創作

橋の上の神様

僕は「場所」を探していた。 昼が昼でなくなり、夜が夜でなくなった日を随分長く過ごしたせいで、右も左も分からなくなっていた。 締め切った窓。 肌に纏わり付くTシャツ。 通販番組の司会者が大きな声を上げた時、「もう終わりにしよう」と心が言った。 ビ…

アーティフィシャル・フラワーズ 《後編》

「だからよ、何でセリフを言うときに眉毛が上がるんだよ。それじゃあ演技が嘘くさくなっちまうじゃねぇか」 口に含んだ煙を上へ吐き出したチャーさんは、タバコの先をワタル君へと向けた。 「え? 上げてないですって! チャーさんの見間違えですよ。ていう…

アーティフィシャル・フラワーズ 《前編》

8時は越えたか? いや、まだ壁に光があるから、7時半過ぎか? だとしたら、2時半前に寝たとして、約5時間。 枕の横で背中を見せている電話をひっくり返し、手探りでホームボタンを押す。 ( 7:04) 7時4分。 勘弁してほしい。 最後の1杯。 あの冷…

西口ターミナルと後ろ姿

緑奥駅の西口改札を出て左に進み、エスカレーターを避けて長いスロープを歩いておりる。 地面から天井まで伸びる透明な窓が続く、緩やかな斜面。 日が完全に沈みきった後、このスロープから大きなバスターミナルを眺めるのが好きだった。 程よい暗さが溢れた…

茜橋で待ってます《後編》

「大学おめでとう。おばさんから聞いたよ。何で直接教えてくれなかったの?」 久しぶりに顔を合わせたエミちゃんは、いつもそうしているように小声で俺に話しかけた。 「ごめん。なかなか言うチャンスがなくて。最近バイトも被らなかったし」 2月半ばの登校…

茜橋で待ってます《前編》

茜橋で待ってます 今夜、7と共にいた数字の時に 茜橋で待ってます 白いコピー用紙にプリントされた文字。 週に1回、決まって水曜日に投函されるこの紙を見るのは、これで3度目だ。 何が目的かは分からないが、入れたヤツの目処はだいたい立っている。 ど…

爺さんとアルバム

「明日、仕事がないやつは朝までな」 テーブルの上にビールのケースを置いたコースケは、母屋に向けて手を合わせ、いつものように白い歯を見せた。 亡くなったツヨシの爺さんの意思により、親族席に座ったコースケは、式の間中ずっと泣いていた。 小学校から…

6172本の物語

その子の放った3ポイントシュートは、リングをかすることなく、ストンとネットに吸い込まれた。 2本立て続け、しかも左右、両サイドからだ。 「あのね、ああいう奴はね、見えている世界が違うんだよ」 体育館すみっこ部の御意見番が腕を組み、相棒の角刈り…

赤が青に変わる瞬間

おぃ、そーた。 そーたっ! おぃっ! こっち来てみろ。 いいからっ! とにかくこっち来いって。 また母ちゃんの事でからかわれたんか? そんじゃあ、麦茶、飲むか? キンキンに冷えたのがあるからよ。 おぃ、そーた。 分かってると思うが、おめぇは何にも悪…

今川焼きとナポレオン

「商店街の誓い」という件名の付いたメールをツヨシから受け取って、今日でちょうど一週間。長らく時間は掛かってしまったが、ようやく全て読み終えることができた。 メールの本文ではなく添付ドキュメントとして送られてきた内容は、物心がついた時から遊ん…

彼が頭を下げた日

同じ団地の2号棟に住む4人、通称「オリジナルフォー」から始まった集まりのメンバーも7人に増え、せっかくなので小学校最後の夏休みに何処かへ行こうと計画したのが、後に恒例行事として続いていく「五厘サマーキャンプ」の始まりだ。 高校1年の夏にキャ…

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