私は知っている

私は知っている

いつも近くで見てたから

あなたや君を知っている

 

私は知っている

五時の鐘が鳴るまで校庭で時間をつぶしていた君を

お楽しみ会に参加しなかった君を

給食費のことで先生と話していた君を

「楽しみだ」と言ったのに転校前日に「行きたくない」と泣いた君を

 

私は知っている

喧嘩ばかりだった両親の仲を取り持っていた君を

家の鍵を首にかけ家事を押し付けられていた君を

気が触れたと噂されていた近所の老婆に挨拶をする君を

ゲームのコントローラーを持つ友人の応援ばかりしていた君を

 

私は知っている

オモチャ売り場で一度も駄々をこねなかった君を

劇の配役よりも小道具作りに精を出していた君を

お弁当を隠して食べていた君を

ローレル指数を気にしていた君を

 

私は知っている

毎回遠足を休んでいた君を

親の秘密を背負わされた君を

のけ者にされて笑われていた君を

それでも笑っていた君を

 

私は知っている

不安と戦ってもがいていた君を

学校に良い思い出なんか一つもなかった君を

卒業アルバムで一人別枠に収まる君を

卒業式の夜に制服を燃やした君を

 

ボロボロの茶色いお道具箱

机にあった無数の傷

君を想うと 泣きたくなる

 

私は知っている

決められたキャラクターを演じていたあなたを

周りに上手く溶け込めないで悩むあなたを

それでも孤立を恐れなかった君を

「また居場所がなくなった」と微笑むあなたを

 

私は知っている

「バカは終りだ」そう言って就職したあなたを

劣等感にさいなまれていたあなたを

生きるためにとにかく働いたあなたを

本当は夢を捨てていなかったあなたを

 

私は知っている

押し入れの奥に十二冊のノートを隠していたあなたを

「なんでこんなに生きにくいの」と顔をグシャグシャにしたあなたを

「もう私には何もない」そう言って膝をついたあなたを

夜明け前に部屋を抜け出すことが多くなったあなたを

 

私は知っている

道路脇にうずくまっていたあなたを

黄色い線の内側に踏みとどまったあなたを

屋上の柵をまたいで戻って来たあなたを

「ありがとう」という文字でコピー用紙を埋めていたあなたを

 

国道に架かる歩道橋

ラジオから流れたスタンドバイミー

あなたがいたから 今の私がある

 

私は知っている

人のずるさを

人の冷酷さを

そして

人の素晴らしさを

 

私はこれからも 私が知り得たものを抱えながら

一番近くで あなたや君を見続けよう

 

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(とても不思議な空でした。見たこともない空でした。あの日以来、こんな空は撮れていません)

高橋名人チルドレンよ、永遠に

 

高橋名人チルドレンよ、なぜ呼び出してくれなかったのだ?

私のツーコンのマイクは、常にオンにしておくと言ったのに

 

まぁ、いい

こうしてまた顔を見せてくれたんだ

細かい事は言いっこなしだ

さぁ、早いとこファミコンのコントローラーを握ってくれ

 

高橋名人チルドレンよ、時は確実に進んでいる

手始めに、そのシャネルズみたいなメイクを落とそうか

なんなら、その手首に付いたジャラジャラしたモノも外そう

君たちはもう、アムラーでもシノラーでもない

 

高橋名人チルドレンよ、流行など一瞬の夢だ

その煌びやかな幻は、まさに青いカセットのアイスクライマー

脇目も振らず氷を砕き、必死の思いでクリアしても

その先にあるのは、見覚えのある1面だ

そんな終わりの見えない無限ループに流されてもよいが、惑わされてはいけない

 

高橋名人チルドレンよ、年齢は気にしなくていい 

年をとったら落ち着こうなんて、誰かが勝手に決めたルールだ

人様に迷惑をかけるのが、若さの象徴ではない

  • ドラえもんドンジャラで、初めて役が揃ったトキメキ
  • 夜通しプレーしたUNOで、最後の最後に来たワイルドドロー4後の握り拳
  • 桃鉄で桃太郎ランドを購入した達成感
  • パラダイス銀河を真似て踊った高揚感

こういった衝動を引っ括めたのが、きっと若さだ

それは年を重ねて枯れるものではない

 

何? そんなものは無くなってしまったって?

バカを言っちゃいけない

1度味わった感情は、消え去ることはない

大丈夫

今はコンクリートと同化して見えなくなっているだけだ

チュッパチャプスを舐めて息を吹きかければ、たちまち輝き直すはずだ

 

高橋名人チルドレンよ、無理に笑顔を振りまく必要はない

君の周りを囲む人達に、どうにかして合わせようとしなくていいんだ

その人のことが嫌いなら、嫌いなままでいい

ただ、距離を保つだけでいい

いがみ合い、足を引っ張り合う先に待つものは

チョロの首吊りだ

そんなドラマの結末は、これっぽっちも望んではいない

視聴率が20パーセントを越えようとも

そんな最後は見たくない

私が求めているのは「ぼかぁ死にぃましぇん」と叫び、顔中を分泌液まみれにしている中年の美しい泣きっ面だ

 

高橋名人チルドレンよ、これから先も生きていこう

確かに、月9のような毎日は続かない

ユージ・オダ主演ドラマのような、分かりやすい立身出世も無いかもしれない

でも、思い出してみよう

私たちが子供の頃に見ていた物語を

  • キン肉マン ドラゴンボール ときめきトゥナイト
  • お金がない 17才 101回目のプロポーズ
  • グーニーズ バックトゥザフューチャー 星の王子 ニューヨークへ行く

そう、私たちはハッピーエンドで育った

途中で困難や挑戦があっても、最後は決まってハッピーエンドだ。

 

何? 人生そんなに甘くないって?

確かにそうかもしれない

でも、あのノストラダムスも世紀末の予想を当てられなかった

どうせ見通せない未来なら、あの日のハッピーエンドを描いてみたい

 

高橋名人チルドレンよ、私は喋りすぎた

君の希望通り、この辺でおいとましよう

でも、最後にもう1つ

しつこいようだが、忘れないでほしい

私が必要になったなら、ファミコンのツーコンを手に取ってくれ

私のマイクのスイッチは、常にオンだ

 

私は言葉を届けたい

 

溜めに溜めた思いがある

繋ぎ続けたストーリーがある

終わることのない想像がある

 

だから、呼びかけてほしい

その声が聞こえたなら、セーターを肩にかけ素足のまま革靴を履いて、君に言葉を届けよう

 

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(初代ファミコンは素敵なゲーム機。僕らに不親切な分、想像力との相性はバッチリです)

空の色をした作業着

「俺の背中を見ておけ」って大声を出すけど 

その背中は一体どこにあるの?

