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カナダ人の職業ペルソナ

カナダ 海外生活

 ペルソナ ー 仮面・社会における外面

 

皆様は働いている時、職業の仮面をつけますか?

 

自分はカナダのホテルで働いているのですが、もちろん職業ペルソナ、つけてます。

 出勤時、車に乗った辺りから「よいしょ」と仮面を取り出し、最初の赤信号でバックミラーを見ながら装着します。

「ホテルマン」という外面をつけた後は:

いわゆる ”良い人” になります。

姿勢がよくなります。

言葉遣いもよくなります。

顔を作ります。そして、その表情を長時間キープできます。

なんなら、声も爽やかになります。

 つまり、胡散臭くなります。

まさしく、自分は、プロフィール写真にある様な顔で働いているのです。

 

職業ペルソナをつけて社会生活を送るのは、自分にとって自然な事で、日本に居た時からそうしてましたし、それ自体を悪いと認識した事はありませんでした。

が、しかし、です。

カナダへ移住して10年。3つの職場を目にしてきた結果(最初の小学校でのボランティアを含めれば4つ)、上記のように考えていた自分の中の常識は、徐々に崩れて、というか崩されていきました。

 

 あくまで、自分が見てきた世界に限られますが、結論からいうと、カナダ人は己の内面をガッツリと覆い隠すような職業ペルソナを、つけていません。

こう断言すると大きな誤解や偏見を生むかもしませんが、実際、この10年、日常生活や職場で自分が目にし、接してきたカナダ人は、隠しているつもりでも、つけている仮面に大きく穴が空いており、「あの、すみません、全く隠れてませんよ」と指摘したくなる程、素顔がスケスケでした。

よく言えば、裏表がないんです。

悪く言うと、職業上のTPOなんて、ド無視なんです。

でも、ストレスを溜め込まず、その場で口に出してすぐ発散するので(Fワード連呼)、とても生きやすそうです。

コンビニや、コーヒーショップ、スーパーにレストランなどの身近な所から、病院や、市役所、はたまた警察署まで「ん? ペルソナ? 何だそれ? それつけて、何か得するのか?」といった状況の方々を見かける機会があるのですが、時折、このシチュエーションでも? と驚きを隠せなくなる場面に出会うことがあります。

 

つい先日もそうでした。

その日、ホテルは、全オンタリオ消防士ミーティングが行われているのに加え、日本、中国、ドイツ、韓国からのツアー客が到着する忙しい日でした。

目まぐるしい時間が過ぎ、何とか落ち着きを取り戻した夜9時半過ぎ、ホテルにあるレストランのマネージャーが血相を変えて自分の元へ駆け寄ってきました。

「日本人のツアー客の1人が、食事の後に倒れた! ツアーガイドでは話が通じないから、通訳しに来てくれ!」

報告を受け、慌てて現場へ行くと、大柄な男の人3名に囲まれて小柄なお婆さんがレストランとバーの間で横になっていました。

日本人に限らず、ツアーで来られているお客さん、特に高齢の方に多いのですが、時差による睡眠不足や合わない食事による栄養不足が原因で、倒れてしまうことがあります。

そういった場合、まず救急隊員に連絡し、その方たちがスムーズにストレッチャーを運び入れやすいように、倒れた人の周囲、及び、入り口までの通路確保をしなくてはならないのですが、自分がその場所に着いた時には、もうその全ての手順が首尾よく済まされていて、後は救急隊員の到着を待つだけとなっていました。

毎回この状況で繰り広げられる「ワタワタ大パニック」がないことを不思議に思い、レストランマネージャーの顔を見ると、近寄ってきた彼は、倒れたお婆さんを取り囲んで脈を取っている3人の男性を小さく指差し、「彼等が全部やってくれたんだ。あのお婆さん、消防士たちの前で倒れるなんて、ついてるな」と言いました。

倒れている時点で、ついてるもくそもないですが、でも、確かに。

消防士たちが来るのは、1年に1回。

しかも倒れた場所が、たまたまバーで飲んでいた消防士の前。

お婆さん、何かもってますね。

倒れた時の状況や、旅行中の状態などをお婆さんから聞くと、やはり寝不足なのと、ステーキやポテトなどの食事が口に合わず、あまり食べていなかった事が分かりました。

意識も脈も倒れた時よりハッキリしているし、多分貧血だろうと消防士と話していると、脈を取っていた1人が真面目な顔をして、こちらを向きました。

 

「ところで、君。今、ジェイズが勝っているかどうか分かるか?」

 

え? ジェイズ?

