自分のケツは、自分で拭きます 〈高岡ヨシ + 大関いずみ〉

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「おーい、君ぃー! 聞こえるかー? そんなとこで、何してるんだー?」 

 

「あっ! お勤めごくろうさまです! あのー! わざわざ来てもらって悪いんですが、間に合ってまーす!」 

 

「いやー、えっ? 間に合ってるって、何だろうなー? とにかくさー、そこ危ないから降りてきなよー!」

 

「何だかすみませーん! でも、降りる気はないんで、お帰り下さーい!」

 

「いや、帰らないよー! ねぇ、君ぃー! そこで何をしてるのー?」

 

「自分のケツを拭こうとしてるんでーす!」

 

「うん、そうだねー! いや、そうじゃなくて、何でそんなトコにいるのかなー? どうしてそこに便器があるのかなー?」

 

「あのー! それ説明すると長くなるんで、勘弁してください! とにかく、今、僕は忙しいんでーす! 放っといてくれませんかー!」

 

「んー、放っとけないよー! あのー、君ぃー! もしねー、お尻を拭きたいんだったら、降りてきた方がいいよー! そこ危ないし、トイレなら下にもたくさんあるよー!」

 

「あのー! 下はダメなんです! どうしても、ダメなんでーす!」

 

「何でかなー? 何で降りてこられないのかなー?」

 

「話せば長くなりまーす!」

 

 

ガヤガヤ

 

クスクス

 

パシャ

 

ガヤガヤ

 

クスクス

 

パシャ

 

 

「あ! ちょっと待っててねー! すぐ戻るからー!」

 

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

 

「すみませんが、出て行ってもらえますか? あの、ちょっと、撮らないで下さい。撮らないで。あの……何で笑ってるんですか? 見て分かりますよね、この状況に何ひとつ面白い事はありませんよ。ほら、早く出て行ってください。これ以上、ここに残るつもりでしたら、本官への公務執行妨害で逮捕します。さぁ、出て行ってください!」

 

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

ガチャ

 

ツカ

ツカ

ツカ

 

 

「ごめん、ごめん! 話の続きなんだけどー! 何で降りてこられないのかなー? 長くなっても構わないから、教えてくれないかなー?」

 

「今、今みた通りですよー! 下に降りたって、結局、同じなんでーす! 見ましたよねー? みんなの表情? あれが、全てでーす!」

 

「そうかなー? みんながみんな、同じじゃないと思うよー!」

 

「同じでーす! 僕の見てきた世界は、同じでしたー! あのー! もう、いいですかー? 僕は自分のケツを拭きたいんでーす!」

 

「やっぱり、そこじゃなきゃダメかなー?」

 

「ダメでーす! 僕はー! 僕はー! もう十分拭いてきたんです! 下でずっとー! 他人のケツばっかり! 拭いてきたんでーす! もう! 嫌なんです!」

 

「えーと、他人のケツって、どういうことかなー!」

 

「あのー! 何でみんな、嘘を教えてくるんですかねー? 助け合いだとか! 人に優しくとか! 自分の事じゃなくても、気付いた人がやりましょーとか! 全部、嘘じゃないですかー! ずっと、そうしてきましたよー! 親にも言われたんでねー! でもー! そうやって生きてきてもー! 何も報われなかったでーす!」

 

 

「……」

 

 

 

 「親がー! 借金を抱えましたー! ギャンブルでーす! でも、僕はちゃんとやりましたよー! 家族は大事に、ですもんねー! だから、バイト増やしてー! お金入れてー! やることはやりましたよー!」

 

 

「……」

 

 

「でもー! 足りないってー! 全然足りないからー、学校やめて働けってー! もう! 嫌なんでーす! 拭いても! 拭いても! 拭いても! キリがなーい! だから、終わりにするんです! 自分で自分のケツを拭いて、それで終わるんでーす!」

 

 

「……」

 

 

「それしか、ないですよねー! 下に降りてー、何があるんですかー? あなたがお金をくれるんですかー? 諦めちゃダメとか! 世の中そんなに悪くないだとか! 綺麗事以外に、解決策なんかありませんよねー!」

 

 

「……」

 

 

「もう、いいですから! 帰ってくれませんかー?」

 

 

 

 

 

「親父がー、親父が首を吊ったー! 

 

本官が17歳の時、理由はギャンブル! 

 

君んちと同じだー!    

