午前二時の哀歌

チョークの粉を体に浴びて

黒板の枠を飛び越える

 

素足で履いたエアジョーダン

真っ白なままで高く跳ぶ

 

黒目の奥が本当の正体 

教室のライトじゃ照らせない

 

椅子を蹴られてうずくまり

赤子の目線で床を這う

 

服に残るバニラ

頭上で割れる卵

 

シャツを脱いで素肌を晒し

その日の匂いを削ぎ落とす

 

大丈夫?

まだ笑ってる?

 

大丈夫

笑ってる

 

ケラケラ

ケラケラ

涙を流し

 

ケラケラ

ケラケラ

手を叩く

 

 

真っ赤な染みに手を振って

踏まれた影を振り払う

 

窓から抜け出す午前二時

消えた覚悟の背中を探す

 

我は石になる

我は花になる

 

揺れる灯りに望みを託し

両手を合わせて目を瞑る

 

何十回目のさようなら

震えた息が宙を舞う

 

黒と白

白と黒

 

何匹目かの猫が横切り

月が沈んで日が昇る

 

大丈夫?

まだ笑えてる?

 

大丈夫

笑えてる

 

ケラケラ

ケラケラ

涙を流し

 

ケラケラ

ケラケラ

手を叩く

 

 

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この土地は誰のもの?

メインストリートのコーヒーショップ

右肩に彫られたハイダのイーグル

握手をした友人はもういない

 

「弓を引く者」

彼はその名を捨てたと言った

 

トライブを抜けた者

居場所を探す者

 

私も流れてここに来た

 

「よそ者」レッテルの永住者

私はあなたの敵ではない

 

「仕事を奪い取る移民者」

私はあなたの敵ではない

 

立てた中指をしまって欲しい

私はあなたの敵ではないんだ

 

ここで産声をあげてはいないが

この国に手を添えている

 

ナショナリズムに愛国心

大きな声は人を惑わす

 

異なる色を叩かなくとも

生まれ育った国を愛せる

 

「ここは俺たちの土地だ!」

 

つまらぬ悪意を埋め込まれた日

コーヒーショップのドアを開けた

 

壁際の丸テーブル

右肩で羽ばたく赤い大鷲

 

イーグルの目に引き寄せられ

席を立ち声をかけた

 

そこに座っていたのは

ずっと前から知っている匂い

 

背の低い草と土の香り

鼻に残るがウィードではない

 

頭に広がる湿った草原

 

気のせいでも

思い込みでも構わない

 

浮かんだ景色に救われた

 

「この土地は誰のもの?」

「誰のものでもない」

「でも、あなた達のものだった」

「そんなことはない」

「あなた達が先に住んでいた」

「順番など意味はない」

 

メインストリートのコーヒーショップ

右肩に刻まれたレッドイーグル

スピリットの意味を教えてくれた

ハイダの精霊はもういない

 

生まれた場所だから住む

生まれた場所を知って住む

 

配慮ある知識は無知の連鎖を断ち

弱者が弱者を叩くシステムを絶つ

 

そんな場所に

私は住みたい

 

人類皆兄弟だとは思えない

それでも

共存できると信じている

 

コミュニティを抜けた者

名前を捨てた者

漂い流れ着いた者

 

枠から外れても息ができる

 

そういった場所で

私は生きたい

 

魂となったハイダの友人

土に帰ったその瞬間に

右肩のイーグルは羽を広げる

 

肉体を抜けた彼の精神は

狩られる恐怖から解放されて

高い空へと舞い上がる

 

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その先で会おう

キャンバスで吠えるオオカミ

睨む両目に用はない

 

道を塞ぐ霧と影

 

先へ行くんだ

どいてくれ

 

取るに足らないジャパニーズ

いや違う

そんな立派なものじゃない

 

生まれた場所で生きられなかった

誇る過去など持っていない

 

袖を引く手を振り払う

幻覚の中じゃ踊らない

 

