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9割方、白人の街と、丸投げ校長の微笑み

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9割方、白人の街と、丸投げ校長の微笑み

 

自分のカナダ生活は、オンタリオ州にあるストラットフォードという人口約3万人の小さな街からスタートしました。

スタートしました、とは言っても、この始まりの場所は自ら選んで決めたわけではなく、「現地の教育機関で日本文化を紹介しながら英語を学ぼう」という留学プログラムに申し込み、その団体が割り当ててくれた小学校の赴任地でした。

 

到着まで殆ど予備知識が無かったストラットフォードは、街の中心に大きな川が流れていて、その両岸に距離の長い遊歩道と公園が広がる風光明媚なところで、ダウンタウンも昔ながらの個人商店やレストランがしっかりと息をしており、活気に溢れてました。

後で知ったのですが、ストラットフォードは演劇の街で、小さな街に実に4つの劇場があり、4月から10月にかけて毎年開催される演劇祭「ストラットフォード・フェスティバル」は、カナダ国内からたくさんの観光客を集める一大イベントとして名が知れていました。

 

そう、ここは四方を農地で囲まれていても、只の田舎町ではなかったのです。

しかし、着いた翌日に赴任先の学校の先生、兼、借りる部屋のオーナーさんに街を案内してもらった時、この地に少しの違和感を覚えました。

あれ? さっきから紹介してくれる人や、街の中を歩いている人達、全員白人だ。

おや? お隣さんも。あら? 向かいの坊ちゃんも白人さん。

 

以前、高校を卒業した後にバンクーバへ行っていた時期があり、その時のイメージが強かったので当時の自分は、「カナダは人種のるつぼ」と勝手に思い込んでおり、白人さんだらけの街は予想外でした。

 

街中でこの様な状況という事は……

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(教室はどのクラスも日本のと比べてカラフルで、ゴチャゴチャしてました)

 

小学校でもバッチリ、ホワイトでした。

因みに、自分は決して人種がどうだとかこうだとかを言ってるわけではありません。只、あまりにも持っていたイメージとかけ離れていたので、ビックリしたのです。

初めに全クラス挨拶回りした時に、確認できる範囲でアフリカ系の生徒が5人ほど、アジア人は皆無でした(しばらくして、アジア人とのハーフの生徒は3名ほどいる事が判明しました。でも、見た目は全く分からない)。

 

もともと「日本文化を紹介しながら英語を学ぼう」というのが、ここに来た本来の目的なのですが、送り出してくれた団体は、これといって授業のやり方に関するカリキュラムを指定していませんでした。

なので自分はてっきり、こちらの校長先生、及び、どなたかが今後の方針なり、計画を用意してくれているものだと思っていました。

今なら、分かります。そんなことは期待しちゃいけないと。

今なら、分かるんです。カナディアンスタンダードが。

皆様への挨拶が終わり、髭もじゃメガネクマの風貌をした校長と彼の校長室で面談をした時、「これから、どんな風にやっていけばいいですか?」と自分の思いをタドタドしい英語で伝えました。

何らかの具体的な答えが返ってくることを期待していた自分に、校長は一言、「ヨシの好きなようにしなさい」と優しい微笑みをくれました。

うーん、校長。ありがたいんですけど、求めてた答えと違うんだよなぁ。

「あの、校長。何でもいいんで、何かアイデアを頂けますでしょうか?」

「うん? 何でもいいんだよ。ヨシの好きなようにしなさい」

スマイルアゲイン。

うーん……いや、できないです。いきなり来て、英語も満足に話せない自分が、外国人の生徒の前で好きなように羽ばたくなど到底無理な話です。

 

「大丈夫、もうグレード4とグレード5の先生方には、グループ学習の時間を異文化交流の時間として使ってもらうように頼んであるから。時間は50分くらいあれば、いいかい?」

 

いや、全然よくないです。

 

「はい。ありがとうございます」

言えない。この問題をクマさんとディールする英語力がありません。

 

仕方がない、腹をくくろう。

えーと、自己紹介で10分。

挨拶「コンニチワ」の全体練習で10分。

あと何だ? 初回で折り紙はないから、どうすれば? 