 

 

 

ショックだったー! 

クソッタレって思ったー! 

みんないなくなればいいって思ったー!    

 

 

 

 

下の世界はー! こんがらがってるー! 

どっちにいってもー! 遠回りばっかだー!                       

 

 

 

 

 

友達にならないかー? 

 

本官とー! 

友達になってくれないかー! 

 

 

 

 

どこにもいかなくていいー! 

共通の趣味もなくていいー! 

だだー! 

君がよければー! 

友達になってくれないかー!

 

 

 

 

本官の名前はー! 

 

……俺の名前は、タグチコウタ! 

 

生まれは神奈川だー!

 

 

君のー! 

 

君の名前を、聞かせてくれないかー!!!」

 

 

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***

 

〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉大関いずみ

 

大関いずみ氏に、感謝。

fukaumimixschool.hatenadiary.com

ねぇ、知ってる? 〈高岡ヨシ + ミチコオノ〉

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ねぇ、知ってる?

あの子のお母さん、PTAの会長さんとできてるらしいのよ

 

ねぇ、知ってる?

あの子の家の弟さん、やっぱり変なんですって

 

ねぇ、知ってる?

あの子のお母さんの出処、どうも橋の向こうの地区らしいのよ

 

ねぇ、知ってる?

あの子のお父さんの会社、噂通り倒産したんですって

 

 

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ねぇ、知ってる?

あなた達の話、全部聞こえているよ

 

ねぇ、知ってる?

あなた達が笑ってしている話、全部おかしくも何ともないんだよ

 

 

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おい、知ってる?

あいつ、昨日もヤられたんだってよ

 

おい、知ってる?

一緒に殴れば、金がもらえるんだってよ

 

おい、知ってる?

あいつ、授業中に血を吐いたらしいぜ

 

 

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ねぇ、知ってる?

あなた達の話、全部聞こえているよ

 

ねぇ、知ってる?

あなた達が笑ってしている話、全部面白くも何ともないんだよ

 

 

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あなた達が知りたいと思っている話を、私は聞きたくない

あなた達が笑ってしている話を、私は全然面白いとは思えない

あなた達の興味があることを、私は知らない

 

「何にも知らないんだ」ってあなたは言うけれど、私だって知っていることはある

 

 

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ねぇ、知ってる?

誰もいない校庭に横たわると、月面にいるように感じるんだよ

 

ねぇ、知ってる?

夜中プールに忍び込んで、ずっと水面を見ていると、急に光る瞬間があるんだよ

 

ねぇ、知ってる?

デパートの屋上にある看板をのぼると、黄色と赤と青黒い空が迫るんだよ

 

ねぇ、知ってる?

早朝、日が昇る少し前に神社に行くと、拝殿がやけに白く見えるんだよ

 

 

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あなた達が知っていることと、私が知っていることが、目の前に揃った

お互い、これ以上、隠していることはないはずだよね

 

だったらもう、「おあいこ」にして帰ろうよ

知らない間に、外は真っ暗だ

 

さぁ、もうやめにしよう

これ以上、違いを求めたら、どちらかが消えなきゃいけなくなっちゃうから

 

 

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***

 

〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉ミチコオノ

 

ミチコオノ氏に、感謝。

fukaumimixschool.hatenablog.com

今回の詩は、こちらに収録されています。

読んでいただけたら、嬉しいです。 

私が私をやめたなら

私が私をやめたなら

 

七日後の秘密

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「急に呼び出して悪い」

 

「それはいいけど、誰もいないよね」

 

「誰もって?」

 

「ヤマカワさんとか」

 

「大丈夫。いない、いない」

 

「本当に? 倉庫なんかに呼び出すから、構えちゃったよ」

 

「ごめんな」

 

「いいよ。それよりさ、月曜どうだった? やっぱり新しいことされた?」

 

「月曜? あぁ、水のやつ?」

 

「うん。あれ、ひどくない? 着替えなんて持ってないから、ビショビショのまま帰ったよ」

 

「俺も。すれ違う人にジロジロ見られた」

 

「あんなの、何が楽しいんだろうね?」

 

「あいつらが笑ってしてくるやつ、全く理解できない」

 

「最低だね」

 

「あぁ、最低だ」

 

「あのさ、聞くのが怖いんだけど、何か緊急事態あった?」

 