目を開けるよ

我を忘れても救われない

目を開けるよ

逃げ続けても限界がある

 

前を見ても走れなかった

祈るだけじゃダメだった

 

震えた手では時間がかかる

人一倍時間がかかる

 

それでもいい

それでもいいんだ

 

街よ

どうかゆっくり休んでくれ

私はその間に進む

 

人よ

どうか目いっぱい遊んでくれ

私はその間に進む

 

空気や時間が変わっても

歩いていれば先で繋がる

 

例え姿が見えなくても

あなたがいれば怖くはない

 

一緒に歩くと決めたんだ

その方がきっと楽しいから

 

きちんとケジメをつけるために

捨てた感情を拾ってくるよ

 

荷物が増えて重いけど

全部まとめて連れて行く

 

道は違っても構わない

もしよかったら

その先で会おう 

 

待ってなくたっていい

もしよかったら

その先で会おう

 

そこに私がいなくても

いつか必ず辿り着くから

 

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今が永遠に続きはしない

三月になりました。

相変わらず時間は駆け足です。

何というか、誰かに五時間ほどちょろまかされている錯覚に陥ります。

 

最近、子供の頃よく耳にしていたオノデン(秋葉原にある電気屋さん)のCMソングが頭の中で流れます。

宇宙的な歌詞で電気の世界を紹介している、あれです。

オノデンボーヤが未来と遊んでいる、あれです。

何かきっかけがあったわけではないのに、この曲が脳内でヘビーローテーションされている理由が分かりません。

こういった時の脳のメカニズムが知りたいです。

 

話は変わりますが、自分がここを離れている間、以前書いた詩を かこ (id:kozikokozirou)さんが漫画にして下さいました。

 

yoshitakaoka.hatenablog.com

kozikokozirou.hatenablog.com

 

とてもありがたく、本当に嬉しかったです。

 

 

真っ暗の中にいる時、自分は何も見えませんでした。

どうしようもない現状が永遠に続くように思えたし、変化も、先の希望も感じられませんでした。

 

あの感覚は、今でも覚えています。

 

狭い部屋で眺める蛍光灯の輪っか。

窓を閉め切っていた部屋の異臭。

ボロボロの砂壁。

 

何か行動を起こす勇気もなく、学校にもアルバイトにも行けませんでした。

出席日数、呼び出し、支払い、暴力。

迫り来る現実から、ただ逃げるだけの毎日。

 

あの時、自分に未来はないと思っていました。

 

先は必ずある

今が永遠に続きはしない

 

 書きたい思いを表現できるのなら、詩でも小説でも構いません。

とにかく、外へ出していきます。

 

 

かこさん、紹介して下さり、ありがとうございました。

 

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整いました

皆様、お久しぶりです。

 

2018年 2月22日

出版登録の手続きが済み、約3ヶ月遅れの新年がやってきました。

ちなみに昨夜見た初夢は、明け方の浅瀬で猫餌を仕分けするというものでした。

目覚めて頭に浮かんだ言葉は、明けましてトゥナイト。

就寝前にキレキレな動きで踊る田原氏の映像を見た事が原因と思われます。

執筆中、マックの充電コードをニャンズに噛みちぎられるというドッキリハプニングが起き(今回で計3回目)、お財布が号泣しましたが、とにかく整いました。

 

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(過去2回の敗戦から立ち直り、もう負けはしまいと心に決めて作成したお手製コードカバー、通称ツチノコ1号。せめてトロピカルな気分で作業をしたいと思い、蛍光緑のダクトテープを用意するも、南国気分とは程遠い、昭和の扇風機と同系色のツチノコが誕生することに)

 

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(結果を言うと、詰めが甘かった。しっかりと着せたはずの蛍光グリーンが、7部丈サイズに捲れ上がり、すねが丸見え状態に。慌ててプラスチックテープのハイソックスを履かせたものの、後の祭り。約1センチの隙間をニャンズは見逃さなかった。充電ランプが点かなくなったツチノコ1号を前に呆然とする姿を見て、三角刀で手を切りまくっていた小学生の自分が笑った)

