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電子書籍を出しました

AmazonのKindleストアで電子書籍を出しました。

タイトルは「私が私をやめたなら」です。

このブログで発表した作品に加筆をして、内容をまとめ直したものが中心になっております。

 

生まれただけでは息を吸えない。

読んでもらえて初めて呼吸が出来る。

 

どんな形でも世に出た書物は、誰かに読まれてこそ生きていけると自分は思っております。

自分の発信したものが誰かの目に触れてもらえる、自分にとってこれ以上の喜びはありません。

眠くて仕方がない時でも、嬉しくって嬉しくって小躍りします。

朝日に向かって小躍りです。

まさに、至福なのです。

 

「書く」という行為を通して、自分はたくさんの感情を受け入れてきました。

色々なことがありましたが、どうにかこうにか前を向いています。

 

目をつむり、内側に溜め込むだけの期間はもう終りです。

自分の体に刻みこんだもの、後ろを向いてただひたすら逃げた末に戻ってきた道の過程を言葉にしたい。

ここにいますと手を振るために、思いを出したい。

 

届けたい言葉があります。

自分が受けたのと同じような問題の渦中にいる人にもいない人にも、伝えたい気持ちと記憶があります。

生きてきた証を文字に込めました。

 

読んでいただけたら、嬉しいです。

 

私が私をやめたなら
私が私をやめたなら
posted with amazlet at 17.04.28
YOMA CREATIONS (2017-04-26)

今川焼きとナポレオン

「商店街の誓い」という件名の付いたメールをツヨシから受け取って、今日でちょうど一週間。長らく時間は掛かってしまったが、ようやく全て読み終えることができた。
 
メールの本文ではなく添付ドキュメントとして送られてきた内容は、物心がついた時から遊んでいた集まりのリーダーの結婚話だ。
仕事が忙しかったとはいえ、完読に二日間の休みを入れて合計七日も費やしてしまった理由は、送り主のツヨシが当事者にインタビューまで行いレポート形式でまとめてくれた中身がビックリするほどの長文だったのと、読むごとに胸が一杯になってしまい、なかなか先に進められなかったからだ。
 
集まりのリーダーことオオタ マサイエは、子供の頃から自分勝手で向こう見ずで、物凄く仲間思いだった。
いなくなってしまったコースケの父親を探し回った時や、バカにされたツヨシを庇って鉄橋の上を歩いて渡った時、そして俺の無念を晴らそうと職員室でハゲ田と対峙した時など、数え出したらキリがないほど彼は先頭に立って仲間のために行動した。
 
彼と同じ団地に生まれ、彼の側で時を過ごし、彼と共に生きてきた。
リーダーとの出会いがなければ、今の自分は確実にいない。
 
小学校に上がる前から毎日のように遊んでいた集まりは、俺にとって、そしてリーダにとっても人生で一番大切なものだった。
「五厘クラブ」それが、俺たちのグループに付けられた名前だ。
 
年を重ねていくにつれ九人のメンバーそれぞれが他に大事なものを見つけ、集まりの形が徐々に変わっていった様子を彼はどんな気持ちで眺めていたのだろう。
 
リーダの心の声は、十年前にカナダへ移住した俺には分からない。
ただ、集まりの頻度が減るにつれ投げやりな生き方になっていった彼には、この五厘クラブよりも大事に思える何かが必要だということは分かっていた。
 
 
「白馬のような白い移動販売車に乗って、運命のブラウニーは団地の前に現れた。そこでリーダーは、自分の人生を大きく変える二つの運命的な出会いをしました。一つ目は奇跡のブラウニー、そしてもう一つはチャンスと言う名のスイーツを運んできた、ナナコさん」
 
リーダーは現在、地元の商店街の一角でブラウニーのお店を営んでいる。「甘味は断然、あんこだろ」が口癖だった彼がブラウニーのお店を持つようになった経緯と奥さんとの馴れ初めは、何故かおとぎ話のような書き出しで始まった。
 

 
団地に毎週二回、水曜日と木曜日にブラウニーを売る移動販売車が来るようになり、ナナコさんと言う人がその販売をしていた。
「あんこ以外は邪道」という偏った意見を持つリーダーは、仕事が休みだったツヨシに声を掛け、冷やかし目的で人生初のブラウニーを口にすることになった。
「あんこだけが大将じゃねぇ」可愛らしく包装されたブラウニーを一口食べた後、リーダーはひたすら頷き、その言葉を繰り返したらしい。
 
ナナコさんが作るブラウニーによって脳内革命を経験した彼は、それ以降も毎回移動販売車に通い「奇跡のブラウニー」と勝手に名前をつけてはそれを買い占め、団地の知り合いや集まりのメンバーに配り始めた。
「こんなに美味しいものを作れる彼女は天才だ。しかもあんなに良い子は最近とんと見ない」
奇跡のブラウニー、そしてそれを製作するナナコさん本人に入れ込んだリーダーは、彼女に猛アタックを開始した。
 
「猛アタック」と言っても、それはリーダーの中での話で、恋愛に奥手の彼がナナコさんとまともに会話するのに約一ヶ月の時間を要した。しかも毎週二回の販売日の度に何の関係もない、リーダーより更に色恋沙汰に不器用なツヨシがお供をするという、非効率この上ない状況で彼の猛アタックは進行した。
 