「いや、大丈夫。今のところは何の連絡もない。今日呼んだのは、ヤマカワ関連のことじゃないんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「ちょっと聞いて欲しいことがあって」

 

「うん。どうしたの」

 

「あのさ、タカギ先生って、結婚してたっけ?」

 

「タカギ先生? 保健室の?」

 

「あぁ」

 

「いや、知らない。保健室のタカギ先生でしょ? 結婚してるなんて話、聞いたことないよ」

 

「そっか」

 

「何で? 何かあったの?」

 

「先週の水曜なんだけど、なんとなくヤマカワとかに呼び出される気がしたから、保健室に逃げたんだ。水曜って、よく呼び出しがあるから」

 

「うん。水曜の昼休み明けって、危ないもんね」

 

「危ない。事情は話してないけど、タカギ先生って基本なんにも言ってこないから、その日も『頭が痛い』って言って、寝かしてもらってたんだ」

 

「僕も時々そうしてる」

 

「あそこさ、寝る時、あのカーテンみたいのでベッドをグルッと隠すだろ? その日もタカギ先生がそうしてくれたんだけど、滑りが悪かったのか、ちょうど枕の部分にちょっとした隙間が出来たんだ。本当にちょっとなんだけど、自分で閉めるのもなんだから、そのままにしてたの。俺が寝てたベットは入り口側だったから、そこからは先生の後ろ姿が見える感じ」

 

「うん」

 

「いつもそうなんだけど、寝っ転がっても寝れないから、天井をずっと見てた。そしたら、『ジャキッ ジャキッ』って音が聞こえてきて。ゆっくりと、何かを切るような音」

 

「音?」

 

「あぁ。その時、部屋には俺と先生しかいなかったから、気になって隙間から覗いたんだ。ハサミは見えたから、机の上で何か切ってるのは分かったんだけど、何を切ってるのかまでは見えなかった。何か作業をしてるんだと思って気にしないようにしたけど、途中から声も聞こえ出して」

 

「声って、先生の?」

 

「『出てくるな』って、声。最初は小さくて何を言ってるのか聞き取れなかったけど、意識したらだんだんクリアに聞こえてきた。『出てくるな』『出てくるな』って」

 

「え、それはサエキに対して言ってたの?」

 

「いや、独り言なんだと思う」

 

「『出てくるな』って?」

 

「何かを切りながら、小さい声でずっと。何だか変な感じがして、先生の後ろ姿から目が離せなくなった」

 

「その時、何か声をかけた?」

 

「かけないよ。かけれないよ。それから少しして、先生が誰かに呼ばれて部屋を出て行ったんだけど、いったい何を切ってたのか凄い気になってね」

 

「もしかして、ベッドから出たの?」

 

「五分くらい待ったんだけど、先生帰ってこなかったから」

 

「出ちゃったんだ」

 

「だって、訳の分からないこと言いながら切ってたんだぜ」

 

「それで、机の上に何があったの?」

 

「机の上には何もなかった。切ってたものは先生が部屋を出てく時に、引き出しにしまってたからな」

 

「その引き出し、開けてないよね?」

 

「開けたよ。そこまでいったら開けるだろ」

 

「開けないよ。開けちゃダメだよ」

 

「そんなこと言われも、もう遅いよ。開けたんだから。まぁとにかく、そこには赤い布っていうか、お守りみたいなやつがバラバラに切られてあった」

 

「お守り?」

 

「あぁ。交通安全みたいなやつ。何のお守りかは分からなかったけど、バラバラだった」

 

「あのさ、それやってたの、本当にタカギ先生だよね? 保健室の」

 

「そうだよ。それ以外にありえない」

 

「何でそんなこと」

 

「分からない。それに、そこにあったのはお守りだけじゃないんだ。バラバラになったお守りの下に、絵があった」

 

「絵?」

 

「うん、これ。この絵」

 

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「何、これ?」

 

「分からない」

 

「ねぇ、何でこの絵をサエキが持ってるの?」

 

「引き出しを開けてこの絵を見つけた時、保健室に生徒が入ってきたんだ。それで咄嗟にポケットに入れた」

 

「その時、先生も帰ってきたの?」

 

「いや、生徒だけ。確か、ケンジと同じクラスのシミズ君だと思う。なんか、タカギ先生を探してるみたいだったけど、『いませんよ』って伝えて、気まずくなったからそのまま部屋を出た」