 

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(実行犯を捜索中に、共犯と思われしきキャッツを発見するが、真っ直ぐな目をこちらに向けるだけで、口を割ろうとはしなかった)

 

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(エサを使った捜査の末、犯人をゴミ箱の中へ追い詰めるが、猫砂を荒らそうとする素振りを見せたため、後の掃除の事を考慮し、不問とする)

 

 

話が逸れましたが、整ったのです。

 

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今回、表紙の絵をミチコオノ氏にお願いしました。

大好きで仕方がないミチコオノ氏の世界。多忙なのは承知していましたが、どうしても氏に頼みたかったのです。

自分の依頼を快諾してくれた上に、想像を超える作品の世界観を表現してくれたミチコオノ氏。

感謝してもしきれません。

 

以下に、あらすじと作品ページのリンクを貼らさせて頂きます。

 

魂を込めて書きました。

もしよろしければ、読んでやって下さい。

 

感想を教えて頂いたら、とても嬉しいです。

 

あらすじ:

「僕らは、ハナグモだった」

クラスに馴染めず、目立たない存在でいじめの標的だった、ハナダカズマサとナグモシンヤ。
ハナグモと名付けられた彼らは、悪質な嫌がらせを受けながら、誰かの鬱憤を晴らし、誰かの自尊心を満たす中学生活を送った。

高校進学を機に長野へ引っ越して以来、連絡が取れなくなっていたハナダが、六年振りに突然シンヤの前に現れた。

「スカイツリーまで歩く姿を撮影してくれないか?」

見た目がすっかり変わってしまった友人の不可解な頼みを戸惑いながらも引き受けたシンヤは、計二日間半の徒歩旅行に出発する。

ハンディカメラを片手に歩きながら、忘れていた大切なものを見つめ直すシンヤ。そして、音信不通だった六年間のいきさつを告白したハナダにより、今回の依頼の本当の意味が明かされる事となる。

 

商品ページ

https://www.amazon.co.jp/dp/B079ZWVHTF

歩けばいい

 

匂わないシルエット

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***

 

あいつが狂っているって?

冗談じゃない

目はしっかり開いてたぜ

 

あの子がイカれているって?

何を言ってるんだ

繊細で鋭いだけだろ

 

存在が浮いていると笑われても

好きにさせておけばいい

 

無理に溶け込み泳いでも

いつかは溺れてしまうからね

 

「気味が悪い」と背中を刺すな

「理解できない」と机を押すな

 

手なんか繋がなくたっていい

椅子に画鋲を撒かなきゃいい

 

違いはいつだって厄介だ

誤解と偏見を染み込ませる

 

確かに歩幅は同じじゃない

でも「相違」イコール「敵」ではない

 

ずっと声を探してた

同じと違いを飛び越える

息をしたよく通る声を

 

拡声器で叫ぶ個性はいらない

裏にある強制はもっといらない

 

情報ばかりが溢れる画面

あなたの心はどこにある?

 

一緒じゃなくても構わない

あなたの本当を聞かせてくれ

 

濾過され落ちたシルエットじゃ

生きた匂いは嗅げないんだ

 

心で見たものを信じたい

感じたものに委ねたい

 

ほら

今日もまた夜が終わる

尽きない衝動は持ち越しだ

 

朝を盾にして憂いが迫る

こっちへ来いと道を塞ぐ

 

俺も感情を表す者の端くれ

つけた灯りが消されようとも

胸を張って笑ってやる

 

 

子供を好きじゃなきゃ人間じゃないって?

だったら俺は人間じゃない

 

猫は好きで堪らないけど

猫は人じゃないからダメなのか?