スキンヘッドのヒゲ面でガタイが良いリーダーと、HBの鉛筆のように細くて中性的な見た目をしたツヨシが二人仲良く毎回欠かさずブラウニーを買いにくる姿を想像すると色々な憶測を生みそうだが、幸いナナコさんに誤解されることもなく、八ヶ月近くかかった末にリーダーの口から出た「今度、今川焼きを食いに行きませんか?」という昭和の香りがする誘い文句がきっかけで、二人は付き合う事となった。
 
ナナコさんは元々ホテルでパティシエとして働いていて、仕事が休みの水曜日と木曜日に、自分が一番好きなブラウニーを移動車で販売していた。
ブラウニーのお店をやる事がナナコさんの夢だったが、店舗を構えるまでは踏み切れず、休日返上の移動販売という形で自分の気持ちを叶えていたのだ。
 
リーダーはナナコさんにベタ惚れだったが、ナナコさんが作るブラウニーにもベタ惚れだった。
「こんな良いものを、もっと世の中に広めないともったいない」付き合ってからリーダーはブラウニー 一本だけでやっていく事をナナコさんにしきりに進めていたが、大きなリスクが伴うのは避けたいと、彼女は決して首を縦に振らなかった。
 
それでも居ても立っても居られなくなったリーダーは、大工のケイゴに頼んで自分の自転車を改造してもらい立派な販売用自転車を用意し、昔から面識のある駅前商店街の会長に直談判して、駅前の駐車場の一角を販売スペースとして貸し出してもらう了承を得た。
「販売する方法を増やす」という彼の考えにあまり乗り気ではなかったナナコさんには、ケイゴが作った特製改造自転車の前で自分の熱意をこれでもかと伝え、どうにか説得することに成功した。
 
ナナコさんとブラウニーへの愛情が背中を押したのか、リーダーは「大」が付くほど嫌いだった書類作成や食品衛生者の資格講習などに自ら進んで取り組み、そしてとうとう駅前の商店街にある駐車場に自転車をとめて、ブラウニーの販売をスタートした。
 
始めの頃は図体がデカくて、見るからに怪しいヒゲのスキンヘッドが売っている事もあり、人があまり寄り付かず、ナナコさんに作ってもらったブラウニーが余ってしまうという日が続いた。
自分が大好きで、こんなにも美味しいブラウニーが売れ残るのがどうしても納得できなかった彼は、原因は宣伝不足にあると考え、ほぼ強制的にブラウニーの宣伝ツールの開発をツヨシに依頼した。
 
リーダーから提示された「大きな看板か、派手なビラ」という手のかかりそうな二十世紀様式の宣伝案をツヨシは無視し、ホームページとソーシャルネットワークのアカウントを作り、元々「移動販売ブラウニー」としか付いていなかった名前を「五厘クラブ」の「ゴリン」の文字をアナグラムして「リンゴ」と名付け「愛情たっぷりブラウニーのお店。リンゴ」とし、その宣伝写真をナチュラルに人相が悪い顔をわざわざ更に悪く見える、サングラスをしたリーダーの顔面アップ写真にして、可能な限りネット上に拡散した。
 
確実にふざけているとしか考えられないツヨシの動きに触発され、ケイゴはヒノキの一枚板に手彫りで「愛情ブラウニー」と彫った凛々しい看板を作った。
ケイゴの性格を考慮すると大真面目にやった事だと思うが、よかれと思って入れたであろう看板上部のリンゴの彫りが、どう見ても家紋のように見えてしまい、全体的にどこぞの組の表札のような出来上がりになってしまった。
 
自分がやっているブラウニーの移動販売が勝手に独り歩きをして、どういう訳かよく分からない方向に向かって進んで行く事に対して、ナナコさんは特に嫌悪感を示さず、ツヨシが面白半分で付けたと考えられる「愛情たっぷりブラウニーのお店。リンゴ」の名前も「お店のイメージに合っている」と、駅前駐車場で売っている男が正反対のイメージなのにも関わらず受け入れてくれた。
 
ネットでの発信をツヨシが続け、宣伝写真に合わせるようにサングラスをしてリンゴ組の看板を携えて販売をしているうちに「緑奥駅前で、漫画シティーハンターのファルコンこと、リアル海坊主が可愛らしいブラウニーを売っている」という記事がネット上にあがり、怖いもの見たさや記事の真相を確認する為にブラウニーを買いにくる人が増えた。
 
訪ねて来るお客さんの大半は冷やかしが目的だったが、リーダーはそれをチャンスと捉え、積極的に写真撮影などにも応じて彼らにブログのネタを提供した。
それでもナナコさんが作ったブラウニーは実際にとても美味しいらしく、軽い気持ちで来た人達が、そのままリピーターになる現象が続き、瞬く間に彼女が作るブラウニーは地元で人気の商品になった。
 
自転車販売が軌道に乗り始めると、リーダーは交通整理のバイトを辞め、本格的にブラウニー販売に専念するようになった。
何にでも物怖じせず大胆な発想をどんどん実行に移す彼本来の性格がこの独立販売業に合っていたらしく、色々なコネクションを作って、通常営業以外に夏祭りや地元のイベントなどにも精力的に参加し、出店した。
 