 

7時過ぎには家を出て 

帰ってくるのは夜中過ぎ

週に1度の休日に 

足を向けるのは競輪場だ

 

ほら 

あなたの背中はどこにもない

 

すすけた青い作業着

黒いオイルにまみれたその服は 

もう何色でもなかった

 

「空の色と一緒だろ」 

あなたはそう言っておどけたけど

私が知っている空は 

こんなに色褪せてはいない

 

あなたは不器用な人だ

 

思いと言葉が

お互いそっぽを向いている

本当はどちらも近くにいるのに

見ないフリをして顔をしかめている

 

どうでも良いことばかりに声を使い

大事な時には目も合わさない

きっとあなたは知らないと思うけど 

私たちはエスパーじゃない

「うん」や「あぁ」では何にも伝わらないんだ

 

私が見るあなたの背中は 

いつも疲れて汚れていた

その作業着が空ならば 

浮かぶオイルは黒い雲か

 

あなたは本当に不器用な人だ

 

「家を出る」私がそう伝えた時 

「二度と帰ってくるな」とあなたは怒鳴った

「顔も見たくねぇ」

ライターを投げて啖呵を切ったすぐ後に

あなたは何で泣いたのだ

 

私にくれた不恰好で有り余る愛を 

なぜ少しでも母親に向けられなかったのか

 

あなたのことを忘れたくても

私の一部はあなたで出来ている

 

子供の頃 

よく連れてこられたパチンコ店

あなたのせいで私は騒音と人混みが嫌いになった

 

言いたいことはたくさんある

 

あなたのせいで お酒を意図的に飲まなくなった

あなたのせいで ギャンブルを受け付けなくなった

あなたのせいで 借金を作る人が許せなくなった

あなたのせいで 浮気する人を憎むようになった

 

でも

悔しいけど

 

あなたのお陰で もつ煮込みが好きになった

あなたのお陰で 物を大切にするようになった

あなたのお陰で 手を抜かないで仕事をする心意気を学んだ

あなたのお陰で 泣くことが恥ずかしくないと知った

 

この気持ち 

全部あなたからのものなんだ

 

空の色をした作業着 

言われた通りに背中を見ていたせいで 

変な所まで似てしまった

 

どうしてくれるんだ 

 

あなたにきちんと「ありがとう」を伝えたいのに

全然素直になれないじゃないか

 

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(作業着のような色をした空は、今日もこの地にあります)

嫁に頭が上がらないわけ

2月14日、カナダでは今日がバレンタインデーでした。

この日は大好きなチョコレートの日であると同時に、自分たちの結婚記念日でもあります。

同じ名字になってから11年目の記念日、自分は今年も仕事でした。

 

籍を入れる時、忘れないようにと分かりやすい日を選んだのですが、こちらに来て2人ともホスピタリティ業界に就職したこともあり、このアニバーサリーを満足に祝えていない状態が続いています。

嫁さん、正直すまない。

 

今回の本文は、ブログを始めた頃にアップした記事の内容を加筆したものです。

読んで頂けたら幸いです。

 

カナダでは(きっと、他の英語圏の国々でも)夫婦間のバランスを表す決まり文句に:

「Happy wife, Happy life (嫁が幸せなら、自分の人生も幸せ)」というフレーズがあります。

あくまで個人的な見解ですが、自分はこの慣用句に白旗を上げて100%同意します。

 

結婚して、今年で11年。

タイトルにもある通り、自分は嫁に、全く頭が上がりません。

 

今ここで「嫁」なんて気安く言ってますが実際の心情的には嫁さん、いや、嫁様です。

上の一文を冷静に見ると、ドMさんが書いているイメージしか湧きませんが、自分は決して、Mさんグループに属している訳ではありません。

では、なぜ自分が「嫁様」などという言葉を用いたのかは、以下の「夫婦間のパワーバランス推移」を見ていただければ分かってもらえると思います。

 

嫁と一緒になって11年、そしてカナダに移住してからも、同じく11年が経ちます。

つまり自分は、こちらに来るホンの少し前に、彼女と籍を入れました。

出会って半年で決意した結婚。

ちなみに婚姻届を出した時点のパワーバランスは、「50:50」のイーブンです。

 

結婚してすぐ、自分は嫁に背中を押され、以前記事で書いた小学校へ1年間の任期で赴任しました。

ここでの仕事はボランティア。給料は出ません。

まだこの時は移住するとは決めておらず、尚且つ、帰国してからのプランはありませんでした。

今、振り返ると、完全な暴走行為です。

結婚して2ヶ月しか経っていないのに、自分の背中を押す嫁も嫁ですが、行く方も行く方です。

先の事は、なんとかなる。

当時は何の根拠もなく、お互い本気でそう思っていました。

「若さ」とは、一種の麻薬です。

ということで、自分の無謀な選択にも関わらず、この時点での力関係も奇跡の「50:50」キープです。

 

赴任地であるストラットフォードでは、当初、同僚の先生の家に住んでいましたが、学校が夏休みに入り、「こんな経験は、もう二度と出来ないかもしれないから、自分が居る間に生活しにきなよ」と、金もないのに一丁前に嫁に声をかけて呼び寄せてからは、その先生が所有するアンティークハウスに二人で住まわせてもらう事になりました。

 

街の中央を流れる大きな川沿いにある、アンティークハウス。

こう、文章に書くと何とも素晴らしい響きなのですが、そのドリームハウスは、何と現在進行形で改装中でした。

しかも、その直し具合が半端なく、アンティークハウスの名に恥じぬ、築80年はいっているのではないか、と思われしき建物を「リホーム」などという言葉が泣いて逃げ出すほど分解して「リビルド」していました。

その上、アンビリーバボーなことに、その改装は業者がやってるのではなく、同僚の先生の旦那さんが彼の弟と二人で仲睦まじくスローなペースで作業していたのです。

 

全く、終わりが見えない。

というか、絶対、終わらない。

 

つまり、玄関あけたら、「柱もねぇ、壁もねぇ、床板まともにハマってねぇ」という、リアル吉幾三ワールドでした。

そんな訳ですから、もちろん室内は「テレビもねぇ、ラジオもねぇ、インターネットは何者だぁ?」となっており、とても21世紀とは思えない新婚生活を、そこで送る事となりました。

(ネットは後で先生の旦那さんが「隣の家の無線LANを拝借」という荒技を無断で実行し、供給される事になります)

 

大きな家だったんです。

今までの人生で目にした事が無い程の大きな家だったのですが、1階、3階全域、及び屋根裏、地下の簡易キッチンを除く全てが改装のため使用不可で、唯一、残された2階が、自分たちの居住スペースとなりました。

 

当時、非常に少ないながらも家賃を払っていたので、この状況に文句を言う事も出来たのでしょうが、他にツテもアテもない上、1年目で英語に自信がない自分は「文句を言わない日本人」を見事に演じきってしまいました。

自分の体たらくと、幾三ハウスでの居住に嫁の不満が一気に上がり(当然です)、ここで初めてパワーバランスが動き、「60:40」になりました(もちろん、60が嫁です)。

この当時の記憶は、以後、何度も振り返る事になるのですが、思い出すたびに、嫁に対して「大変、すみませんでした」という思いしか浮かばなくなります。

 