 

「ねぇ、その絵の裏に何か書いてあるよ」

 

七日後

 

「これね。家に帰って、ちゃんと見た時に気付いた」

 

「七日後って、何?」

 

「分からない。全然、意味が分からない」

 

「下に、ほら、そこに書いてある日付って、それ先週のだよね」

 

「だと思うよ。日付的に先週の水曜日なんじゃない」

 

「じゃあ、七日後って」

 

「今日、だな」

 

「何か、あった?」

 

「いや、今のところは何もない」

 

「でもさ、タカギ先生はサエキが絵を取ったって知らないかもしれないでしょ? だってあの時、戻ってこなかったんだから」

 

「戻ってはこなかったけど、絵と一緒に俺もいなくなってるからな」

 

「サエキの他にも生徒が入ってきたって言ってたよね、じゃあその子が取ったってことも考えられるでしょ? だったら……あ」

 

「何? どうしたの?」

 

「その生徒……さっき、シミズ君だって言ったよね?」

 

「あぁ。ケンジのクラスの子だよな」

 

「そのシミズ君、二時間目の後に保健室へ行って、そのまま早退したって聞いたよ」

 

「……え?」

 

 

 

タン

タン

タン

 

タン

タン

タン

 

ガラッ

 

 

「あっ、本当にいた。何やってんだお前らこんなことで。まぁ、いいや。おぃサエキ、タカギ先生に、お前がここにいるからって言われて来たんだけど、なんか急ぎらしいんだ。渡した資料のことで話があるみたいだから、至急、保健室へ行ってくれ」

 

 

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〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉ミチコオノ

 

 

 

 

夏をやってない

ハッとして目を覚まし

通りに近い窓を開ける

 

緑を覆う色あせた枯れ葉 

喉に飛び込む息は冷たい

 

薄く横に伸びる雲

縦に登れず空を這う

 

確かにここにあった夏

それなのに

僕は夏をやってない

 

バケツに飛び込む手持ち花火

生み出す音が夜を鎮める

 

咲き終わりに残る白いライン

暗闇に写す向日葵の花びら

 

もう 

何年見ていない?

 

市営プールの帰り道

夕焼けに交わる塩素の匂い

 

天に浮かんだ七色の曼荼羅

オレンジの雲は何にでも化ける

 

灰色へと続く通学路

遠くに見える工場の煙

 

もう

何年帰っていない?

 

特別が日常になり

御馳走への距離が縮まる

 

不便や貧困を崇めない

でも

スイカに種があったっていい

 

僕は夏をやっていた

 

一人でいても

家に帰らなくても

 

僕は夏をやっていた

 

夜明け前に飛び出す国道

車の列をやり過ごし

瞬間を逃さずシャッターを押す

 

大した写真は撮れてない

それでも

そこには夏があった

 

制服を着替えて家を出る

目指す先はデパートの屋上

 

夕陽に幕が下りたなら

蛍光灯がその目を覚ます

 

出っ張ったコンクリに足をかけ

ビルを使って描く地図

 

あんなに頭を乱されて

あんなに体を取られた街が

小さくなってひかり輝く

 

現状は何にも変わらない

それでも

そこには夏があった

 

僕は座ってた

 

拝殿の裏に

高架下の隅に

 

僕は見つめてた

 

水面に浮かぶ金魚を

干からびたカマキリを

 

扇風機に押されて歌う風鈴

宙に響く祭りの太鼓

 

確かにそこにあった夏

 

収まらない感情の避難所 

それが僕の夏だった

 

ネクタイを締めて夏が消えた

お金と引き換えに夏が消えた

 

いや

 

そんなことはない

 

僕が夏を消した

 

言い訳ばっかり口にして

 

僕が夏を消した

 

***

 

休みを取った

 

ドリンクホルダーに炭酸を入れ

アスファルトを三時間踏んだ

 

土砂降りの後に赤が出て

黄色と混ざって青黒になった

 

寄り道をして超えた坂

ひらけた先に夏があった

 

気温五度の温水プール

十二年間を肌で取り込む

 

大好きな逆立ちをした

誰もいないのをいいことに

気の済むまで逆立ちをした

 

耳に水が流れ込み

感覚が狂って夏になった

 

もう若くはない

 

何が必要で

何が不要か

 

心が求めてるものしか欲しくない

 

人目を気にして震える代わりに

夏を残して奥に潜ろう

 

