記憶にある匂い

自分には、カナダへ移住してから新しく始めたことがいくつかあるのですが、その内の1つにファーストネーションズの歴史勉強があります。

「ファーストネーションズ」

カナダではそう呼ぶのが一般的ですが、平たく言うとカナダ先住民、つまりはインディアンです。

 

日本に居る時には、全くと言っていいほど興味も知識もなかったファーストネーションズの歴史に強い関心を抱いた理由は、働いていたホテルでのフトした出来事がきっかけでした。

自分の働いていたホテルは、年に一回開催されるファーストネーションズの方達の全国集会の会場になっていて、その期間中、ホテルは様々な種類の部族の人達で埋まります。

ファーストネーションズの人々、と一口に言っても色々なタイプがおり、見た目では分からない人もいれば、一目でそうだと分かる人もいます。

そんな彼らの中の一人、長い髪の先端を編んでいる男性と仕事中に話をした時、自分は得体の知れない不思議な感覚に襲われました。

彼と向き合って会話をしていると、何だかとても懐かしく、落ち着いて、幸せな気分になったのです。とても初めて会ったような感じがしませんでした。

話の内容自体は別にとりとめのないものだったのですが、何というか、自分の五感全てが、彼から醸し出している雰囲気、独特の香りも含め「知っている」と教えてくれているようでした。

不思議です。不思議なんですが、心はその感覚を疑いませんでした。

 

それから、時間を見つけては彼らについて調べるようになり、始めはハイダ族のアートから入り、アメリカのインディアン、そしてファーストネーションズの歴史へと知識の幅を徐々に広げていきました。

 

時間をかけて知れば知るほど明らかになるのが、彼らに対しての迫害の歴史。

 

白人入植者による侵略戦争、民族浄化、強制移住、一方的な条約破棄に共存という名の寄宿学校同化マインドコントロール。彼らに襲い掛かった脅威を挙げていったら、きりがありません。そして、何よりも驚くのが、この21世紀になってもファーストネーションズへの偏見がしっかりと続いているという事実です。

 

「あいつらはクズなのにオイシイ思いばかりしてる」

「教育水準が低いアル中」

「犯罪者集団」

「ケチな乞食ヤロー」

「何にもしてないのに税金免除はフェアじゃない」

「俺の払った税金をあいつらに使われてると思うと、気分が悪い」

「一体いつまで昔のことで金をふんだくるつもりだ」

 

これらは、自分がこの国で耳にしてきた言葉たちです。

正直、ビックリです。

ヘイトに溢れています。

自分が出会った大半のカナダ人は、程度の差はあれどファーストネーションズに良いイメージを持っていませんでした。

しかし、上に書いたような事を言っている人たちの話を聞いていると、知識が正確ではありません。

皆がよく文句を言う税金免除問題も、無条件に全員という話ではなく、政府に認められたファーストネーションズの人々に限っての話ですし、そして公認されても、すべての税金が免除されるという話ではなく、一部の税金は自分たちと同じように支払わなくてはいけません。

「アル中」「犯罪者集団」と彼らをバカにしている人達は、なぜその状況が居留地、もしくは居留地外で蔓延しているのかの本質を、考えたことがあるのでしょうか。

ファーストネーションズの自殺(自殺と処理された変死体)率の異常な高さの背景など、彼らにしたらどうでもいい事なのでしょうか。

声高に彼らを批判している人達の無知で間違った情報を聞いていると、気が滅入ります。

その人達は声が大きいので、適切な知識の無い人が、その考えに流されて同じような文句を口にします。

まさに、無知の連鎖です。

 

色々考えてしまいます。

「生まれた場所だから、住む」と、「生まれた場所を知って、住む」は大きな違いがあると思います。

先ほどの会話のような無知の連鎖が、歴史の事実を曲げていき、人はまた同じ事を繰り返していくのかもしれないと強く感じました。

日本のニュースの見出しでよく見るようになった「戦争」という言葉も、その一種なのかもしれません。

 

自分が今まで生きてきて見てきた世界では、人は人を差別します。

人種、民族、宗教、優劣、そこに違いがある限り、差別し、区別してマウンティングします。それは、同じ肌の色をして同じ言語を喋っていても関係ありません。なぜなら、そこには「強さと弱さ」という相違点があるからです。

弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく その音が響きわたれば ブルースは加速していく    

自分には、その言葉に全てが詰まっているように思えます。

 

移民に対しての差別も、偏見から始まっています。英語を流暢に話せない、イコール、学力が低いと認識する人は何人もいましたし、移民達のせいで仕事を奪われたと怒っている人も数多くいました。そして、どこからそういった話が出るのか分かりませんが、永住権を取った移民が母国に帰り、そこで引き続きベネフィットを受けているせいで、俺たちの年金が減らされている、というとんでもない話を真剣に捲し立ててくる方もいました。

 

もう、無茶苦茶です。

 

永住権を保持したまま、ずっと母国だけで生活して恩恵を受けるなんて不可能です。

移民は確かにカナダ人の仕事を奪っているかもしれませんが、移民がいて成り立つカナダなので、イーブンだと思います。税金もしこたま納めていますし。

まだ英語が苦手だった頃、無知や無理解により馬鹿にされ、仕事でも都合よく使われてしまう場面が多々ありました。

 

でも、それは自分にとって必要不可欠な経験でした。

 

自分は、日本に居た頃から引きずってきた宿題に取り組まなくてはならなかったのです。

浴びた罵声や偏見は、「弱い者達が、さらに弱い者を叩く」システムから抜け出すモチベーションになりました。

人によってやり方は色々あると思うのですが、自分の場合は、カナダで生き抜く為に「強い者」になる必要があったのです。

 

自分はカナダが好きです。好きだからこそ移住を決めたのです。

でも、カナダに対して移住当初もっていた盲目的な支持はなくなりました。でも、それは自然なことだと思います。

滞在10年以上が経ち、良い面、悪い面の両方を見つめられるようになった後でも、この国に来てよかったという気持ちに変わりはありません。

長いスパンで見れば、まだまだひよこクラブなカナダ生活。

生まれた場所ではないからこそ、もっとたくさんのことを知って生きていきます。

f:id:yoshitakaoka:20161026061329j:plain

(夕日の逆光は、木々の葉に自己主張の機会を与えます)

© Copyright 2016 - 2017 想像は終わらない : 高岡ヨシ All Rights Reserved.