決して、日本で裕福な暮らしをしてきた訳ではないのですが、あの1年間の生活は、文字通り「きっつきつ」な毎日を繰り返していました。

書き出すと、とても長くなってしまうので省きますが、1つ例えるならば、二人の初めての結婚記念日のディナーは、ウエンディーズ(日本にあるのかは分からないのですが、マクドナルドと同じファーストフード店です)のハンバーガーセットでした。

あの時、「今日は贅沢したね」なんて言わせてしまい、本当に、申し訳ございませんでした。

そんな状態で過ごした1年間(彼女にとっては約7ヶ月)が終わると、夫婦間のバランスは、「70:30」になっておりました。

もちろん、異存はございません。

自分が好きで来て、思い付きで長期間、呼び出してしまったのですから。

 

さて任期が終わり、「幾三ハウスよ、さらば」という時に、今度は自分が「カナダへ移住したい」と言い出しました。

大変、自分勝手です。

でも、ここに賭けたかったんです。

貧乏はしたけど、この1年間のインターンで、物凄い収穫がありました。

情熱を注げば注ぐほど、成果として現れる。

授業にしても、英語にしても、自分が打ち込んだ分だけ、伸びて、そして周りが結果を評価してくれる。

自分が何者だった、なんて関係なく、自分が打ち出した結果を、皆が見てくれる。

この社会で、生きていきたい。

その思いは日に日に強くなっていきました。

 

嫁は「ご飯を食べさせてくれるなら、どこでもいいよ」と言ってくれました。

神です。

パワーバランス「80:20」確定です。

でも、そんなのバッチこいでした。

彼女は日本で、しっかりとした学歴も職歴もあって、失うものがない自分とは状況が圧倒的に違っていました。

 

嫁は、自分に人生をくれました。

自分には出来ません。

彼女は、とても強い人です。

 

 うまく言えないのですが、嫁は、いつも違う場所にいました。

以前、付き合っていた彼氏が事故で亡くなってしまった影響からか、彼女はいつも「生と死」を深く考えながら生きてました。

 

夏休みに自分を訪ねてこちらに住むようになってから少しして、彼女は持っているビザで無料になる、子宮がんの定期検査を受けました。

「年が年だから、一応ね」彼女はそう言っていましたが、結果は「陽性」でした。

英語も満足に喋れず、周りに家族も知り合いもいない、異国の地で受けた結果。

その後、何度か検査を受け直しましたが、結果は同じです。

ビザで医療費がまかなえるという事で、彼女は最初の手術をこの地ですることを決心しました。

手術といっても一番初めに行われたのは、全身麻酔もかけないもので、自分も側にいれました。

話せる人が自分しかいない国で、ベットに横になる嫁。

手を握ったら、泣きそうな顔をしましたが、泣きませんでした。

 

しばらく時が流れ、何度か術後の検査をパスしましたが、また引っかかってしまいました。

今度はオンタリオ州で一番大きい、がんセンターです。

そして、今回の手術は全身麻酔をかけられるようでした。

 

「私がちゃんと目を覚ますように、祈ってて」なんて言うものだから、色々なことがイメージできて泣けてきました。

 

自分に彼女が以前経験したような「喪失」を受け止められる覚悟も度量もありません。

自分に出来ることは、祈る事と、亡くなってしまった彼氏に、嫁を守ってください、と必死にお願いする事でした。

 

手術が終わって目を覚ました嫁は、「甘いものが食べたい」と言いました。

彼女は、本当に強い人なのです。

 

嫁は自分の過去にあるものを全て受け入れてくれた、初めての女性でした。

やられ方や暴力の差は違えど、彼女も随分長い間自分と同じような経験をしていて、そしてそういったものとずっと戦ってきた人でした。

この人と一緒に人生を変えたい、この人と一緒に先を見て見たい。

彼女の中にある強さに触れて、自分は一緒になる決意をしました。

 

嫁は手術の事があった後でも、「この地で自分と生きていく」と言ってくれました。

 

彼女は、人生をくれました。

その対価として、一生「100:0」でも構わないと、嫁がくれた言葉の意味を噛みしめました。

 

こちらに来てから、何をするにも、どこに行くにも2人でした。

最初の1年、英語が上手く話せず、心ない人に馬鹿にされ、幼稚園児のように扱われても、2人でいれたから、何てことはありませんでした。

カナダに残れる道を模索して、ほぼ一文無しで引っ越した時も、嫁がいたから心配ありませんでした。

生きていくため、毎日、長時間働く期間がありましたが、とにかく先が楽しみでした。

お金貯めて、カレッジ行って、仕事と勉強の両立がキツかったけど、2人だから、何とかやってこれました。

嫁は移民後に、学校を2つ出て、今はカナダで一番に選ばれたスパで働いています。

 

自分の限界を、いつも簡単に壊してくれた嫁。

「情けないね、あんたの実力、そんなもんなの?」

そう言われ、悔しくて、自分の思い込みを破ってきた。

もう道がないと思えた時も、そんなもの自分で作ればいいと言い放った嫁。

生きていてくれて、本当によかった。

 

彼女は嫁であり、家族であり、一緒に生き抜いてきた戦友であり、親友で、恩人なのです。

 

「Happy wife, Happy life」

バレンタインの朝、自分の机の上に置いてあったブルボンアルフォート。

自分にとっては、どんな手作りチョコレートよりも意味のある宝物でした。

 

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(ストラットフォード時代の散歩道。物凄く寒かったけど、その分、綺麗でした)

行き場のない感情は、どこへ流せばいいのだろう

皆さんには学校や職場、もしくは住んでいる街などに自分1人になれる場所がありますか?

自分は、あります。

というか、新しい所へ行くと、まずその候補地を探します。

 

小さな神社の拝殿裏

人気のないデパートの屋上

決まった駅の階段下ベンチ

誰も使っていない駐輪場

冬のプール小屋

 

ちなみに今の職場で使っているのは、ボールルームの先にある備品室で、そこはドアを開けるのに専用のカードキーを必要とするため、ほぼ確実に1人になることができます。

 

人によって1人になりたい理由は様々だと思いますが、自分の場合は嫌なことや辛いことがあった時、そして、感情の落とし所が分からなくなる出来事に遭遇した際に、上記の場所へ足を向け、じっと気持ちが収まるのを待ちます。

 

行き場のない感情。

悲しいわけでも、寂しいわけでも、憤りを感じるわけでもない。

ハッキリとした表情を持たない思いが心を占めた時、とにかく無性に1人になりたくなるのです。

 

自分がその感情を強烈に意識したのは、22歳になって行った大学病院からの帰り道でした。

見えなくなっても

無くなっているのではない

 

中学、高校を通して山のように溜め込んだ消化不良の塊を無理やり心の端に追いやり、卒業後、逃げるようにして向かったバンクーバー。

誰も自分を知る人がいない環境の中、人生で初めて真剣に取り組んだ勉強がとにかく楽しく、ローマ字で名前も書けなかった英語力は、やればやるだけ伸びていきました。

 

(勉強が楽しい)

 

今まで生きてきて、一度も味わったことのない思いに魅了され、帰国後、独学で入った大学。

元々、高校も出席日数ギリギリで何とか卒業できた状態だったので、進学しようなどと考えたこともなかった自分は、「大学」というものに過剰な期待をしていました。

 