比べて鼻を伸ばす代わりに

残した夏で想いを繋ごう

 

進んで行きたい道がある

余計なものはもういらない

 

取捨選択して始める引き算

 

執着ばかりで埋まった容量

腰を下ろして紙に書き出す

どれだけ記憶を削っても

戻った夏は二度と消さない

 

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衝動は、ここにいる

クリップで留めた感情は

夜を越えない

 

湧き上がる衝動と会話がしたいから

柔らかいクッションは取っ払った

 

遠慮なく飛び込む刺激は

たまに痛いほどだけど

とにかく朝を迎えたかった

 

喜怒哀楽に 

邪と欲

 

そのままの形で出てきた思いに

自分の全てをぶつけたい

 

頭を強く揺さぶる曲に

深く引き込まれる文章

ハッと心をえぐる絵に

過去を連れてくる写真

 

胸の内側が溢れたなら

下手なステップで床を滑ろう

 

記憶がうまく収まらないなら

意味もなくハイウェイを飛ばそう

 

何かが背中をつつくなら

家の周りをグルグル回ろう

 

仕事帰りに見つけた景色を

追いかけたっていいんだ

大丈夫

ご飯の支度が遅れるだけだ

 

絵が描けないから文字を書く

音が作れないからストーリーを創る

 

大声で気持ちを叫ぶ代わりに

毎日たくさん写真を撮るよ

 

 

あなたのことが大好きだから

親しみを込めて「友」と呼ぼう

 

 

なぁ 友よ

衝動は息をしているか

 

なぁ 友よ

雑音なんか気にしないでくれ

 

なぁ 友よ

襲い掛かるような情熱を

真正面から受け止めたならば

もっともっと表現できる気がするんだ

 

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取っ払う

枠には入れなかった

 

入らなかったのではない

 

入れなかったのだ

 

 

はじき出されて 何を想う

普通を横目に 何を想う

 

 

付いたレッテルはどうでもいい

それが意味をなさない事は 

ここまで生きて身に染みた

 

付けられたレッテルも気にしない

そんなものは

他人にひとときの優越感を与えるだけだ

 

でも 人は忘れていく

どんどん気にせず 忘れていく

 

ならば

すり寄った時間は幻か

抱えた苦悩は無駄死にか

共存しようと付けた飾りは

もはや無用の長物か

 

 

だったら

枠には収まらない

 

収まれないのではない

 

収まらないのだ

 

 

ネクタイは締めなくていい

いつかそれで首を括るのなら

 

傘は差さないでいい

いつかそれで他人を突くのなら

 

男にも女にもならなくていい

その役割に押しつぶされるのなら

 

 

雨に濡れても

そのまま歩こう

 

寒くないのなら

このままずっと歩いていこう

 

大丈夫

もう その枠は要らない

 

無理して中に居なくても

確かに存在していけると

時間を掛けて分かったのだから

 

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嫁に頭が上がらないわけ

2月14日、カナダでは今日がバレンタインデーでした。

この日は大好きなチョコレートの日であると同時に、自分たちの結婚記念日でもあります。

同じ名字になってから11年目の記念日、自分は今年も仕事でした。

 

籍を入れる時、忘れないようにと分かりやすい日を選んだのですが、こちらに来て2人ともホスピタリティ業界に就職したこともあり、このアニバーサリーを満足に祝えていない状態が続いています。

嫁さん、正直すまない。

 

カナダでは(きっと、他の英語圏の国々でも)夫婦間のバランスを表す決まり文句に:

「Happy wife, Happy life (嫁が幸せなら、自分の人生も幸せ)」というフレーズがあります。

あくまで個人的な見解ですが、自分はこの慣用句に白旗を上げて100%同意します。

 

結婚して、今年で11年。

タイトルにもある通り、自分は嫁に、全く頭が上がりません。

 

今ここで「嫁」なんて気安く言ってますが実際の心情的には嫁さん、いや、嫁様です。

上の一文を冷静に見ると、ドMさんが書いているイメージしか湧きませんが、自分は決して、Mさんグループに属している訳ではありません。

では、なぜ自分が「嫁様」などという言葉を用いたのかは、以下の「夫婦間のパワーバランス推移」を見ていただければ分かってもらえると思います。

 