 

無条件に小さい子を好きになれない

力無き者は喰われると知っているから

 

差し出した手は払われた

玄関の鍵は閉まっていた

 

行くとこがなきゃ暗闇だって走るさ

止まって沈むのはごめんだからね

 

2回目に回ってきた札は引かない

誰かが吸い尽くした骨なら懲り懲りだ

 

ほら

今日もまた夜が終わる

尽きない衝動は持ち越しだ

 

朝を盾にして憂いが迫る

こっちへ来いと道を塞ぐ

 

俺も感情を表す者の端くれ

つけた灯りが消されようとも

胸を張って笑ってやる

 

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***

〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉ミチコオノ

***

 

 

皆さまへ

 

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

都合により、しばらくこちらを離れます

 

色々と整いましたら、この場で報告させて頂きます。

 

 

感謝。

絶対に、振り返っちゃダメだよ

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***

 

「おい、ここ、誰んちよ?」

 

「私のお婆ちゃんち」

 

「誰か住んでんの?」

 

「ううん。結構前に亡くなってから、それっきり」

 

「へー。何でここ売らなかったんだよ。こんな場所でも、ちったぁ金になっただろ」

 

「どうしてもここは、手を付けたくなかったんだって」

 

「何でだよ?」

 

「何でかは知らない。それより、来る途中にも言ったけど、いろいろ変だなって思ってもシキタリだから気にしないでね。そういうものだから」

 

「でもよ、バットで傘を殴るなんてシキタリ、聞いた事ないぜ」

 

「知られてるはずがないよ。すっごい閉鎖的な場所だから」

 

「そういうもんなのか?」

 

「うん。そういうものなの」

 

「で? 何すればいいんだっけ? 手順のところはあんまし聞いてなかった」

 

「ちょっと、ちゃんとしてよ。これ、すっごい大事なんだから」

 

「分かってるよ。なんか面倒くせーけど、これ終わったら、ヤラしてくれるんだろ?」

 

「うん。終わったらね」

 

「本当だな?」

 

「うん」

 

「全部だぞ?」

 

「しつこいよ。昨日、覚悟見せたでしょ?」

 

「しかしよー、なんでこんなしきたりを作ったのかね? 好き同士なら勝手にヤリゃーいいじゃねーか。それをワザワザこんな」

 

「示さなきゃいけないんだって。二人の気持ちを、神様に」

 

「そんなの信じてんのか?」

 

「信じてるっていうか、もの凄く大事な儀式って、ずっと言われてきたから。今更、無視できないよ」

 

「でもよ、誰かとヤル度に、毎回こんな事しなきゃいけねーの?」

 

「一回だけだよ。初めての時だけ」

 

「え? 初めてって、お前、そうなの?」

 

「うん」

 

「マジで? お前いくつだっけ?」

 

「二十一」

 

「遅くねー? 何でよ? そんなに可愛かったら、チャンスあっただろ?」

 

「そんな状況じゃなかったの、アッくんが一番よく分かってるよね?」

 

「あれ? お前んちと関わるようになってから、何年よ?」

 

「六年。アッくんが最初にウチ来たの、私が十五の時だよ」

 

「六年、そんなに経つのかー。いや、俺、初めて見た時からずっと可愛いと思ってたんだよ。俺よ、何回もお前の親父に言ったんだぜ、悪いようにはさせないから預けろって。でもあの親父、頑固でよー。『ユイには指一本触れさせない』ってうるせーの。で、結局あのザマだ」

 

「……」

 

「お前の親父も、お前くらい物分りがよけりゃー、あんな事にならなかったのになー」

 

「ねぇ。その人の名前は出さないでって言ったでしょ。それに、私は現実主義なの。一緒にしないで」

 

「あぁ、分かった分かった」

 

「あのさ、本当に、大丈夫なんだよね。アッくんの女になったら悪いようにはしないって、本当だよね?」

 

「おぉ、問題ねーよ。仕事も斡旋してやるし、モノが欲しけりゃ市場の半額で売ってやる。金は返せる上に、お前は逃げ続ける必要ねーし、俺も探す手間が省ける。まさに一石二鳥だな! 三鳥か?」

 

「そうだね」

 