当時、二十歳だった自分は、限りなく無知で、とにかく世間知らずでした。

 

教科書をなぞるだけで進められる、一方通行の講義。

中学、高校と変わらない「学校」という空気。

 

自ら勝手に上げたハードルにつまづいた結果、自分の足は自然と教室から遠のきました。

 

(思い描いていたのとは、違う)

自分の感じた思いを正当化させようと、繰り返し唱えていた言い訳。

 

ただただ、弱かったのです。

本当に強い人は周りに流されません。

理想だけ高く、頭でっかちだった当時の自分は、己の意思を貫く気概を持ち合わせていませんでした。

 

大学のある駅に着いても、ホームのベンチに座ったまま動かない。

構内に入っても、クラスには行かず、図書館に通いつめる毎日。

 

(自分は一体何をしているのだろう)

 

見つからない訳を探すように、デカルト、ニーチェ、ハイデガーなどを読み漁り、時間をかけて必死にノートにまとめたのですが、自己弁護の糧とはなりませんでした。

 

講義に出て、出席表に名前を書く。

そんな簡単な事すら出来ない自分は、人と比べて酷く劣っていて、どうしようもない存在に思えました。

 

終わりのない自己否定によって、バランスを崩していく心。

そのタイミングをじーっと待っていたかのように、今まで隅に押しやり無かったことにしていた記憶が突然、姿を現しました。

 

あれだけ頭の奥にいたのに、意識した時には、もう目の前です。

 

何度も見る同じ夢。

鮮明に浮かぶ場面。

ずっと誰かに見られている感覚。

奴らが襲撃に来るのではないかという妄想。

鳴ってもいないのに聞こえる、チャイムや電話の呼び出し音。

 

やられていた頃のように眠れない日々が続き、慢性的に不安を感じるようになりました。

 

(頭がおかしくなってしまったのかもしれない)

 

いつも一緒にいた仲間と過ごしている時は、嘘のように気分が晴れやかになるのですが、一人でいるとダメでした。

なので、その頃は暇さえあれば集まり場所に入り浸り、家で過ごす時間は極端に少なくなっていました。

 

睡眠を取りに帰っても、眠れなくて叫び、電話やチャイムが鳴ったと家を荒らす。

十代の時のように内側にあるものを押し殺さなくなった結果、家族に多大なる迷惑をかけてしまいました。

思い返しても申し訳ない気持ちにしかなりませんが、それが当時の自分にできた精一杯の「SOS」でした。

 

「そういう病院で診てもらったほうがいいんじゃないか?」

 

家での様子を見かねた親が、そう提案した頃には、もう大学には通えない状態になっていました。

 

「そういう病院」

今ほど心の病が一般化していなかったあの時代、クリニックなどの存在も知らず、どのようにして診てもらう医者を探せばよいのか分からなかった自分は、あてもなく市内にある大きな大学病院に行きました。

 

勇気を出して受付を済まし、待合席に座ったものの、「精神科」という文字が視界に入り、惨めで心が潰されるようでした。

 

何の知識もなく偏見の塊だったあの頃の自分が、心底嫌になります。

 

極力、顔を上げないようにして過ごした長い待ち時間。

横に座った人の携帯に付いていた、キティちゃんのストラップがこちらを見る度に、帰りたくて、助けてほしくて、イライラしました。

 

やっと自分の番になり診察室に入ったのですが、椅子に座っていた医者を見て愕然としました。

その先生はインターンと見紛うほど若く、とても日に焼けていたのです。

全く、先生然としていない。

 

医者が若くて日に焼けていても問題ありません。

ただ、あのとき座っていた方は、自分が勝手に持っていた精神科医師のイメージと大きくかけ離れていました。

 

(この人で大丈夫なのだろうか)

 

勝手に想像して上げたハードルにつまづく。

自分はまた、同じ轍を踏みました。

 

最初のイメージで圧倒されましたが、とにかく自分は彼が投げかけてくる質問に本気で答えました。

 

これで楽になれる。

状況は劇的に改善する。

 

自分は本気でそう信じていました。

 

今なら分かりますが、無理なのです。

当たり前です、これが初診ですから。

その日に来て、その日にどうこうなる話ではありません。

 

じっくりと時間を取り質問用紙に答えを入れ、過去と今を必死に話しましたが、先生の反応はとても薄いもので、切り返しもどこか曖昧でした。

それでも、どうにかして自分の思いを伝えなければと先生を強く見つめたのですが、その方は自分が話をしている最中に、スッと、時計を見ました。

 

よく分からない顔をして、時計を見たのです。

 

とてもショックでした。

そして、どうしてもその行為を受け入れられませんでした。

 

その先生に非はありません。

冷静に考えれば仕方のない事だと思います。

クリニックではなく大学病院。

後に詰まっている患者。

話を止めない自分。

迷惑と感じられても、仕方がありません。

 

でも、あの診察室にいた自分は、それを一切、飲み込めませんでした。

 

怒りが、こみ上げてきました。

 

(お前に、何が分かる)

(お前なんかに、何が分かる)

 

自分の殻に入る逃げ口上が、頭で響きます。

 

それから自分は、何も話さなくなりました。

何を聞かれても、口を閉ざしたまま。

睡眠導入剤の説明をされても、次回の予定を立てられても、無視です。

そんな調子では、先生も呆れてしまいます。

 

「じゃあ、また辛くなったら来てくださいね」

日に焼けた若い医者は、自分の顔を少し覗き込むようにして言いました。

 

(先生、今がつらいんです)

 

支払いを済ませた自分は、すぐにトイレの個室に駆け込み、自分の腕を力一杯噛みました。

 

なぜ、あの時、腕を噛む行動に出たのか分かりません。

なぜ自分は自分を、あんなにも強く噛んだのか。

とてつもない怒りと悔しさで感情がコントロール出来なくなった、というのは理解できますが、歯型の内出血を残した、その理由が分からないのです。

 

トイレの個室で散々思いを発散した後、放心というか、軽い貧血感というか、何とも言えない感じになりました。

激しく噛んだ腕の痛みで、怒りや悔しさが一気に引っ込んで、抜け殻のような状態。

何かを感じるのだけれど、その何かが分からない。

冒頭に書いた、悲しいわけでも、寂しいわけでも、憤りを感じるわけでもない感情です。

 

どうしていいのか分からないから、1人になりたい。

一刻も早くこの病院から抜け出して、1人になりたい。

 

その場に立ち止まりたくはなかったので、行きに乗ったバスを待たずに歩き出しました。

その病院から、いつもの神社の拝殿裏まではかなり距離があったのですが、その時は構わず歩いて行きました。

 

それからしばらくして、大学を中退しました。

そしてあの日以来、自分は病院に戻ることはありませんでした。

 

今考えても、その選択が正しかったかどうかは分かりません。

 