日頃の地道な販売活動が効果を現し、地元や近郊以外にも遠方から買いにくるお客さんが増え、ネットのスイーツ特集の記事などにも掲載されるようになってくると、一つの大きな問題が生じた。
ブラウニーの供給が追いつかなくなったのだ。
 
ホテルでのフルタイムの仕事を持っているナナコさんにとって、リーダーがブラウニーの販売を毎日するという事は、自分の睡眠時間を削ってその分を生産する以外にありえなくなる。
販売が忙しくなればなるほど体調管理も難しくなり、作れる個数は徐々に減っていき、日によっては一個も出来ず、販売をするのが不可能になる日も出てきた。
 
肉体的にも精神的にも、このダブルワーク生活をナナコさんが続けて行くのは無理があると感じたリーダーは、もう一度彼女に仕事を辞めてブラウニーだけで独立をする説得を試みた。
売り上げが以前に比べて格段に多くなり固定客も数多く付いた状況になっても、やはり安定した収入が無くなる事への不安の方が勝り、ナナコさんはその提案を受け入れなかった。
 
どうしても彼女と、そして自分の為に独立をしたいリーダーは、自分の人生の身の上話とナナコさんの夢の話が書かれた内容の嘆願書を持って、何軒かの不動産物件を所有している商店街の会長を訪ね「商店街の中の、どの空き店舗でも構わないから無償で貸して欲しい」と頭を下げた。
 
「いくら昔から面識があるとはいえ、今回の話は駐車場の一角とは訳が違う」
突拍子もないリーダーの願いに対し、会長は当然のように断ったが、引かないリーダーは持ってきた「下町のナポレオン いいちこ」のボトルを差し出し「あなたの決断で人二人の人生が変わるんです! お願いします!」と土下座をした。
出された贈り物が庶民の味方「下町のナポレオン」で呆気にとられたと思うのだが、会長が出した答えは奇跡にも「イエス」だった。
 
何が会長の琴線に触れたのかは定かではないが、無謀な願いを了承してくれた上に「二年間無償で貸与する」という信じられない好条件でリーダーに提供された場所は、商店街の外れにある、十年以上前に閉店した元団子屋さんの空き店舗だった。
 
リーダーはその足でナナコさんの職場に行き、仕事終わりを待って、会長から借りた店の前にナナコさんを連れてきた。
 
ツヨシのインタビューに答えたナナコさんによると、約束もなく職場に現れた険しい顔のリーダーに「来てくれ」と言われただけで目的地も告げられず車に乗せられた時は、少し身の危険を感じたらしい。
その後、不安な気持ちになったナナコさんを待っていたものは、何か彼女の身を脅かすものではなく、予想外のスキンヘッドの土下座だった。
 
リーダーは閑散とした夜の商店街の端っこで、嘆願書の代わりに必要事項を全て埋めてある婚姻届をナナコさんに渡し、額をアスファルトに擦り付けた。
「ここはナナコと俺の店だ。二年間無償で貸してもらう契約をもらった。今は綺麗じゃないけど、掃除は俺が全部する。だから、その書類の空いてる部分を埋めてくれ。そしてここで、この場所で俺とブラウニーのお店をやってくれ!」
急過ぎる展開に意味が飲み込めず、ナナコさんが何も返せずに呆然としていると、リーダーは用意してあった今川焼を差し出した。
「あなたの決断でクソッタレ一人の人生が変わるんです! お願いします!」
出された贈り物が、指輪ではなく冷めた今川焼で呆気にとられたと思うのだが、ナナコさんが出した答えは奇跡にも涙声の「イエス」だった。
 
ツヨシが送ってくれた果てしなく長いメールには、開店初日の写真が一枚だけ添付されていた。そこには文章にあった通り、ケイゴが作ったヒノキ一枚板の、どう見てもブラウニーショップの看板に見えない板が掲げてある小さいお店が写っていた。
 
行列が出来ている店の前にお揃いのエプロンをした笑顔のカップルが並んでいて、ナナコさんと思われる小柄な女の人の横に大きくて黒いサングラスをした、見た目が悪い海坊主がピースサインをして立っていた。
笑顔のそいつは、俺が知らないリーダー。記憶の中とは違う表情で笑う、見たこともない海坊主。
 
何年先になるかは分からないが、今度帰ったら真っ先に二人のお店に行こう。きっとそこで俺の知ってるリーダーと、俺の知らない海坊主に会う事が出来るだろう。
 

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(こちらも本編に入らないストーリー。見えないところでも世界は動いている感覚が好きです)

黒いネクタイを締めた日

夜明け前に布団を上げて

窓に近づき目を細める

 

仄暗さに負けない薄紅の桜

五年振りに見るその姿は 冗談みたいに美しかった

 

今日は黒いネクタイを締める日

 

はっきりしない空を覆うネズミ雲

絶え間なく土を濡らす雨雫のように 私は涙を流せない

 

