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「Southern Man」とラジオ出演

「Southern Man」

ニールヤングのアルバム「After the gold rush」の4曲目に収録されている曲です。

自分はこの曲を聴くと、マイクに大きなガラス窓、そして困った顔をした化粧の濃い女性が頭に浮かびます。

 

前回の記事で書いたマンツーマンの授業を受け持つもっと前、まだ自分の担当するクラスに四苦八苦していた頃、自分は校長の無茶振りで地元ラジオ局の番組に生出演させられました。

その番組は毎朝、地元ストラットフォードのローカルニュースを放送していて、自分はそこで日本から街の小学校に来たインターンとして紹介されました。

ちなみに自分はこの事を、小さなラジオ局のブースに入るまで誰にも知らされていませんでした。

いつも通り朝出勤し、自分のデスクでその日に使う折り紙を折っていたところ、校長に「1時間くらい時間を取れるかい?」と聞かれ、あれよあれよという間にそのラジオ局に連れてこられました。

着いて間もない頃はそんな風に街の至る所へ校長と挨拶回りをしていたので、その時はこれもその一環だろうという程度の認識でした。しばらくして、何か事態がおかしいぞ? と気が付いたのは、化粧の濃い女性が挨拶の後に自分をブースの中に招き入れた時です。

「これは何ですか?」椅子に腰掛けた時点で不安になり、横にいる校長に何が起こっているのか尋ねると、「ヨシはラジオに出るんだよ」という答えが返ってきました。

ラジオ? ……嫌なんですけど。

心の中にはその気持ちしかありません。

彼は自分を驚かせようと、あえて何も説明せずここに座らせました。

いつもの微笑みを浮かべて親指を上げている校長。悪魔にしか見えません。

拙い英語ながらも、何とか自分の受け持つ授業に慣れてきた当時の自分には、苦行この上ないサプライズ爆弾。

「何を話せばいいんですか?」

気持ちがひどく焦ります。

「大丈夫、心配ないよ。聞かれたことを答えればいいんだ」

ダメだ。この人、何もわかっていない。そんなことが出来るのなら、サンドイッチ屋のオーダーで困っていません。

「あの、何も話せないと思いますよ」

「大丈夫、大丈夫。ドンッウォーリー」

……校長、あんたは何にも分かってない! 自分は彼のやけに軽く聞こえるドンッウォーリーを恨みました。

 

放送が始まり、校長と厚化粧さんが軽快なトークを展開しているのを横目に、自分は頭をフル回転させてました。

この状況を何とかしなくては、何か考えなくては。何か解決策を見つけねば。

英語の引き出しが無い当時の状態でもがいても、魔法のような解決策は当然出てきません。言語はスキルです。経験を重ねて、会得するのです。

結局なんの準備も出来ないまま、厚化粧さんの高速ジャブが飛んできました。

「じゃあ、自己紹介してもらっていいかな?」

「えー。はい。私の名前はヨシ タカオカです。日本から来ました。私はここにいれて光栄だと思っております」

頭で定型文をなぞります。

「オーケー。では、何でこのストラットフォードに来る事になったのかな?」

「えーと、私は語学交流プログラムに参加しました」

定型文でギリギリクリアー。

「ヨシは知っているか知らないけど、この街は、劇場で有名な街なの。特にシェークスピア ーーー」

え? シェークスピア? 何ですか? 何を言ってるんですか? 何でまだ3個目の質問なのに、急に難易度をあげるんですか? 

シェークスピアと聞こえた先の文が、全く頭に入ってきません。

質問を終わらした化粧さんは、こちらに視線を向けます。

「あー。あ……。私は……すみません」

自分の沈黙に、化粧姉さんは困り顔。そんな顔されても、何も出てこないです。自分は咄嗟に横にいる校長の顔を見ました。

「うん。ヨシはね ーーー」

校長が自分の代わりに何か答えます。ありがたい。地獄に仏。

その後も、学校のプログラムだか、生徒のなんだらとか、日本のシステムなんじゃらだとかの話題を振られたのですが、自分の頭に埋め込まれたWindows98はフリーズしたまま動きません。再起動をしても、立ち上げまでに10分はかかるので、化粧さんの質問に答えが追いつかないのです。

その間、自分がしたことは、すっぱい顔をして横のクマ校長の顔を見ただけ。

その都度、校長は「うん。ヨシはね ーーー」と言い、全ての質問に答えていました。

なんなら、日本に関しての質問にも。

校長、あなたのサプライズ、とても刺激的でした。でも、自分、ここにいる意味ないですよね。

 

心底、居心地の悪い時間は、厚化粧さんの曲紹介をきっかけに終わりました。

その時コールされた曲が、ニールヤングの「Southern Man」です。

学校へと帰る車の中、どういう理由か校長はラジオに関しての話を一切しませんでした。その代わりに彼は、ニールヤングが「Southern Man」の中に込めた黒人問題提起の話を、自分が理解できるように言葉を選んでゆっくり話してくれました。

その話を聞きながら、自分は自分自身に無性に腹が立ちました。

英語が通じなかったことはどうだっていいんです。当時は毎日のことでしたから。

でも、あのブースに座っている間、ずっと周りの人に対し「申し訳ない」という気持ちを感じていた自分の気持ちの弱さが、情けなくて腹が立ったんです。

申し訳ない事など、ないんです。根本的な自信のなさからくるその劣等感が嫌でした。

 

その日以来、「Southern Man」は自分のモチベーションを焚きつける曲の一つになりました。特に移民をする前の時期、ちょうど語学力を証明するテスト(IELTS)を受ける際などは、仕事も忙しく勉強との両立が大変な時だったので、この曲をガンガンかけて自分の劣等感に火をつけ、感情と眠気を燃やしてました。

曲の最後に控えている素晴らしいギターサウンドの前、「いつまでだ?」と繰り返しニールヤングが歌う箇所があるのですが、あの部分は正に弱い自分に対し、イヤホンを通して直接語りかけられているように感じて、目を閉じてしまいそうになる自分を文字通り目覚めさせてくれました。

高くて、か細く、そしてすこぶる力強いニールヤングの声に感謝です。

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(3つの椅子を照らす太陽のライト。光線は目に見える形で伸びるんです)

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