不安な気持ちはそれからも変わらず続きましたが、可能な限り仲間と会い、嫌な状態が抑えられない時は、無理やり外に走りに行き、部屋で筋トレを繰り返しました。

運動や筋トレをして状態が良くなることはありませんでしたが、身体的な疲労により、それらを紛らわせることは出来たのです。

 

自分はその後、心に巣食っていた「不安」を「怒り」に変えて生きてきました。

恐れとすり替わって生まれた攻撃的な気持ちが高まると、激情に任せてダンベルを上げました。

 

今、この歳になっても、自分はあの時の記憶を許すことができません。

不安に感じることはなくなりましたが、怒りはまだ根を張っています。

ただ、昔と違い、歳を重ねたことで、その経験が創り出した副産物を冷静に見つめられるようになりました。

 

空想も、妄想も、頭の中の街も、あのとき同時に生まれたもの。

果てしない自問自答も、何時間も同じ景色を見続けるのもそう。

そして、詩や小説を書くようになったのも、それがきっかけです。

自分があの時の記憶をどう思おうが、創り出されたそのものには感謝です。

 

 

行き場のない感情がどこへ流れるのか、自分は未だに分かりません。

カテゴライズ不可能な感情に遭遇すると、相変わらず1人になって気持ちが収まるのを待つだけです。

そこは昔と何も変わりません。

 

37年間生きてきても、心は分からないことだらけです。

この先の人生で、その一つ一つの答えを探せるかどうかは分かりませんが、気持ちを表現し続けて感情の景色を広げていけば、正解ではなくとも、納得できる落とし所は見つかると思うのです。

 

 

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 

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(ストラットフォードの中心に流れるエイボン川。冬になるとその姿を変え、白い砂漠になります)

これは超能力ですか?

ミスターマリックにトランプマン、そしてユリゲラー。

自分は子供の頃、この3人を本物の超能力者だと信じていました(ユリゲラーに関しては未だにグレーゾーン)。

もちろん、「手品」や「トリック」といった言葉は知っていましたが、変に裏を読み

(この人達は、その凄まじい能力を隠すためにワザワザ『ハンドパワーです』って言ったり、トランプを飛ばしたり、スプーンを曲げているんだ!)

などと考えていました。

 

超能力者は正体をバラしてはいけない

当時、姉が読んでいた「ときめきトゥナイト」や、自分が好きだった「パーマン」の世界観よろしく、(特別な能力や秘密を持った方々は、それをひた隠しにして生きているのだ)と勝手に思い込み、上記の3人も例に漏れず、日常生活でポロッとその力が出てしまっても誤魔化せるようにマジシャンという職業を選んでいるのだろう、と決めつけていました。

 

物語に出てくる超能力は、たいてい良くも悪くも強い力と影響力を持っています。

それこそ世界を救う、もしくは、混乱させるような。

 

身を偽る必要性や、世界を変える力があるわけではありませんが、自分は一種の特殊能力を持っています。

 

海を渡って10年が過ぎ、開眼したその力は

カナダのスーパーのレジの調子を悪くさせる」というものです。

 

今、タブを閉じようとした方、待ってください。

自分はふざけているのではありません、困っているのです。

いや、冗談ではなく、制御できない己の力に迷惑しています。

 

上で「カナダの」と限定したのは、日本にいた時はこういった現象に悩まされなかったからです。

 

説明します。

このスーパーパワーが発生するのは、自分が焦っている、もしくはイライラした状態でいるのが前提です。

その「アセアセイライラ」コンディションでレジに並ぶと、笑えないほどの高確率でレジが不調になり、列が一向に進まなくなります。

 

具体的には、レシートが出なくなったり、商品コードがスキャン出来なくなったり、レジの画面がフリーズしたりといった症状が現れます。

 

故障するわけではありません、調子が悪くなるのです。

なので、管理者や責任者が出てきてしばらく機械をいじっていると、どうにか元に戻ります。

しかし、復旧までに時間がかかることもあり、自分のみならず、列に並んでいる他の人達もアセイラ星人になってしまうという負の連鎖が起きてしまうのです。

 

ちなみにこの現象は、自動チェックアウトでも同様に起きます。

 

心穏やかにカートを押して、鼻歌を口ずさむ怪しいアジア人となっている日は問題ないのですが、時間がない時に限って「待ってました!」とレジがヘソを曲げるので、正直、心底嫌になる瞬間があります。

 

「それは引き寄せの法則だよ」

そう言われてしまえば、その通りなのかもしれませんが、どうしてもそれだけでは納得できません。

 

なぜなら、この能力の影響を受けるのは、スーパーのレジだけだからです。

仕事で、YouはShock な人々に遭遇し、半端なくイライラした状態になっても、業務で使っているパソコンに不具合は生じません。

 

波長がバッチリ合うのは、唯一、カナダにあるスーパーのレジだけ。

まるでツインソウルと見まごうばかりの共鳴力です。

 

破壊するのではなく、機嫌を損ねさせるのが関の山。しかもレジのみ。

仮に、自分に備わっているものが何らかの超能力であったとしても、はっきり言って何の役にも立ちません。

 

もしもこの力を全ての電子機器に向けれるのであれば、使い方次第で、巨悪企業の悪巧みを阻止することも可能でしょうが、今の状態では迷惑しか生み出しません。

 

うーん、何かないですかね? 

どうすれば、この特殊能力を生かせるのか。

 

使えるかどうか分かりませんが、ちょっと頭に浮かんだものを書いてみます。

 

ケース1

スーパーでレジ打ちをしている引っ込み思案で奥手の店員君。

不自然に焦っている様子の男が差し出した「雪国まいたけ」がスキャンを通らず、彼はそのコード番号をマニュアルで入力しなくてはいけなくなった。

今までの経験を生かし、文明の利器に立ち向かう店員君。

「やれないことはないさ。源氏パイの乱を収めたのは、この俺だ」

平均コード入力スピード2.6秒(マニュアル)と、Windows Meで培った忍耐力は、彼に絶対的なレジ打ちの自信を与えた。

しかし、そんな彼の思い上がりを打ち砕くように、レジの画面は原因不明のフリーズを起こす。

舌打ちをする買い物客、いつもより早足で登場する脂汗店長、そしてチョコエッグを持って泣き叫ぶ女の子。

買い物レーン「7番」にカオスの嵐が吹き荒れる中、震える右手を背中に隠した店員君の口元は、怪しく緩んでいた。

(次にレジが不調になったら店の向かいにある「ミスタードーナツ」で勤務している林さん(仮名)に声をかける。ポンデリングを掴むタイミングで声をかける。かけるって言ったら、かける)

出勤前の自分にかけた暗示が彼の頭で鳴り響いた時、エプロンを外した店員君は、レジの鍵を脂汗店長に託し、自動ドアの向こうへと走って行った

 

何ですかね、これは。

進む方向を完全に間違えています。

 