ドライアイスに埋もれた白装束 

それを囲む黒い影

故人を食い物にしていた喪主は 口を押さえて肩を震わせた

手順を確認し 配役通りに動く様子は場末の寸劇

あなたの瞳に浮かぶ水には 一滴の血も通っていない

 

会食時に大きな口を開けて あなたは笑った

桜よりも色を濃くした頬っぺたと 黄色がかってくすんだ歯茎

私はその二色を受け入れはしない

 

手を震わせ読み上げた弔辞 

たいそうな言葉の羅列に負けて 何度もつかえるあなたを眺め

どうしようもない寂しさを覚える

 

いつまでも据わらぬ腹

重ねてきたのは歳の数だけか

 

冷めた唐揚げに不自然な色の巻き寿司が並ぶテーブル

大好きだったビンのHi-Cオレンジとは 

こんな形で再会したくはなかった

 

日本は私が生まれた国

日本は私が育った国

 

私を救った親友も 

人生を変えてくれたあの人も

みんなこの国で生まれ育った

 

あの人が白い骨になり

お箸で拾って雲が晴れる

 

夕日に照らされ煌めく桜 

悪意のないその姿に 垂れる涙が止まらない

 

黒いネクタイを締めた日

ここに私の居場所は無い

 

一つ 二つ 三つ 四つ

背中を引っ張る因縁を断ち切る

 

ごめんなさい

でも

もう サヨナラだ

 

黒いネクタイを締めた日

それは 

私が国を出た理由を再確認した日

 

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(夢にまで見た桜の木。時間が止まったようでした)

やっぱり、ドッキリがヘタなカナダ人

本日、4月1日をもって、自分は約5年間勤めていた会社を退職しました。

箱型キテレツマシーンに中指の指紋を取られるのも、今日で最後です。

 

「いつもニコニコゼロ文句、手など抜かないハードワーカー」

 

カナダに移住して約11年。自分はこの会社に入るまで、典型的なノースアメリカの日本人像を必死に演じていました。

英語が感情に追いつかなかったこと、そして知り合いも頼れる人もいない状況を生き抜く為に、なるべく敵を作ってはいけないと盲目的に考えていたことが原因です。

 

カレッジ時代に行った企業研修がきっかけで入社する事になったこのホテルでは、本当に色々なことがありました。

 

「マックと同じバーガーを作って」等、無理難題の呪文を連日唱えてくるゲストとのバトル。

出身国別にクセがある同僚さん達とのせめぎ合い。

エレベーターのボタンを全て押して逃げるガキ、お子様との追っ掛けっこ。

移動した飲食部で「ファ○ク」が合言葉であるキッチンスタッフとの関係作り。

 

途切れる事なく迫り来るYouはShock(ユワシャ)の衝撃波。ニタニタイエスマンでは太刀打ち出来るはずもなく、横っ面を引っ叩かれる日々が続きました。

 

イエスマン、いち抜けた。

 

「ですので、お客様、先ほども申し上げた通り、当ホテルではLEGOブロックの貸し出しサービスはございません」

横暴になるのではなく、無理なものは無理と強く伝える。

 

「C君、担当のステーションがポテチまみれだよ、ちゃんと掃除してね。それから、プレッツェルの粒塩まみれになった電話の受話器、消毒してから帰ってね」

黙ってキレイキレイするのは優しさではない。ノースマイルでしっかり伝達。

 

(あっ、G君またゲスト情報の引き継ぎ忘れてる……)

 

強くなろう。

 

自分の人生で最も足りていなかったもの、それは強さです。

土俵際のうっちゃり取り組みを幾度も重ねた結果、自分の通名は ”クレイジージャパニーズグランマ” になりました。

 

ほら、キャッシュアウト間違えてる。

ほら、こことここ、入力ミスしてる。

ほら、タコスのカスが服に付いてる。

 

約5年、自分はその年月をかけて、どうにか四股を踏めるようになったのです。

 

勤務最終日の出発前、気持ちがソワソワしていたので、自分は庭にある大きなもみの木の前に行き、無事に仕事が終えれるようにと祈りました。

心がどうも落ち着かないのは、最後の仕事だからではありません。

仕事終わりのこの日、ホテルのボールルームでは年に1度の全カナダ・ダンスコンペティションが開かれ、ユワシャゲストの中でも圧倒的な戦闘力を誇るダンスマム達が勢揃いすることを知っていたので、浮き足立っていたのです。

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(誠に勝手ながら、家の安全、及び、一般的な願掛けをさせて頂いているビッグもみの木将軍)

 

ダンスマム。おっかないですが、最終決戦に相応しい相手です。

 

バッチこいと準備した思いとは裏腹に、去年のダンスマム集団の恐ろしさが通勤中に蘇り、ドッキドキの状態で職場に着くと、いつもはバッチリ帰り仕度を済ませている朝勤務の同僚が悠長にパソコンをいじっていました。

「まだ終わってない仕事があって、あと30分くらいはかかる。その間の電話対応はするから、裏のキッチンに行って今日の予定を見てきてくれるかな?」

 

裏のキッチン?