ジェイズ。トロントブルージェイズ。

メジャーリーグベースボールのチームです。

 

「倒れた時、頭を打ったか?」

「今、俺の指を握れるか?」

「名前と住所、それに年齢をしっかりと言えるか?」

「さっきの食事で何を食べたのか?」

「何か持病を持っているか?」

「過去に何か大きな病気、もしくは心臓の手術をした事はあるか?」

 

こんな調子の質問を矢継ぎ早に同時通訳し、いくつかの質問が拾えないガイドさんにも、内容を1つ1つ説明していたところだったので、もちろんガイドさんは自分に、「今の質問は何ですか?」と聞いてきました。

 

「あ、あの、脈が落ち着いてきてるそうです」

言えない。ガイドさんに本当の事など。

 

おじさん、ジェイズの結果、今、どうしても知りたい? 

おじさんの仮面、取れてるよ。

 

ストレッチャーに乗せられたお婆さんは、救急車に乗り、簡単な検査をしましたが、病院には行きませんでした。カナダでは意識不明でない限り、自分の選択で病院に行くか行かないかを選べるのです(旅行者はお金がかかるので特に)。

体調が少し戻った様子のお婆さんは、PCを使い、必要事項の記入をして終了となるのですが、その記入を手伝っている自分の横で、両腕タトゥーの救急隊員の喋りが止まらなくなりました。

 

「日本でもポケモンGoは流行ってるのかい?」

「ここら辺だったら、どこのジャパニーズレストランがお薦め?」

「俺は日本のアニメが好きなんだ」

「今年のジェイズの強さは本物だ」

 

お兄さん、その話、今、どうしてもしたい?

お兄さん、今、ポケモンGoの事なんて、どうでもよくない?

お兄さんの仮面、取れて……あれ? お兄さん、仮面してないじゃん!

 

このお婆さん緊急じゃないだけで、弱ってますよ。

ほら、婆さんの目、死んでるよ。

倒れてから、この人、トイレ行きたいって言ってるって、訳したでしょ。

お兄さんの質問の答えは、是非、タブレットでググってね。

頼む、お兄さん。もう、この人を解放してあげて。

 

原則、1人しか乗れない救急車から出ると、とても深刻な顔をしたガイドさんと、お婆さんのお友達が外で待っていました。

 

「ずいぶん時間が掛かってましたけど、大丈夫だったんですか? 心配で」

 「あ、えぇ、脈が落ち着いたから大丈夫なようすです」

 そう答えた自分は、ポケモンGoの話を心にしまい、お婆さんを部屋へ送りました。

 

最低限の職業ペルソナを持つのは、自分は必要な事だと思います。

仮面をつけていない人が多いカナダは、日本のような完璧なサービスは受けれません。

コンビニの店員は携帯いじってるし、ガソスタの爺さんはピーナッツ食って、鼻ほじってます。

ただ、救急隊員のお兄さんや、ここで出会った人たちのストレスフリーな表情を10年間、見続けてきた結果、仮面に穴がある、もしくは厚さがウッスウス状態な方が、心の負担を少なくして生きていけるのだと実感しました。

 

自分はこれからも職業ペルソナをつけて働きます。

ただ、その仮面は10年前に比べると小さい穴が沢山空いていて、皮も随分と薄くなりました。

あと10年ここにいたら、きっと自分の仮面はスッケスケのシースルー状態になっていることでしょう。

 

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(大好きなトレイルの終点にある、枝立ち池。この景色の前で、ペルソナはいらない)

 

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