声をかけるタイミングを事前に決めている、つんのめった店員君の姿勢を考えると、声掛けの際に言葉がハンブルする確率は高いと思われます。

そうなると焦って、買う予定のなかったフレンチクルーラーや、ハニーディップをトレイに乗せ、無言で支払いを済ませてしまう結果は目に見えています。

一人暮らしの六畳間。

「何であそこでハニーディップ入れるかなぁ? おい、こんなこと繰り返したら、3ヶ月後には糖尿だぞ」

浅倉南をその身に宿し、食べ飽きたドーナツを頬張る午後7時半。

開け広げたアパートの窓から見えるのは、斜め向かいで煙を吐く、焼きトン屋の黄色い看板。

テレビを消し、ニヤついた顔で缶コーヒーを開ける彼の背中が哀愁を誘います。

 

やっぱり、間違えています。

哀愁を誘う? 展開が行き場を失いました。

店員君、林さん(仮名)に声をかけていませんし、全体的にスッキリしない昭和の香りが漂うだけです。

というか、彼、仕事放棄していますね。

後に残された脂汗店長が不憫で仕方ありません。

 

自分の能力、一切関係ありません。

これでは、力どうこう以前の問題です。

なので、却下。

好き勝手やると文字数が増えるだけなので、ちょっと真面目に考えます。

 

ケース2

アセアセイライラしている自分の後ろに並ぶ、マスクを付けた初老の男性。

実はこのジェントルマン、上下総入れ歯だがレジ強盗を企んでおり、コートの内側には一昨日購入した文化包丁を忍ばせている。

緊張しつつ「その時」が来るのを待っていたポリデントジェントルマンだが、前に並んだイライラ男が購入した「果汁グミ」が原因で、レジに不調が発生。

「何でレシートが出ないんですか! レシート集めと果汁グミが僕の生き甲斐なんです!」

大きな声で叫んだその男は、その場でクルクルと回りだす。

その様子を見た買い物客が足を止め、レーン「7番」には人だかりが。

喧騒が辺りを支配する。

大声を聞いて驚き、泣き始める男の子。

苦しそうなその子の嗚咽が気になり、ポリデントさんが目をやると、男の子の頭にはイニシエの球団「大洋ホエールズ」の帽子があった。

 

(あの坊主、懐かしいもん被ってるなぁ。スーパーカートリオもいたが、ホエールズといったらポンセだ。87年だったっけなぁ? ポンセは打ったなぁ。あの年、あいつはとにかく打った。あの頃の中区はまだゴチャゴチャしてたけど、楽しかったなぁ。あぁ、応援歌が耳に残ってる。♪バモス ポンセ バモス ポンセ 打て場外へー♪ かぁ)

 

「おぃ、坊ちゃん。あんたぁ、ホエールズのファンかぃ?」

「エェ、ウグゥ、グゥ。え? ほえーるず?」

「そうだぁ、あんたの被ってる帽子だよ」

「ぼうしぃ? あぁ、これ、タイガーマスクWだよ。今、テレビでやってるやつ」

「タイガーマスクダブルぅ? いや、あんたぁ、この青は、これはホエールズの帽子だぁ。間違いねぇ」

「なにぃ、ほえーるずってぇ? タイガーマスクWだってばぁ! もう、うるさいぃ」

「あぁ、泣くな泣くな。分かったぁ、分かった。こいつぁ、タイガーマスクの帽子だ! ホエールズなんかじゃぁねぇ! うん、うん……」

 

目尻に光るものを湛えた老紳士は、こっそり列を離れ、もっていた「月間 盆栽生活」を雑誌ラックに戻して、静かに店を後にした

 

果汁グミは好きですが、自分の趣味はレシート集めではありませんし、その場でクルクル回りもしません。

 

このケースはレジ強盗を未然に防いだことで役に立っているかもしれませんが、もしその老紳士の肚が決まっているのなら、場所を変えて決行するだけなので、根本的な問題解決になっていません。

自分がその人を付回して、行く先々のスーパーのレジで前に並ぶことが出来るのなら話は別でしょうが、その場合は、相手の心が読める能力が必要になります。

そうでなければ、誰がよからぬ事を計画しているか分かりません。

というか、もし人の心を読めるなら、レジを調子悪くさせる3軍能力は要りませんね。

ですので、こちらも却下です。

 

せっかくのスーパーパワーですが、どうも話が1丁目、2丁目規模の枠を超えません。

超能力を披露する場面といえば、世界レベルの危機と相場は決まっております。

このままですと、商店街のアーケードから抜けれそうもないので、多少無理にでもスケールを大きくして考えたいと思います。

 

ケース3

新しく巨大悪徳企業のITセキュリティー責任者に就任した黒メガネ。

彼の持ち味は意外性と、裏の裏の裏を想定する用心深さ。

そんな黒メガネは就任早々その才能を発揮して、数々の悪事の証拠が残されているデーターを系列会社のスーパーのレジシステムにしまい込むという、常人には考えつかないアイデアを実行した。

全ては彼の想定した通りに上手くいっていた。

そう、無駄に焦った様子の男が、「ぷっちょ」を手に持ちレジに並ぶまでは。

移したデーターを取引相手の巨悪企業に開示して、わっるーい信頼を勝ち取る大事なプレゼンがあったその日、黒メガネはデーターを引き出そうとスーパーのレジシステムに侵入を試みたのだが、プロセスが一向に進展しない。

約束の時間は刻一刻と迫る。

苛立ちを覚え、右手の人差し指に力を込めるが、何度トライしても結果は同じ。

タイムリミットまで後20分となった所で、万が一の事態に備え、忍び込ませていた部下、「脂汗男」に連絡を取る。

 

「黒メさん、ダメです。レジがフリーズした挙句、変な男がレシートを出せと暴れていて現場を収集できません! 本社のITテクニシャンに連絡したのですが、多摩川の花火大会の影響で車が進まず、どんなに早くても30分はかかるそ……」

 

これ以上の報告は無意味だ。

胸ポケットから出した辞表を机の上に置いた黒メガネは、秘書の説得にも耳を貸さず、呼んでおいたタクシーに乗り込んで、一路、羽田空港を目指した。

行き先は次の就職先、シンガポールだ。

 

やりました。ついに自分の能力が世の役に立ちました。

ケース1、2、3と、どうしようもなく陳腐な設定で繰り広げられた戯れ芝居の結果、何とか胸を張って通りを歩ける日が訪れたのです。

ただ、裏の裏の裏を読んで、正常な判断が出来ずに空回りするITセキュリティー責任者の存在が設定上必要不可欠ですが。

 

はい。

やはり、どう足掻いても使えない力ですね。

 

超能力、スーパーパワー、特殊能力。

自分はその存在を疑いません。

漫画やドラマなどで見るものと違って、もっと生々しいものだと想像しますが、本人が求めても求めなくても、そういった能力を持っている方は、この広い世界のどこかに存在すると思います。

 

仮に何かのきっかけで自分にそういった力が授けられるなら、空を飛んだり、透視したり(男の憧れですが)、人間離れした力を手に入れたりできなくてもいいので、人をポジティブにする能力が欲しいです。

 

「この先に何の希望もない。どうして生きていなきゃいけないのか分からない」

 

今まで聞いた中で、一番悲しい言葉でした。

自分が受けたどんな罵倒や存在否定よりも、辛い気持ちになりました。

 