当日の予定は、すぐ横のコルクボードに貼られてあるはず。

1分の残業さえ嫌がるG君が30分も残るなど、ありえない。

 

あ、これドッキリだ。

やけにオフィスを覗いてくる他のスタッフ。

「早く行った方がいいよ」と含み笑いをして、キーボードをエアタイプするG君。

前回、仕掛けて頂いた時と同様の匂いがプンプンします。

 

ドッキリは、そうと分かった時点でドッキリではなくなります。

 

(どうしよう、どんな感じのリアクションをしよう……)

意地汚い心が顔を出します。

 

色々と考えを巡らせながら、普段は誰もいないバックキッチンに足を運ぶと、見慣れた顔が一列に並んでいました。

 

あ、やっぱり、ドッキリだ。

 

何とも言えない気持ちで皆の方へ笑顔を向けると、その列の先頭にいた副料理長が、持っていたトングをマイクのように握って自分に向けてきました。

 

「ヨシ、ノーライス?」

「え?」

「ノー、ノー。ヨシ、ノーライスゥ?」

「あ、あぁ! ノーライス、ノーライフ!」

 

ノーライス、ノーライフ。

お米大好き人間である自分は、パスタやポテトばかりの社食メニューを避け、いつも大量のご飯を家から持参していました。

以前その事を副料理長にからかわれ、「ノーライス、ノーライフだ!」と主張してから、そのフレーズがキッチンの間でよく分からない合言葉のようになってしまったのです。

 

ノーライス、ノーライフ。

自分がそう答えたのを合図に、ドアの向こうにいたキッチンスタッフが1枚のお皿を持って現れました。

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1膳のご飯に立てられ、火花を散らすスパークラー。

 

テンテン、スイカ頭。

それはまさに、いにしえのキョンシーで見たお供え物。

 

ノーライス、ノーライフ。

完全に、予想外の光景です。

 

「大丈夫、スィーツもちゃんとあるから」

記念の写真を撮っている自分の肩を叩いたスーシェフは、何度か盗み食いをした大好きなガナッシュタルトのプレートを並べて置いてくれました。

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上手く言えないのですが、ここで働いてきてよかったという思いや、良い人達に恵まれたという気持ちより先に、生きてきてよかった、という感情が浮かびました。

握手をして、抱きしめる。

パーティーなどであんなに苦手だったハグを喜んで交わす事ができた皆様に、多大なる感謝です。

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自分が最後の日だからといって、その日のダンスマム方の対応が楽になるはずもなく、相変わらずボスキャラ感全開で大変でしたが、何とか無苦情で終わりを迎える事が出来ました。ありがたや。

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(シンボルピンよ、さようなら)

 

「柱もねぇ、壁もねぇ、床板まともにハマってねぇ」

幾三・三拍子揃った改築中の家の間借りから始まったカナダ生活。

本当に何もない状態から、どうにかここまで来ました。

 

次の就職先は、カナダに来て初めて自分の意思で勤める所です。

生き残る為、根を生やす為ではなく、自分が働きたいと思って勤める職場。

声を掛けて頂いた縁に多謝です。

 

小説や詩など、まだまだ書きたいことばかり。

新しい刺激が自分の思いに反映されますように。

 

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(氷と雪で埋め尽くされていたオンタリオ湖も、完全に溶けています。もう、春です。明後日から1週間ほどネットが使えない環境になります。想像しただけでも不便で恐ろしや)

彼が頭を下げた日

同じ団地の2号棟に住む4人、通称「オリジナルフォー」から始まった集まりのメンバーも7人に増え、せっかくなので小学校最後の夏休みに何処かへ行こうと計画したのが、後に恒例行事として続いていく「五厘サマーキャンプ」の始まりだ。

高校1年の夏にキャンプ地が伊豆諸島の新島に固定されるまで色々な場所で行われ、五厘クラブ年表でも外せないイベントになった記念すべき第1回が小学6年の夏に行われたのだが、この1回目がヒドかった。

「サマーキャンプ」なんて聞こえの良い名前は五厘クラブになってからの後付けで、この魔の第1回は、何の計画も立てないまま実行した恐怖の自転車旅行だった。

 

元々は「修学旅行には参加しない」と夏休みの始めに報告してきたリーダーの事を思い、代わりに電車で江ノ島にでも行こうというポップで楽しげな予定だった筈が、決めていた出発日の3日前になって急に気を変えたリーダーが、自転車旅行にしようと言い出した。

なんでもテレビで見た「一輪車少年」の奮闘に感化されたらしい。

「うちのクラスのタカダみたいなゲジゲジ眉毛が一輪車に乗って遠くへ行けるんだ、俺達にだって出来るはず。しかも奴は小4だったぞ」

声を荒げ、熱く語り出したリーダーの話に「それ、オレも見た! すごかったな!」と日焼けで真っ黒なコースケが乗っかってしまい、ツヨシとミスズ、ミスズを無条件に支持するケイゴ、それに反対すると見込んでいたアイカまで賛成し、多数決により話の流れが決まってしまった。

俺は断然、江ノ島に行きたかった。

事情を説明し、母親から交通費と大事な小遣いを貰う際「生しらす丼」がとても美味しいから是非食べなさいと言われていて、俺はその「生しらす丼」というものが食べれることを心底、楽しみにしていたのだ。