「ところで、お前よ、何でこっちに顔見せる気になったんだよ? あんなに嫌がってたじゃねーか? 何でだ?」

 

「電話でも話したでしょ。お母さんがいなくなったの。あんなに守ってきたのに。もう、疲れたんだ。逃げ回るのも、誰かの世話するのも。だから、アッくんに連絡した」

 

「ふーん。どーしよーもねーな、お前のかーちゃん。まぁ、それでも、いるからマシじゃね? 俺のは顔も見た事ねーからよ。まったくよー、世の中クソだな」

 

「そうだね」

 

「あー、何かブッ壊したくなってきた。まぁ、いいや。早く何するか言えよ」

 

「うん。あのね、まずこの儀式は、朝七時に始めなきゃいけないの」

 

「朝の七時? ふざけんなよ! そんなに早く起きた事ねーよ」

 

「お願いだから、聞いて。私としたくないの?」

 

「してーよ。マジでしてー」

 

「じゃあ、ちゃんと手順を守って」

 

「分かったよ」

 

「ここの前の道の先に、畑があったでしょ? あれはキャベツ畑なんだけど、私は明日の朝七時にここから、そこに向かって歩くの」

 

「赤い傘を持ってだろ?」

 

「そう。大きい白い服を着て、右手に赤い傘を持って歩くの。アッくんは七時五分になるのを待って、バットを持ってここを出て」

 

「何でバットなんだよ。やっぱり、何か変じゃねーか?」

 

「言ったでしょ? シキタリだから気にしないでって。昔はね、木の棒とかを使ってたみたい。傘も和傘で、竹で作ったやつだったんだって」

 

「ふーん。でも何でその赤い傘をブン殴るんだよ」

 

「赤は未練、そして清い血を表しているの。交わる二人の女性が赤い傘を持ち、男性が何か硬い棒、この場合はバットを持ってその赤を断つ。あ、断つって、切断するって意味ね」

 

「何だかよく分かんねーな」

 

「ねぇ、アッくん。ここ重要だからちゃんと聞いて。もし失敗したら、その二人は二度と交われなくなるんだから」

 

「マジで? それ、ヤベーじゃん。聞く聞く」

 

「アッくんが家を出るのは七時五分ジャスト。それ以前には、絶対に外に出ないで。そういう決まりだから。あと、私の後を追いかける時、絶対に喋りかけたり、声を出したりしないで。それが守られなかった時点で、この儀式は失敗だから」

 

「何だそれ、厳しくねー?」

 

「それ位、私にとっては重要なの。アッくんが私の初めてになるんだから」

 

「その響き、たまんねーな。よし、分かった。ちゃんとやるよ」

 

「ありがとう」

 

「でも、そんなに思いっきりブッ叩いて、大丈夫なのか? 頭、近いだろ」

 

「大丈夫。私はこうやって、後ろに腕を伸ばしながら傘を持つから頭には当たらない。だからアッくんは何にも気にせず、赤を目掛けて思いっきりバットを振り下ろして。思いっきりだよ、じゃなきゃ意味ないから」

 

「あぁ。バットでブン殴るのは慣れてっから問題ねー」

 

「ならよかった。私は歩いている間、振り向いちゃいけない決まりになっているの。でも一応、心の準備をしたいから、私に近づいてくる時に、なるべく大きな足音を立ててくれるかな?」

 

「分かった。ドシドシ行くよ。でもよ、これ、人に見られたら何か勘違いされんだろ?」

 

「それは大丈夫。日曜の朝は殆ど人がいないし、こんな入り組んだとこに人なんか来ないよ。それに、もし人に見られたとしても、みんなシキタリの事を知ってるから気にせずに続けてね。どんな事があっても、絶対に途中でやめちゃダメだよ」

 

「やめねーよ。ヤリてーからな」

 

「うん、よろしくね。じゃあ私、行くから」

 

「あぁ? 行くって、どこに? ここに泊まってくんじゃねーの?」

 