毎日マンモスハッピーにならなくていい。

少なくとも「なぜ生きていかなければならないのだろう」という場所から引っ張りたい。

おこがましいけど、引っ張りたい。

しつこいけど、引っ張り出したい。

 

もう二度と、そんな言葉を面と向かって聞かないように、 超能力に頼らずとも、どうにかして引っ張り出したい。

いや、引っ張る。

 

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 

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(オンタリオ湖に両手を広げて沈む夕日。昇る時はバンザイ型です)

リア充 ”勝手に” 解体新書

本題とのリンクが見えづらいと思いますが、この記事のサブタイトルは

「あなたは、まだポイントを振り分けていないだけなのかもしれない」

という、やけに長いものになっております。

 

「リア充」

自分がまだ日本にいた頃には、存在していなかった言葉。いや、もしかしたら使われていたかもしれませんが、ここまでの認知度はなかったと思います。

 

こちらに来てから、主にネットで目にする頻度が増えた新時代のニューボキャブラリー。そして、すでに廃れつつある元新語。

移り変わる時代に翻弄されている言葉、「リア充」ですが、自分はその正確な意味を掴めておりません。

もちろん意味を検索すれば、いくらでも答えは出てきますが、色々なところで「リア充」が題材になっている記事を読むと、体感的にそれぞれの人の経験に基づいた解釈になっているように思え、「これ」という確実なものを見つけられません。

 

なので勝手に解体新書。

自分が抱く「リア充」のイメージは、いわゆる「イケている人」です。

 

学校や会社などで目立つ存在で、パーティーなどに参加してもオドオドせず、社交的で人前でも踊れます。

自宅ではなくジムで運動し、お気に入りのバーを持っていて、そこでトムコリンズを飲みながらダーツやビリヤードをしています。

非常に偏った思い込みだという自覚はありますが、これが自分の中にある「リア充」像です。

 

上記の例は社会人ですが、「リア充」という言葉を考えるとき、自分の頭に浮かぶのは学生です。

もちろん、いつの年代でも当てはまる言葉だと思うのですが、学生というカテゴリーに属している間は、条件面で周りとの共通点が他の年代と比べて多くなり、無情にもその範疇での「違い」が浮き彫りになるからです。

 

自分の学生時代を振り返ると、間違いなく、リア充ではありませんでした。

十代中盤から後半の思春期真っ只中、周りとの違いを強烈に意識する年頃です。

当然あの頃は、リア充なんて言葉はありませんが、イケてる生徒はクラスに溢れていました。

そんなリア充生徒たちと、反対側にいた自分との間にあった、大きな隔たり。

あくまで勝手な「リア充」解釈ではありますが、自分と彼らの相違点を学生時代の1日の流れと共に、思い返してみたいと思います。

 

(注意)以下に登場する「イケてる」基準は、書き手の時代に合わせております。

 

【髪型】

《リア充》

  • 「あの頃」のキムタク風ワイルドウェーブ茶髪
  • いしだ壱成、武田真治にみるジュノンボーイ風キュートスタイル

《自分》

  • ジョンレノンやポールマッカートニーといった個人ではなく、ビートルズそのものに憧れた結果のマッシュルームカット(近所の床屋ではイギリスの風を再現できず、どちらかというとウォーズマンに近づく)

 【格好】

《リア充》

  • ラルフローレンのベストに(主に紺)、ズボンはもちろん腰ばき
  • スクールバッグは背負うのがツウ
  • 足元はリーガルのローファーでシックにいくも、コンバースのオールスターでポップにいくも良し。ワイルドに決めるなら、キムタク風レッドウイングを忘れるな
  • モッくんのCMでお馴染みのギャツビーデオドラントは必需品

《自分》

  • 紺のラルフローレンのベスト……は先輩に取られたので、ノーブランド
  • 自分の中で最高にイケていた、JAL(日本空港)客室乗務員昭和レトロバッグ(青)を肩にかけ、登校
  • リーガルのローファー……は川に流されたので、親父のお下がりローファー
  • ギャツビーでもシーブリーズでもなく、お気に入りは何故かレセナのスプレー

【通学】

《リア充》

  • ソニーのウォークマン、もしくは最先端のMDプレーヤーでお気に入りのナンバーを聞きながら電車に揺られる
  • PHSの画面には彼女からの「オハヨウ」Pメールが踊る

《自分》

  • 鳴らないアステル。受信しないPメール
  • ウォーズマンだったが、ウォークマンを所持していなかった為、無音電車。頻繁に降りる駅を3つ飛ばし、通学拒否
  • 新聞配達帰りで眠いため、家族に連絡が入ってバレるまでは近所の公園のベンチか、神社の拝殿の裏で仮眠

【授業中】

《リア充》

  • ちょっぴりトボけた、でも憎めない発言をし、クラスのムードを和やかに
  • 授業中に受診した彼女からのPメール。その画面には「アイタイ」の文字が浮かぶ

《自分》

  • 鳴らないアステル。受信しないPメール
  • 授業中は貴重な睡眠時間。意識と一緒に存在感を消し、風景と同化するスキルを発揮。よって寝ていても先生から注意されない
  • 目覚めた後は、自分が作っていた想像上の街「緑奥市」の拡張作業
  • 通学拒否権を行使していた頃は、拝殿の裏で引き続き仮眠中

【昼食】

《リア充》

  • 教室で食事。場合によっては男女混合。机の上には、もれなくファインボーイズか、メンズノンノ、時にホットドックプレスが鎮座する

《自分》

  • 人気のない理科室の裏で、違うクラスにいる仲間と合流。雨の日は準備室横の人気のない階段の踊り場でコンビニ弁当を食す

【放課後】

《リア充》

  • リア充の聖地、カラオケ(そこでプリクラを撮る)でシャウト、またはファーストフード店で雑談
  • 制服を着たまま街へ繰り出す(デート、ショッピングなど)

《自分》

  • 部室にお呼ばれされ、暗黒タイムスタート
  • 屋上にお呼ばれされ、暗黒タイムスタート
  • お呼ばれない日は、仲間と土手転がり、もしくは水浸し遊び(記事参照
  • 汚れた制服のままコンビニへ繰り出す(からあげクン、あらびきソーセージなど)
  • ヤンキーさん達の聖地であるコンビニ前は避け、コンビニ裏で仲間と雑談(おやつは、主にホテイの焼き鳥缶詰)

【夜のフリータイム】

《リア充》

  • 選択肢が多すぎて予想不可

《自分》

  • 家へ帰れないため、違う学校に通っている仲間と共に、住んでもいない新興住宅地の綺麗な公園に集結
  • 家へ帰れないため、避難所兼集会場だったプレハブ小屋に集合
  • 喋る、ひたすら喋る
  • 桃鉄、ひたすら桃鉄
  • 新聞配達バイト前に仮眠

 

以下、イベント。

 