目的地を決める段階になり、リーダーは授業中にあまり使っていないであろう新品に近い社会の教科書を持ってきて、日本地図のページを引きちぎり、赤ペンで隣の静岡県に丸をつけた。

「最低でも、ここまで行こう。そんなに遠くないだろう。だって、たったこれっぽっちの距離だぜ」そう言って、人差し指と親指の間に出来た3センチ位の幅を、なぜか誇らし気にメンバー1人1人の顔の前の持っていって見せた。

きっとあの時、アイカとミスズ、それにコースケは「縮図」で示された3センチの距離に俺達が辿り着けないことを確実に理解してと思うのだが、リーダーの「一輪車少年に出来るなら、オレ達にも出来る」という誘い文句に惑わされたのか、誰もその本当の意味を指摘しなかった。

 

出発当日、状況を把握しているアイカとコースケは、しっかりとリュックを持って団地前に集合し、そして何故か距離の意味を分かっていないはずのリーダーが一番大きなボストンバッグを持参して現れた。

何の予備知識もない俺とケイゴの荷物は、タオルやポケットティッシュなどが入ったスーパーの袋を自転車のハンドルに引っ掛けただけのもので、服装も2人揃って軽く、足元はサンダル履きだった。

ツヨシはいつも通り親や爺さんに持たされて、すごい量の荷物で来るのだろうと想像していたが、行き先を誰にも言わずに出てきたらしく、夜道でとても目立ちそうな、黄色の蛍光色をしたウエストポーチを肩に掛けただけの格好で姿を見せた。

約束の8時を過ぎて集合場所の団地公園に来たパジャマ姿のミスズは、泣いた後なのか、目の周りが真っ赤だった。彼女の説明では、借りる予定だった自転車が相手の都合でダメになってしまったらしい。

あの当時、歩く距離ではなくなる中学に行くまで、小学生で自分専用の自転車を持っている子は団地に限らず、それほど多くはなかった。

俺達の中でも、自分のタイミングで自由に自転車を使えたのは、憧れの「6段変速ギア変えモデル」を持っていたツヨシと、姉のおさがりを大事に乗っていたアイカだけだった。

俺とケイゴとコースケは母親の自転車のサドルを極限まで下げて使っており、リーダーは毎度、同じ1階に住むメイコおばさんの物を借りていた。

パジャマ姿のミスズに見送られ、幸か不幸か快晴ですでに暑い団地公園を出発し、2時間ほど走ったトンネルの前のコンビニで俺はもう引き返したくなった。

リーダーが出発前に言った「国道246沿いを、静岡って書いてある標識どおりに真っ直ぐ」が、一体どこまで真っ直ぐなのか見当が付かず、とにかく不安だった。それに、太ももがパンパンに張ってダルい。サイズが合っていない自転車は無駄に肩も凝って、明らかに遠出には適していなかった。

買う予定ではなかったアイスを手に、日陰に座りポカリスエットを飲みながら周りの様子を見てみると、ヘトヘトな自分が情けなく思える程、みんなが元気そうに見えた。

ケイゴとツヨシの自転車のサドルに持参したカリントウを置き、「フレッシュうんち発見」とはやし立て2人に追われて走るアイカを見ていると、ポカリスエットの缶でふくらはぎを冷やしている自分が男として恥ずかしかった。

散々逃げ回ったアイカが今度は標的を変え、茶色のカリントウを笑顔で俺のサドルに乗せたとき「やるっきゃない」という訳の分からない感情が自分の中で湧き上がり、捕まるはずのないアイカを追いに日陰を飛び出した。

一輪車少年への挑戦よりも「アイカに負けたくない」という男としての意地の痩せ我慢で、その後どんなに辛くともクタクタな自分を表に出すとこはなかったが、結果を言うと俺達は静岡県に辿り着けず、合計6時間と少しを費やし、南足柄市まで来てツヨシの涙と共にギブアップした。

 

相模川を越えた辺りから遅れをとっていたツヨシの6段ギアが完全に止まったのは、午後1時を過ぎたところだった。

本人が何も言わないので、ただ単に鉛筆のようにヒョロヒョロなツヨシの疲れがピークに達しただけだと思い、少し休憩を取ってまた走り出したのだが、それから1時間くらい経った後に、今度は自転車から降り、股の付近を押さえて道端にうずくまってしまった。

俺は疲れてイライラしていた。

「静岡」と書かれた標識の距離が近づく程、今来た道を帰る距離が頭に浮かんだ。こんな所で余計な時間をかけず、早いとこ目的地に辿り着いてすぐにでも引き返したかった。

座り込んでいるツヨシの元に全員で引き返すと、ツヨシは泣いていた。

「少し休んだらいけるか?」

心配そうに聞くコースケに、ツヨシは「痛い」とくぐもった声で答え、首を横に振った。

「どこが痛いんだ? 足? 太もも? ふくらはぎ?」

矢継ぎ早に質問を投げかけるリーダーに対し、黙ったままのツヨシは、口を開く代わりにズボンを脱いで白いブリーフ姿になった。

急に目の前に現れた理解不能な光景に皆とまどっていると、ケイゴが大きな声で「血だ! 血が出てる!」とブリーフを指差した。

ケイゴの言う通り、よく見るとツヨシの白いブリーフの左足の付け根部分が赤く滲んでいた。

泣き止んだツヨシから事情を聞くと、はじめのトンネルを過ぎた後から漕ぐたびに股が擦れて痒くなり、進むにつれてヒドくなったので我慢できずに直接爪を立てて引っ掻いたところ、急に激痛を感じペダルを踏めなくなってしまったらしい。