あ、世界地図だ! 日本はここにありますよぉー、ってやつだ。それで粘って15分。それで? ダメだ。何もない。15分空いてしまう。

 

「もし授業の最後にヨシの時間が取れるなら、生徒たちに日本に関しての質問を聞いてみたらどうかな? それにヨシが答えていくんだ」

微笑みクマからの助け舟。

質疑応答。QアンドA。

ありがとう、クマ校長。これで何とかなりそうです。

 

嵐のような「コンニチワ」の復唱と、思ったより小さな地球儀の中の小さなジャポンとの睨めっこを終え、何とか質疑応答まで漕ぎ着けた頃には、極度の緊張で気力が限界に達していました。

 

よし、あと少しだ。何とか乗り切ろう。

 

「みんな、椅子から立ってヨシの周りに座ればいいんじゃないかい? そうすれば、みんなの顔がよく見えるよ!」

授業見学に来ていたクマ校長が、そう言って親指を上げ、それを合図に生徒達が机と椅子をどけ、自分を中心として扇状に広がりました。

クラス全員の目が迫る。

校長、余計なアシストです。

 

見かける人、9割方白人の街、ストラットフォード。

ここの生徒さん達にとって、自分が人生で初めて会話するアジア人になる可能性が高い。

何人かの生徒にとって、変な発音の英語を話す自分は、明らかにミステリアスなアジア人です。

「ジャパンでは何の言葉を話すの?」

日本語です。

「ハンバーガーは食べた事ある?」

ここと変わりませんよ。

「どうやって、あんな小さな島に人が一杯住めるの?」

思ったより小さかった地球儀は、学校の備品の問題だ。もう少ししたら「縮尺」って言葉、習うから。

「そっちのテレビでもシンプソンズはやってるの?」

え? シンプソンズ? それは、分からない。

「プレーステーションあるの?」

日本から来たんだよ。

 

案外テンポよく受け答えを進めれていると思っていた矢先、1人の男子生徒の発言がきっかけで、会話のベクトルが面倒くさい方向へ向いてしまいました。

「俺、Sushiを食べた事があるよ」

いや、自分が悪かったんです。ドヤ顔で報告してくれたソバカス君に応えようと、「オー、リアリー?!」などと過剰な反応を見せてしまったのが、いけなかったんです。

「俺、この前ヌードル食べたよ」

「俺、忍者タートルズ知ってるよ」

「家にグリーンティーがあるよ」

「私のお父さん、マレーシアってところに行った事があるよ」

「俺、ジェットリー知ってるよ」

ん? マレーシア? ジェットリー? 

 

順調に来ていたQアンドAが、自分が「Sushi」を拾いすぎたばっかりに、日本というか、なんならアジアを飛び越えて、「私、何かオリエンタルな物、知ってます」報告会になってしまいました。

ありがとう、皆様。必死になってくれて。

分かります、その気持ちは。

 

いにしえの中学1年の時、外国人の教師が英語の授業に参加したことがあり、自分は勇気がなくて言えませんでしたが、本当はあの時言いたかった。

「俺、シュワちゃんとスターローン知ってるよ」と。

 

カオスが渦巻き、収集がつかなくなった報告会を担任が制した後、1人の女の子がこちらに近づいてきて、赤とオレンジの配色をした鉛筆を「あげる」と言って手渡してくれました。

受け取った鉛筆に白く刻まれていたのは、「黄 志正」の文字。

コウ シセイ?

何だコレ。何なんだコレ……。

 

何故、この子が自分に「黄 志正」の鉛筆をくれたのか?

そもそもこの鉛筆は何なのか? 

コウ シセイとは何者なのか? 

というか、この漢字の適切な読み方は何なのか?

この鉛筆の出処は一体どこなのか?

 

あの時、微笑みクマ校長の丸投げは何とかやりきりましたが、たくさんのハテナを自分に植え付けた鉛筆の真相は、10年経った今でも明らかになっていません。

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