【文化祭】

《リア充》

  • メインで参加し、貴重な思い出を作る
  • 告白イベントが高確率で発生

《自分》

  • ひんしゅくを買わない程度に参加、のち逃亡
  • 同じく、ひんしゅくを買わないように参加、のち逃亡してきた仲間と合流し、格技館に侵入して風船デコピン大会。先生に見つかり、「ねぇ、今日は何の日か分かっているよね」と、怒られずに白い目で見られる
  • 遊んでいる所を鬼達に見つかり、部室、もしくは屋上へお呼ばれされ、暗黒タイムスタート

【修学旅行】

《リア充》

  • もちろん滑れるスキーを楽しみ、夜は男女混合でミーティング、お酒を持ち込んで怒られた経験も、いい思い出

《自分》

  • 滑れるはずがないスキーを断念し、逃亡。人気のない場所を探し出し、仲間と雪上プロレス。先生に見つかり、「こんなところまで来て、何をしてるの」と、怒られずに白い目で見られる

 

以上のリア充さんに対する決め付けは、書き手の勝手な思い込みです。

 

リア充さんたち、非リアの人たち。

目立つ子、目立たない子。

友達が多い子、友達が少ない子、そして友達がいない子。

 

自分はその全ての生き方に、その人特有の意味があるのだと思います。

 

少し乱暴な言い方になってしまうかもしれませんが、特別なものを持って生まれてきた子たちや、幼い頃からたくさんの経験を積んだ、もしくは積まなくてはいけなかった子たち(学生というカテゴリーに入らなかった方など)以外は、ある一定の歳まで人間力の絶対数に大きな違いはないと思うのです。

 

例えば、20ポイント。

 

学生という枠の中では、リア充さんも、非リアさんも、目立つ子も、目立たない子も、持っている人間能力ポイントは20ポイントで同じ。

 

前半部分に挙げた例のように、リア充さんと自分の生活内容には大きな違いはありますが、所持しているポイントは同じ。

違うのは、そのポイントの割り振り方だけ。

学生時代(自分が考える学生の期間は18歳まで)は、「自分の殻を破る」というよりも「持っている特性を伸ばす」ためにポイントを割り振る時期なのではないかと思います。

 

特性は、皆それぞれ違います。

当たり前ですが、独りで絵を描くのが好きな人もいれば、友達とお喋りするのが好きな人もいます。

 

学生の頃、周りの人が自分よりも優れているように見えました。

何をやっても彼らに敵わないような、何をやっても彼らより劣っているような感覚です。

 

例えるのなら、皆んながヒーロー戦隊のレッドのような感覚。

イエローである自分は、これから先もレッドのそばでカレーを食べるのが関の山だろうと考えていました。

 

でも、違いました。

 

学生時代、破竹の勢いでその道を進んでいたレッド。このままのペースでいったら一体どれだけ遠くに行くのだろうと圧倒されていたのですが、自分の周りにいたレッドの大半が、あの頃と同じスピードでは走り続けませんでした。

 

何というか、全体的に今までの帳尻を合わすかのように、スピードを落としていった感じです。

 

そういった様子を何度も目にするうちに、「ある程度の歳まで人に元々備わっているポイントは同じなのかもしれない」と仮定するようになりました。

 

あくまでも例えですが、数値化してみます。ポイントは20です。

 

例1

【社交性】8

【想像力】1

【実行力】5

【表現力】4

【共感力】1

【忍耐力】1

社交性に長けて、実行できる力があるし表現力もあります。想像力、共感力、忍耐力は低いですが、それはなかなか表からは見えにくいところ。自分が学生時代に、この方に出会ったら、「確実に何も敵わないレッド」と認識します。表に見える能力が分かりやすく高いからです。

 

例2

【社交性】1

【想像力】10

【実行力】2

【表現力】6

【共感力】0

【忍耐力】1

群を抜いた想像力に高い表現力、素晴らしい才能の持ち主だと思いますが、自分が学生の時にこの方を見たら、とても暗い生徒なのだと認識します。この方の持っている能力は表からは全くと言っていいほど見えないもの。なのでこの時点で、この方の凄さに気づくのは簡単なことではないです。

 

例3

【社交性】4

【想像力】3

【実行力】1

【表現力】1

【共感力】6

【忍耐力】5

とても優しい方です。優しいだけではなく、社交性も想像力もあります。その包容力を実行する勇気はまだ得られていませんが、それを手に入れた時に、この方はたくさんの人を癒すことができると思います。

 

例4

【社交性】0

【想像力】2

【実行力】0

【表現力】0

【共感力】0

【忍耐力】15

ここまで極端な形でポイントが分かれるのには、色々な理由が考えられます。それを思うと、悲しくなります。合計数が17で計算が合いませんが、こうしてポイントを振り分けていない方は、確実にいらっしゃると思います。きっと様々な要因で、この方はポイントを振り分けるのを止めたのだと思います。

自分が学生の頃、この生徒と出会っていたら正直、何も見えないのだと思います。

もしかしたら学校にも来られていないのかもしれません。

誰もこの方の凄まじい忍耐力を知らない。

でも、ポイントは消えません。この生徒が振り分けていないポイントは絶対に無くならず、この人がそれを振り分けれる状態になるまで持ち越されるだけです。

 

例1、2、3、4と、表に見える形としては、みなさん大きな違いがあります。

でも、備わっているポイントは同じです。

学生時代、まだ人を見る目が鍛えられていない時は、この「目に見える要素」が他人を判断する基準になると思います(そうでない方もたくさんいると思われますが)。

 

割り振り方によって学生世界のヒエラルキーは創造されますが、それが全てではありません。

思春期が終わり、同一カテゴリーを抜けた後は、個人の勝負です。

20と決められていた絶対数も、ここから先の生き方によっていくらでも増えていきます。色々な経験を通して獲得したポイントを、今まで割り振っていなかったセクションに足すのも、元からある強みに足すのも、その人の自由です。

もし学生時代に割り振らず、ためていたポイントがある場合は、準備が出来次第、一気にその全てを解放できるかもしれません。

 

なので、目立たなくても、いじめられていても、不登校でも、人と交わることができなくても、「学生」というカテゴリーの中だけでその人自身の性質を決めつけるのは(他人はもちろん、自分自身でも)早すぎるのではないかと考えます。

 

確かに違いはありますし、社交性に秀でているレッドはクラスで輝いて見えるかもしれません。

でも、それは割り振りが上手いだけで、人間として、そうでない人より優れているわけではありません。

ポイントは同じですから。

レッドも経験を積まなくては、いつまでも学生時代のレッドのままですし、ブルーやイエローだって生き方次第で、その色に囚われなくなります。

 

自分の勝手な考えな上に、繰り返しになってしまいますが、今現在、いじめられていて劣等感だらけの毎日を過ごしていても、決してそれは「終わり」を意味するものではないのです。

そういった生徒も劣っているのではなく、ポイントの割り振り方が人と違うだけ。

持っているものは、同じです。

 

ポイントを割り振るのを諦めた方、今はとにかく生きてください。

ためているものは絶対に消えませんから。

 

真っ暗だった学生時代には考える事すら出来なかった「今」。

 

先は必ずある。

未来は想像を超えます。

 

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