嫁と一緒になって11年、そしてカナダに移住してからも、同じく11年が経ちます。

つまり自分は、こちらに来るホンの少し前に、彼女と籍を入れました。

出会って半年で決意した結婚。

ちなみに婚姻届を出した時点のパワーバランスは、「50:50」のイーブンです。

 

結婚してすぐ、自分は嫁に背中を押され、以前記事で書いた小学校へ1年間の任期で赴任しました。

ここでの仕事はボランティア。給料は出ません。

まだこの時は移住するとは決めておらず、尚且つ、帰国してからのプランはありませんでした。

今、振り返ると、完全な暴走行為です。

結婚して2ヶ月しか経っていないのに、自分の背中を押す嫁も嫁ですが、行く方も行く方です。

ということで、自分の無謀な選択にも関わらず、この時点での力関係も奇跡の「50:50」キープです。

 

赴任地であるストラットフォードでは、当初、同僚の先生の家に住んでいましたが、学校が夏休みに入り、「こんな経験は、もう二度と出来ないかもしれないから、自分が居る間に生活しにきなよ」と、金もないのに一丁前に嫁に声をかけて呼び寄せてからは、その先生が所有するアンティークハウスに二人で住まわせてもらう事になりました。

 

街の中央を流れる大きな川沿いにある、アンティークハウス。

こう、文章に書くと何とも素晴らしい響きなのですが、そのドリームハウスは、何と現在進行形で改装中でした。

しかも、その直し具合が半端なく、アンティークハウスの名に恥じぬ、築80年はいっているのではないか、と思われしき建物を「リホーム」などという言葉が泣いて逃げ出すほど分解して「リビルド」していました。

その上、アンビリーバボーなことに、その改装は業者がやってるのではなく、同僚の先生の旦那さんが彼の弟と二人で仲睦まじくスローなペースで作業していたのです。

 

全く、終わりが見えない。

というか、絶対、終わらない。

 

つまり、玄関あけたら、「柱もねぇ、壁もねぇ、床板まともにハマってねぇ」という、リアル吉幾三ワールドでした。

そんな訳ですから、もちろん室内は「テレビもねぇ、ラジオもねぇ、インターネットは何者だぁ?」となっており、とても21世紀とは思えない新婚生活を、そこで送る事となりました。

(ネットは後で先生の旦那さんが「隣の家の無線LANを拝借」という荒技を無断で実行し、供給される事になります)

 

大きな家だったんです。

今までの人生で目にした事が無い程の大きな家だったのですが、1階、3階全域、及び屋根裏、地下の簡易キッチンを除く全てが改装のため使用不可で、唯一、残された2階が、自分たちの居住スペースとなりました。

 

当時、非常に少ないながらも家賃を払っていたので、この状況に文句を言う事も出来たのでしょうが、他にツテもアテもない上、1年目で英語に自信がない自分は「文句を言わない日本人」を見事に演じきってしまいました。

自分の体たらくと、幾三ハウスでの居住に嫁の不満が一気に上がり(当然です)、ここで初めてパワーバランスが動き、「60:40」になりました(もちろん、60が嫁です)。

この当時の記憶は、以後、何度も振り返る事になるのですが、思い出すたびに、嫁に対して「大変、すみませんでした」という思いしか浮かばなくなります。

 

決して、日本で裕福な暮らしをしてきた訳ではないのですが、あの1年間の生活は、文字通りきつきつな毎日を繰り返していました。

書き出すと、とても長くなってしまうので省きますが、1つ例えるならば、二人の初めての結婚記念日のディナーは、ウエンディーズ(日本にあるのかは分からないのですが、マクドナルドと同じファーストフード店です)のハンバーガーセットでした。

あの時、「今日は贅沢したね」なんて言わせてしまい、本当に、申し訳ございませんでした。

そんな状態で過ごした1年間(彼女にとっては約7ヶ月)が終わると、夫婦間のバランスは、「70:30」になっておりました。

もちろん、異存はございません。

自分が好きで来て、思い付きで長期間、呼び出してしまったのですから。

 

さて任期が終わり、「幾三ハウスよ、さらば」という時に、今度は自分が「カナダへ移住したい」と言い出しました。

大変、自分勝手です。

でも、ここに賭けたかったんです。

貧乏はしたけど、この1年間のインターンで、物凄い収穫がありました。

情熱を注げば注ぐほど、成果として現れる。

授業にしても、英語にしても、自分が打ち込んだ分だけ、伸びて、そして周りが結果を評価してくれる。

自分が何者だった、なんて関係なく、自分が打ち出した結果を、皆が見てくれる。

この社会で、生きていきたい。

その思いは日に日に強くなっていきました。

 

