「You can do anything you want」という無茶振り

「好きなようにしなさい」

これは以前、ボランティアで赴任していた小学校の校長の決め台詞です。

容姿がクマのような校長は、微笑みを浮かべて、どんな場面でもそう言いました。

好きなようにする、というのはある程度その分野でやっていける知識と経験があって初めて生きる言葉だと思います。

赴任したてホヤホヤ、決まったカリキュラムなし、当時はまだ苦手な英語、ネガティヴ御三家が勢揃いしていた自分の状況には、最も適していない言葉でした。

ですので、当時の自分は、「この人、もしかして丸投げしてるだけなんじゃないか」と疑っていました。

ただ事実、その無茶振りとも思える要求のお陰で自分のアドリブキャパシティーは確実に広がり、そこで培ったメソッドや腹のくくり方は、今の仕事にも生かされています。

もし、クマ校長があえて自分の成長を促すためにそんな態度をしていたのだとしたら、とんでもなく素晴らしい教育者、いや、お師さんです。

まぁ正直、今振り返っても、ただの丸投げに思えるのですが、真相は分かりません。

 

「好きなようにしなさい」で困ったのは授業方針です。

自分は一応、日本を紹介するという名目で派遣されてたのですが、そのやり方について送り出してくれた団体から細かい指示はありませんでした。事前に渡されていたのは日本文化英訳辞典と、「こんな事してみたらどうですか」という紙のみ。

前の記事に書いた通り、今後の方針をクマ校長に相談したのですが、「好きなようにしなさい」と返すばかり。

単純にラチがあきません。でも、今考えれば、小学校側がカリキュラムなど持ってるわけないんですよね。紹介するのは日本の事だし。でも、当時はパニックになり何の方針もない団体と学校を逆恨みしました。

ともかく、自分はグレード4と5の(小学4、5年)グループ学習の時間を割り当ててもらい、授業を始めました。

 

ドタバタだった初回のオリエンテーションが終わり、本授業が始まる2日目の前日、どうしようと考えに考えた末に、開き直りました。もともと何のトレーニングも経験も積んでいない自分が、ちゃんとした授業など出来るわけがない。だったらクマ校長のいう通り、自分の好きな事をしよう。

開き直ってからは、ただただ自分が小学生だった頃の事を思い返しました。

ただ座って聞いているだけの授業はつまらない。内容も、キャッチーじゃないもの以外は興味ない。

かすかに蘇ってきた当時の気持ちに従い、手持ちの選択肢を削っていって残ったのが日本語会話、折り紙、紙相撲、だるまさんが転んだやケイドロなどの遊びでした。

いきなり、だるまさんが転んだは出来ないと思ったので、しばらくは日本語を会話形式で紹介していくことに決めました。

 

A「こんにちは」

B「こんにちは」

A「元気ですか?」

B「元気です」

A「いい天気ですね」

B「そうですね」

A「さようなら」

B「さようなら」

 

限りなく不自然です。でも、いいんです。「ハロー」「ハワユー」と同じように、彼らの記憶の片隅にこのフレーズが残ってくれるのなら、御の字です。

授業は全体で復唱した後、生徒達をグループに分け、さっき練習した会話を順番に発表してもらいました。クマ校長に確認したら順位もつけていいということだったので、一番うまく出来たグループには、金と銀の折り紙で作った鶴を贈呈する事にしました。

これがうけました。いや、授業内容ではなく、金と銀の鶴。生徒達は、まるでビックリマンのキラシールを集めるかのごとく、予想以上にハキハキと不自然な会話をこなせるようになりました。

ビックリマン効果、恐るべし。

 

そんなこんなで良い感じに進めていたのですが、ずっと会話を続けていくわけにもいきません。なので、何回か済んだ時点で他の授業に移行しました。

ちなみに、授業全体で生徒に一番人気だったのは、紙相撲でした。

折り紙も反応はよかったんです。最初は犬の顔など、ごくシンプルなものから始めて、最終的に出来る生徒は鶴を飛び越え、シャツや薔薇など、手先が不器用な自分よりもよっぽど上手に折れる子も現れました。

だるまさんが転んだは、盛り上がると思ったんですが、ダメでした。それは自分が一番シンプルな問題点を見逃していたからです。

「だるまさんが転んだ」って、生徒達、言えないんです。言葉が長すぎて。

「ダァルゥメサァ……」こんな感じで。なのでゲームが成立しません。せっかく体育館まで借りたのに。

同じ体育館でやったケイドロは、まだ形になりました。欲を言うなら、もっと敷地が広ければ更によかったと思います。

 

先ほども言いましたが、何よりもヒートアップしたのは、紙相撲なんです。

まず、作り方がシンプルで生徒間の差が出ない。そして生徒達自身が各々の力士をカスタマイズする事によって、ペーパースモーレスラーズに思い入れ出来たのがよかったのだと思います。

そうしてやっていくうちに、普通の対戦では満足できなくなった生徒達の要望でトーナメントも開催しました。半端なく盛り上がったのですが、正直、はたから見たら、ただの遊びです。ですので、少し心配になりクマ校長に「このまま続けてもいいんですか?」と尋ねました。

「授業の時間内だったら何してもいいよ」そう答えた彼の顔には、いつもの微笑み。

自由にもほどがあります。

結局、白熱の熱狂を続けた結果、あれほど時間をかけてやった「コンニチハ」「サヨナラ」よりも「ヨコズナ」「オオゼキ」という言葉の方が生徒間で浸透しました。

遊びに勝るものなし、です。

余談ですが、紙相撲人気に便乗して、一度だけ実際の相撲の映像を見せた事があるのですが、全くもって授業になりませんでした。

彼らの目に最初に飛び込むのが、「半裸のビック太っちょ」という時点で、何を説明してもダメなんです。文化だ、国技だと言っても、一言も耳に届いていない様子でした。

挙句に、一人の生徒が発した「ウチのお母さん、あんなパンツ穿いてる」という発言にその場の流れ全てを持っていかれ、終了しました。

ママの紐パンと回しは違うんです。

相撲の素晴らしさを伝えられず、残念でした。

 

クマ校長の丸投げによって、好き放題やらせてもらった授業。

彼の無茶振りは、別枠クラス作成、ラジオ出演と続くのですが、長くなったのでまた次回に書きたいと思います。

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(ムスコーカにいた頃、よく散歩した公園にあったイヌクシュ。花と共に佇んでいます)

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