「ダメなの。儀式の前の日に一緒に寝ちゃ。そういう決まりなの」

 

「はぁ? また決まりかよ? こんな何もねーとこに一人でいてどうすんだよ? ふざけんなよ」

 

「一日くらい、問題ないでしょ? それとも、怖いの?」

 

「おぃ、なめてんじゃねーぞ。怖いわけねーだろ」

 

「なら、よろしくね。アッくん、七時五分ジャストだから。絶対その前に出ちゃダメだよ。失敗したら、二度と出来なくなるからね」

 

「分かってるって。その代わり、終わったらとことんヤルからな」

 

「分かってるよ。じゃあ、また明日」

 

 

 ***

 

 

「久し振りだねー、ユイ。元気だった?」

 

「うん、まぁ。ケイコは?」

 

「元気だよー。ユイって、こっち帰ってきたの何年振り?」

 

「ケイコに会うのは中学卒業以来だけど、お婆ちゃんちがあったから、ちょこちょこ帰ってたよ」

 

「そっかー。それにしてもさー、連絡もらった時はビックリしたよ。詳しい話を聞くまで、てっきり誰かのイタズラかと思ってたしね」

 

「そうだよね」

 

「あ、ウチの親から、ユイのお父さんの話、聞いたよ」

 

「そうなんだ。うん、色々あってね」

 

「辛かったろうねー。絶対、大変だったと思う」

 

「あの、その話、あんまりしたくないんだ。ごめん」

 

「あぁ、ごめんごめん。思い出したくないもんねー」

 

「それよりさ、前に話したモデルの件、大丈夫なんだよね?」

 

「大丈夫。朝早いのがアレだけど、問題ないよ。ねー、何て言う雑誌に載る予定なの?」

 

「電話でも言ったんだけど、まだ決まってないの。でも、撮る人は結構有名な人だから、良いのが撮れたらちゃんと載ると思う」

 

「大体でいいからさ、その人、どんなのに載せてるか教えて?」

 

「え、例えば、ルゴモとか、エルフュートとか」

 

「え! 本当に!? エルフュートとかコンビニに置いてるやつだよね?」

 

「うん。でも、まだ決まったわけじゃないよ。良いのが撮れたら」

 

「オッケー、オッケー。あたし頑張るからさー。ユイ、何かありがとねー。色々あったけど、これからもよろしくね。でもさー、何で私に連絡くれたの? あんまり繋がってなかったから、何でだろーって思ってた」

 

「あの、私、雑誌の仕事してるって電話で言ったでしょ? それで今度そのカメラマンの人が『キャベツ畑の写真をバックに、作り込んでないモデルを撮りたい』って言い出したの。それで地元にキャベツ畑が沢山あるなぁって思い出して、そしたらケイコの顔が浮かんだの。地元で可愛い子っていったら、ケイコだなって」

 

「えー、そんなことないよー。ユイだって可愛いじゃん」

 

「私は全然、そんな事ないから」

 

「とかなんとか言っちゃって、絶対に自分では可愛いって思ってるでしょ? ユイって中学の頃からそうだったよねー。そこは変わってないねー」

 

「……」

 

「あ、そうだ。腕の傷って消えた? ユイ引っ越しちゃったから聞けなくて。あたし心配したんだよー。事故とはいえ、あたしらが原因で起こったことだからさー。事故とはいえ、ね」

 

「うん。大丈夫」

 

「ねー、ちょっと気になるから見せてよ。何か悪いからさー」

 

「え、いいよ。大丈夫だから」

 

「何でよ、心配なんだって!」

 

「ねぇ、もうやめにしない? 明日の説明していいかな?」

 

「ちょっと怒んないでよー。悪かったって反省してるんだからさー」

 

「カメラマンのリクエストは自然体。電話でも伝えた通り、朝方に撮りたいみたいなの。で、この人、ちょっと変わってて、色々注文があるんだけど、いい?」

 

「え? どんなの?」

 

「まず、カメラを意識して欲しくないから望遠で撮るって。だから、目の前に何もなくても、とにかく自然体で歩いて」

 