嫁は「ご飯を食べさせてくれるなら、どこでもいいよ」と言ってくれました。

神です。

パワーバランス「80:20」確定です。

でも、そんなのバッチこいでした。

彼女は日本で、しっかりとした学歴も職歴もあって、失うものがない自分とは状況が圧倒的に違っていました。

 

嫁は、自分に人生をくれました。

自分には出来ません。

彼女は、とても強い人です。

 

 うまく言えないのですが、嫁は、いつも違う場所にいました。

以前、付き合っていた彼氏が事故で亡くなってしまった影響からか、彼女はいつも「生と死」を深く考えながら生きてました。

 

夏休みに自分を訪ねてこちらに住むようになってから少しして、彼女は持っているビザで無料になる、子宮がんの定期検査を受けました。

「年が年だから、一応ね」彼女はそう言っていましたが、結果は「陽性」でした。

英語も満足に喋れず、周りに家族も知り合いもいない、異国の地で受けた結果。

その後、何度か検査を受け直しましたが、結果は同じです。

ビザで医療費がまかなえるという事で、彼女は最初の手術をこの地ですることを決心しました。

手術といっても一番初めに行われたのは、全身麻酔もかけないもので、自分も側にいれました。

話せる人が自分しかいない国で、ベットに横になる嫁。

手を握ったら、泣きそうな顔をしましたが、泣きませんでした。

 

しばらく時が流れ、何度か術後の検査をパスしましたが、また引っかかってしまいました。

今度はオンタリオ州で一番大きい、がんセンターです。

そして、今回の手術は全身麻酔をかけられるようでした。

 

「私がちゃんと目を覚ますように、祈ってて」なんて言うものだから、色々なことがイメージできて泣けてきました。

 

自分に彼女が以前経験したような「喪失」を受け止められる覚悟も度量もありません。

自分に出来ることは、祈る事と、亡くなってしまった彼氏に、嫁を守ってください、と必死にお願いする事でした。

 

手術が終わって目を覚ました嫁は、「甘いものが食べたい」と言いました。

彼女は、本当に強い人なのです。

 

嫁は自分の過去にあるものを全て受け入れてくれた、初めての女性でした。

やられ方や暴力の差は違えど、彼女も随分長い間自分と同じような経験をしていて、そしてそういったものとずっと戦ってきた人でした。

この人と一緒に人生を変えたい、この人と一緒に先を見て見たい。

彼女の中にある強さに触れて、自分は一緒になる決意をしました。

 

嫁は手術の事があった後でも、「この地で自分と生きていく」と言ってくれました。

 

彼女は、人生をくれました。

その対価として、一生「100:0」でも構わないと、嫁がくれた言葉の意味を噛みしめました。

 

こちらに来てから、何をするにも、どこに行くにも2人でした。

最初の1年、英語が上手く話せず、心ない人に馬鹿にされ、幼稚園児のように扱われても、2人でいれたから、何てことはありませんでした。

カナダに残れる道を模索して、ほぼ一文無しで引っ越した時も、嫁がいたから心配ありませんでした。

生きていくため、毎日、長時間働く期間がありましたが、とにかく先が楽しみでした。

お金貯めて、カレッジ行って、仕事と勉強の両立がキツかったけど、2人だから、何とかやってこれました。

嫁は移民後に、学校を2つ出て、今はカナダで一番に選ばれたスパで働いています。

 

自分の限界を、いつも簡単に壊してくれた嫁。

「情けないね、あんたの実力、そんなもんなの?」

そう言われ、悔しくて、自分の思い込みを破ってきた。

もう道がないと思えた時も、そんなもの自分で作ればいいと言い放った嫁。

生きていてくれて、本当によかった。

 

彼女は嫁であり、家族であり、一緒に生き抜いてきた戦友であり、親友で、恩人なのです。

 

「Happy wife, Happy life」

バレンタインの朝、自分の机の上に置いてあったブルボンアルフォート。

自分にとっては、どんな手作りチョコレートよりも意味のある宝物でした。

 

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(ストラットフォード時代の散歩道。物凄く寒かったけど、その分、綺麗でした)

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