血に染まった白いブリーフを目の当たりにして、俺のイライラは一気に吹っ飛んだ。

面を食らったのは周りのメンバーも同じようで、皆、この事態にどう対処してよいのか分からずにツヨシを取り囲むようにして立ち尽くしていた。

「だいじょうぶだぁ」

しばらくその場に沈黙が続いた後、突然耳に入ってきたのは、志村けんのあのセリフだった。

反射的に振り向くと、輪の外にいたリーダーは持っていたボストンバッグを「ポンポン」と叩き、笑顔を見せた。

この緊迫した状況で志村けんが出てきたのにもビックリしたが、もっと驚いたのは彼の準備の良さだった。

リーダーは、アスファルトの上に置いた大きなバッグから消毒液とバンドエイドを取り出し、ぎこちない手つきながらも、しっかりと患部を止血した。

普段の彼のイメージから懸け離れた姿がとても意外で、リーダーの一連の動きを凝視していると、その視線に気付いた彼は、得意げにバッグの中の物を次々と取り出し、座っているツヨシの前に綺麗に整列させた。

そこに並べられたのは古めかしい応急処置キット。頭痛薬に正露丸、マスクに湿布、それにタイガーバームまであった。年季の入ったリーダー自慢の品々を眺めていると、川崎に住むおばあちゃんの家の焦げ茶色をした薬箱を思い出した。

「家にあったのを全部持ってきたから、何があっても、だいじょうぶだぁ」

あくまで志村けんのフレーズにこだわるリーダーに用意周到な訳を尋ねると「一輪車少年のリュックに入ってたから」という答えが返ってきた。

一体どれだけ一輪車少年はリーダーに影響を与えたのだろう。でもそのテレビ番組のお陰でこのハプニングを切り抜けられたのだから、まさに一輪車少年様様だ。

 

標識に出ていた距離によると、目的の静岡県はもう少しのはずなのだが、ツヨシがこんな状態では先へ進めない。

幸いにも近くにスーパーがあったのでそこまで行き、コースケが公衆電話でツヨシの家に電話をし、対応した爺さんに事情を説明して、車で迎えに来てもらうように頼んだ。

「もしかしたら、もう俺ら静岡に着いてるのかもしんねーぞ」

ツヨシの爺さんを待っている間、タオルで額の汗を拭いながらリーダーが独り言のように呟いた。

気持ちは分かる。

あれだけ時間をかけて自転車を漕いだのだから、ここが静岡県でも何もおかしくはない。

「まだ、ここは神奈川だよ」そう諭すアイカを無視し、「店に入って聞いてくる」と言い残してヨタヨタとリーダーは歩き出した。

確率的には圧倒的にアイカが正しいのだと頭では分かっていても「こんなに走ってきたんだ」という俺の体自身がリーダーの言葉を支持していた。

店から出てきたリーダーは、入って行った時よりもさらに遅いスピードで戻ってきた。

「ここ、静岡じゃねぇ。アイカの言う通り、まだ神奈川。ミナミアシガラってとこだ。静岡県に入るまで、ここから自転車では2時間位かかるって。あ、しかもこの後、山道だって」

公衆電話の脇の階段に座っていたメンバーの内の何人が、あの時点で先に進む意志を持っていたのかは分からなかったが、リーダーが見るからに意気消沈した顔で教えてくれた話の中の「2時間」及び「山道」という単語を聞いて、みんなの気持ちが「帰宅」という二文字に固まったのは分かった。

俺達が約6時間かけた道のりを、ツヨシの爺さんはたった1時間15分程でやってきた。間に何度か休憩を入れていたとはいえ、この明白な結果の違いは、すぐには受け入れられない事実だった。

「ツヨシが迷惑をかけて、すまなかった」深く頭を下げた爺さんが運転する白い軽トラックが走り去るのを見送ってから、リーダーは唯一腕時計を持っているアイカに時間を聞いた。

「もうすぐ4時」そう報告を受けたリーダーは、ボストンバッグから黒飴を出して全員に配り、かしこまって皆の前に立った。

「静岡は遠い。俺がいけなかった。帰ろう」

真面目な顔をしてこちらを見たリーダーは、ツヨシの爺さんがしたように俺達に頭を下げた。

それは、俺が覚えている限り、出会ってから初めて目にする彼の謝罪だった。

 

日焼けした肌の痛みと肩の凝り、足の付け根からつま先までヒドく重くて自分の物じゃないような感覚になっていたが、俺は必死に自転車を漕いだ。

まるで永遠にペダルを踏む機械になったように一定のリズムで足を回転し続け、2回取ったトイレ休憩の間以外は、みんな何も会話をせず、ただひたすら帰りを急いだ。

全身を覆う疲労と、日が落ちた後の暗闇が作り出す不安が、一刻も早く見慣れている風景に辿り着きたい気持ちに拍車をかけた。

真っ暗の中、俺達が団地の入り口に着いた頃には、アイカの腕時計は午後9時40分を回っていた。帰りたい思いがスピードを速めたのか、行きよりも少し短い時間で何とか帰還を果たした。

