〜〜様ぁ♪」と付けるキャラがいるみたいなのです。

ちなみに、先ほどから「♪」マークを付けているのは、気が触れたからではありません。彼の発する声のトーンを忠実に再現した結果、音符が付いてるのです。あしからず。

アニメ、漫画好きのカナダ人あるあるなのですが、「では、ジブリはどうでしょう?」と聞くと、決まって(あんた、分かってるねぇ〜)という雰囲気を醸し出してきます。

何というか、目つきと体の角度が変わります。

彼ら曰く、「ジブリ作品はアート」で、その話の延長上に、必ず「アキラ」と「ゴースト イン ザ シェル」の話題が出てきます。このあるある確率は、かなり高いです。

こちらのお店のDVDコーナーには、ジブリ作品をカテゴリー別にして置いているのを見かけることがあります。とは言っても、そこまでメジャーかと言われれば、そんな印象はなく、自分の体感的には「知る人ぞ知る」みたいな位置付けになっています。

きっとそれが原因で、話す人の目つきが「キラッ」とするのだと思います。

 

アニメ、漫画の話ばかり書きましたが、エンターテイメントの輸出はそれだけに留まりません。お次は、バラエティ番組です。

自分が日本人だと分かると、ある一定以上の年齢のカナダ人(20代中盤以上)はよく、「MXC」の話をしてきます。

MXC ー Most Extreme Elimination Challenge

英語で書くと、無駄なアクションが多そうな映画のタイトルにも見えますが、これは昔カナダで(アメリカが元)放送されていたバラエティ番組で、オリジナルのタイトルは「風雲! たけし城」です。

そう、あのたけし城。

足立区のたけし、世界の北野はダテじゃありません。

皆一様に「あれは、クレイジーな番組だ」と声をあげます。

たけし城、海を越え、半端ない出世です。

ウチのホテルの休憩所では、そのたけし城を模した、と言われている「ワイプアウト」という番組がよく流れていて、スタッフ一同に愛されています。

「たけし城=MXC」の流れは続き、あの山田さんでお馴染みのSASUKEも海を越え、「American Ninja Warrior」と改名し、版権出稼ぎサムライ活動をしています。

少し前になりますが、チームアメリカ、チームジャパン、チームヨーロッパの三つ巴サスケ対抗戦(American Ninja Warrior)がウチのホテルのバーで流れてました。

それにしても、アメリカン ニンジャ ウォーリアーって……。目指す方向が、あさってを向いています。

そもそも、忍者はシノビです。表に出ちゃいけない。

忍者、にんじゃ、ニンジャ、Ninja……。

こちらでは、もう名前が一人歩きして、すごいことになっちゃってるんです。

 

Ninja 包丁、まな板セット

これは、まだ分かります。切れ味鋭いですよっ、て感じですよね。

Ninja ブレンダー、フードミキサー

これ、結構有名なんですよ。フードミキサーといえばニンジャ、みたいな。これも、まだギリギリセーフです。アクロバティックに回っちゃってますけど、切れ味の鋭さはキープです。

Ninja コーヒー、ラテ、モカメーカー

これは……これは、何ですか? 一昨日の休憩中にCMで見て、気になって調べたところ、ニンジャ、ばっちりコーヒー作ってました。なんなら、モカも、ラテも。

CM、あれからも飯食ってるときバンバン見るんで認知度は高いと思うのですが、ニンジャとコーヒーの接点、自分は1%も見つけられないです。だってニンジャ、コーヒー作らないです……いや、作れないと言ったほうがいいのか。だって、コーヒー飲んだことないでしょうから。無理が一杯なんです。

強引にこの現象を日本風に当てはめるのなら、「カウボーイ味噌汁」みたいなものでしょうか? 全くもって謎です。

 

今まで色々と意見を垂れ流してきましたが、何と言っても大御所サブちゃんは、「料理の鉄人」だと思います。

理由は、自分の身近な人の人生を決定付けたからです。

料理の鉄人も「SASUKE = American Ninja Warrior」と同じように、「Iron Chef America」として生まれ変わり、こちらで放送されています。