「遠くからだったら、顔とか写んなくない?」

 

「それは大丈夫。その人のカメラ、随分近くまでよれるから。とにかくカメラを意識して欲しくないみたい」

 

「オッケー。あと服なんだけど、こっちで用意したのじゃダメなの? 白のワンピースで赤い傘を持つって言ってたよね? あたしそれより可愛いの持ってるんだけど」

 

「ごめん。服は指定が入ってるの。それが撮りたい絵らしいから」

 

「えー、残念」

 

「うん、ごめんね。あと、歩く速度はゆっくりでお願い。電話でも言ったけど、場所は元ウチの前の道からスタートして、先にあるキャベツ畑の終わりくらいまで。そこまであんまり距離はないけど、十五分くらいかけて歩いてくれないかな? 言ってる場所、分かるよね?」

 

「分かるよ。ユイの家って、あの竹藪の裏でしょ?」

 

「そうそう」

 

「あそこの前の道って事は、カメラはきっと、竹藪か奥の林に隠れてるんだね」

 

「意識しちゃダメだよ」

 

「分かってるって」

 

「あと、向こうから言われているのは、傘の持ち方。細かく指示が出てるから、注意して聞いて」

 

「いいよ。何かワクワクするね」

 

「歩き始めは、体から少し離して持って欲しいんだ。こう、後頭部の上辺りに置くように。それで、キャベツ畑が左に見えてきたら、徐々に傘を近づけて欲しいの。今、ちょっと見せるね。えっと、こんな感じ。ゆっくり頭に近づけるの。ちょっとやってみてくれない?」

 

「こう? こんな感じ?」

 

「そうそう。もっとゆっくりでもいいよ。それで、ケイコがキャベツ畑の半分くらいまで来たら、そのカメラマンが出てきて、ケイコを後ろから追う形になるの」

 

「え? 近くで撮るの?」

 

「そう。それで、人の足音が聞こえたら、持っている傘を完全に後頭部に当てて欲しいんだ。当ててって言っても、頭の形が出るまで押し付けちゃダメだよ。優しく触れる感じ」

 

「すっごい細かいねー。でも、近くで撮るなら、顔のアップも撮ってくれるよね?」

 

「うん、後ろ姿の後にね。ケイコ、この時、絶対に守って欲しい事があるの。これ守れなかったら雑誌には載せられないほど重要な約束」

 

「えー、なに?」

 

「後ろから足音がしても、絶対に振り返らないで。その人は自分の流れで撮りたい人なの。思い通りにいかなかったら、現場を投げちゃう人だから絶対に守って。至近距離で後ろ姿を撮った後、前のアップも絶対に撮るから、どんなに足音が近づいても、決して後ろを振り返らないで。何が起きても、そのまま歩き続けて。出来る?」

 

「うん、分かった。普通に歩くよ」

 

「それと、誰にも会わないと思うけど、例え会っても、何事もないように続けて。撮られてる以上は、ケイコもプロなんだから」

 

「プロかー。何か緊張するねー。でも、了解。任せて」

 

「ありがとう。じゃあこれ、明日の衣装と、赤い傘。七時キッカリに歩き始めて欲しいから、それまでには家の前に来ててね」

 

「分かった。絶対、遅れないようにする」

 

「撮影が終わったら、今回の謝礼とカメラマンの名刺を渡すから。ケイコ、誰もいなくても、七時に歩き始めるんだよ。ちゃんと遠くから撮ってるから」

 

「分かったってー。しつこいー。大丈夫、チャンスだから頑張る」

 

「よろしくね。

 

……ねぇ、ケイコ。全部終わったら、腕の傷、見せてあげる。その時は、過去を水に流して握手しようね」

 

***

 

 

タタ

 

タタタ

 

タタタタッ

 

タタタタタタッ!!!

 

 

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***

 

〈文〉高岡ヨシ

〈絵〉ミチコオノ


 

 

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