「一輪車少年はバケモンだった。もう、絶対に自転車で遠くに行くのは止めような」

解散の際にリーダーが見せた引きつり笑顔を最後に、五厘クラブの第1回サマーキャンプとクラブ史上、最初で最後の自転車旅行は幕を閉じた。

 

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(小説の本編には入らないストーリー。この話も、その内の1つです。読んでいただけたら、嬉しいです)

決まらない男

もしもこの世界を「決まる人、決まらない人」の2タイプに分けるならば、自分は間違いなく後者に分類されます。

 

「決まる人、決まらない人」

この言葉の定義を考えると「もっている人、もっていない人」と共通点があるように思えますが、両者は似て非なるものです。

勝手な解釈ですが、自分が思う「決まる人、決まらない人」の決定的な違いは、物事をスマートにこなせるか否かです。

 

例えば、バレンタインデー当日の学校。

例年通り1つも貰えないという結果は同じだとしても、決まる人はサラッと風のように自分の机の中や下駄箱をチェックできます。

言動に焦りがなく、無駄にソワソワもしていないため、誰も彼の「ちょっとトイレに行ってくる」という見え見えなはずの言い訳を疑いません。

しかし、決まらない人の場合は3回下駄箱に行ったとしたら3回とも漏れなくチェックしている姿を友達に目撃されます。

3分の3。驚異の100%です。

無理もありません。

泳いだ目で言う「ちょっとトイレ」は、もはやフリ以外の何物でもなく、「押すなよ、押すなよ」と同じ枠に収まる言葉になっています。

 

ちょっと近所のコンビニへ、というシチュエーションでも同じです。

家から歩いて3分の距離にあるローソン。

いつもは最低限、外に出れる格好で行くのに、(もう夜中近いし、からあげクンを買うだけだし)と油断をして、絶対に家でしか着ない、着心地最高デザイン最低の上下ワンちゃんトレーナーをチョイスした時に限ってクラスの気になるあの子に会う、という奇跡を決まらない人は起こします。

決まる人は、たとえワンちゃんトレーナーに身を包んだとしてもコンビニの店員以外には会いません。

なので翌日の教室で、バウバウトレーナーマンなどという裏ネームを囁かれる事もないのです。

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私は知っている

私は知っている

いつも近くで見てたから

あなたや君を知っている

 

私は知っている

五時の鐘が鳴るまで校庭で時間をつぶしていた君を

お楽しみ会に参加しなかった君を

給食費のことで先生と話していた君を

「楽しみだ」と言ったのに転校前日に「行きたくない」と泣いた君を

 

私は知っている

喧嘩ばかりだった両親の仲を取り持っていた君を

家の鍵を首にかけ家事を押し付けられていた君を

気が触れたと噂されていた近所の老婆に挨拶をする君を

ゲームのコントローラーを持つ友人の応援ばかりしていた君を

 

私は知っている

オモチャ売り場で一度も駄々をこねなかった君を

劇の配役よりも小道具作りに精を出していた君を

お弁当を隠して食べていた君を

ローレル指数を気にしていた君を

 

私は知っている

毎回遠足を休んでいた君を

親の秘密を背負わされた君を

のけ者にされて笑われていた君を

それでも笑っていた君を

 

私は知っている

不安と戦ってもがいていた君を

学校に良い思い出なんか一つもなかった君を

卒業アルバムで一人別枠に収まる君を

卒業式の夜に制服を燃やした君を

 

ボロボロの茶色いお道具箱

机にあった無数の傷

君を想うと 泣きたくなる

 

私は知っている

決められたキャラクターを演じていたあなたを

周りに上手く溶け込めないで悩むあなたを

それでも孤立を恐れなかった君を

「また居場所がなくなった」と微笑むあなたを

 

私は知っている

「バカは終りだ」そう言って就職したあなたを

劣等感にさいなまれていたあなたを

生きるためにとにかく働いたあなたを

本当は夢を捨てていなかったあなたを

 

私は知っている

押し入れの奥に十二冊のノートを隠していたあなたを

「なんでこんなに生きにくいの」と顔をグシャグシャにしたあなたを

「もう私には何もない」そう言って膝をついたあなたを

夜明け前に部屋を抜け出すことが多くなったあなたを

 

私は知っている

道路脇にうずくまっていたあなたを

黄色い線の内側に踏みとどまったあなたを

屋上の柵をまたいで戻って来たあなたを

「ありがとう」という文字でコピー用紙を埋めていたあなたを

 

国道に架かる歩道橋

ラジオから流れたスタンドバイミー

あなたがいたから 今の私がある

 

私は知っている

人のずるさを

人の冷酷さを

そして

人の素晴らしさを

 

私はこれからも 私が知り得たものを抱えながら

一番近くで あなたや君を見続けよう

 

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(とても不思議な空でした。見たこともない空でした。あの日以来、こんな空は撮れていません)

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