「アイアンシェフ アメリカ」、勝手な憶測ですが、「アメリカン ニンジャ ウォーリアー」より、製作者の誠意を感じます。

その「アイアンシェフ アメリカ」ではなく、オリジナルの「料理の鉄人」によって人生の進む道が決まった人物は、働いているホテルにあるレストランのトップシェフでした。

体が大きく、強面の彼と初めて挨拶をした時、真っ先に聞かれたことは「日本人か?」という質問でした。

今のホテルに勤めた当初は、今までの職場にいたような親日家に出会うことはなかったので(お陰で英語が伸びました)、珍しい質問だなと感じながら「そうです」と答えると、彼は続けざまに「ケンシンは知っているか?」と嬉しそうに聞いてきました。

ケンシン? 上杉謙信?

自分は歴史が好きなので、頭の中の変換一発目は、何の迷いもなく上杉謙信でした。

「もちろん、知ってるよ!」

予想もしない質問に、こちらも嬉しくなり、前のめり的にケンシン ウエスギの話をしたのですが、どうも内容が噛み合いません。

(おかしいな)と思い、一歩引いて冷静に彼の話を聞くと、彼は上杉謙信の話をしているのではなく、「るろうに剣心」の説明を必死にしていました。

敵に塩を送ってない方の、剣心です。

彼は、るろうに剣心が大好きでした。自分もそこまで詳しくないですが、その世代なので話はできます。そんなこんなで会うたびに剣心トークをしていく内に、随分と距離が近くなりました。漫画の力、恐るべし。

ある日、彼が自分の身の上話をしてくれた時に、例のオリジナル料理の鉄人の話題が出ました。

「俺が料理人を目指したきっかけは、オリジナル版の料理の鉄人を見たからなんだ。知ってるだろう? 日本の番組なんだから」

「知ってるよ! 俺も好きだったよ。え? 本当にそれがきっかけなの?」

「そうだ。あのキッチンに立っていた鉄人たちがカッコよくてね。今でも彼らの名前を言えるよ」

そう言った彼は記憶を呼び起こすように上を向き、早口で捲し立てました。

 

ロクサブロウ ミチバッ

チン ケンイチ

!!

うーん、シェフ サカイ

!!!

 

!!!……???

うん? この場合は、ケンイチ チン じゃないのか? 

なぜ彼だけ、チン ケンイチ なんだ?

それに、坂井さんの名前をはしょった理由は何だ? もしや、覚えていないのでは……。

 

細かいところが気にかかり、話の衝撃が半減してしまいましたが、有意義な話を聞けました。ここのトップシェフの原点が、あの料理の鉄人だなんて。何だか不思議なストーリーです。

彼の表情から、その番組に対しての愛情が伝わります。良い顔をしていました。

 

自分は、本当に好きな事を話している人の顔が好きです。心からそれを愛していると、感情がダイレクトに伝わってきます。そして、そんな時は決まって、皆、愛情に溢れた良い顔をしているのです。

「誰かが作り出したものが距離と時代を超え、巡り巡って誰かの背中を押す。そして、その押された人が、何かを作り始める」

自分が目指す、創造のサイクルです。

 

PS:

先日、あるスタッフに、「ホセ ヤマザキ」というコメディアンを知っているか? と聞かれ、てっきり日系スペイン人の方だと思い、「知らない」と答えると、「彼は有名ではないのか?」と驚いていました。

ホセ ヤマザキ。山崎邦正です。インターネットの威力を改めて知ったロッカールームでした。

(因みに、詳しい話を聞いて山崎邦正だと分かった自分は、彼に正確な情報を伝えました。彼は毎年、笑ってはいけないを見ているそうです。すごい時代になったものです)

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(昇りかけの月と、滝の頭上に引かれたピンクライン。勢いを増す満月は、その線を軽々と越えていきます)

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